チューベローズ

本編

35

　
　目覚めると隣に義輝が寝ていた。腕を動かそうとしたら首に激痛が走る…
　その殺し損ねた声に義輝の目が開く。数回瞬きを繰り返すとスッキリとした顔をして起き上がる。

　「あぁ、痛い？ごめーんね。噛んじゃった～」

　なんて言って笑っている。

　「…っ…ゲホッ」
　「あ～、声の出し過ぎで喉も軽く傷めているから喋らない方が良いよ…そのまま少～し、待っててね～」

　と言うやいなやベッドから降りると、寝室から出ていったが、直ぐに帰ってきた。

　近づいてくると、「抱き上げるよ」と言って俺をスッと抱き上げる。俺は義輝に凭れかかるような体勢をとらされた。
　そして、喉の炎症をおさえる薬湯が入ったマグカップを口元へと持ってきた。

　俺は素直にソレを飲み干した。義輝は素直に飲んだ俺に満足したのかまるで、良い子良い子という風に頭を優しく撫でてきた。
　子ども扱いをされた様で何とも言えないが…その手を心地良いと思う自分がいるのもまた、事実なので…されるがままになっていた。

☆

　その後は首に消毒をされて、再び包帯を巻かれて過ごした。カーテン越しに光が差していたので、何時かと問えば、正午を過ぎた頃だと教えてくれた…

　どうやら午前中は全て睡眠時間として消えていたようだ…義輝は俺の身体の具合を診て今日は傍を離れない方が良いと判断したようで、ずっと部屋にいる。

　患者は大丈夫なのかと聞けば元々こちら・・・は緊急時の『鬼』の為に開院しているから滅多な事以外ではほぼ使われないらしい…

　それはそれで大丈夫なのかと聞くと…

　「あぁ、大丈夫、大丈夫～。そういうのに理解ある『鬼専門の機関』が所有している病院に籍があるんだよ～。ここは念の為に設立して開院してるんだ～」

　との事…それに、義輝は『神木かみき』とまではいかないが、強い鬼らしく…ゲスい話…支給される金額がそこそこあるのであまり力を入れて働く必要もないのだとか…

　ただ…ソレに頼りすぎるのもアレなので暇潰し程度に働いているらしい…

　（必死に働いている人に謝れ。）

　そう思ってしまったのは不可抗力だ…

　（いや、コレが『鬼』クオリティというヤツか？）

　と真剣に悩んでいると義輝にツンツンと軽く頬を突かれた。

　「考え事？あまり無防備にいると…悪戯しちゃうよ？」

　という色気たっぷりの声音に背筋がゾクゾクとした。その感覚をどうにか誤魔化したくて「ヘンタイ」と言えば…
　「何を想像しちゃったの？いけないんだ～」なんて意地悪く返してくる始末だ…

　ムッとして義輝から距離を取ると、俺は無視を決め込み録り溜めたドラマの再放送を見た。
　そんな俺を義輝が妖しく見ていた事に気づく事はなかった…
　
＊