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20章 魔法少女と空

649話 魔導神の新しい日常

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「という次第でございまして、住人が増えることになりました。」
「よろしくお願いします。」
「わたしとキャラかぶってます。」
「わたしともかぶってますね。」
私、アリア、百合乃、トートルーナさん以下略がリビングに集まり、アリアを紹介した。

「前者、変態。後者、ある意味変態。アリア、変人。」
「結局全員まともじゃないではないですか。」
「お見合い嫌で逃げてきた奴に言われたかない。」
ラビアは視線を逸らした。目を合わせようとしても、明後日明明後日に飛んでいく。さすが、時を超える少女。

「同じ空間にこんなに人数いると作者が描写大変なんだよ。余計なこと言わなくていいから。」
「世の中にはもっと凄い人数いる作品もありますよ?」
「仕方ない。作者はバカだから。」
うんうんと、1人頷き納得する。

「あの。シリアス回終わったからと急にギャグ路線行くのやめませんか?」
クルミルさんが呆れ気味に呟いた。

「じゃあ仕切り直して、ご挨拶を。」
「アリアです。マスターの従者にございます。」
「それだけです?」
「必要でしたでしょうか。」
「設定ない方がキャラが立ちにくいのでそのままでいてください。」
やたらと嬉しそうに言っていると、トートルーナさんが部屋の時計を見てため息をつく。

「魔神と霊神のお二方が帰ったからマシですけど、わたし1人でこの人数を世話するのは難しいんですけど。」
昼ごはんわたし一人で作れとぉ?と、不機嫌顔をする。

「じゃあラビア、手伝ってきて。」
「え?」
「それとアーレ。」
「酷いよソラさん!」
しかし仲間ろうどうりょくを手に入れたトートルーナさんを前になす術もなく、引きずられていくのだった。

 これで3人いなくなったわけで、結構スッキリしたんじゃない?

 とはいえ、まだ濃いメンツが残っている。
 獣っ子、変態、お嬢様、神。それぞれがヒロイン張れる枠だな、と思いながら笑った。

「空、笑いました?」
「百合乃を笑ったわけじゃないよ。」
「知ってますよ、そんなの。」
「主はいつもニヤニヤしてる。」
「それはツララちゃんだけですぅ!わたしなんて告白しても『ごめん、無理』です。」
「同性で付き合うのは難しいと思いますが……」
「多様性、ちゅ!」
謎の倒置法を繰り出すことで危ないものに触れないようにするテクニック。百合乃は、その投げキッスを私に向かわせた。

「避けないでくださいよぉー。」
「逆に避けない理由がない。」
「アタシの主に汚いものをつけないで。」
「汚くないですぅ!わたしのキッスはチョコレートよりも甘々ですぅ!」
百合乃がやいやい言って、私がツッコみ、ツララやみんなが盛り上げる。いつもの日常、新たな日常。

 それはそうと、なんかキッチン騒がしいなぁ。

 「それ切っといてくださいよ」「目、沁みる……」「私、忙しくて料理とかしてる暇なんてありませんでしたから」「言葉じゃなくて手!」

 まぁ、食べられるものを作ってくれればそれでいいや。

「これがマスターの『家族』なのですね。」
「そうです!が家族ですっ!」
「百合乃の言葉は無視していいよ。」
なんでですー、という抗議の言葉を聞き流しつつ、アリアにこの景色を見せる。

「これが私の守りたかった時間。創滅神が奪おうとした時間。」
「創滅神は大層退屈でらっしゃいました。この景色を、楽しく感じられるのなら、何か行動も変わっていたかもしれません。」
アリアはそんな夢物語を語る。

「創滅神は創造と破壊にしか快楽を得られない。仕方ないんだよ、それが神なんだ。」
「では、私にもこの景色は理解できないのではないでしょうか。この感覚は設定によるもの。」
これを見せられても、と反抗とも言えない小さな反抗をしてみせた。

「べっつに、何か思ってほしいんじゃなくてさ。見てもらいたかっただけなんだよね。」
「というと?」
「主の守った世界も知らない従者なんて、おかしいでしょ?」
「…………そうですね、マスター。」
そんな会話のうちに、いい香りが漂い始めてきた。

「私も手伝うか。」
トートルーナさんに丸投げするには足枷がデカすぎた。出陣準備を整え、後ろからついてくるアリアを気にしつつキッチンへ向かった。


「何でこうなったのですか。」
ラビアが心底嫌そうな顔で私にそう問う。

 何でと言われても、何でだろうね。

 私も実はピンときていない。
 「食後の運動」と誰かが言ったのが元凶ということは覚えている。
 一体どこの神の仕業なんだろう。

 全員が家の庭に出ているこの状況に理解していないみんなを前に、私はポンポンと手を叩く。

「みんなご存知の通り私は神になりました。」
「はい。」
「だからと言って私に頼り切るのは良くないと思うし、色々やることもあるからみんなには自分で戦う力をつけて欲しいと思うわけ。」
「私は非戦闘職なので遠慮させていただきたく……」
「ラビア?神界に行く時はあんなにかっこよく見送ってくれたよね?そのラビアはどこ行っちゃったのかな?」
すごく嫌そうな顔をされた。

「百合乃とアーレとアリアは強いからいいとして……ツララとラビアとトートルーナさんには頑張ってもらいたいかな。」
「わたしも混ざってるんですか?」
ただのメイドですよ、のクルミルさんの隣のベンチに座って両掌を空に向ける。

「クルミルさんを守るのは?」
「わたしの役目です。」
目にも止まらぬ速さで、トートルーナさんは主人公もかくやという面持ちをして立ち上がった。

 ちょろインだこいつ。

「それで、私は何をすればいいんですか?」
「みんなで私にかかってきて。絶対安全な訓練を保障するよ。」
そう言いながら別次元から武器を取り出した。

「みんな用の武器、作ってみた。」
「工作じゃないのですよ魔導具って!」
とかなんとか騒ぐラビアは置いておき、とっておきの武器たちを並べた。

 左から順番に、とんでも鉤爪、異次元ナイフセット、魔壊病無視グローブ、細長い鉄杭。

「これなんです?」
「こうもって、こうして、こう。」
置いてある鉄杭を4本指に挟み、肘を曲げてシューッ!

 ナイスショット!

 クルミルさんの殺気のこもった視線を浴びながら、庭の木に穿たれた穴を指さす。

「こう使う。」
「使えませんよ誰も。」
「ならば従者である私が。」
ということで所有者はアリアとなった。

 残りは私が全部選んだよ。だって、その人にしか合うように作ってないし。

 鉤爪はそれ系統のスキルの多いツララ、ナイフセットはメイドだからトートルーナさん、補助役として魔力供給できるように魔壊病を無視する手袋。

「わたしの装備どこです?!」
「あるじゃん、サーベル。」
「これは初期装備ですぅ!」
これが駄々っ子かぁ、と、世の母親の気持ちを感じてしみじみと見つめる。

 なんでスキルと装備が残ってるのか、と言われればそれは死ぬ前に生み出されたものだからに尽きる。アリアが生きてるのと同じ理由だね。

「はいはーい、準備できましたかー。」
「遠足じゃないんですよぉ。」
「わたし、戦闘経験なんてないんですよ?」
「いいの、好きにやってみて。」
くいっくいっと指を動かす。

「新しい日常で心機一転、こういうのもいいと思うよ。」
「ソラさんと遊べるチャンス……」
「主と戯れる!」
「私は何をすれば……」
「マスターを傷つけるなど……」「命令ね。」「了解しました。」
「クルミル様のため……!」
各々が好きな理由で、好きなように私に飛びかかってくる。

 みんながみんな、自由に生きられる世界。こういう姿を私は望んでいるんだと思う。

———————————————————————

 時間あるとほざいていた阿呆は誰でしょう。私ですすみません。
 いや、その、時間できてみると……自由に遊びたくなって?いや本当にすみません。はい、あの、明日はちゃんとしますので。

 許してください。

 今回は閑話みたいになってしまいましたが、次回はついに最終回です。今頃になって悲しくなってきました。
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