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第29話 次なる生贄
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【7月21日 朝:塚原 祐介】
最悪の目覚めの朝だ。
昨日は最悪の気分で帰ってきたら杏奈もいなかった。買い物かと思ってしばらく待ったが、8時過ぎになっても帰ってこないので夕飯も食べずにシャワーだけ浴びて寝てしまった。
「くっそ、気分悪い」
昨日に続いて今日も最悪な気分だ。理由はただ1つ、昨日の自分に対してだ。
いくら苛立ったからと言って女の子に暴力をふるった挙句、そのまま放置して帰って来てしまったのだ。決して許される事ではない。
「連絡……返ってくる訳ないか」
俺はスマートフォンの液晶画面を見て溜息をつく。昨日、帰って来てからやはり心配になって何度か峰岸に連絡をしたのだが、返ってくる訳もなかった。あれだけの事をしたのだ、返信を期待する方がおかしい。
「……くそ」
連絡が帰ってこない以上、俺にはどうしようもなかった。唯一、俺達が繋がっていたあの病室も、もう峰岸が訪れる事はないだろう。
『お兄ちゃーん! 朝ごはん!』
1階から杏奈からお呼びが聞こえる。
こんな所で悩んでいても仕方ない、とりあえず起きて朝飯を食べよう。
リビングに降りると杏奈が朝食を作り終え、既に席に着いている状態だった。
「もー! 早く、早く!」
杏奈に急かされて俺はぼーっとしたまま席に着く。普段は美味しそうな朝食も今日は不思議とそう見えない。疲れているのか。
「じゃあ、いただきまーす!」
「……いただきます」
杏奈の元気の良い号令が響き渡る。だが、今の俺にはそれに反応するだけの元気はなかった。
「……昨日は随分と遅かったな」
「あ……ごめんね、ちょっと久しぶりに友達と遊んでて……」
なんだ、買い物じゃなかったのか。
でも、たまには友達と遊ぶのも大事だろう。普段はずっと家事で忙しかったんだ、あまり口うるさく言うべきではないと思う。
「そうか……楽しかったか?」
「うんっ! すっごい楽しかったよ!」
杏奈は満面の笑みでそう答える。それだけ楽しかったのなら、良かったと思う。俺は杏奈の微笑みを見て少し心が和らぐ。
「あ、それと今日お昼から雨だって! 午前中のうちに買い物行かなきゃ! お兄ちゃんも傘持ってね!」
「そうなのか? じゃあ今日の部活は室内かな……」
「ちょっと天気予報、見るね」
そう言って杏奈がテレビのリモコンを手に取り、電源を入れる。すると当然、液晶画面に映像が映し出される。たまたまニュース番組にチャンネルが合っていたようで液晶画面には女子アナウンサーが映し出される。
『それでは、次のニュースです。今朝、K県Y市の……』
女子アナウンサーが原稿をすらすらと無機質な声で読み上げ始める。俺はそれをなんとなく聞き流しながらトーストを口に突っ込む。
「えーっ、天気予報やってなーい! 他のチャンネル……」
杏奈がチャンネルを変えようとしたその時、俺はふと液晶画面の方を見る。
「……え」
その瞬間、俺はあまりのショックで口からトーストを床に落とした。
なんだよ、これ。
「ちょっとお兄ちゃんっ!、お行儀悪……」
リモコンを置いて杏奈が俺を注意する。ただ、そんな声は俺には届いていない。俺の耳にはテレビから流れてくるアナウンサーの無機質な声だけが反響していた。
『市内の東神社の雑木林で、市内の中学生の峰岸 怜奈さんが気を失っている姿で発見されました。峰岸さんは顔面を中心に大きな損傷を受けており、恐らく硫酸のようなものを顔面に付着させられたとして……』
みね……ぎし……?
