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第13話 過ぎた力

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 ポンドンから資金を融資してもらい、シェフィをはじめ新たな人材を迎え入れた。

 金や人が整い、ある程度余裕が生まれたことで、ライゼルは港の建設に着手しようとしていた。

 建設にあたって、責任者にはシェフィを任命した。

 設計から強度の計算、さらに経費削減のため土魔法での補強が必要となるのだが、これらすべてをこなせるのがシェフィであり、彼女に丸投げすれば問題ないと判断したのだ。

「……それにしても、シェフィは頼りになるなぁ」

 普段は抜けているように見えるが、あれでなかなか優秀な人材だ。

 さすがはモノマフ王国で最高峰の教育を受けてきただけのことはある――

 ――と、呟いてから気がついた。

 恐る恐る振りかえると、オーフェンが苦虫を噛み潰したような顔でこちらを見ていた。

「……………………」

(……そうだった。オーフェンにはシェフィがスパイでわざと泳がせていると説明しているんだった)

 もちろん、家出少女であるシェフィがスパイなどとありえないが、いくら説明したところでオーフェンは納得しないだろう。

 であれば、シェフィには悪いが、ここはスパイである前提でオーフェンに指示を出さなくてはいけない。

「……まあ、当たり前の話だが、スパイを野放しにするなんてありえないからな。オーフェンを監視役につければ下手なことはできないだろうし。せいぜいこき使ってやるとするか」

