短編・恋愛話

古葉レイ

文字の大きさ
上 下
6 / 7

日曜日のわたしたち・6

しおりを挟む

 足元には彼が居て、わたしはゆっくりと腰を上げては下ろすを繰り返した。
 キッチンにあるお揃いのお皿は袋に入ったままで、玄関に転ぶ靴は、二足仲良く並んでいて、わたしたちは仲良く一つになっていて。

「……好、きぃ」

 吐息のような、喘ぎのような囁きが漏れる。彼の手がわたしの髪を撫でてくる。彼の優しさが、身体の中を満たしていく。

 〇〇〇

 買い物を終えた後、わたしたちは結局仲良い時間を過ごしてしまい、終わった頃には夜の時間になっていた。
 その後片づけを始めたけれど、進捗はダンボールを一つだけ。すぐに夕方になってきて、わたしは近所のスーパーに出向き、食材を買った。彼はその間も片付けてくれたけれど、やっぱり終わりには程遠い。
 二人で笑いながら、とりあえずご飯にしようと言い合って、今日のご飯は、少し手抜きの鍋にした。

「二人で食べるにしては作りすぎやな」
「そういうりゅーちゃんて、すごい食べるじゃない?」
「まあ、そやけど」
 
 土鍋を覗き込んだりゅーちゃんが笑う。わたしは彼と自分の器に具を入れる。手を合わせて、いただきますを言い合う。りゅーちゃんが白菜とお肉を頬張る。そんな仕草すら愛おしい。

「めっちゃ旨い」
「ありがとう」

 目の前の鍋がぐつぐつと煮えている。りゅーちゃんの器が空になればわたしが受け取り追加する。こんなのも楽しいと思っていたら、目の前のりゅーちゃんがわたしを見つめて黙っていた。
 首を傾げて、黙って見返す。

「なな、こんな話したら嫌かもしれんけど」
「またしたいの?」

 りゅーちゃんらしいけれどしすぎよ、と思う。りゅーちゃんは顔を赤らめて、首を振って否定した。

「ちゃうちゃう。いや、したいけど、そやなくて」
「したいんだ?」

 りゅーちゃんは本当に面白い。エッチなのは別に構わないけれど、明日から仕事なのでほどほどにした方がいいと思う。明日も明後日も、わたしたちはこれから毎日、一緒なのだから。
 とはいえ今は、今か。こんにゃくを食べながら、りゅーちゃんの言葉を待つ。りゅーちゃんらしからぬ雰囲気で、彼はしばらく黙っていた。

「ななに好いて貰えて、俺は幸せやから」
「わたしもりゅーちゃんの傍に居られて幸せだよ?」

 当然な言葉に当然な返事を重ねる。りゅーちゃんは肩を竦めながら、「やから……」と言葉を濁した。笑顔。

「お前のためやったら、俺は死ねると思う」

 ふわりと。
 りゅーちゃんの言葉がわたしの心に押し寄せた。居なくなる。彼が死ぬ。死んでわたしの前から居なくなる?
 全身の血の気が引いた。手が持ち上がっていた。手にしていた箸が飛んでいた。投げられた木の箸が、りゅーちゃんの肩に当たって部屋に跳ねた。からん、からんと音がした。

 りゅーちゃんが酷く驚いた顔をしていた。

「な、な? 何で箸、投げるんよ」

 りゅーちゃんが狼狽えていた。怯えてすら居た。わたしは我慢しきれなかった。軽はずみにそんな言葉を吐きやがった男に、殺意すら覚えた。

「あほー」

 感情の限界だった。わたしはだから、彼の真似をして誤魔化した。精神が崩壊しかかった。想像以上に、わたしは彼に凭れ掛かっていた。傾倒していた。
 依存している自分が嫌いで、一度は別れようとした。けれど彼は笑って、じゃあ一緒になろうと言ってくれた。だから凭れてもいいんだと言ってくれた。
 それで死なれたら、わたしはどうすればいいんだ。

《続く》
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

壁の薄いアパートで、隣の部屋から喘ぎ声がする

サドラ
恋愛
最近付き合い始めた彼女とアパートにいる主人公。しかし、隣の部屋からの喘ぎ声が壁が薄いせいで聞こえてくる。そのせいで欲情が刺激された両者はー

ねえ、私の本性を暴いてよ♡ オナニークラブで働く女子大生

花野りら
恋愛
オナニークラブとは、個室で男性客のオナニーを見てあげたり手コキする風俗店のひとつ。 女子大生がエッチなアルバイトをしているという背徳感! イケナイことをしている羞恥プレイからの過激なセックスシーンは必読♡

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

処理中です...