上 下
3 / 9

第3話 始動の時間

しおりを挟む
==== ==== ====
 第1王子タンザイ・ダヴィンからのお知らせ

 魔法学校Aクラス代表たるタンザイ・ダヴィンが宣言するっ!
 全てにおいて完璧なる者達が集うこの魔法学校で、貴き血も流れていない平民風情に、この学校を使わせるだなんて勿体がなさすぎる!
 そこで、我らAクラスは他の3つのクラスと合同で、平民クラスをぶっ潰すことを提案する!

 平民クラス続行には次の進級試験で、全員が以下の基準を満たすことを条件とする!

 条件1;中級魔法を4種類以上取得、発動
 条件2;学年試験、全員50位以内
 条件3;ダンジョン最下層にあるダンジョンコアを破壊する、完全なるダンジョン攻略
==== ==== ====


「今日、黒板に貼ってありました」

 ラスカ級長が差し出した紙には、とてもふざけた内容が書かれていた。
 少なくとも、今の平民クラスの状況ではこの3つを達成するのは難しいだろう。
 なにせ、今のところ教室にいるのが、ラスカ級長だけだからね。

「あのアホ王子、ふざけたことを書きやがって」

 こんなの、ほぼほぼ無理な要求じゃねぇか。
 こっちは授業をする先生も教科書もなく、その上、教室に人が集まらないという状況なんだぞ?

「先生達に抗議することは出来ないのか?」
「言ってはみたんですが……"生徒の自主性を尊重する"と言われまして」
「完全にあっちの言いなりって事か」

 ふざけてるなぁ、まったく……。

「あ、あの……!?」
「で、級長はどうしたい?」
「そ、それは……出来る事なら、卒業したいです。折角、貴族の方に勝って入学したので」
「だよなぁ~。俺も同意見」

 まぁ、俺に見せに来るって事は、そういう事だと思ったけど。
 なにせ、退学したいのならば、俺に見せずに放っておけば、期末を過ぎれば自分含めて全員が退学処分だからね。

 話を聞くと、平民クラスで残っている連中は、級長と同じ意見。
 俺の所に来たのは最後、と言う事らしい。
 まぁ、俺の意見も、級長と同じく、卒業したい。

「いや、卒業しなければならないんだ」
「えっと、どうして、とか聞いても?」
「卒業資格がどうしても必要なんだよ。あれがないと、故郷が立ち行かないらしくてな」

 そうじゃなきゃ、わざわざこんな嫌がらせをしてくる魔法学校なんか捨てて、故郷の方に帰ってるーっつの。

 この魔法学校の卒業資格は、貴族社会では一種の持ってて当たり前のステータスらしく、あれがないと、うちの領地に色々と交易をおこなう事が出来ないらしい。
 父は持っているのだが、残念なことに俺の上の兄達は持っていないため、俺が取りに来たのである。
 将来的にはこの卒業資格を持っていることで、兄達に家から追放されずに、交易で手伝うと言うのが、田舎貴族の三男に生まれた俺の人生設計だ。

「そ、そうなんですか……」
「それに、ここで引くってのもなんだろうよ」

 ここまで、完全に平民クラスはバカにされている。

 俺は一応は貴族だが、爵位としては一番下の男爵で、それもここよりかは遥かに遠い田舎の貴族。
 貴族階級のトップに君臨する王族、その中でも第一王子からしてみれば、平民とほぼ変わらない位置なんだろう。

「(実力主義と聞いて、それなりに楽しめるかと思っていたのに。
 これじゃあ実力主義ではなく、単なる血筋優先じゃないか)」

 聞くところによると、俺以外の皆も、自分より上の相手----つまりはお貴族様を倒す実力があるにも関わらず、平民と言う事だけでこのクラスに入れられたらしい。
 実に不条理だ、意味が分からない。



「だから、俺は決めた」

 ラスカ級長の眼を見ながら、俺はグッと拳を握りしめる。

「平民クラス全員で、他のクラスをぎゃふんと言わせてやろうぜ。
 進級試験と言わず、次の試験で条件を全て達成してよ!」

 そう、平民クラスが、貴族クラスに反旗を翻す。
 これは、そういう話だ。



 そうと決まったら、まずは作戦を練らないとな。

「なぁ、ラスカ級長。今、うちのクラスには何人、残っている?」
「え? えっと……確か、私とグリンズくんを入れて、8人、ですかね」

 8人……とすれば、条件2の学年50位以内ってのは、そんなに難しくはない。

 うちのクラスは物凄い少人数クラスみたいになっているが、他の4クラスは50人規模と聞いているので、全部で208人。

「そのうちの50位だから、おおよそ3クラス分を蹴落とせば良いだけだな」
「3クラス分……って、150人以上に勝たないとっ!」
「楽勝だろう、そんなの」

 今は教科書がないが、それさえどこからか仕入れる事が出来れば、余裕だろう。
 なにせ、こんな自習だけの通っている意味すら分からない状況の中で、残り続けた連中だ。
 俺を始めとして、卒業するという意地がある。
 そういう意地がある奴ってのは、たいていめげないもんだ。

「そもそも、恵まれている貴族様ってのは、学習意欲があるヤツと、学習意欲が全くないヤツの2種類しかいないのよ」

 うちの周りの貴族が、そうだった。
 今の地位に甘んじずに頑張る貴族が少数、その他は自分が貰える取り分ばかりに気を取られたバカな奴らだった。
 パーティーで同い年のそういう連中を見ながら、こいつらがなんで俺よりも爵位が上なんだろうと、いつも考えていたさ。

「だから、大丈夫だ。級長もそう思うだろう?」
「…………」
「え、なにその顔」

 すっげー無言で、怖いんだけど。
 それってなに、8人の中で心配なのが居るって事? 学力的に?

「あー、まぁ良いや」

 俺はサッと、級長に手を差し出す。

「俺、一応は男爵子息だから貴族ではあるけれども、同じ平民クラスの仲間として。
 一緒に、卒業を目指して、頑張ろうぜ!」
「はいっ! 一緒に頑張りましょう!」

 握ることで感じる、級長の柔らかい手の感触を感じながら。
 俺はこのような理不尽への妥当と、卒業へ向けて、気持ちを熱くたぎらせるのであった。


==== ==== ====
【Tips】級長
 そのクラスの中で一番、偉い役割の人。自分のクラスの事を気にかけつつ、他のクラスとの交渉などを行う役目を持つ
 主にクラスの中で一番、成績が良い者がこの役割を担うとされる
==== ==== ====
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

完結 幽閉された王女

音爽(ネソウ)
ファンタジー
愛らしく育った王女には秘密があった。

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

揚げ物、お好きですか?リメイク版

ツ~
ファンタジー
揚げ物処「大和」の店主ヤマトは、ひょんな事から、エルフの国『エルヘルム』へと連れて来られ、そこで店をひらけと女王に命令される。 お金の無いヤマトは、仲間に助けられ、ダンジョンに潜って、お金や食材を調達したり、依頼されたクエストをこなしたり、お客さんとのふれ合いだったり……と大忙し? 果たして、ヤマトの異世界生活はどうなるのか?! 

婚約破棄してたった今処刑した悪役令嬢が前世の幼馴染兼恋人だと気づいてしまった。

風和ふわ
恋愛
タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。 ※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

お爺様の贈り物

豆狸
ファンタジー
お爺様、素晴らしい贈り物を本当にありがとうございました。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

処理中です...