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第37話 遺言
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【7月22日 自殺者の留守電:若槻 健二】
「……若槻さん。やっぱりこの子たちは違いますって」
俺の隣で新入りの佐藤がボソッと呟く。こいつは新入りの癖に妙に正義感が強くて鬱陶しい奴だ。
「友人が2人も連続であんな目に遭って……その上、峰岸さんの方は自殺だなんて。これ以上この子たちを疑うのは流石に可哀想ですよ」
「……まだだ」
俺は携帯の画面をじっと見つめたまま言う。
「若槻さん……っ」
「まだ……まだ終わってないんだよ、この留守電。あと1分以上残ってる」
ぐちぐちとうるさい佐藤に携帯の画面を向ける。携帯の画面上には確かに残り1分以上の音声が残っていた。
「それは……飛び降りる前に録音を止め忘れただけじゃないですか?」
「いや……こいつ、なにか小声でずっと唱えてやがる」
峰岸とかいうガキの声がさっきから微かな音だが留守電に記録されている。何を言っているのかまでは判別できないが、これが残り1分間ずっと記録されているのか。
すると、佐藤が携帯に耳を近づけてその小さな音を聞き始める。
「……ん、確かに何かを小声でブツブツ言ってますね」
「気味悪いな、なんだこりゃ」
俺は携帯の音量の設定を一気に最大まで引き上げる。
すると、玄関先におぞましい肉声が木霊した。
『……してや……る……こ……ろしてやる。殺してやる。あの世で絶対に呪ってやる。呪って呪って呪って呪ってやる……クラスの奴ら、サッカー部の奴ら、お父さん……馬鹿な男共もみんな呪ってやる。みんな死ねっ……死ね死ね死ね死ね死ね……』
再生されたのはこの世のものとは思えないような憎しみが籠った肉声だった。とても女子中学生の声だとは信じられない。
「なんだこりゃ……っ」
流石の俺も驚いた。今まで刑事として色んな人間の醜い部分を見てきたつもりだったが、こいつは明らかに違う。
聞いているこっちが耳を塞ぎたくなるような気持ちの悪い、吐き気を催すような心の最期の叫びだった。
「……なに、これ」
「な……」
そのおぞましい声を聞いて、さっきまで2人で抱きしめ合っていた兄妹2人が目を丸くして俺の顔を見つめていた。
「さっきの留守電の続きだ……」
「そんな……でもさっき、峰岸さんはお兄ちゃんを許すって!」
「あ……ああ! 俺はっ……峰岸に許され……」
「……残念ながらこっちが本心なんだろうよ、こんな気味の悪い音声があと30秒近く残ってるんだからな」
すると突然、お経のような留守電がピタリと音を止める。
『……塚原先輩? きっとあなたはこの留守電を聞いて安心しましたよね? 自分は許された、自分は悪くなかったんだって……』
確かに俺は許されたと思った、救われたと思った。けど……これが峰岸の本性なのか。峰岸の俺を見下したような声。それはまだ終わらなかった。
『ちょっとでも心が楽になりましたか? あれ、もちろん嘘ですよ? ひょっとして信じちゃいましたか? ははっ、馬鹿ですね……そんなわけないじゃないですか?』
『あたし、顔を溶かされたどころか……ハサミで切り取られたんですよ、自分の……『唇』を丸ごと。こんな顔で、これ以上生きていける訳ないじゃないですか……全部……お前のせいだ』
峰岸からの留守電は、笑い声と泣き声と断末魔が混じったような叫び声を最後に途切れた。恐らくコレを録音をした直後に峰岸は身を投げたんだろう。
「なに……よ、これ……なんなの!」
妹の方が峰岸の留守電を聞いて取り乱し、兄の耳を咄嗟に塞ぐ。しかし、今更そんな事をしても何も意味も無かった。
「峰岸……峰岸、俺を……許してくれたんだよなぁ? なぁ?」
兄は天井を見上げ、腕を必死に上に伸ばしながら必死に語り掛ける。まるであの世にいる峰岸に許しを請うように。
「……お兄ちゃん違う! あれはあの女の勝手な妄想で! あの女は元から頭がおかしかったの、きっとそうだよ! だからあんなの信じちゃ……」
「ごめん……ごめん……峰岸ぃ! 許してくれ! 呪うだなんて嘘だろ? なぁ!」
兄の方はやっと自分が許されない運命だと受け入れたのか、髪を激しく掻き毟り、口から涎を垂れ流し、奇声を上げながら玄関前でのたうち回る。
「お兄ちゃんっ……私だけを見て! あんなの聞いちゃダメ!」
妹が兄を必死に押さえつけようとするが、その華奢な身体ではまるで意味がなかった。
「ああああっ! あああああああああああああっ!」
「違うのっ……お兄ちゃんっ……これはきっと幻で……」
「あああああああああああああああっ……ああああああ」
