26 / 50
【昨日の友は今日も友】
『5』
しおりを挟む「あ、あの~~」
ここで、辛抱たまらず口をはさんだのは、蚊帳の外に出されたギンフだった。
「「「あぁ!?」」」
「いや、すんません……ところで、そちらのベッピンさんは、どちらさんで?」
「無論、私の恋人です」と、即答するタッシェル。お前、少しは身のほどを知れ!
「いえ、ザックさんの従妹です」
お? アフェリエラも、タッシェルのあつかいが、わかって来たじゃないか。
今のは、ナイスな返しだったぜ。けど……ちょいとばかし、この場はまずいな。
「へぇ! ザックの旦那に、こんな美人の親類がいたなんて、初耳……アレ? ちょっと待てよ? ザックの旦那は、確か捨て子で、孤児院育ちだったはずじゃあ……アレレ?」
その言葉を聞くなり、ナナシが俺を見て、息を呑むのがわかった。
「私の従妹だよ。見栄張って、馬鹿だね、ザック」
いや、俺はなにも言ってねぇし……だが、ラルゥも上手く、話しを逸らしてくれたぜ。
「ああ、ラルゥさんの……道理で! 綺麗どこは、やっぱ似るんでやすねぇ!」
あ……そう言やぁ、ギンフの奴、ラルゥに密かな、恋心をいだいてるんだったっけな。
ラルゥは、あからさまに迷惑そうな顔してるけど、おかまいなしですり寄ってるぜ。
「とにかくだ。俺たちは犯人じゃねぇし、真犯人を捕まえるためにも、情報が欲しいんだ。協力してくれよ、ギンフ。ピエロのチコって奴を、探してるんだ。まぁ、今回の件とは直接、関係はねぇんだけど、色々と複雑な事情があってな。いずれは事件解決につながるはずなんだ。だから、頼む! この通りだ! 俺たちを、見捨てないでくれ! ギンフ!」
そう言いながら俺たちは、バスタードソードを、クレイモアを、メイスを、クロスボウを、ランスを、ウィップを、ギンフの首元に突きつけた。
早い話が、こりゃあ脅しだな。
しかし、ギンフは俺のセリフを聞き、なにか重大なことに気づいたようだ。
顔面蒼白で、ガタガタと震え、目をしばたかせながらも、奇妙な言葉をつぶやいた。
「ピエロのチコ……まさか、テルセロのことか? だから、あいつ……」
「テルセロ? お前……ピエロのチコを、知ってるのか!?」
「知ってるも、なにも、あいつは俺と同じゾラ人で、幼馴染み……痛っ!」
「あ、すまん。興奮して、切っ先が刺さった」
「ちょっと、ラルゥさん。気をつけてくださいよ。いくら相手があなたでも、怒りますよ」
もっと怒れ、ギンフ。今のは絶対、ワザとだぞ。その上、首筋の出血量も半端じゃねぇ。
「それにしても、こんな好都合な展開って、あるのか?」
「恐らく創造主が、面倒臭くなったんでしょうね」
「創造主って、誰でちか?」
「カリダ神だろ。そういうことにしておいてだな、ギンフ!」
「は、はい!」
「チコは、今どこだ?」
「それは、言えないっす」
「なんで!」
「本人たっての希望ですし、保安院からもお達しが……」
「なにぃ!? バティックの野郎! すっとぼけやがって! ピエロのチコの情報を、得てやがったのか! ん? でも……待てよ? チコは今度の事件とは、関係ないはずじゃ」
首をかしげる俺の耳元で、アフェリエラが恐る恐るささやいた。
「いえ、そうとも限りません。例の、サーカス団の者たち……もしかしたら」
「それじゃあ、あいつらが真犯人だって疑いも!?」
「し――っ、この場で第三者に話すのは、賢明ではありません。まだ、なんの確証もないのですから……取りあえず、今夜はもう引き上げませんか? あの方も、迷惑そうですし」
ギンフは、本当に心底、迷惑そうな表情で、俺たちのヒソヒソ話を聞いている。
「ああ、いいんだよ、アフェリエラ。気を使わなくたって。いつも俺たちが、あいつに迷惑かけられてんだから。けど……確かに、この場は一旦、引き下がった方が得策かもな」
俺も得心し、アフェリエラの勧めに従った。
「そうだのう。あやつの態度、死んでも口を割らんと言っとるようだし、安宿でも取るか」
「待て、ゴーネルス。安宿など、気品に満ちた僕の性には合わないな」
「では、侯爵さま。どうぞ、路傍で野宿でも。但し、夜盗に襲われても、一人でなんとかしてくださいね。翌日、悲惨な死体を引き取りに行くのは、朝から気分が悪いですから」
「じ、冗談だ! 安宿でも、一晩くらいなら我慢してやる!」
「侯爵さま、内巻きパーマが、外巻きに跳ねちゃったでち。そんなに、怖いでちか?」
「さよう、さよう。みなも先刻、承知の通り、若は小便をちびると、必ずパーマが反転するという、不可思議な体質の持ち主。さぞや、お困りのことと存じます。ゆえに、替えのパンツも、すぐさまご用意いたしましょう。しかし、若もいい歳なのですから、そろそろ大人としての自覚を持ってください。お父上とて、さすがに〝仏の顔も一度きり〟ですぞ」
三度だろ……また、馬鹿言ってやがるぜ。
「誰がちびるか、馬鹿者! これは、手品の一種だ! お前たちを、驚かそうと思っただけだ! 見ろ! 案の定、みながみな、驚いているではないか! まったく、能無しどもめ!」
ダルティフ……手品って、その言いわけは、さすがに苦しすぎるぞ。
すると――、
「「「おい、馬鹿侯爵!! 誰に向かって、口利いてんだ!?」」」
みんなから一斉に恫喝され、ダルティフは震え上がった。いつものエラそうな口調も所作も忘れ、精一杯下手に出る情けなさ……こいつ、妾腹とはいえ、本当に侯爵家の御曹司か?
