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第1話 蜥蜴の尻尾切りⅠ
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中学3年の夏、私、藤倉 唯は酷い虐めを受けていた。
元々、人付き合いも得意ではなく、話し相手は飼っているハムスターと猫だけ。それに加えて暗い性格がいじめの標的にぴったりだったんだろう。最初はからかい程度だったモノが、徐々にエスカレートしてもはや犯罪に近いような嫌がらせも日常茶飯事だった。
表には出さなかったけれど、辛かった。私は普通に友達を作って、普通に学生生活が遅れればよかったのに、人と少し違うだけで、どうしてこんな苦しまなければなかったんだろう。
男子からは暴力的ないじめ、女子からは陰湿ないじめ。私は全ての他人から攻撃の対象にされていたのだ。
そしてある日、私は自殺を決意した。辛いだけの人生なんて送るだけ無駄だと思ったから。最後くらい学校で派手に自殺して、みんなを困らせてやろう。そう思って私は校舎の屋上から飛び降り自殺してやろうと、放課後に屋上へ向かった。
「……下から見るより、随分と高いな。けど、ここから落ちればきっと死ぬだろうな。けど、痛いかな……痛いのは、嫌だな」
屋上からグラウンドを見降ろし、私は独り言を漏らす。きっと声に出していないと、死ぬ決意が鈍ってしまいそうだったからだと思う。
深呼吸をし、フェンスを乗り越えて飛び降りの準備を整える。
「……普通に、生きてみたかったな」
幸福じゃなくてよかった。けれど、私は普通にすらなる資格が無かった。だから、来世ではせめて普通くらいにはなってみたいな。そんな事を考えながら、生温い風に身を任せて身体を前に倒した。
「さようなら……」
「危ない!!」
けれどその瞬間、倒れかけていた身体がものすごい力で後ろに引っ張られ、私は屋上へと引き戻される。
「はぁ……っ、はぁ……良かった、間に合って」
私を寸前の所で引っ張り上げたのは、サッカー部の香川 幸也という生徒だった。
サッカー部のエースで、顔も良く私とは正反対に位置する人気者。クラスは別だったが、そんな私でも知っているほどの有名人だった。
「何……誰、邪魔……しないでよ」
「邪魔するに決まってるだろ! 校庭から君が屋上にいるのが見えたから、まさかとは思ったけど……自殺なんて馬鹿げているよ!」
彼のような幸福な人間に、私のような人間が自殺を決意する理由など分からないだろう。
彼からすれば、私のような人間は馬鹿げているに決まっている。
「あんたに……何が分かんの……っ、なにも知らないくせに……」
死ぬことすら邪魔をされる。それが情けなくて、私はその場で泣き崩れる。
「お、おい……」
「私、死ぬことすら許されないの……? もう嫌……」
今の私はどれだけ滑稽に映っているだろう。同じ人間なのに、なぜこうも差が生まれるんだろう。
どうして、こんなに不平等なのだろう。私は、香川のような人間が憎かった。
私のような人間を見下し、軽蔑しているに決まっていると思っていたから。
……けれど、彼は他の人間たちとは違った。
「……ごめん、君の事をなにも知らずに偉そうなこと言って。良ければ……君の事、教えてくれないか?」
彼は私のような人間にも手を差し伸べてくれた。軽蔑するわけでもなく、ただ純粋な気持ちで優しく手を差し伸べてくれたのだ。
「……」
「知りたいんだ。知れば、何か変えられるかもしれない」
そして、私は彼の純粋な目に惹かれて、私は彼の手を取った。
それから私は、彼にいじめられていることを定期的に相談した。彼は否定も説教もせず、ただ優しく、私を慰めてくれた。
それが心地よくて、私は徐々に彼を恋愛対象として見始めていた。人を好きになったことは無かったけれど、彼の事を自然と考え、心を躍らせている自分がいた。
