14 / 17
恋とレシーブと14
しおりを挟む「お疲れさま」
ドリンクバーでオレンジジュースを注いでいると、後ろから声がした。振り向くと葉山君が居た。葉山君はジンジャーエールで、二人は何となく席に戻らず、ドリンクバーの隅に寄った。
「どうしたの?」
「今日、楽しかったね」
「……うん」
葉山君がぼそぼそと言葉を零す。私は頷きながら、彼の言葉に耳を傾ける。何となくいつもの雰囲気が違う気がした。笑顔の雰囲気が、どこか嘘くさいと思った。
「愚痴っていい?」
ふと不意打ちで言われて、私は黙ってしまう。葉山君が愚痴って? 相変わらず笑顔なのだけれど、何か表情が暗いように見えるのは私の気のせいだろうか。
「どうぞ?」
「……やっぱいい」
言ってすぐ訂正を入れられた。葉山君の気持ちが見えそうで見えなかった。じっと彼の顔を眺めてみる。この二週間、一緒に居る時間は多かったはずなのに、こうやって改まって二人で居るのは初めてかもしれない。
少し、ドキドキした。
「もっと勝ちたかった、でしょう?」
「……うん。本当は、すっげー悔しい」
私の推測に、葉山君が素直に頷いた。だよね、と思った。みんなが喜ぶ中、葉山君だけは悔しがっていたからだ。
「ああ。悔しい。俺らだったらもっと勝てたのに。最後のサーブだって、あそこでトス、もっと低く上げてたらって思ったら、悔しいよ」
「私だって、もっとたくさん上げられたのに、って思ってる。球技大会なのにね、真剣になっちゃった」
私は彼に笑いかける。目の前を別のお客さんが通り、詰めるように、自然と私の肩と腕が寄り、今日の反省の言葉がつらつらと続いた。
ああ、そうなんだ。彼と話しながら、私は何となく気付いてしまった。
私はもっと、もっと葉山君のそばに居たかったんだなと、もう一人の自分の本心に、この時気付いてしまった。
〇〇〇
「葉山、戻りしました!」
インターハイ予選、ボールを拾おうと必死で走った。そのせいで並べてあった椅子にぶつかり、額を切ってしまった。まったく情けない限りで、流血してしまった俺は医務室へ行けと言われてしまい、コートから出る事になった。
そうして治療を受けて、そして今、俺はコートに舞い戻ってきた。
「みんな! 悪いっ、遅くなった!」
二階に居るあさみが見えた。頷き、頷かれる。試合中の全員が、俺を見ていた。コートの中で、まだ彼らは居た。
よかった、まだ、俺らはまだ負けていない。
負けていなければ、勝てるのだ。
〇〇〇
声がした。音がした。きゅっ、と床を踏みつける音がした。私の心が高鳴った。うかつにも涙すら出そうだった。
ああ、来たと思った。コートの前に駆けて行く彼に、チームメートに笑顔が浮かぶ。さっきまでの悲観的な雰囲気が、一瞬で消えていく。
「遅いぞっ!」
「大丈夫か? 葉山お前、出れるのかっ?」
「もちろんですっ。少し切っただけなんで」
試合中だというのに、みんなが騒ぎ声を上げている。相手チームが明らかに不服そうだった。コーチがタイムを出している。全員がコート外に出て、戻ってきた彼の元へと集まっていく。
よかった。私の膝が知らず崩れ落ちていた。ああぁ、よかった。
ただ居るだけで重要、そんな彼が来た。彼が来たと、彼の存在が、そこにあるだけで士気を高めてしまうその人が、私が尊敬し愛しい彼が、何より彼らしくなれる場所、バレーのコートに舞い戻った。
〇〇〇
〈続く〉
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
私たち、博麗学園おしがまクラブ(非公認)です! 〜特大膀胱JKたちのおしがま記録〜
赤髪命
青春
街のはずれ、最寄り駅からも少し離れたところにある私立高校、博麗学園。そのある新入生のクラスのお嬢様・高橋玲菜、清楚で真面目・内海栞、人懐っこいギャル・宮内愛海の3人には、膀胱が同年代の女子に比べて非常に大きいという特徴があった。
これは、そんな学校で普段はトイレにほとんど行かない彼女たちの爆尿おしがまの記録。
友情あり、恋愛あり、おしがまあり、そしておもらしもあり!? そんなおしがまクラブのドタバタ青春小説!
膀胱を虐められる男の子の話
煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ
男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話
膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)
完結【R―18】様々な情事 短編集
秋刀魚妹子
恋愛
本作品は、過度な性的描写が有ります。 というか、性的描写しか有りません。
タイトルのお品書きにて、シチュエーションとジャンルが分かります。
好みで無いシチュエーションやジャンルを踏まないようご注意下さい。
基本的に、短編集なので登場人物やストーリーは繋がっておりません。
同じ名前、同じ容姿でも関係無い場合があります。
※ このキャラの情事が読みたいと要望の感想を頂いた場合は、同じキャラが登場する可能性があります。
※ 更新は不定期です。
それでは、楽しんで頂けたら幸いです。
【完結】【R18百合】女子寮ルームメイトに夜な夜なおっぱいを吸われています。
千鶴田ルト
恋愛
本編完結済み。細々と特別編を書いていくかもしれません。
風月学園女子寮。
私――舞鶴ミサが夜中に目を覚ますと、ルームメイトの藤咲ひなたが私の胸を…!
R-18ですが、いわゆる本番行為はなく、ひたすらおっぱいばかり攻めるガールズラブ小説です。
おすすめする人
・百合/GL/ガールズラブが好きな人
・ひたすらおっぱいを攻める描写が好きな人
・起きないように寝込みを襲うドキドキが好きな人
※タイトル画像はAI生成ですが、キャラクターデザインのイメージは合っています。
※私の小説に関しては誤字等あったら指摘してもらえると嬉しいです。(他の方の場合はわからないですが)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる