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19章 魔法少女と創滅神
623話 変革なき世界より
しおりを挟む「創滅神様がお待ちです。」
そう言ったのは、リンズベル。『核盤』の使徒の一体。
かつて創滅神が創った数々の粗悪品の道を通り抜けた先に、創滅神本人が鎮座している。
他の使徒はといえば、『天啓神』の世界と『核盤』の中程にある空間に存在している。
存在、という回りくどい言葉を使うのには意味がある。そこには成功した人形が保管されている。その人形こそが使徒で、利用できるものとなんとか使えるものの2種類がある。
後者は、使徒として下界に数体下ろした。
前者は、有事の際にのみに活動し、普段は最小限の稼働のみ。
現在稼働中の使徒はリンズベル含め6。残り5体は、全て創滅神の邪魔にならないよう細心の注意と警戒を怠らず、警備をしている。
創滅神の言葉は絶対。
感情はない。忠誠心から付随する何かがあるだけ。
死ねと言われれば死ぬし、死ぬと言われれば見守る。それが使徒。
リンズベルの後ろには固唾を飲む少女が、魔法少女がいた。
左右にはやはり役立たずの使徒もどき。正面は闇。壁にも見えぬし、扉にも見えぬ。だからといって道にも見えぬ。
「この先に創滅神が?」
辺りを見回す。奇妙な景色に戸惑いながら、正面を見据える。
半年以上の時が経つ。短いようで、長い時間だった。思い返してみれば、本当に何年も前のことのように思える。
転生も案外悪くなかった。
確かに、もっと美人で体型が良くなる子供に転生させてほしいだとか、装備じゃなくて自分にチートを付与してくれだとかは思ったが、この服が呼んでくれた人との繋がりもある。
日本じゃ知り合えなかった人。知らなかった考え方。決して無駄なものではない。
下界を思い出してそう思いを巡らせる。
拳を握って、太ももを何度か叩く。
怖くないわけがない。
「鬼が出るか蛇が出るか……」
「創滅神様しか出ません。」
「人の雰囲気をぶち壊さないでよ。」
と文句を言うが、リンズベルにとってはどうせ死ぬ人間だ。何をしようが変わるまい。
命令に則り、リンズベルはその闇へ潜った。魔法少女もそれに続いた。
鬼でも蛇でもなく、この世を統べる神。
世界そのものと相対し、敵に回した。
魔法少女は「もうどうにでもなれ」と意を決して歩を速める。
しかし闇を出てもそこは変わらぬ闇だった。そもそも、まだあの闇の壁の中なのかもしれない。
せめて何か変化をつけてくれ。そう思っていると、突如として目の前に強大な気配を感じた。
女がいた。その表現が正しくないのは分かる。あれが創滅神なのだと、瞬間に本能的に理解した。
「連れて参りました。」
「ご苦労。」
目を伏せ、満足げに頭を下げたところでリンズベルは魔法少女の視界から消えた。
「消えた?」
「少し離れてもらっただけだ。案ずるな、まだ何もしない。」
創滅神は側から見れば空気椅子をしている状態で言葉を発した。
闇に座るという行為。魔法少女は思う。道中からして闇を全面に押し出すこの神は、闇が大好きな厨二病ではなかろうかと。
「ああ、この世界が気に食わぬか?面倒だから放置していたが、これならどうだ。」
パチンと指が弾かれた。魔法少女は、再度網膜がバグったのではないかと目を擦る。
「お前の思い浮かべるラスボス戦を演出してみたが。」
玉座に座した創滅神はすげなく言った。
今まで突然何かしてくる通り魔的な魔法はあったが、今のは魔力の流れのひとつすら感じ取れなかった。
まるでカメレオンのように擬態でもしたように。
視界に映るは西洋風の城の一角。
テンプレートに沿ったような魔王の間のような、少し縦長になっており奧に長い作り。
「座れ。」
再度指が鳴る。玉座とは階段で阻まれた位置に椅子が現れ、そこに座れと言うように視線を飛ばす。
「……じゃあ、失礼して。」
レッドカーペットを踏み締め、時間をかけてたどり着く。ゆっくりと腰を下ろし、緊張が一瞬ほぐれるのを感じて首を振った。
「こうして対面したのは初めてか。」
