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シンゴニウム・23
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「私と恋愛したい? 私で感動したい?」
レンタルビデオ店の駐車場で、車の中に私の声が漏れた。言葉だけを言えばしたいに決まっている。葛城慎吾は、私に告白してきたのだから。
軽四の車内は狭い。彼の吐息が私に聞こえてくる。私は彼に問い掛ける。
「それとも私と一緒に、同じ景色を見て感動したい? ここから見る眺めを一緒に見て、凄いねって言い合いたい?」
私で感動するか。
私と感動するか。
たった一文字の違い。けれど私にとってとても大きな違い。
葛城はしばらく黙り、静かに息を吐いた。何かを決意する、瞳が私を見ていた。
「後者。君と同じ景色を見て感動したい」
彼はその決断を、迷いなく答えてくれた。その言葉こそ、私が聞きたかった言葉だった。
「っ、っ、そう」
じわりと胸の奥にその言葉は浸透した。私の声は言葉にならなかった。ハンドルを握り締めた手を顔に当てて、天井を見上げる。目頭が熱い。ハンドルに顔を近づけて、彼に表情を見られないように隠す。私は泣いている。泣いてしまう。
「相原?」
「だ、いじょぶ。それ、聞きたかった、だけ、だから」
絞り出す声が震えている。私は、彼の言葉に感動していた。指が震える程に。
だから、私は決意した。しようと、決めた。
いきなりエッチは止めておこうと思った。それはまだ早いと思ったからだ。でもそれは変じゃないだろうか。
彼は私の隣に居ようとしてくれている。ふと好きと言われていない気もして、それは嫌だなと思う。付き合うと言った以上、私は彼を好きになり始めている。好きになってもらえているかが不安だ。
ダメなのだ。この過程は早々に終わらせたい。葛城はもっと高いところで、もっと深いところで一緒になってくれる人だ。私は、彼に見せなきゃいけない。私の全てを。
「今日、君の部屋に泊めて」
「……本気か?」
彼の目に真剣さが増した気がする。それは嬉しがっているというより、私を気遣う目だ。私は葛城を見返した。怖気づいているだろうかと見返した先にあるのは、強い瞳だった。彼のこの瞳に、私は惚れたのだと思う。そうか、実は一目ぼれか。
今更気付いた。私は彼の、この目と、声に惚れたんだ。
「それ、ただ泊まるだけじゃないんだろう?」
「もちろん。部屋が嫌ならホテルでもいい。ただ君を知るなら、私を見せるなら、葛城の部屋がいいなって思うだけ。君はどう? 私の事を知るならどこで知りたい?」
彼の手に触れながら、私は彼の言葉を待つ。
「知る為にする?」
「そう、だって私、君を知らない。君も私を知らないでしょ。だから緊張する。遠慮する。甘えられない。言いたい事言えないのは嫌じゃない?」
「それはそうだけど」
「今日はまず、私で感動して。私も、今日は君で感動するから」
もうしてるけどね。それは言わず、私は彼の手を強く握り締める。緊張感、それがもどかしい。君ともっと、膝を突き合わせていろいろ話したいと思っている。そんな自分がいる。言いた事を遠慮する仲で居る間は短い方がいい。
君とはその後にいっぱい、楽しいが待っているのだから。
「恋愛も、セックスも仲良くなるための一つ。でも私は、その先を一緒に見たい」
私は彼の言葉を引用して、そう言い切った。
「恋愛は過程。セックスも過程ね。さっさと済ませて次に行こう。二人で居る事が当たり前になろう?」
「相原は無茶苦茶だな」
「そういったのは君でしょ」
確かに無茶だと思う。けれど葛城は解ってくれる。彼が言い出したのだ。今はそれすら不安なのだから、私は早く、葛城慎吾を知りたい。彼の事を掌握して欲しいのだ。知った上で、共に楽しんでみたいのだ。
