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外伝【幸信の章】
05
しおりを挟む「私にはまだやるべき事がある。まぁ、やれるだけの事は精一杯、やってみるさ…」
そう言って笑みを浮かべた大旦那様は自身の死を覚悟しているのだと理解した。
「そうだ。幸信、お前にこれをー…」
そう言って差し出してきたのは巾着に入った大金だった。
「これは?」
「政義とお前に渡すはずだった物だ。お前が使いなさい。何をするにしても必要になるだろう。」
「……。断る、わけにはいきませんよね?」
「すまんな。私にしてやれる限界なんだ。持っていて損になる物ではないだろう?じきに神子がココへ来るだろう。その上掛けに包んで持って行け。そして、できるだけ長生きしろ。幸せになれ。」
そして、大旦那様はー…
「本家を出れば、もう、絶対に戻っては来るな。」
「書物を燃やし次第、直ぐにでも山を下りろ。早ければ早いほど良い」
「山を下りたら絶対に『本山』に関わるな。知らぬ存ぜぬを貫き通せ。」
念を押すように小声でそう言って大旦那様は半ばムリヤリ私を送り出した。
星宮へ帰宅した私はあった事を当主に全て話す。すると、当主は神妙な顔つきで頷くと、早足で蔵へと行った。
ごっそり書物を持ってきたと思ったら焼却炉へと持って行き、ソレを中へと投げ込む。
そして、何の躊躇いもなく火を放つ。
全てを燃やしきり、火を消すと、私に忘れ物がないかを聞いてくる。
私の返事を聞くと、必要な物を荷台に乗せて、その日の内にひっそりと、けれど、迅速に山を下りた。
一族が滅んだ事を知るのはー…
まだ、まだ、先の話であった……。
☆
山を下りてから月日が経った。星宮家は安寧の地を見つけて、そこで暮らし始めていた。
そして、それからまた、暫く経ち、母上は見つからないものの、元父上が見つかったと報告が入った。
裕福ではないものの、しぶとく生き長らえ、『運命』とくらしているようだ…。
しかし、『運命』は悠々自適に贅沢をして暮らせると思っていたアテが外れ、元父上へ一方的に罵詈雑言を浴びせているようだが…
元父上はどこまでも愚かで、その罵詈雑言すら気にしていないようだ。
『運命』と共に過ごせるなら罵詈雑言くらい…と言ったところか…
母上を不幸にした男が…女が…それなりではあるが、幸せに生きているというのだ…。
母上の安否は未だに分からないというのに…だ。
知らぬ間に私はその報告を両手でグシャリと握り潰しており、血が滲むほど拳に力が入っていた。
それを間近で見ていた当主は暫く目を瞑っていたものの、静かに口を開いて「後悔しないなら、好きにしなさい」そう言ってくれたので好きにさせてもらう事にした。
手始めに元父上の『運命』をどうにかする事にした。
証拠が残らないように細心の注意を払い。変装をして、偽名を名乗った。
そして、大旦那様から貰った金で後腐れ無い者を雇った。
我ながら下衆だと思う。私にしたら罪深い『運命』をお金で雇った者を使って襲わせるのだからー…
*
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