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5章 学校に降り立つ神
口は災いの元
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僕は部室から出た出会い頭に、眼鏡を掛けた女の子とぶつかった。僕はなんとか踏ん張ったけれど彼女は勢いで尻もちをついた。
「あ、ごめ……」
反射的に謝ろうとしたが、彼女は分厚いレンズ越しに僕をにらみつけている。口まで出かかった言葉が喉まで引っ込む勢いだった。びっくりして黙り込んだ僕に、彼女はこんな言葉をぶつけてきた。
「あなた、呪われてるわよ。今に見ていなさい。バチが当たるから」
それだけ言うと、わき目もふらずにすれ違って行った。小走りに去っていく彼女の背中を茫然と見つめていると、後ろから声を掛けられた。
「一年B組の林田だな」
振り返るとすらっとした長身の男がいた。金髪に鋭い目つき。三年生の神木達也(かみきたつや)先輩だ。相変わらず寝起きのような、不機嫌そうな顔をしている。
「あいつ、ああやって周りに『霊感あるアピ』してんだよ。気にすんな」
ふうん。物好きな人もいたもんだ。というか、先輩は三年生なのに四月に入学したばかりの一年生のことを知っているのか。あの林田さんって人は有名人なのかな? 僕があれこれ想像していると神木先輩はめんどくさそうに言った。
「本当に霊感あるやつはそんなアピールしねぇ」
そりゃそうだ。そんなことをしたら周りに「本物の幽霊に会わせて」とか言われるし、本人も幽霊が見えるからといって別に進んで会いたいわけじゃないだろう。アピールしたところで面倒なことになるのが分かり切っている。
「でも『バチが当たる』ってどういうことですかね?」
普通は「悪いことをしたらバチが当たる」もんだ。呪いとはちょっと違う。林田さんがあえて「バチが当たる」なんて言い方をしたのは不思議で、でも何か意味があるように思えた。
「蛇神様に祟られるんだとさ」
「蛇?」
「林田には蛇神様っていう神様が見えてるんだと」
「そんな神様、本当にいるんですか?」
「聞いたことねぇな」
うーん。イマジナリーフレンドならぬ、イマジナリーゴッドだろうか? 彼女にしか見えない内なる神。
「ま、それでちょいちょい信者を集めてるらしいな。保科も関わらねぇ方がいい」
そういうと、神木先輩は僕の横を通り過ぎて部室の中へ消えて行った。思えば神木先輩とまともに話をしたのはこの時が初めてのような気がする。いつも先輩は部室で居眠りしていて、起きていても僕のことなんか覚えてなさそうなのに、意外と普通に話しかけてきてくれた(でも話すだけ話すといなくなってしまった。やっぱりちょっと自由な所がある人だ)。
祟り。神様なのに祟るという発想が不思議だったけれど、それきり僕は林田さんのことをしばらく忘れていた。彼女のことを思い出したのは、ある出来事がきっかけだった。
「あ、ごめ……」
反射的に謝ろうとしたが、彼女は分厚いレンズ越しに僕をにらみつけている。口まで出かかった言葉が喉まで引っ込む勢いだった。びっくりして黙り込んだ僕に、彼女はこんな言葉をぶつけてきた。
「あなた、呪われてるわよ。今に見ていなさい。バチが当たるから」
それだけ言うと、わき目もふらずにすれ違って行った。小走りに去っていく彼女の背中を茫然と見つめていると、後ろから声を掛けられた。
「一年B組の林田だな」
振り返るとすらっとした長身の男がいた。金髪に鋭い目つき。三年生の神木達也(かみきたつや)先輩だ。相変わらず寝起きのような、不機嫌そうな顔をしている。
「あいつ、ああやって周りに『霊感あるアピ』してんだよ。気にすんな」
ふうん。物好きな人もいたもんだ。というか、先輩は三年生なのに四月に入学したばかりの一年生のことを知っているのか。あの林田さんって人は有名人なのかな? 僕があれこれ想像していると神木先輩はめんどくさそうに言った。
「本当に霊感あるやつはそんなアピールしねぇ」
そりゃそうだ。そんなことをしたら周りに「本物の幽霊に会わせて」とか言われるし、本人も幽霊が見えるからといって別に進んで会いたいわけじゃないだろう。アピールしたところで面倒なことになるのが分かり切っている。
「でも『バチが当たる』ってどういうことですかね?」
普通は「悪いことをしたらバチが当たる」もんだ。呪いとはちょっと違う。林田さんがあえて「バチが当たる」なんて言い方をしたのは不思議で、でも何か意味があるように思えた。
「蛇神様に祟られるんだとさ」
「蛇?」
「林田には蛇神様っていう神様が見えてるんだと」
「そんな神様、本当にいるんですか?」
「聞いたことねぇな」
うーん。イマジナリーフレンドならぬ、イマジナリーゴッドだろうか? 彼女にしか見えない内なる神。
「ま、それでちょいちょい信者を集めてるらしいな。保科も関わらねぇ方がいい」
そういうと、神木先輩は僕の横を通り過ぎて部室の中へ消えて行った。思えば神木先輩とまともに話をしたのはこの時が初めてのような気がする。いつも先輩は部室で居眠りしていて、起きていても僕のことなんか覚えてなさそうなのに、意外と普通に話しかけてきてくれた(でも話すだけ話すといなくなってしまった。やっぱりちょっと自由な所がある人だ)。
祟り。神様なのに祟るという発想が不思議だったけれど、それきり僕は林田さんのことをしばらく忘れていた。彼女のことを思い出したのは、ある出来事がきっかけだった。
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