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第53話 悪魔
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【8月1日 終わり:塚原 祐介】
「死ねっ……死ね」
優姫に悪魔が馬乗りになっている。首を絞め上げながら悪魔が獣のような咆哮を上げている。醜い、悪魔の様な豚だった。
「っ……が……」
優姫は悶絶の表情を浮かべながら苦しんでいる。
俺は、それを見て何とかして助けなければと思い身体を起こそうとする。
少しでも身体を動かすと背中の爛れた皮膚が激しく痛む。けど、今はそんな痛みを気にしてる場合じゃない。
優姫を……優姫を助けたい。その一心だった。
そして……床に転がっていた熱湯が入っていた大きな鍋が視界に入った。もう、考える暇も無かった。それを悪魔に気付かれないように手にする。
これで……もう、やるしかない。こいつを……この悪魔を殺すしかない。俺はゆっくりと悪魔の背後に回った。
「……う、うわあああああああああ!」
俺はその鍋を大きく振りかぶり、叫んだ。もう目の前のこいつを殺す事しか考えられなかった。
そして、金属製の鍋を思い切り悪魔の頭に振り下ろした。
「……っがっ……」
振り下ろした鍋は見事に後頭部に直撃した。骨が軋むような嫌な音が耳に入る。銀色の金属の部分には真っ赤な血がべっとりと付着していた。
「くそ! くっそ! くそ!」
「うっ……あっ! あ……」
頭を押さえながら床に転がり込む悪魔。
「クソ! 逃げるな!」
俺は構わずその上に馬乗りになり、悪魔の頭に鍋をひたすら振り下ろす。何度も、何度も鍋を振り下ろす。
返り血が俺の顔にも飛んでくる。しかし、それでも俺は鍋で殴るのをやめない。
「クソクソクソ! あああああああああああ!」
もう、何度鍋を振り下ろしたのか分からない。
鍋は完全に血に染まり、銀色の部分はほとんど赤に染まっていた。
「あああああああああああ!」
俺はそれでも鍋を振り下ろし続ける。まだ、悪魔は死んでいなかったからだ。
悪魔は何かを俺に喋ろうとしていたが、容赦ない暴力に徐々に声は擦れ始めていた。
「おっ……に……ぃ……ちゃ」
まだ、生きているのか。この悪魔め。
「はぁ……はっ……あ……この……悪魔が! いい加減、死ね!」
そう言って、俺は大きく鍋を振りかぶって最後に力いっぱいに鍋を悪魔の顔面に叩き込んだ。真っ赤な血がペンキのように部屋中に飛び散った。
「っ……」
そして、とうとう悪魔は何の反応も示さなくなった。やった、俺が優姫を守ったんだ。
「はぁ……はぁ……」
俺は、激しく乱れた呼吸を必死に整えた。これで、優姫は安全だ。
「ゆうちゃん! やめてっ……やめて!」
すると、後ろから優姫が俺に叫ぶ。そして、俺に鍋を離すように言う。
「なんで止めるんだよっ! こいつは……こいつは!」
「あんちゃんだよっ! あんちゃんなんだよ……っ」
優姫のその一言で一瞬、息が止まった。何言ってるんだ? 目の前のこいつは……こいつは。
目を凝らしてもう1度、悪魔の死骸を見つめ直す。
「……なんだ、これ」
頭から血を流して倒れているのは、悪魔ではなく杏奈だった。
「なんだよ……これ、なんなんだよ!」
「ゆうちゃんが……あんちゃんを殺したんだよ」
優姫が俯きながら言う。
「そんな……そんな事あるか! 俺は悪魔を……」
俺は、俺は優姫を助けたのに、なんでこんな事になってるんだ。俺は……優姫を醜い悪魔から救ってあげたのに。なんで。
「ゆうちゃん……ちゃんとこれを、見て」
優姫の視線の先。そこには、1人の華奢な女の子が頭から血を流して倒れていた。俺が見た醜い豚でも悪魔でもない……間違えなく杏奈だ。
顔は血塗れで目を大きく見開き、前歯が何本かは折れていた。そして、自分が手で持っている鍋。金属製の鍋は衝撃によって歪み、至る所に血がべっとりと付いている。
「あ……あああ……」
俺は確信した。俺が今この手に持っている鍋で、杏奈を何度も、何度も殴打した。
そして……俺が殺したのは醜い豚でも悪魔でも無かった。幻覚に惑わされ、杏奈を殺した。
「あっ……はははっ……ははははは」
俺はその場に鍋を叩きつけ、絶叫、笑う。もう、感情が制御できない。
西崎の事故や峰岸が死んだ時とは比べられないほどの絶望。なぜなら自分の妹を自分で殴り殺したのだから。
「ははははっは! あははははあっははは!」
人は、極限の絶望の中では笑うのだと知った。
もう、泣いてもどうしようも無い事を知っているから、笑って自己防衛をしようとするのだ。
そんな俺に対し、優姫が車椅子から身を乗り出して俺に近付こうとする。
「ゆうちゃん!」
「はははは! あはははははははっ!」
「きゃあ!」
俺は笑いながら身体の弱い優姫を遠慮無しに突き飛ばした。
もう訳が分からない。俺の精神はもう現実と虚構の区別すらつかなくなったのか。その結果、豚だの悪魔の幻覚を見て、杏奈を殺したのか。
なんでなんでなんで。なんで俺が杏奈を……なんでなんでなんで……っ。
