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栞の根付猫にもがれて夜長
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しおりのねつけ ねこにもがれて よなが
前回の句を遂行している間に起きた出来事を詠んだ句。七・七・三の破調になっています。
今回は、スピンがついていない本を読んでいたときのお話。旅行先で記念に買った栞があったので、それを使っていました。「し」の字を逆さまにしたような形の金属製のもので、カーブしているところを本の頭に引っ掛けて使うものです。
その栞にはカーブの外側部分に木製の根付(飾り)が付いているのですが、これがぷらぷらと揺れます。そこへ猫パンチが炸裂。
見事、一撃でもぎ取られました。
栞の本体部分は無事だったので使用には問題なかったのですが、もげた根付が哀愁を放つことに。
と、こうした出来事が、前回の句で「栞紐」か「スピン」かで悩んでいる最中に起きたので、いっそこちらの状況を詠む句にしてしまおう、と一時期思っていたわけです。厳密には違うけれど、状況が大体似ていたので。
が、前回書いたように、「背表紙の紐」を使えば紐のほうは独立した一つの句にできる、と考え、分離して句を2つ作ることにしました。
というわけで、根付のほうの句の推敲過程ですが……
読書の秋栞の根付もいだ猫
秋の猫栞の根付もぎとって
〇〇〇〇〇根付を猫がもいだ秋
家猫の栞の根付もいだ秋
家猫に栞の根付もげる秋
長き夜栞の根付もいだ猫
長き夜栞の根付猫がもぐ
長い夜猫が栞を引きちぎり
秋深し栞の根付を猫がもぎ
栞の根付猫にもがれし夜長
栞の根付猫にもがれて秋思
猫のもいだ栞の根付に秋思
長き夜栞の根付は猫がもぎ
秋思う猫が栞の根付もぎ
秋思う栞の根付を猫がもぎ
猫がもいだ栞の根付に秋思う
こんな感じです。
尚、「捥」(「もぐ」の「も」)という漢字が環境依存文字のため、該当箇所は平仮名表記にしてあります。推敲中は漢字にしたものもちらほら。漢字にすると重くなってしまい、平仮名だと助詞の平仮名に紛れてしまうというジレンマがありました。ちなみに、今の形「栞の根付猫にもがれて夜長」は、平仮名です。
前回お話しした、「読書の秋」を使うと本に関する情報がダブつく、という問題が、最初の形「読書の秋栞の根付もいだ猫」にも出てきています。今回は「栞」とはっきり出てくるので、他に秋を示す季語があれば、読書の秋だということは連想できるようになります。
なので、2番目以降の形では「読書」を削った、のですが、そこからしばらく、削った分で何を入れるか、という問題に悩むことになります。「秋思う」や「長き夜」を使った形が出てくるのはこのため。でも、自分でやっていて、音数を埋めるためだけに無駄に長い季語を使っているな、というのが分かってしまい、納得できず。
そうこうするうちに、別の問題も浮上してきます。その一つが、何を中心にした句にするのか、ということ。例えば、「~もいだ猫」で終わる形は猫を中心に詠んでいることになります。でも、この句の主人公が猫で良いのか。むしろ、根付を取られてしまった栞のほうが主役ではないのか。こう悩み始めて、さらに納得できなくなりました。
この主役問題から出てきたのが、「猫もぎし根付の栞長き夜」や「長き夜猫にちぎられた栞」といった形。後者のほうが栞に焦点が当たりますが、前者も、根付けをもがれた栞にとっての長い夜、という風にもできるので、やはり栞が主役になります。
しかし、ここにも難点が。「栞」と言われて最初から根付がついたものを想像する人は、なかなかいません。普通は紙のものを思い浮かべるはずで、そうなると、「根付」の文字を見たときに違和感を持たれてしまいかねないのです。このことをネックにしないためには、根付のある栞なのだという情報をなるべく早い段階で示してイメージの壁を低くする必要があります。
その観点からできた形が、「栞の根付猫にもがれし夜長」と「栞の根付猫にもがれて秋思」でした。これが波長の形になったので、五・七・五の形も模索して以降の候補を作ってみたのですが、上手くいかず。
結局、「栞の根付猫にもがれし夜長」の「もがれし」を「もがれて」に変えて今の形のものが出来上がりました。「もがれて」にしたのは、もがれたという受身系の動作が完了した形にする必要があるからで、季語を「夜長」にしたのは読書の秋だという含意をより強めるためです。