「えぇと……誰でしょう、ね。ハハ、ハハハ」
ぎこちない笑顔、汗ばんだもみ手で、みんなの機嫌を取ろうとする。ああ、情けなや。
その時、ラルゥがあることに気づき、周囲を見回した。
「それより、ギンフはどこ行ったんだ?」
「もう、裏口から中へ、入ってしまいましたよ?」と、アフェリエラ。
「なに? 逃げやがったか……畜生!」
俺は腹立ちまぎれに、奴が寸前まで座っていた空き樽を、思いきり蹴飛ばした。
いっ……痛ぇ――っ!
思いのほか、固くて頑丈だった!
それでも俺は、激痛を悟られまいと、にじみ出る涙を素早くぬぐい、靴の中で腫れ上がる足の指へ、気をやらないよう必死で努めた。
そんな折、タッシェルが、こうつぶやいた。
「それにしても、妙ですね。あのニセサーカス団が真犯人だとして、また首都で事件が起きたということは……どうやら、ピエロのチコが、すべての鍵をにぎっていそうですね」
「ま、まったくだ。タッシェルにしては、だ、妥当な推察じゃねぇか」
俺は、片足でヨロヨロとタッシェルに近づき、奴の肩を叩くフリして、しがみついた。
とにかく、これじゃあ、痛みで言葉をつむぐのも、ままならないぞ!
「あの、それで……これからどうするのですか?」
不安そうな眼差しで、俺たちの顔を見回すのはアフェリエラだ。これに仲間が即答する。
「食う」と、ラルゥ。
「寝る」と、オッサン。
「遊ぶ」と、チェル。
「あのな、こ、この場合『遊ぶ』は、なしだろ、絶対」
俺は肩を落とし、無邪気なチェルの頭を、軽く小突いた。チェルは、ペロッと舌を出し、可愛らしく笑っている。
けど今だけは笑い返せねぇよ。疲労もかなり、溜まって来たしな。
なにより足先が、めっちゃ痛ぇ――っ! だんだん靴が、きつくなって来たみたいだ!
だけど、まだ仲間にはバレてねぇようだ。それだけが、救いだな(こんな失態、知られたが最後……無慈悲な連中に、どんだけ馬鹿にされるか、わかったモンじゃねぇからな)。
「さてと……なんにせよ、ピエロ探しの前に、今夜は安宿探しだね」
賛成! 賛成! 大賛成!
早いトコ、靴を脱ぎてぇよ!
そんなワケで俺たちは、ラルゥの提案に乗っかり、レンガ造りの二階建て自警団屯所から、ゆっくりと立ち去った。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
王子妃だった記憶はもう消えました。
cyaru
恋愛
記憶を失った第二王子妃シルヴェーヌ。シルヴェーヌに寄り添う騎士クロヴィス。
元々は王太子であるセレスタンの婚約者だったにも関わらず、嫁いだのは第二王子ディオンの元だった。
実家の公爵家にも疎まれ、夫となった第二王子ディオンには愛する人がいる。
記憶が戻っても自分に居場所はあるのだろうかと悩むシルヴェーヌだった。
記憶を取り戻そうと動き始めたシルヴェーヌを支えるものと、邪魔するものが居る。
記憶が戻った時、それは、それまでの日常が崩れる時だった。
★1話目の文末に時間的流れの追記をしました(7月26日)
●ゆっくりめの更新です(ちょっと本業とダブルヘッダーなので)
●ルビ多め。鬱陶しく感じる方もいるかも知れませんがご了承ください。
敢えて常用漢字などの読み方を変えている部分もあります。
●作中の通貨単位はケラ。1ケラ=1円くらいの感じです。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界の創作話です。時代設定、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
【完】愛人に王妃の座を奪い取られました。
112
恋愛
クインツ国の王妃アンは、王レイナルドの命を受け廃妃となった。
愛人であったリディア嬢が新しい王妃となり、アンはその日のうちに王宮を出ていく。
実家の伯爵家の屋敷へ帰るが、継母のダーナによって身を寄せることも敵わない。
アンは動じることなく、継母に一つの提案をする。
「私に娼館を紹介してください」
娼婦になると思った継母は喜んでアンを娼館へと送り出して──
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる