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ようやく目覚めた少女
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「……外? 私、確か檻に閉じ込められてたよね……じゃあ、まだ夢なのかな……?」
「ようやく目覚めたか、娘よ」
まだ夢と現実を行き来しているらしい少女に、サーガムは改めて声をかけた。それでやっと彼女は、彼の存在に気付いたらしい。
「えっ、誰?」
ほとんど距離を置かず、間近で見つめ合う。大きな瞳は黒目がちで、鼻はあまり高くないが全体に愛嬌がある顔だ。
「うわぁ、イケメン!?」
少女は何を思ったのか彼女をおぶっているサーガムから、勢いよく上半身を離れさせた。自然、後ろに重心を取られることになり、ひっくり返らないよう手を振り回してなんとかバランスを取っている。
「あわ、あわわわっ」
少女の頭が逆さまになる前に、サーガムは彼女は地面に降ろしてやった。
「あ、どうも……」
なぜだか顔を赤くして、礼を言ってくる。
「余は、サーガム。貴様を、あの屋敷より救い出した者だ」
状況が理解できていないだろう娘に、簡潔にに説明をする。
「サーガム……さん? そうだったんですか。私、ずっと眠ってたもんでなにがなにやら」
あはは、と誤魔化すように笑って、少女は頭を掻いた。それから、村の様子が目に入ったようで、
「ほんとだ。みんな家に帰れたんだ。よかったぁ。あの、ほんとにありがとうございました」
終始緊張感のなかった顔から神妙な面持ちに変わり、少女は先程より深々と頭を下げてきた。が、
「酷いんですよ? あそこ美味しいご飯が食べられるって聞いたのに、出されたのはまっずいスープばっかりで。ほんとありえないですよね」
顔を上げるとまた、緩んだ表情に戻っている。
(どうにも、この娘とは調子が合わぬな)
出会ってすぐだが、サーガムはそう確信した。
「娘よ、まだ名を訊いておらぬな」
「あぁっ、ごめんなさい! ですよね。まずは自己紹介ですよね」
サーガムが指摘すると、少女は衣服の埃を払い、咳払いなどしてから名を名乗った。
「私、ユウナギ・マコトって言います。マコトって読んでください」
「マコトか。承知した」
「はい、よろしくお願いします」
自己紹介というからには、続きがあるのだろうと待つ。
「……」
「……」
しかし、数十秒間沈黙だけが続いた。耐えきれずに、促す。
「……それで?」
「それで?」
口にした言葉をそのまま繰り返されて、サーガムは確信を深めた。こちらの意図を理解しても貰えなければ、相手の考えを読み取ることもできない。
「マコトよ、貴様はどこからやって来たのだ? 答えるなら家まで送ってやろう」
とにかくこの少女には全て口に出して説明してやらねばならないと悟り、はっきりと尋ねる。
「いや~それはすごくありがたいんですけど、ひとつ問題がありまして」
マコトは、頭に手を当てて苦笑をした。これだけ噛み砕いても、まだ答えが聞けないことに内心苛立ちを覚えつつ、それを外には出さずに再び訊く。
「問題? 問題とはなんだ?」
「私、自分のこと名前しか覚えてないんですよね。もちろん家も」
マコトの答えは予想外であり、衝撃的だった。思わず呻いてしまう。
「なっ、なんだと?」
「気が付いたら、あの森で寝てて。ちょっと臭いおっさ――おじさんに、美味しい食事と柔らかいベッドあるって言われて付いてったら、くそ狭い檻に閉じ込められちゃって。それより前のことは、なーんにも思い出せないんです」
記憶喪失というものがあるらしい。強い衝撃を受けた時などに、記憶の一部や全てを失くしてしまう症状だという。
「そうであったのか。知らぬこととはいえ、それはすまぬことを訊いたな」
詫びながら、マコトのあっけらかんとした言動は、そのためであったのかも知れないとサーガムは思い至った。辛い境遇を考えてしまわぬ様に、努めて明るく振る舞っていたのだろう。
「いえ、ほんとになにも思い出せないんで、思い出せなくて悲しいっていうこともないっていうか」
「よい、みなまで言う必要はないぞ」
気丈に振る舞おうとしている姿が返って痛々しく映り、サーガムは手で制止した。こんな状況で、にやけただらしない笑みなど普通できないだろう。
「余が、責任を持って貴様の住処を見つけてやろう」
サーガムは宣言して、マコトの肩に手を置いた。
「サーガム様、それは少し安請け合いではないですか? 我々は人間――この辺りの事情に疎いですし、ココハンザの警備隊にでも預けた方がよいのでは?」
もっともらしいエルタの進言を、しかしサーガムは却下した。
「なにを言う、エルタ。乗りかかった船だ。この程度完遂できぬようでは、勇者はほど遠いぞ」
「あのー、厚かましいかもしれないですけど、そうして貰えると助かります。誰を頼ったらいいのかも、わからないんで」
やや遠慮がちに、マコトはサーガムの申し出に応じてきた。珍しく小さな声で、付け加えてくる。
「サーガムさんは、いい人そうだし……」
「うむ、勇者であるからな。万事、余に任せておくがよいぞ」
上機嫌で笑っていると、エルタが修正して水を差してくる。
「サーガムは、未だ勇者ではございませんが、勇者を目指しておいでです」
意見を却下した意趣返しかもしれない。
サーガムは、村の村長に近隣の村にマコトを知っている者がいないか調べて欲しいと頼み、ギルドに戻ることにした。
こちらに来る時には翼を出して飛んで来た。マコトを抱えて飛ぶことも容易ではあったが、ただでさえ混乱している彼女をこれ以上困惑させることもあるまいと、サーガムは徒歩で帰ることにした。今は夜が明けたばかり、日が沈むまでにはココハンザにたどり着くだろう。
