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20章 魔法少女と空

638話 魔導神は決別する

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「はははっ!なにその娘気になるぅ!今度連れてきて!面白そう!」
「似たもの同士だしね。」
「え?私頭イカれてないよ。」
「自覚があるようで。」
百合乃の話をしていると、湯姫は大笑いしながらそんなことを言いだした。

 百合乃を頭おかしいって形容するならさ、同じ存在の湯姫もいかれているってことだよね。

「なんか、ものすごい侮辱受けた気がする。」
目を細める湯姫。本当のことだから仕方ない。

「でもまぁ……楽しそうでなによりだよ。」
「辛いこともいっぱいあったけどね。」
「それが人生だよ。空はちょっと不幸に傾いてるけど。」
「だから困ってる。」
「……ごめんね。」
湯姫は、急にしゅんとした。さっきまでのテンションは消えてなくなった。

「なに、急に。」
「空が死んだ後、学校、どうなったと思う?」
「知らないけど……」
ここでする話じゃないのは分かる。そう言いかけて、やめた。

「今でこそ我関せず、関係ないぜって顔してるけど……最初は、まるで異分子が消えたようで一安心って顔されてた。」
「知ってた。」
しおらしくなった湯姫は、不愉快そうに続きの言葉を口にした。

「私は……旅館のために、空気を読んできてた。知ってるでしょ?私が、八方美人してるってさ。」
「別にそれを責める気はないよ。おばあちゃんのためでしょ。変な書き込みされちゃ、この時代旅館なんてすぐ潰れる。」
申し訳なさそうにする湯姫に、つまんないこと気にすんな、とポテトを突っ込む。

 今の時代、商売なんて吹けば飛ぶようなハリボテだ。本当か嘘か分からない世の中で、不穏分子を見つければ寄らないし、みんな叩けば実情も知らずに叩く。
 ネットは空気よりも大きく、広い。光の速度でどこまでも広がる。

 私の事故に集った野郎どもが言うように、『野次馬根性草』だ。草を生やすくらいしかできない。

「私が友達ムーブかましてる1軍たち、分かるよね?適当に話合わせるだけで『トモダチ』なんだから、軽いよ、ほんと。そいつら、空がいなくなった途端陰口祭りだよ。意味分かんねって。」
再び胸糞悪そうに眉を顰めた。私の突っ込んだポテトをむしゃむしゃ噛み締めてジュースを音を立てて吸う。

「言うんなら人前で言えや!死んでから言うなや!あぁ……まーじむかついた。『湯姫ちゃんに付き纏ってたやつがいなくなって、良かったね』『湯姫ちゃんやさしーもんねぇー』って、分かったような口叩くなや!」
「ここ、店。」
昼休み中なのか、会社員らしき人がこちらを見ていた。こんな時間に、女子高生が叫んでたらそりゃ不審な目で見られる。

「……私、あいつらに中指立てて絶交してやった。私は……やっぱり空だけが友達だから。今まで、ごめん。」
「だから、謝んな。こっちは感謝してんの。」
「……空のくせにイケメンなこと言うじゃん。」
「そりゃ、濃い人生送ってますから。」
「恋はないのにね。」
「うわつまらなっ。」
「そんな言う?」
湯姫は元の調子を取り戻し、私をオイオイと小突いてくる。これでこそ湯姫。

「ねー空。」
「ん?」
「空はこれから、どうするの?」
「どうする……って。なにが?」
「空はさ、異世界が心地よかったんでしょ。帰るの?異世界。」
湯姫はジッとこっちを見る。今度は私が吐き出す番だと言うように見つめてくる。

 居場所はある……けど、やっぱり難しい。この世界は私にとって厳しい世界。ずっといたいかと言われると……困る。
 神であっても、それは変わらない。

「この世界は好きだよ。お義母さんもお義父さんも、湯姫もいるしね。」
「可愛いこと言うなぁこら。」
「でも、私は向こうに行く。向こうがいい。」
「……知ってた。」
湯姫は残念そうに残ったジュースを吸い切ると、ゴミをトレーに乗せてゴミ箱へ向かった。

「私、女将になる。おばあちゃんからビシバシ鍛えてもらって、エッチな浴衣姿を見る!」
「店でエッチとか言うな!」
「点検とか言って女子トイレ覗くんだ!女子の露天風呂にこっそり掛け湯サービスしに行って揉みしだくんだ!」
「だからうるせぇ!」
湯姫は言いたいことを叫んでダッシュした。店で走んな。

