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第6話 都市計画
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獣人たちを掌握し、灌漑の整備を進める傍ら、ライゼルは街作りも進めていた。
「オーフェン、街の方はどうだ」
「はっ、日干しレンガも増産しておりますので、すぐにでも住宅が建ち並ぶことでしょう」
大河があるとはいえ、砂漠に街を作ろうというのだ。
当然、木造住宅が作れるはずもなく、レンガを焼けるだけの薪も存在しないため、日干しレンガを用いた家が多く見られている。
現代日本に比べたら安全基準も耐震強度も低いが、自然災害の少ないこの地ではこれくらいでちょうどいい。
「そうなると、次は水かな……」
人口が増えれば、それを賄うだけの飲水が必要となる。
日本のように水資源に恵まれた土地ならいざ知らず、ここは砂漠。
使える水が限られている以上、飲水にも限度がある。
川の水は雑菌が多く、飲水には適さないため地下水がメインとなることだろう。
しかし、ここには大河が流れている。
降雨による水が少なくとも、川を流れて地表に染み込んだ水があるため、大河の周辺であれば地下水が見込めると考えたのだ。
「ご心配なく。井戸を増設しましたゆえ、このペースであれば人口の増加にも耐えられるかと」
「仕事が早いな。流石だ、オーフェン」
「ライゼル様に任せられたのです。ご期待に応えなくては」
オーフェンの能力の高さには感心させられる。
所詮、俺はただの若者で、前世もしがないサラリーマン。こうした都市計画には、経験豊富な人材が必要だ。
その点、オーフェンであれば問題ない。
祖父の代からバルタザール家を支え続け、父と俺、二代に及ぶ放蕩三昧でも領地が破綻しなかったのは、ひとえにオーフェンの尽力が大きかっただろう。
政務において当家で一番の経験と実績を積んでいるオーフェンに丸投げすれば、たいていのことは何とかしてくれるに違いない。
「これからも頼りにしているぞ」
「もったいなきお言葉です」
オーフェンが恭しく頭を下げる。
「それで、食料の方だが…」
「開墾が進んでおりますゆえ、秋になれば収穫が見込めるかと……しかし、それまでの食糧を確保するとなると……」
「むう……」
町を開発していくにあたり、本拠地から多くの住民を移住させた。
それに伴い、備蓄していた食料を放出しているが、秋までは持ちそうにない。
通常でも一週間はかかる距離を、大規模な輸送隊を築き、継続的に人や馬を行き来させようというのだ。
それには馬や物資の管理といった輸送隊の運用に加え、道中の安全の確保、物資の調達まで務めなければならない。
莫大なコストを払って陸上輸送に頼るくらいなら、いっそ――
「港を造るか……」
「港、にございますか」
「大河から水運で輸送すれば、人も馬もそれほど必要ない。……かかる労力は大幅に抑えられる」
ライゼルの策に、オーフェンが思わず唸った。
「なるほど……妙案にございますな。ですが、お言葉ながら当家には港の建設を差配できる人材も、工事に使える人員も。……何より、それらを集めるだけの資金も不足しております。それほどの大工事、いったいいくらかかることか……」
「心配するな」
かつてのバルタザール家であれば、資金繰りに苦慮していただろう。
しかし、今の自分には頼れる友人がいる。
「ロンダ―商会のポンドンを呼べ。……港を造るから融資してほしいってな」
◇
「……ライゼルが、私に?」
港を造るにあたって融資を提案され、ポンドンは警戒感を強めていた。
前回は脅されるがままに要求を呑んでしまい、結果としてバルタザール家へ貸与した資金にかかる利息が大幅に減ってしまった。
おかげでロンダ―商会の利益が減ってしまい、経営計画の大幅な変更を余儀なくされたしまった。
今回も脅すつもりなら、今度はこちらにも考えがある。
「見てろよ、ライゼル。今度ばかりは前のようにはいかないぞ……!」
◇
ポンドンを待っている間、ライゼルはフレイに食料の買い付けを任せていた。
この開拓地が完成した後は彼らにある程度任せようと思っていただけに、計算力や交渉力の実力を見ておきたかったのだ。
「食料を自由に買い付けていいとのことでしたので、豚を買いやした」
「へぇ……それはいい買い物を…………待て。豚を買った? 豚肉の干し肉とかじゃなくて、豚を買ったのか? 一頭丸々?」
「へぇ、こんな機会でもなきゃ、一頭丸々なんて買えねぇもんで。奮発しちゃいました♡」
(なにが奮発しちゃいました、だ! 元はと言えば俺の金だぞ!)
とはいえ、彼らに反乱を起こされては、力で劣るこちらは不利に立たされるだろう。
立場は上とはいえあまり厳しいことは言えない。
「……………………金を使うときは計画的にな」
「心得ておりやす!」
(絶対わかってない……)
このどんぶり勘定を見るに、彼らに統治を任せるのは難しそうだ。
そうなるとオーフェンに任せるのがベターだが、オーフェンは当家に必要な人材だ。あまりこちらにかかりきりにさせてはもったいない。
他の文官たちも本拠地をはじめ領地の運営にあたっている以上、こちらに人員を割くのは厳しそうだ。
そうなると、自ずと選択肢は絞られてくる。
「……雇うか。新しく人を」
「オーフェン、街の方はどうだ」
「はっ、日干しレンガも増産しておりますので、すぐにでも住宅が建ち並ぶことでしょう」
大河があるとはいえ、砂漠に街を作ろうというのだ。
当然、木造住宅が作れるはずもなく、レンガを焼けるだけの薪も存在しないため、日干しレンガを用いた家が多く見られている。
現代日本に比べたら安全基準も耐震強度も低いが、自然災害の少ないこの地ではこれくらいでちょうどいい。
「そうなると、次は水かな……」
人口が増えれば、それを賄うだけの飲水が必要となる。
日本のように水資源に恵まれた土地ならいざ知らず、ここは砂漠。
使える水が限られている以上、飲水にも限度がある。
川の水は雑菌が多く、飲水には適さないため地下水がメインとなることだろう。
しかし、ここには大河が流れている。
降雨による水が少なくとも、川を流れて地表に染み込んだ水があるため、大河の周辺であれば地下水が見込めると考えたのだ。
「ご心配なく。井戸を増設しましたゆえ、このペースであれば人口の増加にも耐えられるかと」
「仕事が早いな。流石だ、オーフェン」
「ライゼル様に任せられたのです。ご期待に応えなくては」
オーフェンの能力の高さには感心させられる。
所詮、俺はただの若者で、前世もしがないサラリーマン。こうした都市計画には、経験豊富な人材が必要だ。
その点、オーフェンであれば問題ない。
祖父の代からバルタザール家を支え続け、父と俺、二代に及ぶ放蕩三昧でも領地が破綻しなかったのは、ひとえにオーフェンの尽力が大きかっただろう。
政務において当家で一番の経験と実績を積んでいるオーフェンに丸投げすれば、たいていのことは何とかしてくれるに違いない。
「これからも頼りにしているぞ」
「もったいなきお言葉です」
オーフェンが恭しく頭を下げる。
「それで、食料の方だが…」
「開墾が進んでおりますゆえ、秋になれば収穫が見込めるかと……しかし、それまでの食糧を確保するとなると……」
「むう……」
町を開発していくにあたり、本拠地から多くの住民を移住させた。
それに伴い、備蓄していた食料を放出しているが、秋までは持ちそうにない。
通常でも一週間はかかる距離を、大規模な輸送隊を築き、継続的に人や馬を行き来させようというのだ。
それには馬や物資の管理といった輸送隊の運用に加え、道中の安全の確保、物資の調達まで務めなければならない。
莫大なコストを払って陸上輸送に頼るくらいなら、いっそ――
「港を造るか……」
「港、にございますか」
「大河から水運で輸送すれば、人も馬もそれほど必要ない。……かかる労力は大幅に抑えられる」
ライゼルの策に、オーフェンが思わず唸った。
「なるほど……妙案にございますな。ですが、お言葉ながら当家には港の建設を差配できる人材も、工事に使える人員も。……何より、それらを集めるだけの資金も不足しております。それほどの大工事、いったいいくらかかることか……」
「心配するな」
かつてのバルタザール家であれば、資金繰りに苦慮していただろう。
しかし、今の自分には頼れる友人がいる。
「ロンダ―商会のポンドンを呼べ。……港を造るから融資してほしいってな」
◇
「……ライゼルが、私に?」
港を造るにあたって融資を提案され、ポンドンは警戒感を強めていた。
前回は脅されるがままに要求を呑んでしまい、結果としてバルタザール家へ貸与した資金にかかる利息が大幅に減ってしまった。
おかげでロンダ―商会の利益が減ってしまい、経営計画の大幅な変更を余儀なくされたしまった。
今回も脅すつもりなら、今度はこちらにも考えがある。
「見てろよ、ライゼル。今度ばかりは前のようにはいかないぞ……!」
◇
ポンドンを待っている間、ライゼルはフレイに食料の買い付けを任せていた。
この開拓地が完成した後は彼らにある程度任せようと思っていただけに、計算力や交渉力の実力を見ておきたかったのだ。
「食料を自由に買い付けていいとのことでしたので、豚を買いやした」
「へぇ……それはいい買い物を…………待て。豚を買った? 豚肉の干し肉とかじゃなくて、豚を買ったのか? 一頭丸々?」
「へぇ、こんな機会でもなきゃ、一頭丸々なんて買えねぇもんで。奮発しちゃいました♡」
(なにが奮発しちゃいました、だ! 元はと言えば俺の金だぞ!)
とはいえ、彼らに反乱を起こされては、力で劣るこちらは不利に立たされるだろう。
立場は上とはいえあまり厳しいことは言えない。
「……………………金を使うときは計画的にな」
「心得ておりやす!」
(絶対わかってない……)
このどんぶり勘定を見るに、彼らに統治を任せるのは難しそうだ。
そうなるとオーフェンに任せるのがベターだが、オーフェンは当家に必要な人材だ。あまりこちらにかかりきりにさせてはもったいない。
他の文官たちも本拠地をはじめ領地の運営にあたっている以上、こちらに人員を割くのは厳しそうだ。
そうなると、自ずと選択肢は絞られてくる。
「……雇うか。新しく人を」
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