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『其の拾八』

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「下らん戯言は、そこまでにしろ! それはすべて貴様の願望、妄想にすぎんだろう!」
 遼玄りょうげんは激昂、悪相をさらにゆがませ、床板を殴った。
 雲嶺火うねびの口元に、笑みが浮かぶ。
 直後『青竜殿せいりゅうでん』と『玄武殿げんぶでん』の方角から、凄まじい爆発音がとどろき渡った。さらに『白虎殿びゃっこでん』と『朱雀殿すざくでん』の二方向からは、刺客連の断末魔の悲鳴が、確かに聞こえて来たのだ。
 これに慄然となって、思わず立ち上がる遼玄。
「そんな……莫迦ばかな!」
 雲嶺火の瞼からは、泪が一筋こぼれ落ちる。
 仲間は皆、泥梨ないりへ先駆けた模様……その悲しみをぬぐい捨て、雲嶺火は己に喝を入れた。
 そして、ようやく開いた瞳。
 そこには、かつてない強烈な闘志が、満々とみなぎっていた。
 雲嶺火は、遼玄に向けて、こう云い放った。
「さて……大分、時間をかけたな。話はここまでにして、そろそろ決着をつけるとするかい」
 かたわらの『断骨刀だんこつとう』を手に、立ち上がった雲嶺火は、すでに気合充分。
黄泉離宮こうせんりきゅう】の湖岸、抹香宗僧兵団まっこうしゅうそうへいだんの陣地では、相変わらず彼の使鬼しきが、獰猛どうもうかつ凶悪に暴れ回っている。隠形鬼道術師おんぎょうきどうじゅつしである雲嶺火が、つまり主人が死なぬ限り、牛頭鬼ごずきは全力で命令を全うする。神祇官じんぎかんの数も、ついに残り百余……なんと、大半が蹴散らされていた。
    
 実に恐ろしい鬼業きごうである。
 それを操る雲嶺火もまた、常人離れした禍力かりきの持ち主と云えた。今や神祇府の操る、戦闘狂と化した遼玄にとっては、厄介であると同時、とてもり甲斐のある相手でもあった。
「ふふ、面白い……一対一の尋常な勝負だな。勝った方が、娜月姫なつきひめの所有権を獲得する」
「娜月は物じゃねぇ! だが……てめぇら腐れ外道になんざ、死んでも渡さねぇぞ!」
 直後、断骨刀を振りかざした雲嶺火。
おん!」
 遼玄も早速、『千剣柩せんけんひつぎ』を発動させる。
 まばゆい光線が遼玄の背中の榧木箱かやきばこから放出され、虚空を縦横無尽に乱舞する。住劫楽土じゅうこうらくどの剣術国伎十部門中、最強と目される【立刀千派りっとうせんぱ】の操剣術そうけんじゅつ……それが、たった一人の赤毛盗賊相手に、襲撃準備を整える。遼玄自身は一時後退し、様子をうかがう心算つもりらしい。
 悠々と高みの見物である。
神逆者しんぎゃくしゃを八つ裂きにしろ!」
 遼玄の刺々しい主命通り、千剣は的確に雲嶺火を狙った。
 前後左右八方から、四尺三寸の白銀光が、空を斬って急接近。雲嶺火は、巨大な断骨刀一本で、これに応戦しなければならない。しかし――キィン、キィン……と、続けざまに、耳障りな金属音を響かせ、火花を散らし、雲嶺火は難なく、最初の千剣攻撃を弾き返した。
 それでも遼玄は眉ひとつ動かさず、逆に余裕綽々の態度で、雲嶺火の健闘に拍手を送る。