彼は良いと言って傍に寄ってくれたのだから。私が躊躇していいはずはない。
「もう一度、これで最後だから、聞くね」
深呼吸をする。場合によってはここで終わるかもしれない。それでも彼とは、中途半端な関係は望んでいない。
「それでも私の傍に居られますか?」
「悪いけど……」
私の問いに、彼がはっきりとイエスをくれなかった。明確に答えを出され、否定的な決断されたとしたら、辛い。今なら傷は浅いか。そう思いながら、目頭が熱くなる自分に気付く。頬から涙が垂れる。ズボンを涙が濡らす。
既に、私は葛城慎吾に惚れている。
「悪いけど俺、童貞なんで、一度したくらいで君を理解しきれないからな」
「へ?」
彼の言葉は予想外で、思わず馬鹿みたいな返答をしてしまった。彼は真剣に悩んだ面持ちで、少しも助平な顔をせず、真面目な顔で私に聞いた。
「しばらくは付きっきりで傍に居るけど平気? セックスも、慣れるまで何度もすることになるかもしれないけど大丈夫?」
何か心配された。あまりの不思議な質問に、私の思考が停止した。彼の言っている言葉を一生懸命理解しようとしてみる。つまり、一度エッチしたからと言って理解できるわけがないから、何度もする事になるけれど平気か、と聞かれたのだろうか。
「質問に質問で返されたよ。しかも何それ、何度もするって」
「だって最初なんか、何が何だかわからないうちに終わるだろ、絶対。駄目な方に自信あるよ」
彼の言う事は一理ある。というか彼のこの物言いは、私とエッチしたいから告げている発言じゃない。私を理解する為に悩んでいるのだ、彼も。
「相原に慣れたい。相原が俺の身体の一部になるくらい」
「……はは。自分の、一部」
だったら、私の答えに迷いはない。
「イエスに決まってるじゃない。ドンと来なさいよ。何度でも股開くわよ」
「ぷ。悪いけど、頼む」
葛城の初々しさが眩しい。この子、思っていたよりも純粋だ。本当に私と同じ感覚を味わってみたいと思って告白したんだなと思えばこそ、彼とは真剣に付き合おう。
そう心に決めた。
《続く》
レンタルビデオ店の駐車場で、車の中に私の声が漏れた。言葉だけを言えばしたいに決まっている。葛城慎吾は、私に告白してきたのだから。
軽四の車内は狭い。彼の吐息が私に聞こえてくる。私は彼に問い掛ける。
「それとも私と一緒に、同じ景色を見て感動したい? ここから見る眺めを一緒に見て、凄いねって言い合いたい?」
私で感動するか。
私と感動するか。
たった一文字の違い。けれど私にとってとても大きな違い。
葛城はしばらく黙り、静かに息を吐いた。何かを決意する、瞳が私を見ていた。
「後者。君と同じ景色を見て感動したい」
彼はその決断を、迷いなく答えてくれた。その言葉こそ、私が聞きたかった言葉だった。
「っ、っ、そう」
じわりと胸の奥にその言葉は浸透した。私の声は言葉にならなかった。ハンドルを握り締めた手を顔に当てて、天井を見上げる。目頭が熱い。ハンドルに顔を近づけて、彼に表情を見られないように隠す。私は泣いている。泣いてしまう。
「相原?」
「だ、いじょぶ。それ、聞きたかった、だけ、だから」
絞り出す声が震えている。私は、彼の言葉に感動していた。指が震える程に。
だから、私は決意した。しようと、決めた。
いきなりエッチは止めておこうと思った。それはまだ早いと思ったからだ。でもそれは変じゃないだろうか。
彼は私の隣に居ようとしてくれている。ふと好きと言われていない気もして、それは嫌だなと思う。付き合うと言った以上、私は彼を好きになり始めている。好きになってもらえているかが不安だ。
ダメなのだ。この過程は早々に終わらせたい。葛城はもっと高いところで、もっと深いところで一緒になってくれる人だ。私は、彼に見せなきゃいけない。私の全てを。
「今日、君の部屋に泊めて」
「……本気か?」