「まぁ。」
「我は創滅神、アヌズレリアル。お前をこの世界に呼び寄せた張本人……張本神か?」
「どっちでもいいよそんなの。」
「こうも神にツッコミができる人間とは、肝が据わっている。」
ハッ、と笑い飛ばして足を組み直す。
「私、殺されるわけ?」
「抵抗したいならすれば良い。」
「拳で?」
私21歳じゃないよ、と神にふざけたネタをぶつける。当然の如く無視される。
「ここは、テンプレートとやらに沿ったほうがいいか。例えば、ここで我が協力を申し出る、とかな。」
「なにそれ。」
「ダメか?」
「そういうのは意図があって然るべきで、なんとなく言うことじゃないでしょ。」
「テンプレも難しいな。」
テンプレ状況の中、ニヤリと創滅神は笑う。
よく笑う。しかしこれが表か裏か、魔法少女には判別がつかない。
ただ言えるのは、その姿だけ見ていればただの女子大生のように見えなくないということだけ。
「我の創った世界はもうじき終わる。この何百何千という短い時ではあったが、最後くらいは世間話でもして終わらせよう。」
「終わる前提なんだ。」
「終わらせるつもりでやるのだ。」
そこには、創滅神らしい破滅と創造に対する想いがこもっていた。
「正直に言おう。」
「トイレに行きたいとか?」
「我は怖いのだ。」
「漏れるのが?」
「お前がだ。」
ことごとく自身のボケを無視され、ツッコミがいないせいでそのボケは回収されずに宙に漂う。シリアスな展開が中和されてしまう。
「世界には我のような創世者が存在する。その想いが尊重された世界になる。」
「説明パート来たよ……」
決めた覚悟が少しほつれる気がして……でも、やはり聴くことにした。何も知らずにこの世界を変えるのも、違うと思った。
「お前のいた世界はとにかく生物に変化を求めた。環境を変化させ、進化させた。発展を覚えさせ、短き時間で半分神のような領域にも踏み込んでいる。」
何が言いたいの?と聞きたくなる。
しかし魔法少女は黙る。人の話は最後まで聞きましょうと、小学校でも習う。相手は神だが。
「故に人間は脆弱だ。進化に適応するため、固定された力を扱うことがなくなったのだ。」
「この世界はどうなの?」
「破壊と創造のループだ。お前の世界にも、一部そのような民族がいるだろう。」
知った顔で魔法少女に告げる。
確かに、テレビで熱帯地域の民族の衰退も進化もしない小さな世界を見たことがある。それが、世界全体で行われている。そう言っている。
「確かに手にする力は時間と共に変わるが、本質は変わりない。発展すれば破滅が訪れ、また発展する。これを繰り返し、同じ衰退と進化を繰り返す。」
だからだ。結論を叩き出すように言った。
「力なきお前たちを招いたつもりが、それが世界に変化と改革を産み続けている。四神も、うっすらとそれを理解しているのだろうな。」
「つまり創滅神は変化が怖いと?」
「そうだ。怖い。我の世界が、我の望まぬ形に変わる。」
質問に答えて、さらに言葉を続ける。
「だから何もかもを破壊する。ゼロから全てをやり直す。今度こそ、恒久の破滅の創造を生む。」
話を終えた創滅神はフッと鋭く息を吐いて背もたれに体を預けた。
全てを聴き終えた魔法少女の心は、何も変わらなかった。
結局、世界という隔絶されているはずの存在は創滅神の手の中にある。収めようとしている。
神は幼稚だ。変化しないという説明にも合点がいく。
何度も出した結論を固める。
何があろうと神は神、人は人。同じ目線には立てない。
「頃合いか。」
何かを察した創滅神は遠くを見て呟く。
神の正義と、人の正義。
これが世界のターニングポイント。
———————————————————————
次回1回休憩を入れて、その次に戦闘開始できたらいいなと思っております。
今回、珍しく空さんがいるのに三人称視点でしたね。大体空さんの目がカメラなので、一人称が常でしたが。
たまにはこういうこともあっていいでしょう。何せ私、疲れてますし。
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