恋とレシーブと

古葉レイ

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恋とレシーブと14

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「お疲れさま」

 ドリンクバーでオレンジジュースを注いでいると、後ろから声がした。振り向くと葉山君が居た。葉山君はジンジャーエールで、二人は何となく席に戻らず、ドリンクバーの隅に寄った。

「どうしたの?」
「今日、楽しかったね」
「……うん」

 葉山君がぼそぼそと言葉を零す。私は頷きながら、彼の言葉に耳を傾ける。何となくいつもの雰囲気が違う気がした。笑顔の雰囲気が、どこか嘘くさいと思った。

「愚痴っていい?」

 ふと不意打ちで言われて、私は黙ってしまう。葉山君が愚痴って? 相変わらず笑顔なのだけれど、何か表情が暗いように見えるのは私の気のせいだろうか。

「どうぞ?」
「……やっぱいい」

 言ってすぐ訂正を入れられた。葉山君の気持ちが見えそうで見えなかった。じっと彼の顔を眺めてみる。この二週間、一緒に居る時間は多かったはずなのに、こうやって改まって二人で居るのは初めてかもしれない。

 少し、ドキドキした。

「もっと勝ちたかった、でしょう?」
「……うん。本当は、すっげー悔しい」

 私の推測に、葉山君が素直に頷いた。だよね、と思った。みんなが喜ぶ中、葉山君だけは悔しがっていたからだ。

「ああ。悔しい。俺らだったらもっと勝てたのに。最後のサーブだって、あそこでトス、もっと低く上げてたらって思ったら、悔しいよ」
「私だって、もっとたくさん上げられたのに、って思ってる。球技大会なのにね、真剣になっちゃった」

 私は彼に笑いかける。目の前を別のお客さんが通り、詰めるように、自然と私の肩と腕が寄り、今日の反省の言葉がつらつらと続いた。

 ああ、そうなんだ。彼と話しながら、私は何となく気付いてしまった。

 私はもっと、もっと葉山君のそばに居たかったんだなと、もう一人の自分の本心に、この時気付いてしまった。

 〇〇〇

「葉山、戻りしました!」

 インターハイ予選、ボールを拾おうと必死で走った。そのせいで並べてあった椅子にぶつかり、額を切ってしまった。まったく情けない限りで、流血してしまった俺は医務室へ行けと言われてしまい、コートから出る事になった。

 そうして治療を受けて、そして今、俺はコートに舞い戻ってきた。

「みんな! 悪いっ、遅くなった!」

 二階に居るあさみが見えた。頷き、頷かれる。試合中の全員が、俺を見ていた。コートの中で、まだ彼らは居た。

 よかった、まだ、俺らはまだ負けていない。

 負けていなければ、勝てるのだ。

 〇〇〇

 声がした。音がした。きゅっ、と床を踏みつける音がした。私の心が高鳴った。うかつにも涙すら出そうだった。

 ああ、来たと思った。コートの前に駆けて行く彼に、チームメートに笑顔が浮かぶ。さっきまでの悲観的な雰囲気が、一瞬で消えていく。

「遅いぞっ!」
「大丈夫か? 葉山お前、出れるのかっ?」
「もちろんですっ。少し切っただけなんで」

 試合中だというのに、みんなが騒ぎ声を上げている。相手チームが明らかに不服そうだった。コーチがタイムを出している。全員がコート外に出て、戻ってきた彼の元へと集まっていく。

 よかった。私の膝が知らず崩れ落ちていた。ああぁ、よかった。

 ただ居るだけで重要、そんな彼が来た。彼が来たと、彼の存在が、そこにあるだけで士気を高めてしまうその人が、私が尊敬し愛しい彼が、何より彼らしくなれる場所、バレーのコートに舞い戻った。

 〇〇〇

〈続く〉
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