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本編
06
しおりを挟む僕の世話役に選ばれた彼はココの事や僕の立ち位置を教えてくれた。
彼らは『鬼』という種族であり、世話役の彼は下層に属している陽穂という『鬼』に仕えている。
本来『鬼』の子どもはできにくい。相性が良いと授かる事ができるらしいが、本当にできにくいらしく、『鬼』は沢山の『嫁』を娶るが、特別な唯一は生涯に1人だけ。その人を『番』という。
どうやら、『鬼』社会は『人間』社会と根本的に違うらしい…一緒に考えるのはやめておいた方が懸命だろう…
『鬼』にも優先順位があり、上から『神木』、『上層部』、『上層』、『中層』、『下層』と区別されている。
『先祖返りの血が濃い鬼』を『強い鬼』と言い、『先祖返りの血が薄い鬼』を『弱い鬼』と言う。
『神木』は『鬼神』を意味し、鬼の頂点に立つ者なので1人だけしか居ない。
『上層部』は特殊な役割を持つ者の集団であり、『鬼』社会の運用から『神木』はもちろんだが…『番』や『嫁』という『伴侶』たちの支援や援助を請け負っているようだ。
そして、時には『下層』から『中層』はもちろんだが…『上層』に属する一部の『鬼』が対処できないような危険を伴う任務も要請次第で行う時があるらしい。
その時は基本的に数名で組んで行っているらしいが…
誰が『上層部』に所属しているのかは所属数ともに不明だという。
『強い鬼』しか属せないのは確かだと言っていた。
普段は『上層』の者と一緒に一括にされているらしい…
そして、独自に主を定め、『紋章』を捧げて仕える事で、その主の『番』や『嫁』を庇護する組織があるらしい。正式名称は『花嫁庇護組織』。略称『庇護鬼』。
『番』持ちの『鬼』には姓があるが…『番』のいない『鬼』には姓が無く、『鬼』は『番』の姓を名乗るのが一般的らしい…
訳ありの場合は『鬼』側が籍を用意する場合もあるんだとか…
ちなみに、僕の世話役な彼は訳ありで仕えているだけであり、陽穂に『紋章』は捧げていないらしい…
そして、僕の立ち位置はというと…『嫁』ではあるが、ペットとして紹介されたので、死なない程度に世話をすれば良いくらいの適当すぎる扱いらしい…
陽穂という『鬼』には既に『番』おり、『嫁』も10人は軽くこえて居るようで、僕以外の『伴侶』は皆、女性との事…
月宮家の女の応酬が脳裏を掠めて、げんなりしたのは秘密だ…
自分より上の立場である『番』には敬称をつけなくてはならないらしい…
まぁ、僕が会うことは無いと言っても過言ではないらしいが…
僕がいる場所は陽穂の屋敷が建っている敷地内の離れであり、『愛玩の館』と呼ばれているクソみたいな場所らしい。
「アンタも災難っすね。ま、こっちとしては気楽で良いっすけど」
そう言って布団を敷いてくれた彼は陽穂の関係者の中では、まともなのかもしれない…
何だかんだ言って僕の介護をやってくれた。
☆
この場所に入れられて数日経ったが、何事もなく静かに過ごせているのは有り難かった。
夢の感じでは騒がしくなるのは、もう少し先になりそうだと少し身体の力を抜いた。
そして、世話役の『鬼』だが、思っていたよりもよくしてもらっている。
「他の『鬼』ならそれなりに対処はする予定っすけど…陽穂サマが来たら、立場上、部屋に通すしか選択肢がないんすよ。その時の対応は任せましたんで、ヨロシクっす。…あ、嫌かもっすけど…一応、陽穂サマにも敬称を付けて下さいっす。」
と言われた。気持ち悪いが贅沢は言えない…
自分より上の者には基本的に『様』を付けなければならないらしい…
『嫁』同士は別に畏まらなくて良いとの事だがー…僕は『ペット』として陽穂に紹介されたから『嫁』よりも立場が弱いらしい…
「さらに、災難なのはアレっすね。『下層』に属する『鬼』でもオメガの匂いに自我を保てなくて襲うって『鬼』はそんなに居ないはずなんすよ。まぁ、居なくもないっすけど…数は少ないっすね。『下層』より上に所属してる『鬼』なら匂いで自我を失うなんて先ずありえないっすから」
そう言って肩を竦めている彼に首を傾げる事になる…
「どういう事?」
「コレは俺とアンタの秘密って事にしといてくれるんすか?」
