スノードロップの約束

9章：ルーシャの憂鬱

Ⅱ

馬車がマリアンローズ家の屋敷に到着する。

馬車の扉が開き、ルーシャは従者の手を借りてゆっくりと降りた。

ルーシャが扉の前に来ると扉が開き、中には左右に整列した侍女と従者がルーシャを出迎えた。

「「「「「おかえりなさいませ。ルーシャ様。」」」」」

「ええ。今帰りましたわ。」

綺麗に声を揃えて礼をする侍女と従者に、ルーシャも見事に微笑んで応答した。

綺麗すぎる微笑みだった。

そしてそのままスタスタとルーシャは歩き出した。

ルーシャの後をついて行こうとした侍女にルーシャは背を向けたまま言った。

「私、疲れていますの・・・しばらくの間は私の部屋には入らないほしいですわ。」

「えっ！」

驚きの声を上げたのはついて行こうとした侍女ではなく、1番後ろに整列していたリアだった。

ルーシャもリアの声に驚きそちらを見る。

数秒間見つめ合うふたり。

ルーシャはきゅっと眉間に皺を寄せると、サッと視線を逸らした。

リアはルーシャの態度に目を見開き驚いた。

「晩餐の時にまた私のことを呼んでくださいな。あなたは、下がっていいわよ。」

ルーシャは振り返り、着いて来ていた侍女に向かってそう言った。

「はい。かしこまりました。」

侍女は綺麗な礼をして、ルーシャの命令に従った。

そして、ルーシャはまた踵を返しそのまま自室まで速足で歩き出した。

リアのことを見ることはなく、そのまま。

「さあ。皆さん。持ち場に戻って仕事を再開してください。」

侍女長ロリアの命令に皆仕事を再開するため、それぞれの持ち場に戻って行った。

リアはロリアに声をかけられるまでルーシャが去っていった方向を唖然と見つめていた。

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ルーシャは部屋に入り、部屋に戻ってきた速さでそのままベッドまで歩いていき勢いよく突っ伏した。

「さいっあくですわっ！わたくし・・・はあああ。ほんとに！ほんとに！」

布団に向かって溜まった気持ちを思いっきり吐き出すルーシャ。

その後、ルーシャの中にある苛立ちと不快感を少しでもスッキリさせるために、布団をバンバン殴る。

けれど、そんな苛立ちと不快感は一切拭えない。

ルーシャは深く深呼吸をして、目を閉じて気持ちを落ちつける。

（この、拭えない苛立ちと不快感は・・・・・・。）

ルーシャは思考をゆっくりと働かせ、気持ちの整理をする。

冷静にゆっくりと言葉を見つけ出す。

（・・・・・・私の今感じているこの、不安感は・・・。）

そして、導き出される自分なりの自分の気持ちを引き出す。

何も出来ない自分への苛立ち。

ソルト殿下との婚約・・・はまだいいとして、クロート・カルミアントの新たな情報への不安。

そして、リアに対してとった行動の不快感。

ルーシャは自分が情けなさすぎて、リアの顔を見れなかった。

目が合った瞬間、ルーシャは何も出来なかった自分を恥じて思わず眉間に皺を寄せ、目を逸らした。

しかし、ルーシャの脳裏に過ぎるのはリアの戸惑った顔とその瞳に映る悲しみの感情。

ルーシャはぎゅっと力強く布団を握った。

その身体は小さく震えていた。