 ちらりとオーフェンの様子を窺うと、当然といった様子で頷いていた。

「無論です。私の力が及ばぬばかりにスパイの手も借りないといけないわけですからな……。これくらいせねば、私の面目が立ちません」

「……うむ。あんまり頑張りすぎないようにな」

 焚きつけた本人としてはどうにもコメントしにくいが、オーフェンもシェフィとは別の方向で優秀な人材だ。

 警戒はするにしても、ちゃんと港を完成させてくれるだろう。

「……それで、建設に必要な資材は足りているのか?」

「問題ありません。先日、グランバルトからこちらに送るよう手配しました。……まもなく到着するかと」

 こういった根回しの周到さではオーフェンの右に出るものはいない。まさに縁の下の力持ちだ。

「さすがオーフェンだ。頼りになる」

 優秀な配下を労っていると、カチュアが慌てた様子で部屋に入ってきた。

「大変です! 先ほど輸送隊が盗賊に襲撃されたとのことです」

「なんだと!?」

 資材が届かなくては、せっかく計画を立てたところで建設に移れない。

 陸上輸送だけに頼る以上、こうしたリスクも当然生じる。そのために、陸上輸送と水上輸送で分散させようと思っていたのに……

「フレイたちを呼べ。灌漑整備は後回しだ。盗賊を退治して、交易路の安全を確保するぞ」





 フレイの他、獣人たちを20人ほど集めると、盗賊討伐隊の編成を始めることにした。

 大将はライゼルが。副将には実力と人望のあるフレイをつけ、その下に獣人たちが配置され、小規模ながらも盗賊の盗伐には十分な人数を備えている。

 集められた獣人たちを前に、ライゼルが声を張り上げた。

「いいか、今回の目標はうちの資材を奪った不届きな盗賊に罰を下すことだ。……お前たちの命、俺に預けてもらうぞ」

「まさか大将のために命《タマ》張れる日が来るとは……」

「へへっ、俺の“エクスカリバー”が火を吹きまさぁ!」

「なんの……俺の“ウルトラハイパーアルティメットソード”だって負けちゃいませんぜ」

 大仰な名前のつけられたナタやら包丁、木の棒を振り回し、ご満悦の獣人たち。

 どうやら戦意は十分らしい。

 そんな獣人たちをよそに、カチュアが不安げな表情を浮かべていた。

「それにしても、大丈夫なのですか?」

「問題ない」

 獣人は力、体力共に人間を上回っており、まさしく生まれながらの戦闘民族だ。

 装備こそ貧弱なものの、その膂力から繰り出される攻撃を食らっては、ひとたまりもないだろう。

「いえ、そうではなく、私の方です。……よろしかったのですか? 私までついてきてしまって……」

「怖いのか?」

「いえ、そうではなく……。今の私はしがないメイド。ぼっちゃまのご期待に沿えるかどうか……」

 カチュアが表情を曇らせる。

 無理もない。戦闘技能があるとはいえ、カチュアはこれまで長くメイドとして仕えてきた身だ。

 ブランクがある分、期待に応えられないのではないか、危惧しているのだろう。

「それを言ったら俺の方が役立たずだぞ。魔力は全然ないし、剣だってそこそこ。カチュアに鍛えてもらったおかげで馬には乗れるが……それ以外は人並み以下だ」

「そのようなことは……」

「でも、ちっとも怖くないぞ。俺にはカチュアがついているからな」

「ぼっちゃま……!」

「だから自分を卑下するようなことは言わないでくれ。この俺が一番頼りにしてるのは、他でもないカチュアなんだからな」

 カチュアの表情がパァと明るくなった。

 良かった。これで勇気づけることができた。

 人知れず胸を撫でおろしていると、獣人の一人が駆け寄ってきた。

「大将、良かったら俺の武器に名前をつけてくだせぇ!」

「あっ、ずりぃ!」

 抜け駆けに抗議を上げる獣人。

「名前、か……そうだな……」

 この程度で彼らの機嫌が取れるなら安いものだ。

 さて、どんな名前がいいか……

 チラリと獣人たちを見やると、名づけを依頼した獣人以外も目を輝かせてこちらの様子を窺っていた。

 どうやらライゼルがどんな名前をつけるのか気になっているらしい。

(……下手な名前はつけられないな。これは……)

 ごほんと咳払いをして、他の獣人にも聞こえるようライゼルは声を張り上げた。

「その昔、あまりの強さゆえに持ち主に不幸をもたらすという名刀があった。……名を“村雨”という」

「ムラサメ……」

「過ぎた力は持ち主を不幸にするというが、村雨はまさにいい例だろう。これを手にした者は幾度となくその身を狙われ、時には命すら落とした。……だが、そんな力でも世に生まれたからには必ず意味がある。たとえ不幸をもたらすとしても、その力は必ず持ち主を守護《まも》る剣となり盾となるだろう」

 ライゼルがナタを高く掲げると、自然と獣人たちの視線が集まった。

「今より、このナタ……包ちょ……………………剣を“村雨”と名付ける!」

 一瞬の静寂ののち、獣人たちが沸き立った。

「あまりの強さゆえに持ち主を不幸にする剣、“ムラサメ”……。やべぇ……カッコよすぎんだろ……!」

「大将大将! 俺のナタ……剣にも名前をつけてくだせぇ!」

「俺のもお願いしやす!」

「俺も俺も!」

 名づけが気に入ったのか、ライゼルの元に獣人が殺到していく。

 ただ名前をつけるだけでなく、それっぽい逸話――フレーバーテキストもつけたのが功を奏したようだ。

「わかったわかった。順番だぞ」

 獣人たちを一人一人並ばせ、各々の武器に名前をつけていく。

 とはいえ、一人で名づけをこなしていくのはそれなりに重労働で……

 ……後半の名付けが適当になったことは言うまでもないのだった。


 ◇


 ライゼルが武器に名前をつける様子を、カチュアは離れたところから静かに見つめていた。

(過ぎた力は持ち主を不幸にする、か……)

 胸の前でぎゅっと手を握る。

 自分の持つ魔法の腕も、騎馬の心得も、メイドとしては不相応な力には違いない。

 だが、それでも。

 ライゼルがその力を望むというのなら、自分はライゼルの剣にも盾にもなろう。

 それが、自分にできるライゼルへの恩返しなのだから。

 決意を胸に、カチュアは戦いに赴く覚悟を決めるのだった。
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