「聞かなかったことにするから教えて…」
「陽穂サマは普通に弱い鬼ってコトっすよ。」
「仕えている主なのに、容赦ないね」
「それはまぁ、アレっすよ。アレ!訳ありで仕えているって言ったっしょ?」
そう言って誤魔化すように笑みを浮かべると、ガチャガチャとお茶の準備をし始めた。
何だかんだこの『鬼』には悪いようにはされていないのが現状だった…
しかし、陽穂か…流石は腰を振るだけの猿。人をペット扱いする下衆とでも言うべきか…
なんて考え事をしながらお茶の準備をしている彼を見て、肝心な事を聞いていないのに気づく…
「貴方の事はなんて呼べば良いの?」
「俺っすか?俺は幻夜って呼んでくれれば問題ないっす。」
彼は幻夜と言うらしい…少しの引っかかりはあるものの、実害がなさそうなので、その引っかかりは無視しても大丈夫だろう…
そして、やっぱりだが…僕のお腹には命が宿っているようだ…
一昨日よりも昨日、昨日よりも今日というふうに鮮明かつ、生々しくなる夢に、『先読み』が発動したのだと確信した。
まだ、この子の存在がバレる様子がない…という事が救いだった。
☆
僕はあの頃よりも夢をよく見るようになっていた。
夢をよく見るのは、今の僕に必要な事だったから助かった。
だから、悪い方向へいかないように気をつけて行動した。これほど忠実に自身が持つ能力を駆使して動いたのは初めてなのではないか…と思うくらい忠実に動いた。
この子は恐らく特別な『鬼』となるだろう。
この子は必ず『神木』と呼ばれる特別な存在になるという確信にも似た感覚があった。
今度こそ守らないと…この子を…僕の子を…今度こそ…
『オメガ』の本能とも言えるその思いだけで、持てる能力を駆使してお腹の子を…そして、自分自身を守っていた。
その間、陽穂はフラリと現れ、僕を雑に組み敷くと、ナカに出しはしないものの、疑似行為のような性行為を強要してきていた。
自分の『番』にナカには出すなと言われたのかもしれない…あくまで推測だけれど…もしそうなら僕は大いに助かっている。
お腹に負荷がかからないのはありがたい。
お腹の子の為に、吐きそうになるほどの、その汚い行為にも耐えた。
『番』や『嫁』は僕以外、女性のオメガらしく…嫌がらせもあったが、その嫌がらせは月宮家に居た時よりも優しいモノに感じたほど生易しいモノだった。
あの時の嫌がらせのおかげで…というのも可笑しいというか、癪だが…
あの経験があったからこそ今のこの嫌がらせも難なく耐えられたのだから…あの経験も無駄にはならなかったという事だろう…
何とも言えない感じだが、今は良しとしよう…
そしてさらに日が経った頃…世話役の彼はもちろん先にバレていたのだが、とうとう陽穂の『番』にバレてしまった。
幻夜が陽穂に報告していなかったのは意外ではあったが…訳ありと言っていたし、さらに言うと、そこまで報告する義理もなければ、命令もされていないらしい。
だから、報告の義務は無いのだと言っていた。
『紋章』を捧げていないというのはそういう事らしい…それに、既に本当の主が居るので、陽穂よりもそちらを優先するとも言っていた。
『紋章』を捧げていないので、行動などに対する強制力はないのだろうと、納得した。
まぁ、話を戻すと、夢で見たからそろそろ陽穂の『番』に妊娠がバレる時期だろうという事は予感できていたので、あまり驚きはしない。
やる事もいつもの変わらない…
お腹に負担をかけないように、回避する事を優先してお腹の子と僕自身を守るだけだ…
陽穂は『番』が僕を殺しても良いと思っているのだろう…お腹の子にも興味を示さない。
その方が僕には都合が良いから、残念だとか、寂しいなんて思いはしなかった。
むしろ、そのまま興味を示さず居てほしい。切にそう願う…。
食事の時には毒を盛った皿も出たし、『番』の命令だろう『庇護鬼』の襲撃未遂もあった。
その度に回避して、お腹を優先的に守る。
絶妙な危機回避に『番』は腸が煮えくり返る思いをしている事だろう…
あまりにも上手く避けるからモヤモヤしているに違いない…
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