彼の目に真剣さが増した気がする。それは嬉しがっているというより、私を気遣う目だ。私は葛城を見返した。怖気づいているだろうかと見返した先にあるのは、強い瞳だった。彼のこの瞳に、私は惚れたのだと思う。そうか、実は一目ぼれか。
今更気付いた。私は彼の、この目と、声に惚れたんだ。
「それ、ただ泊まるだけじゃないんだろう?」
「もちろん。部屋が嫌ならホテルでもいい。ただ君を知るなら、私を見せるなら、葛城の部屋がいいなって思うだけ。君はどう? 私の事を知るならどこで知りたい?」
彼の手に触れながら、私は彼の言葉を待つ。
「知る為にする?」
「そう、だって私、君を知らない。君も私を知らないでしょ。だから緊張する。遠慮する。甘えられない。言いたい事言えないのは嫌じゃない?」
「それはそうだけど」
「今日はまず、私で感動して。私も、今日は君で感動するから」
もうしてるけどね。それは言わず、私は彼の手を強く握り締める。緊張感、それがもどかしい。君ともっと、膝を突き合わせていろいろ話したいと思っている。そんな自分がいる。言いた事を遠慮する仲で居る間は短い方がいい。
君とはその後にいっぱい、楽しいが待っているのだから。
「恋愛も、セックスも仲良くなるための一つ。でも私は、その先を一緒に見たい」
私は彼の言葉を引用して、そう言い切った。
「恋愛は過程。セックスも過程ね。さっさと済ませて次に行こう。二人で居る事が当たり前になろう?」
「相原は無茶苦茶だな」
「そういったのは君でしょ」
確かに無茶だと思う。けれど葛城は解ってくれる。彼が言い出したのだ。今はそれすら不安なのだから、私は早く、葛城慎吾を知りたい。彼の事を掌握して欲しいのだ。知った上で、共に楽しんでみたいのだ。
彼は良いと言って傍に寄ってくれたのだから。私が躊躇していいはずはない。
「もう一度、これで最後だから、聞くね」
深呼吸をする。場合によってはここで終わるかもしれない。それでも彼とは、中途半端な関係は望んでいない。
「それでも私の傍に居られますか?」
「悪いけど……」
私の問いに、彼がはっきりとイエスをくれなかった。明確に答えを出され、否定的な決断されたとしたら、辛い。今なら傷は浅いか。そう思いながら、目頭が熱くなる自分に気付く。頬から涙が垂れる。ズボンを涙が濡らす。
既に、私は葛城慎吾に惚れている。
「悪いけど俺、童貞なんで、一度したくらいで君を理解しきれないからな」
「へ?」
彼の言葉は予想外で、思わず馬鹿みたいな返答をしてしまった。彼は真剣に悩んだ面持ちで、少しも助平な顔をせず、真面目な顔で私に聞いた。
「しばらくは付きっきりで傍に居るけど平気? セックスも、慣れるまで何度もすることになるかもしれないけど大丈夫?」
何か心配された。あまりの不思議な質問に、私の思考が停止した。彼の言っている言葉を一生懸命理解しようとしてみる。つまり、一度エッチしたからと言って理解できるわけがないから、何度もする事になるけれど平気か、と聞かれたのだろうか。
「質問に質問で返されたよ。しかも何それ、何度もするって」
「だって最初なんか、何が何だかわからないうちに終わるだろ、絶対。駄目な方に自信あるよ」
彼の言う事は一理ある。というか彼のこの物言いは、私とエッチしたいから告げている発言じゃない。私を理解する為に悩んでいるのだ、彼も。
「相原に慣れたい。相原が俺の身体の一部になるくらい」
「……はは。自分の、一部」
だったら、私の答えに迷いはない。
「イエスに決まってるじゃない。ドンと来なさいよ。何度でも股開くわよ」
「ぷ。悪いけど、頼む」
葛城の初々しさが眩しい。この子、思っていたよりも純粋だ。本当に私と同じ感覚を味わってみたいと思って告白したんだなと思えばこそ、彼とは真剣に付き合おう。
そう心に決めた。
《続く》
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