短編・恋愛話

古葉レイ

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日曜日のわたしたち・3

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「これなんてどうや? 可愛いんちゃう?」
「そうだねぇ。でもこっちの方が使いやすいよ」

 りゅーちゃんがハート形のお皿を手に取り見せてきて、わたしは頷きながら、同じ模様の付いた丸型のお皿を指さして笑う。
 電車で二駅離れたところにあるエオンモールの専門店街。わたしはよく来る雑貨屋だけれど、今日は初めて、りゅーちゃんと二人で訪れている。
 三枚のお皿を物色して、わたしの気持ちはほくほくとした。

「ありがとう。嬉しい」
「皿って高いんやなぁ」

 りゅーちゃんは呆れるような顔で、手元の袋を顔前に持ち上げて呻いている。わたしの隣を歩くりゅーちゃんは肩を竦める。私の左手にも欲しがったマグカップが二つある。
 お揃いが欲しかったとは言え、家にはたくさんの食器があるので、明らかに無駄だと思う。けれどりゅーちゃんは怒らず、お金まで出してくれた。
 りゅーちゃんはたぶん、どのお皿でも気にしないと言うのに。

「わたしが買うつもりだったんだけどな」
「そんなん俺が買うに決まってるやろ? お揃いやで?」

 りゅーちゃんが胸を張る理由は分からない。ただ彼の気遣いが嬉しくて、わたしは肩を寄せて、隣を歩くりゅーちゃんに近づく。触れる。
 りゅーちゃんの歩幅はいつだって一緒で、この人は本当に優しい。

「手、繋いでいい?」
「ん」

 短い返答に指を絡める。りゅーちゃんの指は逞しくて、何度握ってもどきどきする。手のひらが包まれて、優しく握り返してくれる。ちょっとひんやりとするりゅーちゃんの手が、わたしは好きだ。
 そんな感じで帰ろうと歩いていたら、専門店街の端で気になる店を見つけて、わたしは足を止める。並ぶのは、可愛く綺麗なレースの品々。

「どないしたん? 下着?」

 りゅーちゃんがわたしに気づいてくれて、頷いて返事をする。自分の今の服装を思い出す。機能性重視のブラは、あまり可愛くない。
 夜だと気にならなかったというより気にしなかった。りゅーちゃんの前だとすぐ脱がされるしと思っていたけれど、はたしてそれでいいのだろうか。

 女子力、下がるのでは?
 下着にこそ、力を入れてもいいのではないかと考える。りゅーちゃんは黙ったまま、わたしが何かを言うを待っていてくれる。わたしはいつも考えると黙ってしまう。それを友達はのろいと言うし、わたしも焦ってしまうのだけれど、りゅーちゃんは違う。

「いいよ、ゆっくり考え?」

 彼は決して急かさない。そっと手を引っ張って、傍に会ったベンチに腰掛ける。わたしもそれに続けて座り、じっと考える。どうしようかなー、買おうかな。止めた方がいいかなと思案する。一分、二分と考える。

 彼でないと、わたしはきっと自分らしさを保てない。
 彼以外の男の人に緊張しなくなったのも、わたしはわたしのままでいいと思えるようになったのも、わたしが自分を好きになれたのもきっと、この人のおかげだ。

「ちょっと寄ってっていい?」

 だとしたら、わたしだってちょっとぐらい頑張ってみようと思う。りゅーちゃんになら、見てと、言えばいいだけなのだから。それでりゅーちゃんが少しでも喜んでくれるなら、そういうのもいいと思った。

「外で待ってたらえぇか?」

 りゅーちゃんに問われて、わたしは考える。下着ショップとりゅーちゃんとを交互に見て考える。すぐに戻るからねと言おうとして、でももう一緒に住んでいるんだしなぁと考え直す。もう少し悩む。りゅーちゃんはわたしを見たまま、急かすそぶりもなく、笑顔で首を傾げてくれる。

「一緒に来ない? りゅーちゃん好みの下着、教えて欲しい」
「んじゃ、いく」

 りゅーちゃんが即答する。わたしののんびりに反して、りゅーちゃんは決定が速い。決めるのが早くて、わたしはついつい、彼のそんな男前なところにきゅんとする。

「これ、可愛いない?」
「どれどれ?」

 店内にはほとんど女の人で、りゅーちゃんは少し気にした様子でわたしの傍に居る。りゅーちゃんが指さしている下着に手を伸ばして見る。ひらひら、ひらり。小さなリボンが散りばめられていて、リボンが可愛い。ただ着心地は悪そうだ。
 うーん。どうしたものかと考ええる。

「りゅーちゃん、子供っぽいの好きよね」
「あかんか」

 りゅーちゃんが物凄く残念そうにしている。わたしが思っているよりも、りゅーちゃんは子供っぽいのが好きなのかもしれない。そういえば昔、わたしのどこが好き、って聞いたら、小さいところだって言われたのを思い出す。付き合う前の話。
 ああ、ロリータなのが好きなのね、と返したら、酷くショックを受けていたっけ。

「ななが付けたら可愛いと思うんやけど」

 りゅーちゃんにそう感想付けられて、わたしは少し困ってしまう。そんなことないけどと思いながら、じゃあ見せてみようかと結論付けるのに時間はかからなかった。

「いいよ、りゅーちゃんが好きなら、わたしも好き」

 ブラと下着のセットを手に取り、りゅーちゃんと共にレジに向かう。今日はとりあえず一組買えば良しとしよう。給料日前だし、と思いながら歩いていると、「なな?」と声がした。もちろん、りゅーちゃんでした。

「なぁに?」
「なあ、これとかどうやろう」

 そうしてりゅーちゃんが指さしたのは、レースをあしらった酷く大人っぽい、というより卑猥めいたティーバックだった。

「それはさすがに、エッチ過ぎない? 普段使いしにくいかも」
「……そう、やんな?」

 かなり残念そうな顔をされた。

 まさかりゅーちゃんがこの手のショーツに興味を持つとは思わなかった。お尻なんて完全に出ちゃう布の少なさは、雑誌では見るけれど、自分が履くとは考えたこともなかった。

「ごめん、いこか」

 わたしが悩む中、りゅーちゃんが急くように言葉を漏らす。少し考えてみる。
 りゅーちゃんが好きだと思ったんだ。だってりゅーちゃんはエッチじゃないか。だったらエッチな格好でもいいじゃないかと考える。
 下着なんて一緒と言われるかもしれない。でもりゅーちゃんは違うと思ったんだ。わたしのお皿だって、使えば同じだと言われも仕方がない。それでもりゅーちゃんは、わたしの我がままを許してくれたのだから、わたしだって許してあげるべきだ。

 ちがうなと思った。
 りゅーちゃんが、それで喜んでくれるなら私が嬉しいと思い直した。

「買おっか」
「やけど普段使いしにくいって」
「いいんじゃない? りゅーちゃん見たいんでしょ?」

 これは考えるまでもなく、りゅーちゃんが好きならオールオッケーだった。りゅーちゃんの事はいろいろと知っているつもりだったけれど、一緒に過ごしてみれば新たな発見はたくさんある。

 これからもっと、わたしはもっとりゅーちゃんを知っていくんだ。

《続く》
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