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第39話 絶望
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【7月22日 リビング:塚原 杏奈】
……あれから更に2時間は経って、お昼頃。やっとお兄ちゃんに変化が生じた。
お兄ちゃんの部屋からずっと聞こえていた獣のような叫び声が突然、鳴り止んだのだ。
さっきから下の階までずっとお兄ちゃんのうめき声が聞こえていたけど、今はピタリとそれが止まっている。もしかしたら体力を使い果たして少し落ち着いたのかもしれない。
「……よし」
私はお兄ちゃんのうめき声が少し落ち着いた事を確認すると、キッチンから作りたてのご飯を持ち、階段を一段ずつ上がってお兄ちゃんの部屋の前まで運んだ。温かいご飯を食べれば、きっとお兄ちゃんも少しは元気になるはず。
「お兄ちゃん……起きてる?」
私はコンコンと軽いノックをしながらお兄ちゃんの部屋のドア越しに声を掛けてみる。
しかし、お兄ちゃんから一向に返事は返ってこない。聞こえるのは微かな呼吸の音だけ。
「あの……ご飯、ここに置いとくね。食べ終わったら食器は外に出しておいてくれればいいから……」
そう言って私はお兄ちゃんの大好物のから揚げを部屋の前に静かに置いた。普段のお兄ちゃんなら直ぐにでもつまみ食いするくらいの好物。でも、そんな好物が部屋の前であっても、中から返事は聞こえない。もしかしたらこの声すらお兄ちゃんには届いていないのかもしれない。
「……じゃあ私、リビングにいるから……なんかあったら呼んでね」
今は駄目だ。何をしても無駄だと分かった。悔しいけど峰岸はそれだけお兄ちゃんにとって大切な存在だったという事。
その存在を失った事によって、お兄ちゃんのダメージはとんでもないものになっている。今のままではお兄ちゃんをどうする事もできないと思った。
「っ……」
目に涙が浮かんでくる。悔しくて悔しくて仕方ないけど、今日は諦めよう。から揚げを部屋の前に置いて、お兄ちゃんの部屋を後にしようとしたその時だった。
部屋の中から微かに音が聞こえた。
「な……あんな……あ」
潰れかけた喉から発せられた、たった一言。
「なっ、なにお兄ちゃん!」
私はお兄ちゃんが発してくれたその一言に反応し、急いで部屋の前までUターンする。
やっと! やっと、お兄ちゃんが私を必要としてくれる! そう思った。
「1つ……だけ、いいか……」
「う、うん! なんでも言って! 1つだけなんて言わないでさ、いくらでもいいよ! 食べたいものがあるなら今から作るし、読みたい漫画があるなら今すぐ買ってくるから! なーんでも……」
私は興奮しながらお兄ちゃんの言葉を聞き入れようとする。やっとお兄ちゃんに必要とされた! やっとお兄ちゃんに奉仕できる! そんな気持ちで興奮が収まらない。
たけど、お兄ちゃんが発したその言葉は、私の求めているような言葉じゃなかった。
「……峰岸は……なんで死んだんだ」
「……え?」
お兄ちゃんは確かにそう口にした。
それを聞いて、一気に私の身体の熱が引いていく。昂ぶっていた感情が一気に冷めていくのが分かった。
違う、違うよお兄ちゃん。私が聞きたいのはそれじゃない。そんな女の事じゃないんだよ。
「峰岸……死ぬ事は無かったじゃないか……しかも、あんなに俺の事を恨んで……憎しみながら絶望の中で死んでいったなんて……ああ……なんでだよ……」
違う違う違う。やめてやめてやめて。
私は、お兄ちゃんが私に助けを求めてくれると思ってたのに。ただ一言、杏奈助けてくれって言ってくれれば私は何でもしてあげられたのに。
……それじゃあ、お兄ちゃんを助けてあげれないじゃん。
「……じゃあ、私下にいるからね」
