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9話 告白

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「酷いことをされたのか?何をされたんだ?」

 アンリエッタは壁際に追い詰められ、木の床に背を押し付けられて、両手を顔の脇に押し付けられ、逃げようもない。

「言いたくないのよ」

「なあ言えよ。お嬢さんに酷い事するなんて許せない。俺が文句言ってやるよ」

 まっすぐに見つめてくる狼獣人。
 その瞳は、忠実でどこまでも親しげな城の猟犬達のものと同じだった。
 ただ、『まっすぐ』と。

 それは何を考えているかわからないジェイドの冷たい瞳で見つめ続けられていたアンリエッタにとっては、震えるほど優しく、甘美なものに見えた。
 アンリエッタはへたり、とドレスの裾が汚れることも厭わず床に崩れ落ち、昨晩された、背徳的な性行為について告白をした。
 言葉を選び、選び、うつむいて、何度も息をつまらせ、言葉を飲み込み……ほろほろと湧き出る涙をハンカチでぬぐいつつ、アンリエッタはその行為の内容を語る。
 話が終わること、恐る恐るとバーナードの顔を見上げると、彼は顔を赤くして、気まずそうにしていた。

「そうか……それは……辛かったな」

 彼は目をそらし、落ち着きなく納屋の中を歩きまわる。

「で……あれかよ。お嬢さんはどうだったんだい」
「え?どうって……」
「好かったのかって事だよ」

 アンリエッタの胸がずくんと揺れた。

 そう。それは背徳的で甘美な快楽が確かにあった……。
 認めることもはばかられるような、甘い陶酔感。
 黙り込んでいると、バーナードが近寄ってきて、座り込んだアンリエッタの前にしゃがみ、彼女の瞳を覗き込んだ。

「答えられないってことは好かったんだよな?」
「……」
 
 アンリエッタは目をそらした。

「じゃあ、悪く無いってことじゃないのか……?」
「そんな。酷い……あんなことされて、悪くないわけないわ!だって屈辱的で……すごく……辛かったのよ!」

 アンリエッタは思わず声を荒げた。

「そうか。お嬢さんは、どういうのなら好きなんだい」

 狼獣人の目が怪しく光ったように感じた。
 アンリエッタが、疑問に感じるまもなく。

 どさり、と背中が納屋の床に触れていた。

 ああ、押し倒されたんだわ。アンリエッタはどこか現実感のない頭でそんな風に考えた。

 この納屋に入った時から感じていた。
 こうなる予感。
 というものがあった。というより、自分から誘ったようにすら感じる……。
 のしかかってくるバーナードが、アンリエッタの唇を塞いだ。
 あつい吐息と、ジェイドのものよりも激しいキス。アンリエッタは拒むことが出来ず、彼の唇、激しく割り行って来たキスを受け入れ、目を閉じた。 

(私は本当に淫乱になってしまったのかも……)

続く―
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