そしてある日。香川から放課後、一緒に帰ろうと誘われた。それだけでも私は緊張で倒れそうだったが、下校途中に香川が私の手を唐突に握り、目を合わせて真剣な表情で私を見つめた。
「な、なに……香川くん」
「……その、ただ帰るだけじゃ味気ないっていうか。もっと……一緒にいたい」
「ぇっ……」
「これから、俺の家来ない? 今日、親もいないから」
私は人生で経験のしたことのない幸福を感じていた。
幸福過ぎて怖いくらいだった。けれど、それは長続きしなかった。
「いいよ、入って」
「お邪魔……します」
香川の家に招かれ、私は無防備にも素直に従う。
なぜなら、この時は彼を疑うことなど考えもしなかったのだから。
香川の部屋に案内され、私は内心ドキドキしながら扉を挙げた。
だがその時、聞き覚えのある不快な声が耳へはいって来た。
「ひゅーっ、ほんとにお持ち帰りしてきちゃったよ。流石、香川君!」
「やっぱり、君に頼んで正解だったよ……ひひ」
中には私の知る同じクラスの2人の生徒がいた。
1人は校内一の不良生徒で、私にも毎日のように暴力を浴びせてくる古谷 瞬。
もう1人はいつもぶつぶつと独り言を呟いて、いじめには直接加担しないがその様子を撮影する事が多い村井 啓太。
「ぇ……なんで、なんで」
「おいおい藤倉、クラスメイトに対してなんではねぇだろ。俺たち、いつも仲良く遊んでんじゃん?」
古谷が馴れ馴れしく肩を組んでくる。
体を触られるだけで、震えが止まらない。殴られた時の恐怖が蘇るのだ。
「……あたし、帰る……っ」
私は古谷の腕を払いのけ、急いで部屋を出ようとする。
しかし、私の前に巨漢の村井が立ちふさがる。
「おっと……藤倉さん、男の家にこんな無防備な姿で上がり込んでくるって事は……つまり、そういう事だよね? ね?」
そう言って村井は私を強引にベッドへ押し倒した。
「いやっ……離して! いや……助けて、助けて香川くん!」
香川は、私の声に聴く耳も持たなかった。
ただ、私の様子を楽しんでいるかのように笑みを浮かべていた。
そこに、私の知る香川はいなかった。
「お前らのクラスにいい玩具がいるって聞いた時は半信半疑だったけど、見直したよ。こんなにチョロい女、初めて見たよ」
香川の言葉に、私は愕然とした。今日までずっと味方だと思っていた人に、好きだった人にこうも簡単に裏切られるとは思っていなかったからだ。
「……香川くん……なんで」
「なんで? 最初からこのつもりだったよ。藤倉さんみたいに誰にも相手にされてない人種が一番後腐れも無いからね。君みたいな玩具を壊しても、誰も咎めない」
そう言って香川は私の腹部を思い切り踏みつける。
「……っう!」
うずくまる私を、3人は笑ってみている。
「じゃ、まずは制服から脱ぎ脱ぎしてみよっか唯ちゃん~」
痛み身と恐怖で抵抗できない私の制服を、古谷が乱暴に破きはじめる。
あっという間に肌が露になり、3人の笑いは大きくなった。
「おォ……この未発達な感じが、たまらない。嘗め回しても良いかな?」
涎と汗を垂れ流しながら、村井が私の上に圧し掛かる。
「好きにしなよ。だって、藤倉さんはもう僕たちの玩具なんだからさ」
香川の一声で、村井の汚らしい舌が私の全身をはいずり回る。
「いや……いやぁ……気持ち悪い、やめ、て」
村井は止めるどころか、更に勢いを増していた。
「じゃあさ、俺もイロイロ試して良いかなぁ? 彼女には絶対できない事、藤倉さんで色々実験してみたいんだわ」
古谷が不気味な笑みを受けべながら、自身の制服を脱ぎ始める。
「まぁ……すぐには壊さないようにね。なかなかこんな都合の良い玩具ないんだから」
それを見て笑う香川。
この時、私は確信した。この3人は、人間ではない。紛れもなく悪魔だった。
それから、私はこの世のものとは思えない程の生き地獄を体験した。
自身の身体を玩具のようにいじくり回され、思い出せば吐き気を催すほどの凄惨な思い出ばかり。
