短編・恋愛話

古葉レイ

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日曜日のわたしたち・5

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「ただいまー」
「おかえり」

 りゅーちゃんが先に部屋に入り、わたしが続く。
 ドアが閉まり、わたしの手にある袋がりゅーちゃんに奪われ、キッチンに置かれる。彼とわたしで手を洗い、うがいをして笑う。
 見つめ合って三秒、彼の手が伸びてきて、わたしは受け入れ抱きしめる。彼の方が身体が大きいので、私が抱きしめられる形。

「んっ」

 彼の顔に頬を寄せてて、唇の温度を移し合う。舌の感触が来て、少し悪戯をして甘く噛むと、りゅーちゃんは目を丸くして顔を放した。

「ふふ」
「ごめん、怒った?」

 りゅーちゃんが照れるので、わたしは手を伸ばして彼の頬に触れて、こちらからキスをする。背伸びをして舌を這わせながら、幸せをかみしめる。ふとりゅーちゃんの手がわたしをぎゅうと抱きしめてきて、お腹に違和感。
 見るとりゅーちゃんの股間がお腹に当たっている。ちらと、りゅーちゃんを見上げると、りゅーちゃんが顔を背けた。

 わたしはそっと、りゅーちゃんのズボンの前に手を添える。膨らみに、手を這わす。

「りゅーちゃん、今日はえっちだねぇ」
「……嫌いか?」

 わたしは首を振る。りゅーちゃんが私の肩を抱きしめてくれるのが、嬉しくてしょうがない。涙がこぼれそうになる。

「わたしもそんな気分だよ」

 りゅーちゃんが私を押し倒す。キッチンの床に寝転ばされて、りゅーちゃんの手がわたしの服の中に入り込んでくる。汗ばんだ身体の上に、彼の指先が沿う。
 びくんと、わたしの身体が震える。

「恥ずかしい、ね」
「なな、もっと見せて」

 りゅーちゃんの熱い吐息がわたしの首筋に当たる。彼の手が私の肌を弄り始めて、ここでやめてと言ったら嫌われそうだなと思った。でも、汗が気になった。

「胸とか、キス、してもえぇ?」
「ダメ、汗掻いてる、から」

 わたしの拒みに、りゅーちゃんは少し黙ってから、服を捲る。言っても聞かないのはいつものことだけれど、一応止めはする。りゅーちゃんの背中を踵で叩く。軽く、こんこんと叩く。「や、だよー。やめ、てー」棒読みで、それでも言う。
 りゅーちゃんは「ごめんな」と言いながら、止めもせず舌を出して、先端を舐める。いきなりの刺激に、わたしの身体が魚のようにびくんと跳ねて、恥ずかしい。

「もう、りゅーちゃん。汚い、から」
「……なな、言うで?」

 りゅーちゃんが顔を持ち上げて、わたしの前に現れる。息が荒くなる。息苦しい世界の中で、愛おしい彼が真顔になっていた。

「なぁに?」
「俺、ななのやったら小水でも飲めるから」

 ふと。頭が真っ白になる。は。言われた事が遅れて脳内に届いて理解。顔が真っ赤になる。変態、変態だと、目の前の彼氏を睨みつける。

「やだっ、やだっ、変態っ、りゅーちゃん変態だぁっ」
「痛い、痛いって」

 悪乗りしたりゅーちゃんを叩き、蹴りつける。もちろん本気ではないので全力拒みではないけれど、脳裏に過るのは、初めての夜。
 わたしはりゅーちゃんとの初めてのお泊りで、口で下のあそこを舐められるという初めての感覚に怯え、ベッドの上で粗相をして、彼の顔を汚してしまったのだ。つまり、お漏らしだ。
 
 もうこれで恋仲も終わったと思ったほどのわたしは、子供のように泣いた。泣き止むまで抱きしめ続けてくれたりゅーちゃんは、怒るどころか優しく慰めてくれた。

 その時、汚いといったわたしに、彼は汚くないと言い続けてくれて、何と汚れたわたしの下半身を拭き、あるいは舐めて、汚くないと言い切った。

 ……そしてわたしは感動とは程遠い中、彼の腕の中で初めてを経験した。痛かったよりも恥ずかしくて、気持ち良いよりも苦しかったのを覚えている。

 初めての夜は朝まで掛かった。

 そんな過去を思い返しながら、私は今、りゅーちゃんのズボンの中に手を入れて、勃起したあれの先端をぎゅうと握りしめる。

「痛いって」
「わたしだって」

 りゅーちゃんに詰め寄り、床に寝転んだ彼のズボンを脱がせに掛かる。りゅーちゃんのベルトを外してズボンのボタンを開けて、下着を捲る。そして露わになる彼のそれに、顔を寄せる。くん、と鼻を啜ると、彼の匂いが強くする。

「ちょ、んっ、あ、なんっ」

 わたしはりゅーちゃんの顎を蹴り、にいと唇を伸ばす。そしてそっと舌を這わす。ぺちゃりと、濡れた音を立てる。
 彼の、甘えた声が漏れた。

「ちょっとしょっぱいや。汗かな、別のかな」
「あかんて! 風呂、風呂入ってから」

 りゅーちゃんが自分を棚に上げて何かを言う。くっくっく。面白い。

「ななのだって飲めるんでしょう?」

 わたしは正論を振りかざす。りゅーちゃんが首を振る。わたしから腰を逃がそうとして、そんな彼のそそり立つものの前に、わたしは顔を寄せる。

「だったらなながダメな理由がない」

 わたしは喉を鳴らして、目の前にある、彼の熱源の温度を、自分の口内で沈めに掛かった。

《続く》
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