そして俺の脳は完全にフリーズし、強烈な頭痛が脳内を駆け巡り、俺はそのまま気を失った。
「死ねっ……死ね」
優姫に悪魔が馬乗りになっている。首を絞め上げながら悪魔が獣のような咆哮を上げている。醜い、悪魔の様な豚だった。
「っ……が……」
優姫は悶絶の表情を浮かべながら苦しんでいる。
俺は、それを見て何とかして助けなければと思い身体を起こそうとする。
少しでも身体を動かすと背中の爛れた皮膚が激しく痛む。けど、今はそんな痛みを気にしてる場合じゃない。
優姫を……優姫を助けたい。その一心だった。
そして……床に転がっていた熱湯が入っていた大きな鍋が視界に入った。もう、考える暇も無かった。それを悪魔に気付かれないように手にする。
これで……もう、やるしかない。こいつを……この悪魔を殺すしかない。俺はゆっくりと悪魔の背後に回った。
「……う、うわあああああああああ!」
俺はその鍋を大きく振りかぶり、叫んだ。もう目の前のこいつを殺す事しか考えられなかった。
そして、金属製の鍋を思い切り悪魔の頭に振り下ろした。
「……っがっ……」
振り下ろした鍋は見事に後頭部に直撃した。骨が軋むような嫌な音が耳に入る。銀色の金属の部分には真っ赤な血がべっとりと付着していた。
「くそ! くっそ! くそ!」
「うっ……あっ! あ……」
頭を押さえながら床に転がり込む悪魔。
「クソ! 逃げるな!」
俺は構わずその上に馬乗りになり、悪魔の頭に鍋をひたすら振り下ろす。何度も、何度も鍋を振り下ろす。
返り血が俺の顔にも飛んでくる。しかし、それでも俺は鍋で殴るのをやめない。
「クソクソクソ! あああああああああああ!」
もう、何度鍋を振り下ろしたのか分からない。
鍋は完全に血に染まり、銀色の部分はほとんど赤に染まっていた。
「あああああああああああ!」
俺はそれでも鍋を振り下ろし続ける。まだ、悪魔は死んでいなかったからだ。
悪魔は何かを俺に喋ろうとしていたが、容赦ない暴力に徐々に声は擦れ始めていた。
「おっ……に……ぃ……ちゃ」
まだ、生きているのか。この悪魔め。
「はぁ……はっ……あ……この……悪魔が! いい加減、死ね!」
そう言って、俺は大きく鍋を振りかぶって最後に力いっぱいに鍋を悪魔の顔面に叩き込んだ。真っ赤な血がペンキのように部屋中に飛び散った。
「っ……」
そして、とうとう悪魔は何の反応も示さなくなった。やった、俺が優姫を守ったんだ。
「はぁ……はぁ……」
俺は、激しく乱れた呼吸を必死に整えた。これで、優姫は安全だ。
「ゆうちゃん! やめてっ……やめて!」
すると、後ろから優姫が俺に叫ぶ。そして、俺に鍋を離すように言う。
「なんで止めるんだよっ! こいつは……こいつは!」
「あんちゃんだよっ! あんちゃんなんだよ……っ」
優姫のその一言で一瞬、息が止まった。何言ってるんだ? 目の前のこいつは……こいつは。
目を凝らしてもう1度、悪魔の死骸を見つめ直す。
「……なんだ、これ」
頭から血を流して倒れているのは、悪魔ではなく杏奈だった。
「なんだよ……これ、なんなんだよ!」
「ゆうちゃんが……あんちゃんを殺したんだよ」
優姫が俯きながら言う。
「そんな……そんな事あるか! 俺は悪魔を……」
俺は、俺は優姫を助けたのに、なんでこんな事になってるんだ。俺は……優姫を醜い悪魔から救ってあげたのに。なんで。
「ゆうちゃん……ちゃんとこれを、見て」
優姫の視線の先。そこには、1人の華奢な女の子が頭から血を流して倒れていた。俺が見た醜い豚でも悪魔でもない……間違えなく杏奈だ。
顔は血塗れで目を大きく見開き、前歯が何本かは折れていた。そして、自分が手で持っている鍋。金属製の鍋は衝撃によって歪み、至る所に血がべっとりと付いている。
「あ……あああ……」
俺は確信した。俺が今この手に持っている鍋で、杏奈を何度も、何度も殴打した。
そして……俺が殺したのは醜い豚でも悪魔でも無かった。幻覚に惑わされ、杏奈を殺した。
「あっ……はははっ……ははははは」
俺はその場に鍋を叩きつけ、絶叫、笑う。もう、感情が制御できない。
西崎の事故や峰岸が死んだ時とは比べられないほどの絶望。なぜなら自分の妹を自分で殴り殺したのだから。
「ははははっは! あははははあっははは!」
人は、極限の絶望の中では笑うのだと知った。
もう、泣いてもどうしようも無い事を知っているから、笑って自己防衛をしようとするのだ。
そんな俺に対し、優姫が車椅子から身を乗り出して俺に近付こうとする。
「ゆうちゃん!」
「はははは! あはははははははっ!」
「きゃあ!」
俺は笑いながら身体の弱い優姫を遠慮無しに突き飛ばした。
もう訳が分からない。俺の精神はもう現実と虚構の区別すらつかなくなったのか。その結果、豚だの悪魔の幻覚を見て、杏奈を殺したのか。
なんでなんでなんで。なんで俺が杏奈を……なんでなんでなんで……っ。
そして俺の脳は完全にフリーズし、強烈な頭痛が脳内を駆け巡り、俺はそのまま気を失った。
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