上 下
669 / 681
20章 魔法少女と空

639話 魔導神と両親

しおりを挟む

 11月30日。今月ももう終わりだ。
 明日には冬到来と言われているが、もう若干朝は肌寒い。昼は暑いんだから、調節が難しい。

 まぁ私は神だし関係ないけど。

「いってきます。」
丁寧に梱包された一輪の花を持ち、私は家を出た。

 これを渡したら本当の意味でさよならだ。
 中指立てるより、唾を吐くより、よっぽどスッキリする。

 形があるってそういうことだ。

 家の位置はなんとなく覚えていた。持ちたくもない帰巣本能で、かつて住んでいた家に戻ってこれた。電車を何本も乗り継ぎ、歩いて。
 今は、別の家庭の色が伺える。暖かい色を感じる。

 一抹の寂しさと嫉妬の念を抱いて、その場から立ち退いた。変な目で見られても困るから……そういうことにしておいてほしい。

 そこから、今度はバスだ。
 詳しい場所までは覚えていない。なのになんで分かるかといえば、行く前に昨日お義父さんに聞いたからだ。
 お義母さんからの話を思い出してもしかしたらと思ったら、ビンゴだった。お義父さんはお父さんとまだ連絡がつくようで、たまに、話すそうだ。

 ……なんかこう、複雑な気分。

 バスに何十分も揺られながら、無心で外の景色を眺める。途中からは知らない景色が流れ始め、なんとなく道に目をやる。

 目的地が見えると、降車ボタンを押して降りる。
 あとは本当に歩くだけ。

 この辺りに住宅はない。雰囲気からして墓地という空気が流れ、遠くから線香のような香りが漂う。

「ここ、かな。」
確認するまように呟くが、確認するまででもなく墓地だ。墓がずらっと並んでいる。

 ここから探すのかぁ……

 でも、幸い時間は無駄にある。
 ひとつひとつ虱潰しで探していけばきっと見つかる。

 頬を叩いて、心を入れ替えた。

 それから少し経った頃。とうとう、目的のものを発見した。
 話は変わるけど、墓をひとつずつ回っていくうちになんとなく2種類の墓の形があることに気付いた。雑草が生え放題の管理されていない墓と、綺麗に管理されている墓の2通り。

 ついに見つけたお母さんの墓は、後者だった。
 目を疑っても、白河未春と書かれた墓は確かにそこにあった。

 近づいて、墓石を触って、真実と受け止める。
 何が正しい作法かなんて知らないから、とりあえず墓に魔法の水をぶっかけた。腹いせ半分、というのは秘密だ。

 次にしゃがみ、花を取り出す。

「…………2輪、買ってこればよかったかな。」
綺麗に磨かれた墓石の両サイドには、花を備える窪みがある。墓と花を見比べて、ため息をつく。

「ま、いっか。」
梱包用紙を丸めて燃やし、残った瑠璃色の花を1本、入れる。魔法で水も加える。

「これで本当におしまいだよ、お母さん。」
手を合わせて、言葉で呟きながら本心を心で語る。

 だからもう私の心にまとわりつかないで。過去が私を止めないで。
 私には、待ってる人達がいるから。

 自然と目も閉じられ、墓地らしい静寂が生まれていた。これでいい、これでおしまいだ。

 未だざわつく心を抑えていることに勘づきながら、合掌を続けていた。

 足音が耳に届くまでは。

「……………え。」
私は咄嗟に振り向いていた。本当に突然のことで、声が出た。その先にいた人間の顔を、私はよく知っているから。

「お父、さん……?」
束になった花を片手に、痩せぎすなスーツ姿の男が立っていた。私をじっと見て。

「…………………」
お父さんはなにも語らない。口を開こうともせず、気まずそうに視線を下にそらす。

「……………ッ!」
何も言わないお父さんに、私は一瞬手が出そうになった。現に拳を握って1歩足を踏み出している。しかし私は、そこで止まった。

 ……これが半年前なら、胸ぐら掴んで殺してたかもね。

 神になって、少し感性が変わりでもしたのだろうか。それとも、異世界の半年間のおかげか。

 見れば分かる。あんなに健康的な見た目だったお父さんが、ボロボロになっている。
 これを見て心配だとか歩み寄りだとかはしないけれど、考えなしに突っ込むのは愚策だ。

 一呼吸して、冷静になる。深呼吸は大切だ。

「何か、言うことはないの。」
「っ……?」
「以外って顔?殴られるとでも思った?」
なら、尚更殴れない。

「……すまない。」
「ん?」
「すまないと、思っているよ。」
「そんだけ?」
「……すまない。本当に、すまない……」
泣きそうな声。責めるに責められない、なんて甘えたことを言うつもりはない。