そして、その悪魔たちの子を孕んだのは、中学3年生の冬頃だった。
誰の子かは分からなかったし、3人は知ろうとも調べようともしなかった。
「はぁ? てめぇなんで餓鬼なんか孕んでるんだよ!」
「だって、避妊してくれなかったから……」
妊娠を告げると、彼らは激昂した。発育も良くなかった私を見て彼らは妊娠などしないだろうと甘く考えていたらしいが、私は妊娠したのだ。
時間が経てば経つほどお腹は大きくなっていき、隠し通すのにも無理があった。
「うるせェ、だったら、今ここで中絶させてやるよ! 腹出せ!」
苛立ちを覚えた古谷が私の腹めがけて蹴りを見舞ってくる。
私はその蹴りを食らってその場へ膝を着いた。なんとかお腹には直撃せずに済んだが、古谷は本気でお腹の子を殺すつもりで蹴りを放っていた。
「……やめて、やめてよ……この子は、悪くないんだから」
けれど、不思議とお腹の子を憎む気持ちは無かった。たとえこの3人の中の悪魔の子だとしても、私の子だ。
私たちの都合で生み出されて、私たちの都合でこの子を殺すような真似はしたくなかった。
「けど、まさか妊娠するとはね。あんな未発達な身体してるくせに子供は孕むなんて、藤倉さんいやらしい女だね」
村井が私の腹を気持ちの悪い手つきで触ってくる。
こんな男たちの誰かがお腹の子の父親だなんて、どれだけ残酷な事実だろう。けれど、私は1人でもお腹の子を守って見せる。この日、そう決意したのだ。
「……で、どーすんだよ古谷。こんなんが表に出たら俺ら高校受験どころじゃねぇぞ」
腹を抑えてうずくまる私を尻目に、3人はどのように責任を逃れるかを相談していた。
彼らは私やお腹の子などどうでも良かったのだ。ただ、都合の悪い事実をどう隠ぺいし、もみ消すかと言うことだけを考えていた。
「心配ないさ。僕は既に親に頼んで転校の手続きは済ませてある。君たち2人も、将来の事を考えるのなら早急に転校すべきだと思うけれど」
「こんな半端な時期に転校かよ……けどまぁ、こんな女に将来めちゃくちゃにされるのも癪だしな」
「ま、そうだね。面倒事になる前に親に頼んでみるよ」
元々、人付き合いも得意ではなく、話し相手は飼っているハムスターと猫だけ。それに加えて暗い性格がいじめの標的にぴったりだったんだろう。最初はからかい程度だったモノが、徐々にエスカレートしてもはや犯罪に近いような嫌がらせも日常茶飯事だった。
表には出さなかったけれど、辛かった。私は普通に友達を作って、普通に学生生活が遅れればよかったのに、人と少し違うだけで、どうしてこんな苦しまなければなかったんだろう。
男子からは暴力的ないじめ、女子からは陰湿ないじめ。私は全ての他人から攻撃の対象にされていたのだ。
そしてある日、私は自殺を決意した。辛いだけの人生なんて送るだけ無駄だと思ったから。最後くらい学校で派手に自殺して、みんなを困らせてやろう。そう思って私は校舎の屋上から飛び降り自殺してやろうと、放課後に屋上へ向かった。
「……下から見るより、随分と高いな。けど、ここから落ちればきっと死ぬだろうな。けど、痛いかな……痛いのは、嫌だな」
屋上からグラウンドを見降ろし、私は独り言を漏らす。きっと声に出していないと、死ぬ決意が鈍ってしまいそうだったからだと思う。
深呼吸をし、フェンスを乗り越えて飛び降りの準備を整える。
「……普通に、生きてみたかったな」
幸福じゃなくてよかった。けれど、私は普通にすらなる資格が無かった。だから、来世ではせめて普通くらいにはなってみたいな。そんな事を考えながら、生温い風に身を任せて身体を前に倒した。
「さようなら……」
「危ない!!」
けれどその瞬間、倒れかけていた身体がものすごい力で後ろに引っ張られ、私は屋上へと引き戻される。
「はぁ……っ、はぁ……良かった、間に合って」
私を寸前の所で引っ張り上げたのは、サッカー部の香川 幸也という生徒だった。
