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20章 魔法少女と空

643話 魔導神は再会する

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「主、心なしか元気になっておらんか?」
「そう?」
移動中、ルーアは突然そう言ってきた。

「この前までのシリアス展開からの落差が凄くてちょっと引いておる。」
「急にメタいのやめて?」
「もうすぐそこに奴らも集まっているはずだからの。主のいなかった間の話は、あそこでしよう。」
「展開も切り替えも急っ!」
何事もなかったかのように会話を戻した。下手なジェットコースターより厄介だ。

 というかこのジェットコースター道途切れてない?レールのメンテしないと。

 いつの間にかジェットコースターの話になっていた。

 と思ったら、正面からジェットコースターみたいな速さで駆け抜けてくる人間がいた。

「空あああああああああああああああ!」
「百合乃は叫ばないと死ぬ病気にでもかかってんの!?」
という疑問は真正面からタックルで吹き飛ばされ、百合乃は私を巻き込んでトライした。

「私はラグビーボールか!」
私の腹部に抱きついて地面に倒れ込む百合乃は、私のお腹に顔を擦り付けながらにひにひ言っている。

 きっも。

 普通に引いた。

「……どいてくれない?」
「ん?抱いてくれない……です?空ったらもう。」
百合乃は顔を上げ、恥ずかしそうに呟いた。

「えっち。」
「最近の流行りに乗ればいいってもんじゃないからね。」
百合乃を殺す魔法でも創造しようかと思ったところで、こちらに視線を向けられているのに気づいた。

「其方は神になっても変わらないな。」
「人神はいつになっても小さいね。」
「もし其方がこの世界の神じゃなければ捻り潰していた。」
「大丈夫、私強いから。」
拳が握られる人神にそう返しておく。今の私は、四神という偽りの神なんてゆうに越しているのだ。

 人神がいるってことは……そういうことだよね。

 不意に、2つの影が私達を覆い被せた。

「魔神と霊神も、久しぶり。」
「久しぶりってほどでもなくない?」
「立派になったわねぇ。」
前者適当後者母性の攻撃。2人に手を貸してもらい、百合乃ごと引っ張ってもらった。

「よくあの創滅神を滅ぼせたな。ボクらが必死こいてたのがバカみたいだ。」
「ワタクシの封印がなければ、今頃は焦土でもおかしくないわよぉ?でもぉ、まほーしょうじょちゃんには感謝しなくちゃねぇ?」
「ほら、わたしとOne night loveを……いや、永遠の初夜を!」
「初夜ってなんだっけ!?」
いつまでも抱きついてきてそろそろ鬱陶しい。この腕力ゴリラのコアラ化した百合乃をグイグイしていると、ザッザッと足音が耳に入る。

「マスター。お勤めご苦労様でした。」
「アリア。」
「いかがなさいましたか?」
これ百合乃、よろしく。」
こくりと頷く。ゆっくり接近する。四神が何故かブルッと震えてる道を開ける。

「セイッ!」
百合乃は意識を失った。

 あ。この子、ヤベェタイプだ。

 というか、アリアって使徒をハンバーグにするくらいの狂人か。このくらいまだまとも……なのか?

「これで邪魔者は消え失せました。会議にいたしましょう。」
メイド然とした空気を纏うアリア。髪をふわっと靡かせ、こちらに首を回した。

「誤魔化せないよ?」
「そうですか。」
私達は屋内に行くことにした。


「うん……凄いこと起こってない!?」
私は困惑を口に出す。

 あの国王、なんかやらかしそうな人ではあったけど……さすがにアクティブすぎない?

 ほぼ全国民をここに集めるとか、一体どんな労力と人望と牽引力があるんだよとびっくりする。
 そもそも、この人数普通に帰すとか無理でしょ。

「キミに帰ってきて欲しかった理由、分かった?」
「うん、ものすごく分かっちゃった。」
つまり私は王国民の足となれってことだ。渋面を浮かべる私に、魔神はこう言う。

「がんば。」
「頑張ってた相手に頑張れって、酷と思わない?」
「いやまったく。」
「他人事すぎる……!」
拳を握りしめてプルプルする私は、口を噤むしかできなかった。

「はぁ……でも、これで一件落着ってことかな?」
バァン!

「終わってねえだろうが。」
「銃声かと思った。」
「テメェの頭に鉛玉ぶち込んでやろうか。」
指鉄砲が向けられる。その男の名は、蓮。

「俺を日本に返す、そういう話だっただろうが。」
「今じゃないでしょ絶対。」
「忘れてねえか、っつう確認だ。」
「随分アグレッシブな確認方法だね。」
「横文字使うな鬱陶しい。」
ドア開けっぱなしでズカズカ入ってくる蓮。こいつに無いもの、礼儀・遠慮。私に無いの、こいつに対する敬意。

「そういや、お前に会いたがってる奴らがいんだが………」
「主っ!」
蓮の言葉を覆い被せるように叫ぶ声が聞こえてきた。

 この可愛さ……もしや。

「ツララ?」
「主!……おいてかないで。もう離さない。」
「いたい、いたい……ぎぶ。」
ツララは私の顔面に抱きついて、そのもふもふを押し付けてきた。あったかい。可愛い。

 じゃなくて苦しい!いや……いいかも、しれない。……ってそうでもない!

 何かに目覚めてしまう前に、神様パワーで無理矢理引き離す。
 ツララの目には、いっぱいの涙が溢れていた。

「入ってもいいかしら。」
ツララから視線を移すと、ラビアが立っていた。その奥には、見覚えのあるメンツ……私が守った人達がいた。

「みんな……」
「この広さにこの人数って、合ってないと思う。」
キョロキョロしながら入ってきたメイド娘は、トートルーナさん。隣にはもちろんクルミルさん。

「みんな、ソラが帰ってくることを待っていたんですよ。」
トートルーナさんの隣で微笑んだ。

「ただいま。私、ちゃんとみんなのこと守れたよ。」
その姿を見て安心し、思わず破顔する。……けど。

「尺的に全員登場は無理だからカットで。」
「主、2000字前に戻ってみたらどうかの?」
ルーアが真面目な顔で見下げていた。


 ということで、しっかりロアやネルとは挨拶できた。ロアは心なしか大人びてたし、サキもお姉ちゃんの風格があった。
 さては、テレスさんがもう……いや、なんかレインに申し訳ない。

「みんなが無事だって分かったから、もういいや。」
どこか抜けなかった緊張感は、この瞬間に切れてなくなった。

 私、ちゃんと守れたんだ。

 わざわざ神界に行って、いっぺん死んだ甲斐があった。

 百合乃とアリアを除いてみんな帰って行ったあと、私は脱力した。

 そんな私に近づく人神。

「其方は本当によくやってくれた。今日はもうゆっくり休め。」
ぽんっと、後ろから頭を撫でられた。

「どんなもんよ。」
「こんな世界のために、関係ない其方が命を、魂までも賭けて救うなんて、狂ってるな。」
「ちょっと強いだけなのに創滅神に突撃かました奴に言われてもなー。」
椅子に座ったまま顔を上げる。図らずも見つめ合う形になった。

 からと言ってラブコメは発生しないよ。

「直接戦って身に染みたよ。この世界の生物じゃあどうあってもあれには勝てない。すごい神だった。」
もっと向上心あったら負けてたかもしれない。

 イフなんて語ったって何にもないない。
 今は今、それだけだ。

「その神に勝った其方はもっと凄い神だな。」
「そうだね、私はすごい神。……だから世界を運営しなきゃいけない………くっ……!」
今考えるとめちゃくちゃ面倒だ。創滅神が神達に全てぶん投げてた理由がよくわかる。

 ちゃんと、向こうも整備しないとなぁ……

 面倒をどうにかするのに面倒が必要なんて非効率だ。けどこれって、そういう問題じゃないんだよね。

「明日から其方中心に忙しくなる。休めるうちに休むといい。」
「人神からまさか、そんな優しい言葉がかけられるなんてね。」
「余のことなんだと思ってるんだ。」
「鬼畜魔王。」
「せめて人間であってくれ。」
人神はツッコミの後に、後ろの部屋を指差した。

「ここ、余った空き家だから好きに使えとルーアが言っていた。そこで寝ておきな。」
「はーい。」
「返事だけは一丁前だ。」
そのまま、もう好きにしろと言うように出ていった。ここには空気のアリアと沈んだ百合乃が残された。

「百合乃、頼める?」
「はい。」
私はアリアに全投げして、寝室へ向かった。

「はぁ……疲れた。」
日本での疲れも出てきている。備品のベットに腰掛けて、ググッと伸びをする。すると、向こうの部屋から何やら音が……

「セイッ!」
「いや何してんの!」
アリアの拳が、百合乃の眼前で止まっていた。

「頼まれましたので。」
「そういうことじゃない。」
果たして、私は平和な日々を守れたのだろうか。

———————————————————————

 そして増える空ファミリア……
 空ファミリアってなんだって?そりゃあ、空ファミリアは空ファミリアですよ。

 変人1名、獣1名、人間2名。そこに加えられた使徒1名。空さんに逃げ道はないです。
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