「峰岸!」
俺はトーストをひっくり返して叫ぶ。
峰岸だ、今液晶画面に出ている写真も全部俺の知っている峰岸だった。
「お、お兄ちゃん……?」
杏奈は俺を心配そうな視線を送っていた。
「ごめん、杏奈! 俺ちょっと出かけてくる!」
「ちょ、ちょっと! お兄ちゃん!」
この田舎には大病院が西総合病院ただ1つ。しかもあれほどの重傷なら入院するにはあの病院しかない。
俺は西総合病院まで寝巻のまま全力疾走した。
最悪の目覚めの朝だ。
昨日は最悪の気分で帰ってきたら杏奈もいなかった。買い物かと思ってしばらく待ったが、8時過ぎになっても帰ってこないので夕飯も食べずにシャワーだけ浴びて寝てしまった。
「くっそ、気分悪い」
昨日に続いて今日も最悪な気分だ。理由はただ1つ、昨日の自分に対してだ。
いくら苛立ったからと言って女の子に暴力をふるった挙句、そのまま放置して帰って来てしまったのだ。決して許される事ではない。
「連絡……返ってくる訳ないか」
俺はスマートフォンの液晶画面を見て溜息をつく。昨日、帰って来てからやはり心配になって何度か峰岸に連絡をしたのだが、返ってくる訳もなかった。あれだけの事をしたのだ、返信を期待する方がおかしい。
「……くそ」
連絡が帰ってこない以上、俺にはどうしようもなかった。唯一、俺達が繋がっていたあの病室も、もう峰岸が訪れる事はないだろう。
『お兄ちゃーん! 朝ごはん!』
1階から杏奈からお呼びが聞こえる。
こんな所で悩んでいても仕方ない、とりあえず起きて朝飯を食べよう。
リビングに降りると杏奈が朝食を作り終え、既に席に着いている状態だった。
「もー! 早く、早く!」
杏奈に急かされて俺はぼーっとしたまま席に着く。普段は美味しそうな朝食も今日は不思議とそう見えない。疲れているのか。
「じゃあ、いただきまーす!」
「……いただきます」
杏奈の元気の良い号令が響き渡る。だが、今の俺にはそれに反応するだけの元気はなかった。
「……昨日は随分と遅かったな」
「あ……ごめんね、ちょっと久しぶりに友達と遊んでて……」
なんだ、買い物じゃなかったのか。
でも、たまには友達と遊ぶのも大事だろう。普段はずっと家事で忙しかったんだ、あまり口うるさく言うべきではないと思う。
「そうか……楽しかったか?」
「うんっ! すっごい楽しかったよ!」
杏奈は満面の笑みでそう答える。それだけ楽しかったのなら、良かったと思う。俺は杏奈の微笑みを見て少し心が和らぐ。
「あ、それと今日お昼から雨だって! 午前中のうちに買い物行かなきゃ! お兄ちゃんも傘持ってね!」
「そうなのか? じゃあ今日の部活は室内かな……」
「ちょっと天気予報、見るね」
そう言って杏奈がテレビのリモコンを手に取り、電源を入れる。すると当然、液晶画面に映像が映し出される。たまたまニュース番組にチャンネルが合っていたようで液晶画面には女子アナウンサーが映し出される。
『それでは、次のニュースです。今朝、K県Y市の……』
女子アナウンサーが原稿をすらすらと無機質な声で読み上げ始める。俺はそれをなんとなく聞き流しながらトーストを口に突っ込む。
「えーっ、天気予報やってなーい! 他のチャンネル……」
杏奈がチャンネルを変えようとしたその時、俺はふと液晶画面の方を見る。
「……え」
その瞬間、俺はあまりのショックで口からトーストを床に落とした。
なんだよ、これ。
「ちょっとお兄ちゃんっ!、お行儀悪……」
リモコンを置いて杏奈が俺を注意する。ただ、そんな声は俺には届いていない。俺の耳にはテレビから流れてくるアナウンサーの無機質な声だけが反響していた。
『市内の東神社の雑木林で、市内の中学生の峰岸 怜奈さんが気を失っている姿で発見されました。峰岸さんは顔面を中心に大きな損傷を受けており、恐らく硫酸のようなものを顔面に付着させられたとして……』
みね……ぎし……?
「峰岸!」
俺はトーストをひっくり返して叫ぶ。
峰岸だ、今液晶画面に出ている写真も全部俺の知っている峰岸だった。
「お、お兄ちゃん……?」
杏奈は俺を心配そうな視線を送っていた。
「ごめん、杏奈! 俺ちょっと出かけてくる!」
「ちょ、ちょっと! お兄ちゃん!」
この田舎には大病院が西総合病院ただ1つ。しかもあれほどの重傷なら入院するにはあの病院しかない。
俺は西総合病院まで寝巻のまま全力疾走した。
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