ちなみに、もげた根付は接着剤で付け直しました。
前回の句を遂行している間に起きた出来事を詠んだ句。七・七・三の破調になっています。
今回は、スピンがついていない本を読んでいたときのお話。旅行先で記念に買った栞があったので、それを使っていました。「し」の字を逆さまにしたような形の金属製のもので、カーブしているところを本の頭に引っ掛けて使うものです。
その栞にはカーブの外側部分に木製の根付(飾り)が付いているのですが、これがぷらぷらと揺れます。そこへ猫パンチが炸裂。
見事、一撃でもぎ取られました。
栞の本体部分は無事だったので使用には問題なかったのですが、もげた根付が哀愁を放つことに。
と、こうした出来事が、前回の句で「栞紐」か「スピン」かで悩んでいる最中に起きたので、いっそこちらの状況を詠む句にしてしまおう、と一時期思っていたわけです。厳密には違うけれど、状況が大体似ていたので。
が、前回書いたように、「背表紙の紐」を使えば紐のほうは独立した一つの句にできる、と考え、分離して句を2つ作ることにしました。
というわけで、根付のほうの句の推敲過程ですが……
読書の秋栞の根付もいだ猫
秋の猫栞の根付もぎとって
〇〇〇〇〇根付を猫がもいだ秋
家猫の栞の根付もいだ秋
家猫に栞の根付もげる秋
長き夜栞の根付もいだ猫
長き夜栞の根付猫がもぐ
長い夜猫が栞を引きちぎり
秋深し栞の根付を猫がもぎ
栞の根付猫にもがれし夜長
栞の根付猫にもがれて秋思
猫のもいだ栞の根付に秋思
長き夜栞の根付は猫がもぎ
秋思う猫が栞の根付もぎ
秋思う栞の根付を猫がもぎ
猫がもいだ栞の根付に秋思う
こんな感じです。
尚、「捥」(「もぐ」の「も」)という漢字が環境依存文字のため、該当箇所は平仮名表記にしてあります。推敲中は漢字にしたものもちらほら。漢字にすると重くなってしまい、平仮名だと助詞の平仮名に紛れてしまうというジレンマがありました。ちなみに、今の形「栞の根付猫にもがれて夜長」は、平仮名です。
前回お話しした、「読書の秋」を使うと本に関する情報がダブつく、という問題が、最初の形「読書の秋栞の根付もいだ猫」にも出てきています。今回は「栞」とはっきり出てくるので、他に秋を示す季語があれば、読書の秋だということは連想できるようになります。
なので、2番目以降の形では「読書」を削った、のですが、そこからしばらく、削った分で何を入れるか、という問題に悩むことになります。「秋思う」や「長き夜」を使った形が出てくるのはこのため。でも、自分でやっていて、音数を埋めるためだけに無駄に長い季語を使っているな、というのが分かってしまい、納得できず。
そうこうするうちに、別の問題も浮上してきます。その一つが、何を中心にした句にするのか、ということ。例えば、「~もいだ猫」で終わる形は猫を中心に詠んでいることになります。でも、この句の主人公が猫で良いのか。むしろ、根付を取られてしまった栞のほうが主役ではないのか。こう悩み始めて、さらに納得できなくなりました。
この主役問題から出てきたのが、「猫もぎし根付の栞長き夜」や「長き夜猫にちぎられた栞」といった形。後者のほうが栞に焦点が当たりますが、前者も、根付けをもがれた栞にとっての長い夜、という風にもできるので、やはり栞が主役になります。
しかし、ここにも難点が。「栞」と言われて最初から根付がついたものを想像する人は、なかなかいません。普通は紙のものを思い浮かべるはずで、そうなると、「根付」の文字を見たときに違和感を持たれてしまいかねないのです。このことをネックにしないためには、根付のある栞なのだという情報をなるべく早い段階で示してイメージの壁を低くする必要があります。
その観点からできた形が、「栞の根付猫にもがれし夜長」と「栞の根付猫にもがれて秋思」でした。これが波長の形になったので、五・七・五の形も模索して以降の候補を作ってみたのですが、上手くいかず。
結局、「栞の根付猫にもがれし夜長」の「もがれし」を「もがれて」に変えて今の形のものが出来上がりました。「もがれて」にしたのは、もがれたという受身系の動作が完了した形にする必要があるからで、季語を「夜長」にしたのは読書の秋だという含意をより強めるためです。
ちなみに、もげた根付は接着剤で付け直しました。
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