玄関には兄の奇声と、妹が兄を押さえつけながら発する半泣きの声が響き渡っていた。
「……若槻さん。やっぱりこの子たちは違いますって」
俺の隣で新入りの佐藤がボソッと呟く。こいつは新入りの癖に妙に正義感が強くて鬱陶しい奴だ。
「友人が2人も連続であんな目に遭って……その上、峰岸さんの方は自殺だなんて。これ以上この子たちを疑うのは流石に可哀想ですよ」
「……まだだ」
俺は携帯の画面をじっと見つめたまま言う。
「若槻さん……っ」
「まだ……まだ終わってないんだよ、この留守電。あと1分以上残ってる」
ぐちぐちとうるさい佐藤に携帯の画面を向ける。携帯の画面上には確かに残り1分以上の音声が残っていた。
「それは……飛び降りる前に録音を止め忘れただけじゃないですか?」
「いや……こいつ、なにか小声でずっと唱えてやがる」
峰岸とかいうガキの声がさっきから微かな音だが留守電に記録されている。何を言っているのかまでは判別できないが、これが残り1分間ずっと記録されているのか。
すると、佐藤が携帯に耳を近づけてその小さな音を聞き始める。
「……ん、確かに何かを小声でブツブツ言ってますね」
「気味悪いな、なんだこりゃ」
俺は携帯の音量の設定を一気に最大まで引き上げる。
すると、玄関先におぞましい肉声が木霊した。
『……してや……る……こ……ろしてやる。殺してやる。あの世で絶対に呪ってやる。呪って呪って呪って呪ってやる……クラスの奴ら、サッカー部の奴ら、お父さん……馬鹿な男共もみんな呪ってやる。みんな死ねっ……死ね死ね死ね死ね死ね……』
再生されたのはこの世のものとは思えないような憎しみが籠った肉声だった。とても女子中学生の声だとは信じられない。
「なんだこりゃ……っ」
流石の俺も驚いた。今まで刑事として色んな人間の醜い部分を見てきたつもりだったが、こいつは明らかに違う。
聞いているこっちが耳を塞ぎたくなるような気持ちの悪い、吐き気を催すような心の最期の叫びだった。
「……なに、これ」
「な……」
そのおぞましい声を聞いて、さっきまで2人で抱きしめ合っていた兄妹2人が目を丸くして俺の顔を見つめていた。
「さっきの留守電の続きだ……」
「そんな……でもさっき、峰岸さんはお兄ちゃんを許すって!」
「あ……ああ! 俺はっ……峰岸に許され……」
「……残念ながらこっちが本心なんだろうよ、こんな気味の悪い音声があと30秒近く残ってるんだからな」
すると突然、お経のような留守電がピタリと音を止める。
『……塚原先輩? きっとあなたはこの留守電を聞いて安心しましたよね? 自分は許された、自分は悪くなかったんだって……』
確かに俺は許されたと思った、救われたと思った。けど……これが峰岸の本性なのか。峰岸の俺を見下したような声。それはまだ終わらなかった。
『ちょっとでも心が楽になりましたか? あれ、もちろん嘘ですよ? ひょっとして信じちゃいましたか? ははっ、馬鹿ですね……そんなわけないじゃないですか?』
『あたし、顔を溶かされたどころか……ハサミで切り取られたんですよ、自分の……『唇』を丸ごと。こんな顔で、これ以上生きていける訳ないじゃないですか……全部……お前のせいだ』
峰岸からの留守電は、笑い声と泣き声と断末魔が混じったような叫び声を最後に途切れた。恐らくコレを録音をした直後に峰岸は身を投げたんだろう。
「なに……よ、これ……なんなの!」
妹の方が峰岸の留守電を聞いて取り乱し、兄の耳を咄嗟に塞ぐ。しかし、今更そんな事をしても何も意味も無かった。
「峰岸……峰岸、俺を……許してくれたんだよなぁ? なぁ?」
兄は天井を見上げ、腕を必死に上に伸ばしながら必死に語り掛ける。まるであの世にいる峰岸に許しを請うように。
「……お兄ちゃん違う! あれはあの女の勝手な妄想で! あの女は元から頭がおかしかったの、きっとそうだよ! だからあんなの信じちゃ……」
「ごめん……ごめん……峰岸ぃ! 許してくれ! 呪うだなんて嘘だろ? なぁ!」
兄の方はやっと自分が許されない運命だと受け入れたのか、髪を激しく掻き毟り、口から涎を垂れ流し、奇声を上げながら玄関前でのたうち回る。
「お兄ちゃんっ……私だけを見て! あんなの聞いちゃダメ!」
妹が兄を必死に押さえつけようとするが、その華奢な身体ではまるで意味がなかった。
「ああああっ! あああああああああああああっ!」
「違うのっ……お兄ちゃんっ……これはきっと幻で……」
「あああああああああああああああっ……ああああああ」
玄関には兄の奇声と、妹が兄を押さえつけながら発する半泣きの声が響き渡っていた。
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