 けど……少し話くらい聞いてみようかな。
 なんて。

 どんな弁解を聞いてやろうか。どこまで聞いてやれるだろうか。そんなことばかりを考えていると、向こうから口を開いた。

「誤解、なんだ…………」
「……なにが。」
「すまない……この言い方は、正しくは、なかったね。」
唇を噛み締めて言葉を選ぶように閉口する。

「確かに、僕は不倫をした……でも、それは仕方なかったんだ……会社が倒産することになって……ストレスの捌け口に酒を呑んで…………そんな時に、彼女は『会社を建て直してやる』と僕に囁いた……」
「言い訳……?」
「聞いて欲しいだけだよ。空には、本当のことを、生きているうちに。」
お父さんの視線が墓に向いていたのは、気のせいか。

 いや、そんなんじゃない。

「こんなところでする話じゃ、なかったね。」
お父さんは震えて言った。

「お父さんの……僕の家に、来てくれないか。」
お父さんは、初めて顔を上げて私の目を見た。私は、静かに頷いた。

 何年振りの親子再会……まぁでも、もう親子じゃないよね。
 なにせ、私が頭の中で中指を立てて吐き捨てた相手だ。

 そんなお父さんは「これだけやらせてくれないか」と花を見せた。
 私は横に退いて、黙殺した。勝手に察せ、という意だ。

 そんな相手が、熱心に墓を手入れして、その見た目には不相応な花を生けた。
 1本の瑠璃色の花に、花束。バランスが明らかに悪い。

 けど、少し微笑んでお父さんは立ち上がる。

「行こうか。」
疲れたように投げかけられた。私が返事をすることはなかった。

 神になったって、変わらないものは変わらないね。

 心に4人の私がいればな、なんで空想を浮かべつつ背を追った。2メートルほど距離を空けて。

 ここから歩いて行ける距離。10分ほど歩いた先に、ギリギリのラインでビルと言えなくもない会社が見えた。

「ここどこ。」
「お父さんの仕事場だよ。」
空のお義父さんからの紹介だけれど、と申し訳なさそうに、面目なさそうに呟く。

 おんぶに抱っことはこのことか。いい具体例だ。

「用があるのはそこだよ。」
左の寮を指した。社宅といった風の家。

 何があっても反撃はできるし、いいか。少しくらいなら。

 どうせ、これも解決しなきゃいけない課題だ。この世界に未練を残しちゃいけないんだから。

 お情け程度のお邪魔しますを終えて、私はお父さんの社宅に入る。
 極端に物が少ない。そんな印象を受けた。

「そこに、座って待っていてくれ。」
ダイニングらしき場所に案内された。周囲を見ても、話せるような場所はここしかない。

 ここで全てを終わらせよう。向こうから来てくれたんだ。

 お義父さん達のこと、湯姫のこと、お母さんのこと、今回で全てを解決させよう。

 そう覚悟を決めたところで、お父さんは飲み物と共に帰ってきた。

———————————————————————

 当方、憧れている作家が数名おりますが雲の上の存在過ぎるので首が痛いです。
 見るのをやめるか自分が上に上るか……後者がいいんですけど、ねぇ。ねぇ……

 なんにせよ、このお話を完結させないことには前には進みませんから、どんどん突き進んで行きましょう!と、現在進行形で止まってる人間がいっております!

 追伸
 思いっきり時間設定ミスってました。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

こんなとき何て言う?