サッカー部のエースで、顔も良く私とは正反対に位置する人気者。クラスは別だったが、そんな私でも知っているほどの有名人だった。
「何……誰、邪魔……しないでよ」
「邪魔するに決まってるだろ! 校庭から君が屋上にいるのが見えたから、まさかとは思ったけど……自殺なんて馬鹿げているよ!」
彼のような幸福な人間に、私のような人間が自殺を決意する理由など分からないだろう。
彼からすれば、私のような人間は馬鹿げているに決まっている。
「あんたに……何が分かんの……っ、なにも知らないくせに……」
死ぬことすら邪魔をされる。それが情けなくて、私はその場で泣き崩れる。
「お、おい……」
「私、死ぬことすら許されないの……? もう嫌……」
今の私はどれだけ滑稽に映っているだろう。同じ人間なのに、なぜこうも差が生まれるんだろう。
どうして、こんなに不平等なのだろう。私は、香川のような人間が憎かった。
私のような人間を見下し、軽蔑しているに決まっていると思っていたから。
……けれど、彼は他の人間たちとは違った。
「……ごめん、君の事をなにも知らずに偉そうなこと言って。良ければ……君の事、教えてくれないか?」
彼は私のような人間にも手を差し伸べてくれた。軽蔑するわけでもなく、ただ純粋な気持ちで優しく手を差し伸べてくれたのだ。
「……」
「知りたいんだ。知れば、何か変えられるかもしれない」
そして、私は彼の純粋な目に惹かれて、私は彼の手を取った。
それから私は、彼にいじめられていることを定期的に相談した。彼は否定も説教もせず、ただ優しく、私を慰めてくれた。
それが心地よくて、私は徐々に彼を恋愛対象として見始めていた。人を好きになったことは無かったけれど、彼の事を自然と考え、心を躍らせている自分がいた。
そしてある日。香川から放課後、一緒に帰ろうと誘われた。それだけでも私は緊張で倒れそうだったが、下校途中に香川が私の手を唐突に握り、目を合わせて真剣な表情で私を見つめた。
「な、なに……香川くん」
「……その、ただ帰るだけじゃ味気ないっていうか。もっと……一緒にいたい」
「ぇっ……」
「これから、俺の家来ない? 今日、親もいないから」
私は人生で経験のしたことのない幸福を感じていた。
幸福過ぎて怖いくらいだった。けれど、それは長続きしなかった。
「いいよ、入って」
「お邪魔……します」
香川の家に招かれ、私は無防備にも素直に従う。
なぜなら、この時は彼を疑うことなど考えもしなかったのだから。
香川の部屋に案内され、私は内心ドキドキしながら扉を挙げた。
だがその時、聞き覚えのある不快な声が耳へはいって来た。
「ひゅーっ、ほんとにお持ち帰りしてきちゃったよ。流石、香川君!」
「やっぱり、君に頼んで正解だったよ……ひひ」
中には私の知る同じクラスの2人の生徒がいた。
1人は校内一の不良生徒で、私にも毎日のように暴力を浴びせてくる古谷 瞬。
もう1人はいつもぶつぶつと独り言を呟いて、いじめには直接加担しないがその様子を撮影する事が多い村井 啓太。
「ぇ……なんで、なんで」
「おいおい藤倉、クラスメイトに対してなんではねぇだろ。俺たち、いつも仲良く遊んでんじゃん?」
古谷が馴れ馴れしく肩を組んでくる。
体を触られるだけで、震えが止まらない。殴られた時の恐怖が蘇るのだ。
「……あたし、帰る……っ」
私は古谷の腕を払いのけ、急いで部屋を出ようとする。
しかし、私の前に巨漢の村井が立ちふさがる。
「おっと……藤倉さん、男の家にこんな無防備な姿で上がり込んでくるって事は……つまり、そういう事だよね? ね?」
そう言って村井は私を強引にベッドへ押し倒した。
「いやっ……離して! いや……助けて、助けて香川くん!」
香川は、私の声に聴く耳も持たなかった。
ただ、私の様子を楽しんでいるかのように笑みを浮かべていた。
そこに、私の知る香川はいなかった。
「お前らのクラスにいい玩具がいるって聞いた時は半信半疑だったけど、見直したよ。こんなにチョロい女、初めて見たよ」
