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3.What is your name?

3-1 再会は甘酸っぱい?

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「てったん。だよね。わたしのこと覚えていないかな?」

 不安を隠しきれない表情を浮かべながら、大人になった君はぼくへ尋ねる。

 冬の凛とした空気のような透き通った声は変わっていなかった。むしろ、あの頃よりも不純物が取り除かれさらに透明感の増した君の声は、ぼくの耳に何の抵抗もなく届いて、地下牢のように厳重にしまわれていた君の名前を、ぼくの記憶の中に連れ出す。

「えりか」

 白江しらええりか。それがぼくの幼馴染の名前であり、あの子の名前であり、君の名前。生花店を営んでいた君の両親がベタにも花の名前をつけた。

 ぼくが名前を呼ぶと、ぼくが覚えていたことへの喜びやあの日の後ろめたさなど様々な感情を隠すように、君ははにかんだ。

「っ」

 初恋の人に再会したときは、木苺のような甘酸っぱい気持ちが広がるものとばかり思っていた。だけど、現実は喉を焼く強烈な酸味が広がるばかり。

「ごめん」

 口を手で塞ぎながらえりかに謝り、ぼくはトイレへと駆けこんだ。
 便器の蓋を開け顔を突っ込むと、ぼくは盛大に吐き出した。
 運命の再会? も台無しにしてしまうように。
 そして、トイレはかわいそうにも、ぼくの吐しゃ物にまみれて使い物にならなくなった。

「てったん。これ」
「……ありがとう」

 トイレから戻ったぼくにエリカはいの一番にハンカチを差し出した。
 ぼくはハンカチを受け取ると口元を拭う。そして、固まった。このハンカチをどうしたものか、扱いに困ったからだ。
 念入りに口をゆすいでいるがこのまま返して気分が良いものじゃないだろう。だからといって返さないわけにもいかないのだが。

「その、洗って、返す……よ?」
「良いよ、てったん。あげるから、またどこかで使って」
「……分かった」

 次、会う可能性が低いからなのだろう。君のハンカチはぼくが貰う事になった。

 そんなぎこちないやり取りを見ていたマスターは、えりかにモヒートとナッツを。ぼくにはピッチャーに入れた水とコップを出すと、ゴム手袋とマスクをしてトイレへと向かった。使用できなくなったかわいそうなトイレを放置しておくのも嫌だったのだろうし、何の説明もなしにぼくたちの関係を察したのだろう。かわいそうなトイレをきれいにしてあげた後、マスターが裏口から出てCloseの文字を入り口の扉に掛けてくれていたことを後で知った。

 マスターが気を回してくれていた間、ぼくたちは旧交を温めることにした。
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