「絶対私の旅館、来てね!来ないと呪う!呪い殺す!」
「対価でかっ!」
思えば、それが湯姫なりの励ましだったのかもしれない。退店選手権があれば日本ランク1位になりそうな速度で退店した湯姫を、私はため息を吐いてその背中を追った。


「遊び明かそうぜ、ベイベー。」
「誰だお前。」
昼食の感情が嘘のように、いつもの湯姫に戻っていた。

 こいつ、感情を自在にコントロールできる能力でも備わってるのかな。

 いらねー、と思いながら街中を闊歩する。
 平日昼間であるだけに、人通りは多くはない。

「そんな急がなくても……」
「でも空、帰るんでしょ?」
「そりゃ、帰るけど……」
「だから思い出作り。なんだぁ?私との思い出はいらないってかぁ?」
カツアゲするみたいに胸ぐらに手を伸ばす。こいつ、どんなキャラ目指してるんだ。

「空がいない間に出たオススメのラノベ、教えたげるからさ。早く!」
「食べたばっかなんだけど……」
「だからどうした!青春は待ってなどくれないのだよ!」
食後のくせに元気いっぱいな湯姫に手を引かれ、私は渋々足を動かす。

 というか湯姫、なんで学校サボってるか理由言ってないな。

「そのまま遅刻して学校行けばいいじゃん。」
「今日は病欠ということになってる。」
「確かに病気だね。」
遠回しに言ってみると、典型的な嘘が吐かれた。でも湯姫の場合、頭の病を患っているから間違いではない。

 こんなことして退学にならないの?……いや、湯姫のことだから、計算ずくだなこれ……
 どうせ、昨日水でも浴びて風邪になった設定だ。

 1年の頃は、学校で何故か飼われてる鯉の池に誤って故意に落ちて休んだし……ありえる。

 そうまでして休みたいかね、と感じる。

「学校のことなんてどうでもいい!今は、散財の時間なんだから。」
「私、新刊分のお金しか持ってきてないよ!?」
「ならその全てを注ぎ込めぇ!」
「人の金なんだと思ってんの!」
いくら叫んでもこの病持ちには届かない。財布の中の偉人達に、さようならと心で呟く。南無南無。

 もういいや。私神なんだから、お金とかどうにかなる。きっと。多分。

 希望論で塗り固めながら、この状況に甘んじるのだった。


「は~!満足ッ!」
ホクホク顔が夕陽に照らされ、私はその影に埋もれる。

「じゃあ、最後にあそこ寄ろう。」
「あそこ……?」
湯姫が指差したのは、……生花店?

「明日、お母さんの命日でしょ。」
「………………そうだっけ。」
「分かってるくせに。」
「空、この世界に戻ってきたのってやり残したことをやるためなんでしょ?」
「残ってる理由……って感じだけどね。」
どっちでもいーわ、とツッコまれてから、不意に背中に衝撃を感じてつんのめる。

「ほら、行ってきな。」
湯姫は人差し指と中指の間に千円札をはさんで、こっちに向けてくる。

「これで、買ってきな。私の奢りさ~。」
太客になってね、とウインクを添えて。

「なに?賄賂?」
「そういうことでいいからさ。」
「はいはい……」
最後は私の足で、生花店の自動ドアをくぐった。

 ……千円って、少なくない?

 店内の値札を見て思った。

 結局私が買ったのは、一輪の花だけ。瑠璃色の花。

 明日、墓参りに行こう。人生で最初で最後の親孝行だ。これでもう親もクソも無い。無関係だ。

 心の中で思うんじゃない。
 向き合ってから、決別しよう。

 店の外で律儀に待っていた湯姫と合流し、帰路に着く。向こうの世界を思い浮かべながら。

———————————————————————

 はい、折り返し入りましたー!
 この回、何故か『こい』という単語が4種類くらい出てます。濃い、恋、鯉、故意。ありがち4兄弟です。

 そろそろ終わりって、早いですねぇ。
 これでも続いた方ですけどね。約2年間。それだけの間、しっかりやり続けるのって結構胆力いると思うんですよ。
 分かりますよね(圧)
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