遠野エン
エッセイ・ノンフィクション
ユーモアは人間関係の潤滑油。会話を盛り上げるための「面白い答え方」を紹介。友人との会話や職場でのやり取りを一層楽しくするヒントをお届けします。

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

王妃となったアンゼリカ

わらびもち
恋愛
婚約者を責め立て鬱状態へと追い込んだ王太子。 そんな彼の新たな婚約者へと選ばれたグリフォン公爵家の息女アンゼリカ。 彼女は国王と王太子を相手にこう告げる。 「ひとつ条件を呑んで頂けるのでしたら、婚約をお受けしましょう」 ※以前の作品『フランチェスカ王女の婿取り』『貴方といると、お茶が不味い』が先の恋愛小説大賞で奨励賞に選ばれました。 これもご投票頂いた皆様のおかげです! 本当にありがとうございました!

異世界でイケメンを引き上げた!〜突然現れた扉の先には異世界(船)が! 船には私一人だけ、そして海のど真ん中! 果たして生き延びられるのか!

楠ノ木雫
恋愛
 突然異世界の船を手に入れてしまった平凡な会社員奈央。私に残されているのは自分の家とこの規格外な船のみ。  ガス水道電気完備、大きな大浴場に色々と便利な魔道具、甲板にあったよく分からない畑、そして何より優秀過ぎる船のスキル!  これなら何とかなるんじゃないか、と思っていた矢先に吊り上げてしまった……私の好みドンピシャなイケメン!!  何とも恐ろしい異世界ライフ(船)が今始まる!

【猫画像あり】島猫たちのエピソード

BIRD
エッセイ・ノンフィクション
【保護猫リンネの物語】連載中! 2024.4.15~ シャーパン猫の子育てと御世話の日々を、画像を添えて綴っています。 2024年4月15日午前4時。 1匹の老猫が、その命を終えました。 5匹の仔猫が、新たに生を受けました。 同じ時刻に死を迎えた老猫と、生を受けた仔猫。 島猫たちのエピソード、保護猫リンネと子供たちのお話をどうぞ。 石垣島は野良猫がとても多い島。 2021年2月22日に設立した保護団体【Cat nursery Larimar(通称ラリマー)】は、自宅では出来ない保護活動を、施設にスペースを借りて頑張るボランティアの集まりです。 「保護して下さい」と言うだけなら、誰にでも出来ます。 でもそれは丸投げで、猫のために何かした内には入りません。 もっと踏み込んで、その猫の医療費やゴハン代などを負担出来る人、譲渡会を手伝える人からの依頼のみ受け付けています。 本作は、ラリマーの保護活動や、石垣島の猫ボランティアについて書いた作品です。 スコア収益は、保護猫たちのゴハンやオヤツの購入に使っています。

悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません

れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。 「…私、間違ってませんわね」 曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話 …だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている… 5/13 ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます 5/22 修正完了しました。明日から通常更新に戻ります 9/21 完結しました また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います

異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~

水無月 静琉
ファンタジー
神様のミスによって命を落とし、転生した茅野巧。様々なスキルを授かり異世界に送られると、そこは魔物が蠢く危険な森の中だった。タクミはその森で双子と思しき幼い男女の子供を発見し、アレン、エレナと名づけて保護する。格闘術で魔物を楽々倒す二人に驚きながらも、街に辿り着いたタクミは生計を立てるために冒険者ギルドに登録。アレンとエレナの成長を見守りながらの、のんびり冒険者生活がスタート! ***この度アルファポリス様から書籍化しました! 詳しくは近況ボードにて!

泥酔魔王の過失転生~酔った勢いで転生魔法を使ったなんて絶対にバレたくない!~

近度 有無
ファンタジー
魔界を統べる魔王とその配下たちは新たな幹部の誕生に宴を開いていた。 それはただの祝いの場で、よくあるような光景。 しかし誰も知らない──魔王にとって唯一の弱点が酒であるということを。 酔いつぶれた魔王は柱を敵と見間違え、攻撃。効くはずもなく、嘔吐を敵の精神攻撃と勘違い。 そのまま逃げるように転生魔法を行使してしまう。 そして、次に目覚めた時には、 「あれ? なんか幼児の身体になってない?」 あの最強と謳われた魔王が酔って間違って転生? それも人間に? そんなことがバレたら恥ずかしくて死ぬどころじゃない……! 魔王は身元がバレないようにごく普通の人間として生きていくことを誓う。 しかし、勇者ですら敵わない魔王が普通の、それも人間の生活を真似できるわけもなく…… これは自分が元魔王だと、誰にもバレずに生きていきたい魔王が無自覚に無双してしまうような物語。

処理中です...