香川の言葉に、私は愕然とした。今日までずっと味方だと思っていた人に、好きだった人にこうも簡単に裏切られるとは思っていなかったからだ。
「……香川くん……なんで」
「なんで? 最初からこのつもりだったよ。藤倉さんみたいに誰にも相手にされてない人種が一番後腐れも無いからね。君みたいな玩具を壊しても、誰も咎めない」
そう言って香川は私の腹部を思い切り踏みつける。
「……っう!」
うずくまる私を、3人は笑ってみている。
「じゃ、まずは制服から脱ぎ脱ぎしてみよっか唯ちゃん~」
痛み身と恐怖で抵抗できない私の制服を、古谷が乱暴に破きはじめる。
あっという間に肌が露になり、3人の笑いは大きくなった。
「おォ……この未発達な感じが、たまらない。嘗め回しても良いかな?」
涎と汗を垂れ流しながら、村井が私の上に圧し掛かる。
「好きにしなよ。だって、藤倉さんはもう僕たちの玩具なんだからさ」
香川の一声で、村井の汚らしい舌が私の全身をはいずり回る。
「いや……いやぁ……気持ち悪い、やめ、て」
村井は止めるどころか、更に勢いを増していた。
「じゃあさ、俺もイロイロ試して良いかなぁ? 彼女には絶対できない事、藤倉さんで色々実験してみたいんだわ」
古谷が不気味な笑みを受けべながら、自身の制服を脱ぎ始める。
「まぁ……すぐには壊さないようにね。なかなかこんな都合の良い玩具ないんだから」
それを見て笑う香川。
この時、私は確信した。この3人は、人間ではない。紛れもなく悪魔だった。
それから、私はこの世のものとは思えない程の生き地獄を体験した。
自身の身体を玩具のようにいじくり回され、思い出せば吐き気を催すほどの凄惨な思い出ばかり。
そして、その悪魔たちの子を孕んだのは、中学3年生の冬頃だった。
誰の子かは分からなかったし、3人は知ろうとも調べようともしなかった。
「はぁ? てめぇなんで餓鬼なんか孕んでるんだよ!」
「だって、避妊してくれなかったから……」
妊娠を告げると、彼らは激昂した。発育も良くなかった私を見て彼らは妊娠などしないだろうと甘く考えていたらしいが、私は妊娠したのだ。
時間が経てば経つほどお腹は大きくなっていき、隠し通すのにも無理があった。
「うるせェ、だったら、今ここで中絶させてやるよ! 腹出せ!」
苛立ちを覚えた古谷が私の腹めがけて蹴りを見舞ってくる。
私はその蹴りを食らってその場へ膝を着いた。なんとかお腹には直撃せずに済んだが、古谷は本気でお腹の子を殺すつもりで蹴りを放っていた。
「……やめて、やめてよ……この子は、悪くないんだから」
けれど、不思議とお腹の子を憎む気持ちは無かった。たとえこの3人の中の悪魔の子だとしても、私の子だ。
私たちの都合で生み出されて、私たちの都合でこの子を殺すような真似はしたくなかった。
「けど、まさか妊娠するとはね。あんな未発達な身体してるくせに子供は孕むなんて、藤倉さんいやらしい女だね」
村井が私の腹を気持ちの悪い手つきで触ってくる。
こんな男たちの誰かがお腹の子の父親だなんて、どれだけ残酷な事実だろう。けれど、私は1人でもお腹の子を守って見せる。この日、そう決意したのだ。
「……で、どーすんだよ古谷。こんなんが表に出たら俺ら高校受験どころじゃねぇぞ」
腹を抑えてうずくまる私を尻目に、3人はどのように責任を逃れるかを相談していた。
彼らは私やお腹の子などどうでも良かったのだ。ただ、都合の悪い事実をどう隠ぺいし、もみ消すかと言うことだけを考えていた。
「心配ないさ。僕は既に親に頼んで転校の手続きは済ませてある。君たち2人も、将来の事を考えるのなら早急に転校すべきだと思うけれど」
「こんな半端な時期に転校かよ……けどまぁ、こんな女に将来めちゃくちゃにされるのも癪だしな」
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