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左道四天王見参 《第七章》
其の拾
しおりを挟む「すまんが、まだ儂らの目的は果たしておらんで。もう少し……いや、地獄までつき合ってもらうぞ。ちなみにお前さんらに拒否権はないゆえ、悪しからず」と、獰悪に嗤う杏瑚。
「そうだ、よもや俺たちが『苦界島』までやって来たワケを、忘れたのではあるまいな! 旧釈迦門での借りを、返すためだ! 今度こそ、尋常に勝負しろ!」と、いきり立つ栄碩。
「前も云ったけど、最期を美しく飾りたきゃあ、葬祭費を出し惜しみしないことだねぇ! さもないと醜女もろとも無残な姿で、地面に転がることになるよ!」と、吐き捨てる彗侑。
「だが角女の方は、殺す前に俺が散々可愛がって姦るぜ! 俺にかかりゃあどんなオシトヤカな女でも、あっと云う間にサカリのついた雌犬に陥落だ!」と、不埒な舌を出す倖允。
四悪党の変貌ぶりに、呆然自失の氷澪、妥由羅、太毬。
三日月は、四人の……とくに倖允の血走った目におびえ、あとずさる。
恣拿耶は、こんな悪逆な奴らの身を一時でも案じ、仲間意識すら感じた自分の甘さに、無性に腹が立った。
「ちょ、ちょっと……ヤブ先生! 今更、それはないんじゃないの?」
「姐さん……下がってな。やはり、悪党は悪党。ここで、始末をつけるべきだね」
「ついにやるんすか、姐御……はい、判りました! 巫女さんたち、そういうワケだから、心配すんな! 俺たち皆、あなたと恣拿耶さんの味方だからね! 必ず守って見せるよ!」
氷澪は暗器を袖口にひそませ、妥由羅は無双剣を抜き、太毬は投げ手斧を打ち鳴らす。
先刻までの息の合った連係伎や、丁々発止のやり取りなど、一体どこへ雲散霧消してしまったのか……まさに一触即発、非常に危険な九すくみ状態である。
いや、もう一人を忘れていた。
「あのさ、少し落ち着きなよ、あんたら。子供の喧嘩じゃねぇんだからさ」
燎牙である。
なんとか、武器を突き合わせる皆の興奮を鎮めようと、冷や汗まみれで仲裁する。
「お前さんは、もう用なしじゃ。どこへなりと、消えてかまわんぞ」
杏瑚は呆気なく彼を見放し、顎をしゃくって、早々に退去を促す。
燎牙も一度はうなずいたものの、何故か懐を探りながら、ゆっくりと慎重に、いがみ合う九人の元へ接近する。
「あ、そう……でも、その前に、あんたらに渡したい物があるんだ」
笑顔を若干、強張らせ、膠着する太毬の投げ手斧を、妥由羅の無双剣を、氷澪の暗器を、ソロリソロリと避けて通過する燎牙。
ようやく核心の《左道四天王》と、恣拿耶・三日月の元へたどり着いた彼は、緊張感あふれる皆の顔をぐるりと見回し、無理に笑顔を取りつくろう。
勿体ぶった燎牙の態度に、イラ立つ四悪党。訝る賞金稼ぎ二人と、女付き馬屋。
恣拿耶と三日月も、眉をひそめ、燎牙の出方を待つ。
「このクソ忙しい時に、なんじゃい」
「神妙な顔して……どうした、燎牙」
「土産があるなら、早く出さねぇか」
「俺は、現金の方がうれしいけどね」
直後――燎牙の口調と、表情が激変した。
「……勿論、決まっているでしょう。引導ですよ」
そう云って、燎牙が懐から取り出したのは、【惑乱香粉】だった。操術二手『調香師』が用いる秘薬で、おもに七種の色味に分かれ、その組み合わせにより、千差万別さまざまな効果を発揮する。
そして今、皆の視界一杯にばらまかれた緑青色の粉末が、呼吸器官のみならず、皮膚からも素早く吸収され、次の瞬間、九人は猛烈な眠気に襲われた。
そして初めに、最もか弱い三日月が……次いで、病み上がりの恣拿耶が昏倒した。
「クソッ……これは!」
「き、貴様……何故!?」
「そんな、莫迦な……」
「おのれ、南無三……ぐぅ」
氷澪も、妥由羅も、太毬も、わけが判らぬまま次々と失神。一番頑健な《左道四天王》が、最後まで残ったものの、抵抗空しく……到頭、思わぬ伏兵の手に堕ちてしまった。
操術師の彗侑も、この【惑乱香粉】は用いるのだが、今度ばかりはまんまと、してやられてしまった。
その時、薄れ往く意識の境目で、四悪党はかすかに見たような気がした。
彼らの顔をのぞきこみ、さも愉快げに笑っている男の姿を……それは燎牙ではなく『薩唾蓋迷宮』の港で別れた、【白風靡族】の楽師《夜落籍しの匝峻》だったような……暗転。
《第七章》完
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