「ようやく目覚めたか、娘よ」
まだ夢と現実を行き来しているらしい少女に、サーガムは改めて声をかけた。それでやっと彼女は、彼の存在に気付いたらしい。
「えっ、誰?」
ほとんど距離を置かず、間近で見つめ合う。大きな瞳は黒目がちで、鼻はあまり高くないが全体に愛嬌がある顔だ。
「うわぁ、イケメン!?」
少女は何を思ったのか彼女をおぶっているサーガムから、勢いよく上半身を離れさせた。自然、後ろに重心を取られることになり、ひっくり返らないよう手を振り回してなんとかバランスを取っている。
「あわ、あわわわっ」
少女の頭が逆さまになる前に、サーガムは彼女は地面に降ろしてやった。
「あ、どうも……」
なぜだか顔を赤くして、礼を言ってくる。
「余は、サーガム。貴様を、あの屋敷より救い出した者だ」
状況が理解できていないだろう娘に、簡潔にに説明をする。
「サーガム……さん? そうだったんですか。私、ずっと眠ってたもんでなにがなにやら」
あはは、と誤魔化すように笑って、少女は頭を掻いた。それから、村の様子が目に入ったようで、
「ほんとだ。みんな家に帰れたんだ。よかったぁ。あの、ほんとにありがとうございました」
終始緊張感のなかった顔から神妙な面持ちに変わり、少女は先程より深々と頭を下げてきた。が、
「酷いんですよ? あそこ美味しいご飯が食べられるって聞いたのに、出されたのはまっずいスープばっかりで。ほんとありえないですよね」
顔を上げるとまた、緩んだ表情に戻っている。
(どうにも、この娘とは調子が合わぬな)
出会ってすぐだが、サーガムはそう確信した。
「娘よ、まだ名を訊いておらぬな」
「あぁっ、ごめんなさい! ですよね。まずは自己紹介ですよね」
サーガムが指摘すると、少女は衣服の埃を払い、咳払いなどしてから名を名乗った。
「私、ユウナギ・マコトって言います。マコトって読んでください」
「マコトか。承知した」
「はい、よろしくお願いします」
自己紹介というからには、続きがあるのだろうと待つ。
「……」
「……」
しかし、数十秒間沈黙だけが続いた。耐えきれずに、促す。
「……それで?」
「それで?」
口にした言葉をそのまま繰り返されて、サーガムは確信を深めた。こちらの意図を理解しても貰えなければ、相手の考えを読み取ることもできない。
「マコトよ、貴様はどこからやって来たのだ? 答えるなら家まで送ってやろう」
とにかくこの少女には全て口に出して説明してやらねばならないと悟り、はっきりと尋ねる。
「いや~それはすごくありがたいんですけど、ひとつ問題がありまして」
マコトは、頭に手を当てて苦笑をした。これだけ噛み砕いても、まだ答えが聞けないことに内心苛立ちを覚えつつ、それを外には出さずに再び訊く。
「問題? 問題とはなんだ?」
「私、自分のこと名前しか覚えてないんですよね。もちろん家も」
マコトの答えは予想外であり、衝撃的だった。思わず呻いてしまう。
「なっ、なんだと?」
「気が付いたら、あの森で寝てて。ちょっと臭いおっさ――おじさんに、美味しい食事と柔らかいベッドあるって言われて付いてったら、くそ狭い檻に閉じ込められちゃって。それより前のことは、なーんにも思い出せないんです」
記憶喪失というものがあるらしい。強い衝撃を受けた時などに、記憶の一部や全てを失くしてしまう症状だという。
「そうであったのか。知らぬこととはいえ、それはすまぬことを訊いたな」
詫びながら、マコトのあっけらかんとした言動は、そのためであったのかも知れないとサーガムは思い至った。辛い境遇を考えてしまわぬ様に、努めて明るく振る舞っていたのだろう。
「いえ、ほんとになにも思い出せないんで、思い出せなくて悲しいっていうこともないっていうか」
「よい、みなまで言う必要はないぞ」
気丈に振る舞おうとしている姿が返って痛々しく映り、サーガムは手で制止した。こんな状況で、にやけただらしない笑みなど普通できないだろう。
「余が、責任を持って貴様の住処を見つけてやろう」
サーガムは宣言して、マコトの肩に手を置いた。
「サーガム様、それは少し安請け合いではないですか? 我々は人間――この辺りの事情に疎いですし、ココハンザの警備隊にでも預けた方がよいのでは?」
もっともらしいエルタの進言を、しかしサーガムは却下した。
「なにを言う、エルタ。乗りかかった船だ。この程度完遂できぬようでは、勇者はほど遠いぞ」
「あのー、厚かましいかもしれないですけど、そうして貰えると助かります。誰を頼ったらいいのかも、わからないんで」
やや遠慮がちに、マコトはサーガムの申し出に応じてきた。珍しく小さな声で、付け加えてくる。
「サーガムさんは、いい人そうだし……」
「うむ、勇者であるからな。万事、余に任せておくがよいぞ」
上機嫌で笑っていると、エルタが修正して水を差してくる。
「サーガムは、未だ勇者ではございませんが、勇者を目指しておいでです」
意見を却下した意趣返しかもしれない。
サーガムは、村の村長に近隣の村にマコトを知っている者がいないか調べて欲しいと頼み、ギルドに戻ることにした。
こちらに来る時には翼を出して飛んで来た。マコトを抱えて飛ぶことも容易ではあったが、ただでさえ混乱している彼女をこれ以上困惑させることもあるまいと、サーガムは徒歩で帰ることにした。今は夜が明けたばかり、日が沈むまでにはココハンザにたどり着くだろう。
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