チューベローズ

本編

14

　
　翌朝、寝起きにもう見慣れたと言っても過言ではないくらいの義輝の姿を視界に入れる事になった。

　ベッドから起き上がると作業をしていた義輝の手が止まり俺を見る。

　「おはよ～修兵。話をする前に顔洗って何か食べとく？」

　そう言いながら近づいてくると手櫛で俺の髪を梳いてきた。そして、安定の縦抱っこ。この一連の動作にも慣れた。いや、慣れるしかなかったし…

　前に断って車椅子使おうとしたらすっっっごい笑顔が怖く見えた。一応、車椅子に乗せてくれたけど…そんな事もあり、次からは大人しく身を任せてた。その方が賢い選択だと学習したからな。

　義輝は自分の時間を無駄にされる事を嫌う傾向が強い事は一緒に生活していて分かった。

　「あれ～？もしかして、まだ寝ちゃってる？」
　「ん～。おきる…んん…おきてる…」

　半分くらい働いていない頭で義輝から手渡された物を受け取る。丁度良いくらいの温度で温められた濡れタオルである。
　ソレを広げて顔を拭いている間にも義輝の足は止まらない。そのままリビングへと入る。
　すると、昨晩の位置に車椅子がそのままあった。

　「ご飯、持って来てあげるから寝ずに待っていられる？」

　なんて言いながらコテンと首を傾げているムカつくくらいのイケメンを見る。

　「起きたから大丈夫だし」
　「そ、良かった～」

　そう言って使用済みの濡れタオルを回収するとリビングを出て脱衣室へと向かう。タオルを洗濯カゴの中に入れたのか戻ってくると今度はキッチンへと続く扉を開き入っていった。

　仕事もこなし、家事まで完璧にこなす。しかも部屋にいる時は俺の介護をしながらである…

　『用事があるならそっち優先すれば？俺、車椅子あるし。行くって言ってもトイレくらいだし…』

　と言った事もある。事実だし負担も減るだろうと思った俺なりの配慮だったのだが…

　『へぇ…でも、なーんか心配だなぁ…目を離したらまた・・大怪我しそうだし、ねぇ…』

　そう言って有無を言わさないような笑み…しかも、少し威圧感があるように思える笑みを浮かべられたので即行で長い物には巻かれる事にした。

　我ながら賢い選択だと思う。

　何か凄い尻に敷かれている感が否めないが…養ってもらっている身であるし、特に不自由もない。寧ろアレとああなる前よりも快適に過ごせている。

　それを踏まえこの家の家主に従うのが得策だろうと判断した。正しく、郷に入っては郷に従えである…

　
＊