「中々やるな、舎利焼しゃりくべの雲嶺火。だが、今のはホンの手始めにすぎんぞ。千剣も、使用したのは八本だけだしな。では、倍々に数を増やしていったら、どうなるか……ふふ、いつまで持ちこたえられるか、試してみよう」と、悪相を、さらに悪逆な笑みでゆがめ、うそぶく遼玄。それと同時、千剣は十六本へ倍増され……主命は忠実かつ正確に即行された。
 だが、雲嶺火も負けてはいない。
 国中くぬち最大で、重量感もたっぷりある六尺二寸の断骨刀を、軽々とふるい、先刻より鋭敏に、迅速に舞った。そう……それはまさしく、舞踊と呼べるあざやかさだった。に通ずると云うが、雲嶺火のたいさばきは、見る者を魅了するほど洗練されて美しかった。豪快で多少、荒削りな部分もあったが、それでも下賤の盗賊風情ふぜいと、莫迦にできるものでない。
 変則的な軌道を描き急襲する白銀の刀剣は、次々と打ち返され、周辺板壁に刺さった。
 ここも勿論、鉄板入りである。
シャアァァァアァァァァアッ!」
 猛々しい雄叫び上げて、雲嶺火は最後の一本を薙ぎ払った。すると十六本目は、まっすぐ遼玄めがけて飛んで往き、ピタリ……彼の悪相、わずか一寸前のところで、急停止した。
 ところが、遼玄はまったくひるまず、顔色を変えることもない。
 いや、それどころか、彼はその一剣を反転させ、柄をつかむと、いよいよ挑発的に嗤った。
「大した腕だよ、雲嶺火。見世物としては最高だ。しかし、次は三十二本だぞ。頑張れ」
 悪意に満ちた声で発破をかけ、にぎった一剣で雲嶺火を指す。
 再三みたび、千剣猛攻撃が始まった。
 遼玄が〝倍々に増やす〟と宣告した通り、今度は三十二剣を、相手にせねばならない。
 すでに前二回の防御へ専心するあまり、雲嶺火の体力は、大分殺がれていた。
 雲嶺火は、それを精神力でおぎなった。
 さらに切れのある動きで、全身を使い、回転し、近づくもの皆、はね飛ばした。
 竜巻のような刃風はかぜが、さすがに遼玄を瞠目どうもくさせる。
 円周で、白銀の火花が散り、千剣操術はことごとく、たった一人に打破された。
 かと、思いきや――、
「死ねぇぇえっ!」
 飛び交う千剣の合間を縫い、雲嶺火の手圏まで飛びこんで来た遼玄が、鋭い一剣を突き出した。三十二剣の脅威から、ようやく解放された刹那、今度は斯様な不意打ちである。
 雲嶺火は寸暇で、急所だけ外すのが精一杯だった。閃く切っ先が、左肩口を刺し貫く。
「ぐはぁっ……!」
 遼玄の怪腕強力に押され、ともに虚空を蹴って後退した雲嶺火は、背後の板壁に一剣で、打ちつけられてしまった。院内のあちこちに散った千剣は、この好機を見逃さず雲嶺火へ総攻撃を仕掛けた。殺意を秘めて迫り来る白銀の流星群……まさに絶体絶命の窮地である。
「ぐおおぉぉぉおぉぉぉぉおっ!」
 雲嶺火は慟哭し、刃のない断骨刀で、目前の敵方・遼玄を殴打。
 凄まじいまでの衝撃を受けて、遼玄の巨体は奥の院反対側の板壁まで、吹っ飛ばされてしまった。すかさず雲嶺火は走り出し、一剣の柄の方から、体を貫通させ、引き抜いた。
 剣につばが、なかったことも幸いした。けれど……鬼の形相で吠え、疾駆する雲嶺火の傷口は、ムチャが祟って広がり、大量の血液が流れ出し、彼自身に堪えがたい苦痛を与えた。
 それをも押し殺し、雲嶺火はひたすら殺手さって撃退に努めた。
 追いすがる千剣、煌めく殺意、その数三百余、これではさすがに、断骨刀一本で振り払うことは不可能だ。一刻も早く本体……つまり術者である遼玄を、消さねばならなかった。
「あまり、皆を待たせちゃ悪いからな! 今度こそ一緒に、死門しもんをくぐってもらうぜ!」
 雲嶺火は断骨刀を真横にかまえると、遼玄の体を壁板とはさむようにして、彼の躯幹を二つに折った。丁度、鳩尾みぞおちの辺りで、真一文字の打撃を受けた遼玄は、手足を突っ張らせながら、体の中心点を壁板にめりこませた。内臓を痛めたらしく、遼玄も大量に吐血する。
「ぐほっ!」
 次いで雲嶺火は、大人しくなった遼玄の戦袍せんぽうをつかみ、体を回転させる。
 ぐるりと向きを変え、二人の立ち位置を入れ替えたわけだ。こうして、千剣攻撃からの楯にすると同時、遼玄もろとも己の体まで、串刺しにされる覚悟だった。
 ところが、そんな千剣の切っ先を睨みつつ、血染めの口元にほのかな笑みを浮かべた遼玄。雲嶺火の思惑は、呆気なく覆されたのだ。なんと千剣は、瞬時に進路をそらし、背後の板壁へ突き刺さり……あっと云う間に、人型の枠を造り出した。思わぬ結果に、虚を突かれた雲嶺火は、わずかな隙を見せてしまった。
「地獄参りには、貴様一人で赴くがよい!」
 電光石火の早業で、見事な投げ伎を決めた遼玄は、すかさず白銀剣に、宙を舞う雲嶺火のあとを追わせた。物凄い強力で、再び反対側の板壁へ叩きつけられた雲嶺火。彼の手足を、飛来した白銀剣四本が完全に射抜いた。要するに雲嶺火は、大の字に開いた両手足を、白銀剣で貫かれ、磔刑たっけいに処された格好だ。彼の右手から、断骨刀が、ガラリとこぼれ落ちる。
 しかし不屈の赤毛盗賊は、悲鳴どころか声すら上げなかった。肩口と手足を襲う、堪えがたい激痛を必死で噛み殺し、血走った目をむく。その視線の先には、遼玄の姿があった。
 無敵の千剣操術師は、いかにも勝ち誇った表情である。
 壁板の白銀剣を、木箱へ一度すべて回収したのち、あらためて発動準備にかかる。
 だが、今度は一剣ずつである。
 最初に呼び出された白銀光は、主人の周囲を、グルグルと旋回しながら、ただひたすら、命令を待っている模様。遼玄は、髪を振り乱し、全身から血を噴き出し、懸命にもがく雲嶺火の、見るに堪えない惨憺たる姿を、さも愉快げに傍観している。そして、かくのたまった。
「我が同朋を傷つけ、煩わせた罪は重い。しかし、遺骸の一部でも残っていれば、黄泉こうせんに浸けることで、我らは何度でも再生できるのだ。そう考えれば……うむ、むしろ貴様の仲間に同情するぞ。莫迦な親玉のせいで、ひとつしかない大切な命を、安易に捨て去ってしまったわけだからな。いや、これもすべて、鬼憑き罪人《娜月姫》の咎か。恨むなら、あの鬼面女を恨みながら、あの世とやらへ旅立つがよい。但し死ぬ前に、とくと我が千剣地獄を味わってもらおう。貴様の体を、生きたまま、指先から少しずつ、寸刻みにしてやる。それが嫌なら、娜月姫の居場所を、早々に吐くことだな。さすれば、多少は楽な死に方を、選ばせてやるが……さて、どうする? もう、あまり時間は残されていないぞ! く選べ!」
 鬼の形相で激語する遼玄……無慈悲すぎる二者択一……彼の焼け爛れた悪相は、それでもかつては、娜月姫に対する慈愛や、弱者に対する正義感で満ちあふれ、輝いていた。