私はお兄ちゃんの言葉を無視し、それだけを言い残して1階へ降りて行った。
……あれから更に2時間は経って、お昼頃。やっとお兄ちゃんに変化が生じた。
お兄ちゃんの部屋からずっと聞こえていた獣のような叫び声が突然、鳴り止んだのだ。
さっきから下の階までずっとお兄ちゃんのうめき声が聞こえていたけど、今はピタリとそれが止まっている。もしかしたら体力を使い果たして少し落ち着いたのかもしれない。
「……よし」
私はお兄ちゃんのうめき声が少し落ち着いた事を確認すると、キッチンから作りたてのご飯を持ち、階段を一段ずつ上がってお兄ちゃんの部屋の前まで運んだ。温かいご飯を食べれば、きっとお兄ちゃんも少しは元気になるはず。
「お兄ちゃん……起きてる?」
私はコンコンと軽いノックをしながらお兄ちゃんの部屋のドア越しに声を掛けてみる。
しかし、お兄ちゃんから一向に返事は返ってこない。聞こえるのは微かな呼吸の音だけ。
「あの……ご飯、ここに置いとくね。食べ終わったら食器は外に出しておいてくれればいいから……」
そう言って私はお兄ちゃんの大好物のから揚げを部屋の前に静かに置いた。普段のお兄ちゃんなら直ぐにでもつまみ食いするくらいの好物。でも、そんな好物が部屋の前であっても、中から返事は聞こえない。もしかしたらこの声すらお兄ちゃんには届いていないのかもしれない。
「……じゃあ私、リビングにいるから……なんかあったら呼んでね」
今は駄目だ。何をしても無駄だと分かった。悔しいけど峰岸はそれだけお兄ちゃんにとって大切な存在だったという事。
その存在を失った事によって、お兄ちゃんのダメージはとんでもないものになっている。今のままではお兄ちゃんをどうする事もできないと思った。
「っ……」
目に涙が浮かんでくる。悔しくて悔しくて仕方ないけど、今日は諦めよう。から揚げを部屋の前に置いて、お兄ちゃんの部屋を後にしようとしたその時だった。
部屋の中から微かに音が聞こえた。
「な……あんな……あ」
潰れかけた喉から発せられた、たった一言。
「なっ、なにお兄ちゃん!」
私はお兄ちゃんが発してくれたその一言に反応し、急いで部屋の前までUターンする。
やっと! やっと、お兄ちゃんが私を必要としてくれる! そう思った。
「1つ……だけ、いいか……」
「う、うん! なんでも言って! 1つだけなんて言わないでさ、いくらでもいいよ! 食べたいものがあるなら今から作るし、読みたい漫画があるなら今すぐ買ってくるから! なーんでも……」
私は興奮しながらお兄ちゃんの言葉を聞き入れようとする。やっとお兄ちゃんに必要とされた! やっとお兄ちゃんに奉仕できる! そんな気持ちで興奮が収まらない。
たけど、お兄ちゃんが発したその言葉は、私の求めているような言葉じゃなかった。
「……峰岸は……なんで死んだんだ」
「……え?」
お兄ちゃんは確かにそう口にした。
それを聞いて、一気に私の身体の熱が引いていく。昂ぶっていた感情が一気に冷めていくのが分かった。
違う、違うよお兄ちゃん。私が聞きたいのはそれじゃない。そんな女の事じゃないんだよ。
「峰岸……死ぬ事は無かったじゃないか……しかも、あんなに俺の事を恨んで……憎しみながら絶望の中で死んでいったなんて……ああ……なんでだよ……」
違う違う違う。やめてやめてやめて。
私は、お兄ちゃんが私に助けを求めてくれると思ってたのに。ただ一言、杏奈助けてくれって言ってくれれば私は何でもしてあげられたのに。
……それじゃあ、お兄ちゃんを助けてあげれないじゃん。
「……じゃあ、私下にいるからね」
私はお兄ちゃんの言葉を無視し、それだけを言い残して1階へ降りて行った。
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