処女壊体-the making of a saint-

柘榴

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第10章 快楽の刑

第91話 偽りの光

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「はぁ……? あんた、何言って……」
 僕の言葉に、ティエラは怪訝そうな表情を浮かべる。それと同時に茜も大きく目を開き、驚愕していた。

「別に、僕は茜の最初の願いを拒否したつもりは無いんだが……」
 だが、そんな表情を向けられる筋合いは僕には無い。僕は今まで茜の願望に対して、黙って口を挟まなかっただけで否定など一度もしていない。
 最初から、葵を生かし、逃す願いを聞き入れるつまりだった。

「わざわざコイツを逃す意味なんて、どこにあるの? あるのなら、聞かせてみなさいよ?」
「意味も何も、本来なら勝者である茜の願いを拒否する権利は僕には無いさ」
 僕は茜の乾いた頰を撫でながら、茜の勝利を祝う。茜の驚愕の表情は依然固まったままだ。
「ほ……ん、と?」
 地獄の中に芽生えた、微かな光。茜の表情に微かだが色彩が芽生えた気がした。
 妹が、葵が、救われるという僅かだが目の前に灯った唯一の光。
「ああ、嘘を吐く意味が無い。もう葵には十分に働いてもらったからね。彼女の生命は保障しよう」
「たか、しろ……くん」
 茜は瞼を何度も瞑り、開きを繰り返しながら僕の表情を伺う。
 それに対して、僕はにっこりと屈託の無い笑みを浮かべてやる。
「……ちょっと、こっちに来なさい」
 その時、茜と見つめ合う僕を引き剥がし、ティエラが問答無用にガレージの外へ強引に僕を連れ出した。

「あんた、馬鹿なの? あの子を逃す事で、リスクが高まる事もわからない訳?」
「リスク? ああ、居場所が突き止められ、逮捕され、裁かれるリスクか。それはそうだろうね」
 ティエラの言う事は単純かつ明快、そして正論だった。
 外へ逃げ出し、保護された葵が僕やティエラ、そしてこの場所を公にするリスクをティエラは危険視しているのだ。
 いくら覚醒剤で狂い、壊れた葵だとしても、この場所を明らかにするくらいの余力はあるのかもしれない。そうなれば、僕もティエラも犯罪者として裁かれ、僕の計画も頓挫する。
「だが、茜にはより深い絶望を与えたい。これ以上に無いくらいのね」
 そんなリスクの存在など分かりきってある。だが、だからといってただ葵を殺す事に、僕は疑問を持っていた。これで、絶望が足りるのか? この程度の絶望で、茜の心を完全に殺す事ができるのか? と。
 それを考えた時、僕はリスクを孕みながらも、茜の為に尽力する事こそが茜に対する本物の愛ではないかと感じたのだ。

「だったら、目の前で惨たらしく殺すとかあるでしょ? その後は残った死体でも喰わせれば……形跡だって」
 それも良いだろう。だが、僕は新たな絶望の形を茜に与えたい。永遠に続く後悔と懺悔を、茜に与えてやりたい。

「殺すだけが、絶望じゃないんだ。生かし、逃す事で更に絶望が深まる事だってある」

 地獄の中で灯った、偽りの光。
 その偽りの光に誘われた茜。

 葵を生かした事を茜が心の底から後悔した時、それが僕が与える茜への新たな絶望の形だ。
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