 それが今では、すっかり【抹香宗僧兵団】の調伏呪法ちょうぶくじゅほうで、空蝉うつせみを穢され、陥落され、憎んでも憎みきれない仇敵に、酷使されるだけの傀儡兵かいらいへいだ。生前の意思など抹消され、わずかな余命『四十九日忌』を、ひたすら神祇府の命令通り動くだけの、操り人形にすぎない。
 それはもう、憐れとしか云いようがない。
 雲嶺火の瞳に、熱い思いがこみ上げて来た。
 怪訝けげんそうに、遼玄が赤毛盗賊を睨む。
「今更、なにを泣く? 後悔しても、手遅れ」
「遼玄……あんた、可哀相な男だね。娜月に惚れてるこたぁ一目瞭然だったが、いつか向こうで娜月に会った時、なんて詫びを入れる心算だい。まぁ、娜月は優しいからな。お前らの所業も、すべて許してくれるだろうさ。いや……それ以前に、お前らと娜月が、同じところへ逝けるワケがねぇよな。娜月は空劫浄土くうこうじょうどへ、お前らは壊劫穢土えこうえどへ……尤も今のお前らは、空蝉泥棒の偽者だったっけなぁ。本物の自我があれば、まかりまちがっても娜月を〝鬼憑き罪人〟呼ばわりできるはずがねぇ。そう思ったら、お前らが憐れで、惨めで、泪が止まらなくなっちまったのさ」と、遼玄のセリフをさえぎるように、荒く息つきながら、しみじみと長広舌ちょうこうぜつをのべた雲嶺火。
 彼の瞳から、また一粒、泪がこぼれ落ちた。雲嶺火は続ける。
「娜月は死んだよ。昨晩、自害したんだ。俺たち皆に、そして【降魔十二道士ごうまじゅうにどうし】に、申しわけないってな……遺骸は、決してお前らの手に渡らぬよう、重石おもしをつけて黄泉に沈めたぜ」
 遼玄は、怒り心頭で一剣を放った。それは、雲嶺火の左腕を貫通した。
「国賊が……つまらん出まかせを!」
 次いで二投目……これも的確な軌道を描き、雲嶺火の右脇腹をえぐった。
 おびただしい血飛沫ちしぶきが、雲嶺火の体力を殺ぎ、なえさせる。
「さぁ、これ以上、無駄な手間をかけさせず、さっさと鬼面女の行方を明かせ! それとも、もっと苛烈な生き地獄を味わいたいか!」と、今度は、続けざまに三剣が発射された。
 雲嶺火の足首、大腿部、肩口を削り、板壁へ深々ふかぶかと突き刺さる。それでも、雲嶺火は声を出すまいと、舌を噛んで吐血した。
 誰もが目をそむけたくなるほど、残忍無比な拷問だ。
 しかし雲嶺火は、恐るべき精神力で痛みを凌駕し、千剣地獄の責め苦に堪え抜いた。
 そして己の身を顧みず、遼玄の怒りの火に、さらなる油を注ぐかの如く、こう宣言した。
「くっ……信じるも信じないも、あんたの勝手だが……遼玄! これだけは、はっきりさせとく! 娜月は〝鬼憑き罪人〟なんかじゃねぇ! 【降魔教がまきょう】も邪教なんかじゃねぇ! 本当の〝鬼〟は、お前らを操る神祇府の中にこそ、存在してるんじゃねぇのかい! 莫迦げた悪法発布して、無力な民草たみくさを苦しめるのは、好い加減やめたらどうだ! 聖戒王せいかいおう!」
 雲嶺火が発散した血まじりの義憤は、今や、遠い【劫初内ごうしょだい】の御殿で、悠然と吉報を待つだけの、非道な《神祇大臣じんぎだいじん》に向けられていた。遼玄は怒気で、ワナワナと体を震わせた。
 直後、背中の榧木箱から、これまでで最も大量の光線が噴出。
 凄烈な勢いで、一挙に鉄板入りの天井板を、さらに屋根までを突き破った。そうして、すぐに舞い戻った千剣は、遼玄の周囲に正確な円陣を刻み、次の命令を辛抱強く待っている。
