49 / 67
第49話 失望
しおりを挟む
【7月27日 嫉妬:塚原 杏奈】
私は3人が美味しそうにケーキを頬張っているのをキッチンからボーっと見つめていた。
……なんで。なんでそんな美味しそうに、楽しそうにしてるの、お兄ちゃん。
私の時は部屋から出てくる事すらしてくれなかったのに……優姫が戻ってきたらこんなに元気になって……何なの。
優姫も……事件から戻ってきて、いきなりお兄ちゃんに馴れ馴れしくして……あんたがいなかったこの10年間、お兄ちゃんを支えてきたのは誰だと思ってるの? 妹の私なのに……。
「あんちゃーん! あんちゃんもケーキ食べよ!」
「ほら、そんなとこに突っ立ってないで! 杏奈ちゃんの分もちゃんと取ってあるぞ!」
優姫と和彦がはしゃぎながら叫ぶ。
しかし、こんな気分でケーキなんか食べられるわけがない。
「……あ、ごめん……私あんまりお腹空いてないから……」
「……そ、そっか」
「ん? 杏奈は食べないのか? こんなに美味しいのに、もったいないぞ」
お兄ちゃんがケーキを頬張りながら不思議そうに言う。
昨日までは廃人みたいに部屋に閉じこもってたくせに……優姫が帰って来た途端になんでこんな元気になってるのよ。これじゃあまるで、私がいなくても良かったみたいじゃん。
私が今までいくら頑張ってもお兄ちゃんは見向きもしてくれなかったくせに……。
優姫が帰って来て、お兄ちゃんにとって私はもう不要になったの?
私の今までのお祈りは……無駄だったの?
私は……優姫の代用品だったの?
「……ごめん、私ちょっと具合悪いから部屋戻るね。食べ終わった食器はキッチンに置いといてね、後で洗うから」
「え? 大丈夫、あんちゃん?」
「……最近はずっと杏奈ちゃん大変だったからな、一気にガタが来たんだろ。ゆっくり休むと良い」
優姫と和彦が心配そうな様子でそう言ってくれる。
これ以上ここにいるとおかしくなりそう。優姫が帰ってきて、お兄ちゃんが元気になって……今までの私という存在が否定されてるみたい。私は優姫にお兄ちゃんが取られた事に嫉妬してるんだ。
「……お兄ちゃん、今日はもう休むね……」
私はお兄ちゃんに向かってそう言ってみる。前のお兄ちゃんなら……心配して部屋まで着いてきてくれた。そして、ベッドに優しく寝かせてくれて……私が眠るまで一緒にいてくれた。
今日も、そうしてくれると思った。そうして欲しい。
「ん? ああ、ゆっくり休めよ」
しかし、返事はひどく冷たく、残酷だった。
まるで興味が無いというか……他人事。お兄ちゃんにとって今の私は他人って事?
私はお兄ちゃんのあまりにも冷たい返答を受け入れられず、その場に立ち尽くす。
「祐介、お前も杏奈ちゃんの部屋まで着いて行ってやったほうがいいんじゃないか? 具合悪いみたいだし」
和彦がケーキに夢中のお兄ちゃんに言う。
そう、本当に優しいお兄ちゃんならそうしてくれるよね? 妹の事……心配してくれるよね?
「あー……大丈夫、大丈夫。杏奈はもう中学生だぞ? 心配無いって」
「けどさ……」
「大した事ないって、大袈裟なんだよ。なぁ、杏奈?」
お兄ちゃんから発せられた言葉。それは私の求めていたお兄ちゃんの言葉ではなかった。
そして、その一言で私は気が付いた。
私の知っているお兄ちゃんは、もういないんだ。
「……うん。1人でも平気だよ」
そう言い残して私はリビングから去った。
私は3人が美味しそうにケーキを頬張っているのをキッチンからボーっと見つめていた。
……なんで。なんでそんな美味しそうに、楽しそうにしてるの、お兄ちゃん。
私の時は部屋から出てくる事すらしてくれなかったのに……優姫が戻ってきたらこんなに元気になって……何なの。
優姫も……事件から戻ってきて、いきなりお兄ちゃんに馴れ馴れしくして……あんたがいなかったこの10年間、お兄ちゃんを支えてきたのは誰だと思ってるの? 妹の私なのに……。
「あんちゃーん! あんちゃんもケーキ食べよ!」
「ほら、そんなとこに突っ立ってないで! 杏奈ちゃんの分もちゃんと取ってあるぞ!」
優姫と和彦がはしゃぎながら叫ぶ。
しかし、こんな気分でケーキなんか食べられるわけがない。
「……あ、ごめん……私あんまりお腹空いてないから……」
「……そ、そっか」
「ん? 杏奈は食べないのか? こんなに美味しいのに、もったいないぞ」
お兄ちゃんがケーキを頬張りながら不思議そうに言う。
昨日までは廃人みたいに部屋に閉じこもってたくせに……優姫が帰って来た途端になんでこんな元気になってるのよ。これじゃあまるで、私がいなくても良かったみたいじゃん。
私が今までいくら頑張ってもお兄ちゃんは見向きもしてくれなかったくせに……。
優姫が帰って来て、お兄ちゃんにとって私はもう不要になったの?
