乙女日和

古葉レイ

文字の大きさ
上 下
32 / 39

乙女日和32

しおりを挟む

「せっかく書いてくれたのにな」
「うん? 問題ないよ」

 後から行くと、残った私と彼は拙い内容の発表が書かれた模造紙を丸めていく。彼は少しも気にした様子もなく、その紙を捨てようとしたけれど、それは森下が止めた。

「でもせっかく書いたのにさ」
「俺は書くのが好きだから。何枚でも書くよ」

 彼は笑い、私に模造紙を寄越してくる。格好をつけるでもなく当然と述べた彼は、何か格好いいと思った。彼から受け取った模造紙を両手で抱えて、私らは他のメンバーが移動した図書室へと向かう。

 模造紙に膝をつき、力強く文字を描く彼の後ろ姿が脳裏から離れなかった。森下がノートを構えて、彼はそれをたまに見つめながら、無言で黙々と字を、あるいは絵を描く。その彼の視線、指先の一つ一つに目を奪われた。

「……」
「……んく」

 誰かの喉が鳴る。物言わず模造紙に向かう彼は、他の男子とは別格だった。一枚の紙の上で、失敗もなく手を動かし字を綴る彼は、別世界の何かを見ているかのようだった。
 模造紙に手を付いて、大きな体をいっぱいに広げて文字を書く背中が恰好良かった。寄り添いたいと思うようなしっかりとした背だった。

 かくして、私たちの発表内容の練り直しは、翌日の発表時間目前まで続いた。

 私たちは本当に、発表ぎりぎりまで内容を練り、発表まで二十分というぎりぎりまで、内容を考え尽くした。そうして任された彼は、一発で、発表内容を書き上げた。

 実はその模造紙への書き込みパフォーマンスを、先生や他の生徒も目の当たりにして、拍手まで起こったのは、ちょっとした余興だった。

 そうして発表された私たちのグループは、文句なしで優秀賞を貰った。

 そして彼が、同じ図書委員で友達になった子の彼氏だと知ったのは、その後すぐの事だ。

 彼女が大告白をして付き合う事になったというのが他ならぬ彼で、その現場を目撃はしていたのに、彼だっただなんて気づかなかったのは迂闊だった。

 私はその日から、何かの気持ちを誤魔化し始める日々だ。どうせちょっと気になっただけだから、と自分に言い聞かせた。

 私はあの時、その力強い腕で抱かれたいと思った。指に触れられたいと思った。そんな感情は初めてだった。そう思う気持ちを、私はひた隠している。

 ごめんな、本当に。でも奪う気はないんだ。

 お前も大切な友達だと思っている。

 でも、あいつもどうやら、好きらしいんだ。私の心が、惚れちゃったらしいんだ。

 彼は記してくれたのだ。

 どれだけ理屈を並べても、それじゃ消せないくらいに、私は彼が、好きになってしまっているのだから。

《続く》
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

ねえ、私の本性を暴いてよ♡ オナニークラブで働く女子大生

花野りら
恋愛
オナニークラブとは、個室で男性客のオナニーを見てあげたり手コキする風俗店のひとつ。 女子大生がエッチなアルバイトをしているという背徳感! イケナイことをしている羞恥プレイからの過激なセックスシーンは必読♡

男友達の家で寝ていたら、初めてをぐちゃぐちゃに奪われました。

抹茶
恋愛
現代設定 ノーマルな処女喪失SEX

【R18】こんな産婦人科のお医者さんがいたら♡妄想エロシチュエーション短編作品♡

雪村 里帆
恋愛
ある日、産婦人科に訪れるとそこには顔を見たら赤面してしまう程のイケメン先生がいて…!?何故か看護師もいないし2人きり…エコー検査なのに触診されてしまい…?雪村里帆の妄想エロシチュエーション短編。完全フィクションでお送り致します!

悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~

一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、 快楽漬けの日々を過ごすことになる! そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

性欲の強すぎるヤクザに捕まった話

古亜
恋愛
中堅企業の普通のOL、沢木梢(さわきこずえ)はある日突然現れたチンピラ3人に、兄貴と呼ばれる人物のもとへ拉致されてしまう。 どうやら商売女と間違えられたらしく、人違いだと主張するも、兄貴とか呼ばれた男は聞く耳を持たない。 「美味しいピザをすぐデリバリーできるのに、わざわざコンビニのピザ風の惣菜パンを食べる人います?」 「たまには惣菜パンも悪くねぇ」 ……嘘でしょ。 2019/11/4 33話+2話で本編完結 2021/1/15 書籍出版されました 2021/1/22 続き頑張ります 半分くらいR18な話なので予告はしません。 強引な描写含むので苦手な方はブラウザバックしてください。だいたいタイトル通りな感じなので、少しでも思ってたのと違う、地雷と思ったら即回れ右でお願いします。 誤字脱字、文章わかりにくい等の指摘は有り難く受け取り修正しますが、思った通りじゃない生理的に無理といった内容については自衛に留め批判否定はご遠慮ください。泣きます。 当然の事ながら、この話はフィクションです。

処理中です...