 ぽっかり開いた天井穴から、さやけき月光が降り注ぐ。
 今宵は満月……雲嶺火は、そこに愛しい女の面影をかさね、いよいよ覚悟を決めた。
「あくまで罪人をかばい、居場所を教える気にはならぬか……ならば詮方ない! 貴様は、もう用済みだ! 我が千剣の奥義、すべてを駆使して、貴様を地獄へ送りこんでやる!」
 遼玄の激昂ぶりは、尋常でなかった。
 すぐさま一塊に密集し、巨大な砲弾と化した千剣。
 雲嶺火めがけて、物凄い勢いで発射される。死にざまは、悲惨なものとなるだろう。
〈御頭……抜かりなく罠は仕掛けたものの、我らの誘いに、何匹が喰いつくか判りません。もしかすると四散せず、彼奴きゃつらは皆で、奥の院へ攻めこむやもしれませんぞ。その時は〉
〈俺が一番に死ぬ。それだけのことだ〉
〈簡単に云ってくれるな、御頭! それでは手下として、わしらの立場がなくなるわい!〉
〈そうだぜ、御頭! 俺たちぁ、姫さんのためじゃねぇ! あんたのために、命を張ってるんだ! できれば……俺たちが十二外道の相手をしてる間に、あんたと姫さんだけでも、無事に逃げ延びてくれりゃあ……俺たちぁ、それだってかまわねぇんだ! そして神祇府の手も届かねぇような、遠いどこかに隠れて、二人で幸せに暮らしてってくれりゃあ……〉
〈莫迦なこと云うな! 死ぬ時は一緒だって、約束したじゃねぇか! それに……元々こうなった責任は、すべて俺にあるんだ! 最も罪深い俺だけが生き延びて、なんになる!〉
〈けどよぅ、御頭……それじゃあ姫さんが、あんまり可哀相だぜ? せめて御頭だけでも生き延びて、今後の姫さんを、しっかりと守ってやんなきゃ……神祇府や抹香宗のクソどもからな。奴ら執念深いし、姫さんは世間知らずだし、あの御面相じゃあ、人前にも出られねぇし……八方ふさがりになっちまうぜ? それこそ悲観して、自害でもされたら、ワイらのしたことが、全部無駄になるんだ。そんなの哀しすぎるよ……あんまり憐れだよ……〉
〈だからこそ我々は命懸けで刺客連中を、おびき寄せる必要があるのです。それぞれの地獄部屋へ、完全に幽閉する必要があるのです。御頭だけは、無駄死にさせないようにね〉
牙奄斎がえんさい丹慙坊たんざんぼう下下八げげはち幻麼げんま……ありがとう。娜月のことは確かに気がかりだが、あいつはきっと、大丈夫……なんつぅか、あとは天帝てんていが、どうにかしてくれるにちがいねぇ。ただ、今の言葉が聞けただけで、俺の生涯に悔いはねぇよ。これまで「御頭」と呼んでくれて、本当に感謝するぜ。けど、お前らは〝手下〟なんかじゃねぇ。最高の〝仲間〟だったよ〉
〝最高の仲間〟と交わした、決戦前最期の会話が、雲嶺火の胸に蘇り、彼の魂を浄化した。
 最早、どんな死にざまも、恐れるに足りぬ。
「死ねぇ! 外道!」
 遼玄の怒声が聞こえる。
 凄まじい光の渦が、近づいて来る。
 その中に、先立った四人の姿が見える。
〈すまねぇ、皆……結局、一人も倒せずじまいで、皆の元へ逝かにゃあならねぇ。今まで盗賊【雷鳴レイション】の頭目を名乗って来た男が、情けねぇったらありゃしねぇぜ。それでも向こうで会った時は、どうか笑って迎えてくんなよ。そして皆の武勇伝を、聞かせてくんなよ〉
 その時だった。
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