私の今までのお祈りは……無駄だったの?
私は……優姫の代用品だったの?
「……ごめん、私ちょっと具合悪いから部屋戻るね。食べ終わった食器はキッチンに置いといてね、後で洗うから」
「え? 大丈夫、あんちゃん?」
「……最近はずっと杏奈ちゃん大変だったからな、一気にガタが来たんだろ。ゆっくり休むと良い」
優姫と和彦が心配そうな様子でそう言ってくれる。
これ以上ここにいるとおかしくなりそう。優姫が帰ってきて、お兄ちゃんが元気になって……今までの私という存在が否定されてるみたい。私は優姫にお兄ちゃんが取られた事に嫉妬してるんだ。
「……お兄ちゃん、今日はもう休むね……」
私はお兄ちゃんに向かってそう言ってみる。前のお兄ちゃんなら……心配して部屋まで着いてきてくれた。そして、ベッドに優しく寝かせてくれて……私が眠るまで一緒にいてくれた。
今日も、そうしてくれると思った。そうして欲しい。
「ん? ああ、ゆっくり休めよ」
しかし、返事はひどく冷たく、残酷だった。
まるで興味が無いというか……他人事。お兄ちゃんにとって今の私は他人って事?
私はお兄ちゃんのあまりにも冷たい返答を受け入れられず、その場に立ち尽くす。
「祐介、お前も杏奈ちゃんの部屋まで着いて行ってやったほうがいいんじゃないか? 具合悪いみたいだし」
和彦がケーキに夢中のお兄ちゃんに言う。
そう、本当に優しいお兄ちゃんならそうしてくれるよね? 妹の事……心配してくれるよね?
「あー……大丈夫、大丈夫。杏奈はもう中学生だぞ? 心配無いって」
「けどさ……」
「大した事ないって、大袈裟なんだよ。なぁ、杏奈?」
お兄ちゃんから発せられた言葉。それは私の求めていたお兄ちゃんの言葉ではなかった。
そして、その一言で私は気が付いた。
私の知っているお兄ちゃんは、もういないんだ。
「……うん。1人でも平気だよ」
そう言い残して私はリビングから去った。
0
お気に入りに追加
96
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
蜥蜴の尻尾切り
柘榴
ホラー
中学3年生の夏、私はクラスメイトの男の子3人に犯された。
ただ3人の異常な性癖を満たすだけの玩具にされた私は、心も身体も壊れてしまった。
そして、望まない形で私は3人のうちの誰かの子を孕んだ。
しかし、私の妊娠が発覚すると3人はすぐに転校をして私の前から逃げ出した。
まるで、『蜥蜴の尻尾切り』のように……私とお腹の子を捨てて。
けれど、私は許さないよ。『蜥蜴の尻尾切り』なんて。
出来の悪いパパたちへの再教育(ふくしゅう)が始まる。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
本当にあった怖い話
邪神 白猫
ホラー
リスナーさんや読者の方から聞いた体験談【本当にあった怖い話】を基にして書いたオムニバスになります。
完結としますが、体験談が追加され次第更新します。
LINEオプチャにて、体験談募集中✨
あなたの体験談、投稿してみませんか?
投稿された体験談は、YouTubeにて朗読させて頂く場合があります。
【邪神白猫】で検索してみてね🐱
↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください)
https://youtube.com/@yuachanRio
※登場する施設名や人物名などは全て架空です。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる