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赤蜻蛉猫の「へ」の字の口ぴくり
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あかとんぼ ねこのへのじのくち ぴくり
猫が上を向くと、口のラインが山の形になります。その魅力から生まれた句。
この句で表現したかった状況は、これだけです。
当初、たったこれだけの情報量で句を作るのは無理かな、とも思っていたのですが、あるとき突然「猫の『へ』の字の口」の9音が思い浮かんだことで、一気に現実味を帯びてきました。この9音の前に5音、後に3音を付ければ、それだけで五・七・五の形にできるわけです。
そして、後につく3音のほうが、先にほぼ決定。3音というのは動作を表す言葉か形容詞がぴったりで、「口」に続くことから、「開く」「動く」「ぴくり」「ぱくり」「じゅるり」あたりが順当です。「へ」の字の形のままであれば、「ピクリ」が一番。こうして、12音が埋まりました。
こうなると、前の5音、すなわち上の句の条件も定まってきます。既に決まった12音の中に季語がないため、季語を含む5音、という条件が付きます。そして、「口」につながることから、捕食対象になるものに絞られます。さらに、猫が上を見ているのですから、猫より高い位置にあるもの、という条件が決まります。ここまで細かく条件が決まれば、候補はすぐに出てきます。最初に浮かんだのが「赤とんぼ」でした。
意外と、こういう風に選択肢の幅が狭いほうが作りやすいんですよね……
ちなみに、上の句には他の候補もありました。
例えば、「紋白蝶」。これだと、春のほのぼのとした印象を持たせられるので、「口ぴくり」というオチが持つ印象を強められます。季節柄、子猫を連想することもでき、そうなると、可愛い子猫が野生に目覚めていく姿を連想できるようにもなります。
あるいは、「揚羽蝶」を使うことも可能。その場合、優雅な揚羽蝶に対して猫が襲い掛かっている構図になり、なんだか猫の嫉妬心が垣間見えてきます。
または、「蛍」に何か2音を加えて使う手も。これだと、なんだか、暗闇の中で野生の戦いが繰り広げられているような印象になります。
こんな風に、色々遊ぶ余地のある句になりました。
こうした中で「赤蜻蛉」にしたのはなぜか、というと、最初に浮かんだから、という理由もあるのですが、食欲の秋という季節感から野生味が強まるのではないか、とも考えたからです。
ちなみに、「蜻蛉」を漢字にしたのは、難しい字を見て口を「へ」の字にしている風にもできるかな、と思ってのことでした。そのほうが後の暴行が際立つか、と。
話は変わりますが、実は、俳句ではなぜ季語が必要なのか、と私なりに考えていたことがあります。そこで出た答え、というか憶測は、昔は季節というものが人の長生きを実感させてくれるものだったから。
現代よりも死が身近にあった大昔は、季節の移り変わりに対する感慨が、より強かったはずです。新たな季節を迎えることは、その季節が来るまで自分が生きていられた、ということでもあるわけですから。その感慨の強さが季節を重んじる気持ちを生み、それが、季語を詠む文化である俳句につながったのではないでしょうか。
そして、このように見ると、季語の重要さも見えてきます。
季語の役割は、単に季節感を現わすことだけではなく、その季節まで生きた詠み手自信を讃えるという、重い役割もあるのではないか。だからこそ、季語に意味を持たせるような句を作らなければならないのではないか、と。
もちろん、これは、検証のない仮説です。それどころか、仮定に仮定を重ねているような話です。
しかし、季語を尊重したほうが良い句になるのは確か。ならば、自分の中で季語の重要さを高められるような理屈を考えておいたほうが、創作の上では有用。というわけで、私は以上のように考えています。
などと言いつつ、この句では季語を文字通りに「食って」しまうわけですが。
猫にとっても秋は食欲の秋、ということにしておきましょうか……
猫が上を向くと、口のラインが山の形になります。その魅力から生まれた句。
この句で表現したかった状況は、これだけです。
当初、たったこれだけの情報量で句を作るのは無理かな、とも思っていたのですが、あるとき突然「猫の『へ』の字の口」の9音が思い浮かんだことで、一気に現実味を帯びてきました。この9音の前に5音、後に3音を付ければ、それだけで五・七・五の形にできるわけです。
そして、後につく3音のほうが、先にほぼ決定。3音というのは動作を表す言葉か形容詞がぴったりで、「口」に続くことから、「開く」「動く」「ぴくり」「ぱくり」「じゅるり」あたりが順当です。「へ」の字の形のままであれば、「ピクリ」が一番。こうして、12音が埋まりました。
こうなると、前の5音、すなわち上の句の条件も定まってきます。既に決まった12音の中に季語がないため、季語を含む5音、という条件が付きます。そして、「口」につながることから、捕食対象になるものに絞られます。さらに、猫が上を見ているのですから、猫より高い位置にあるもの、という条件が決まります。ここまで細かく条件が決まれば、候補はすぐに出てきます。最初に浮かんだのが「赤とんぼ」でした。
意外と、こういう風に選択肢の幅が狭いほうが作りやすいんですよね……
ちなみに、上の句には他の候補もありました。
例えば、「紋白蝶」。これだと、春のほのぼのとした印象を持たせられるので、「口ぴくり」というオチが持つ印象を強められます。季節柄、子猫を連想することもでき、そうなると、可愛い子猫が野生に目覚めていく姿を連想できるようにもなります。
あるいは、「揚羽蝶」を使うことも可能。その場合、優雅な揚羽蝶に対して猫が襲い掛かっている構図になり、なんだか猫の嫉妬心が垣間見えてきます。
または、「蛍」に何か2音を加えて使う手も。これだと、なんだか、暗闇の中で野生の戦いが繰り広げられているような印象になります。
こんな風に、色々遊ぶ余地のある句になりました。
こうした中で「赤蜻蛉」にしたのはなぜか、というと、最初に浮かんだから、という理由もあるのですが、食欲の秋という季節感から野生味が強まるのではないか、とも考えたからです。
ちなみに、「蜻蛉」を漢字にしたのは、難しい字を見て口を「へ」の字にしている風にもできるかな、と思ってのことでした。そのほうが後の暴行が際立つか、と。
話は変わりますが、実は、俳句ではなぜ季語が必要なのか、と私なりに考えていたことがあります。そこで出た答え、というか憶測は、昔は季節というものが人の長生きを実感させてくれるものだったから。
現代よりも死が身近にあった大昔は、季節の移り変わりに対する感慨が、より強かったはずです。新たな季節を迎えることは、その季節が来るまで自分が生きていられた、ということでもあるわけですから。その感慨の強さが季節を重んじる気持ちを生み、それが、季語を詠む文化である俳句につながったのではないでしょうか。
そして、このように見ると、季語の重要さも見えてきます。
季語の役割は、単に季節感を現わすことだけではなく、その季節まで生きた詠み手自信を讃えるという、重い役割もあるのではないか。だからこそ、季語に意味を持たせるような句を作らなければならないのではないか、と。
もちろん、これは、検証のない仮説です。それどころか、仮定に仮定を重ねているような話です。
しかし、季語を尊重したほうが良い句になるのは確か。ならば、自分の中で季語の重要さを高められるような理屈を考えておいたほうが、創作の上では有用。というわけで、私は以上のように考えています。
などと言いつつ、この句では季語を文字通りに「食って」しまうわけですが。
猫にとっても秋は食欲の秋、ということにしておきましょうか……
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