上 下
651 / 681
19章 魔法少女と創滅神

621話 結局神は神だってことだ

しおりを挟む

 創滅神の求むところは1つ。

 魔法少女の滅殺?世界の崩壊?自由な創滅?

 何でもない。ただ、小さな子供のように『楽しみ』を得たいだけだ。
 創滅神は、何かを創り破壊することにのみ快感を覚える。

 アヌズレリアル、創世の神。彼女の持つ盃には、残り僅かな酒が踊っていた。

「予定変更だ。もう少し苦悩している様を見ていたかったが、もういい。連れてこい、ここに。」
跪くリンズベルにそう命令を下す。

 観戦して酒を飲むより、直接対決の方が断然面白い。絶望で焚き付けて、葬り去る。そして世界を壊して、新たなる世界を創る。つまらなくなったおもちゃで、最後まで遊びきってやるだけマシだと思った方がいい。

 別世界の創世の神ともなると、飽きてそのまま世界を捨てて別世界を生み出すこともある。
 不要な世界から生命力だけ吸い続け、地獄のような世界を創り出す神もいる。まだ、処分しようというだけ聡い。

「人は何故こうも器に固執するのか。我には全く分からんな!」
「何故でしょうね。」
リンズベルも同調する。

 人は『心』という不安定で不可思議な存在に縋りたがる。
 本来は器に本能を注ぐことによって生命は成り立つが、本能に『心』という蛇足がついてしまった。
 それは繁栄を得ると同時に、生命体としての劣化を意味した。

 無駄な争いに情の絡み合い。本物の強者が立つことさえできず、法という秩序は生物としての本能を型に押し固めてしまっている。
 なのに、人はそれを普通と言い器を大切にする。

「あの少女に触れれば、我も何か変革が起きるやもしれん。」
視線で示した。連れてこい、と。リンズベルは徐に立ち上がると、深々と礼をしてその場を立ち去る。

 破壊された世界は生命力となり還元され、新たな世界でまた生まれ落ちる。
 何故人々はそれを納得したがらないのか。

 創滅神は考える。
 世界のあり方。そこに住まう人々。

 やはり、分からない。心は魂と同義だ。『死』と魂が滅ぶことは別物。心にこだわる人間どもの都合に良いように設定しているはずなのに、破壊を拒む。変化を拒む。

「結局神は神でしかないな。」
結論は理解できぬで片付いた。結局のところ、種族も立場も思考も違う。分かり合えるわけなどない。

 神は人語を解するだけで、理解し合うことはできない。神は神、人は人。喋るだけの、互いが互いに化け物と同類。

 盃に残った酒と共にこの疑問を飲み干した。

—————————

 魔法少女が姿を現す少し前。
 断罪場で、シャープは不機嫌な視線を下にぶつける。そこには『刻狂神』ダグラスこと、無能簀巻き神がいた。

「何故私を睨む?」
「それは私が聞きたいことですよ。……何故私を助けないのです?」
「もう、ひとりで逃げられるだろう?」
「この縄、厄介なことに外れないのですよ。」
モゾモゾと動くが、顔しか出ていないので毛虫が移動しているようにしか見えない。

「プフッ。」
「何、笑ってるのです?」
「いやなに。面白くてな。っ……!」
鼻で笑い、手で覆って隠す。「失敬」とでも謝り、余計に彼の気を荒立たせる。

「面白いな。何か芸でもやってくれないか。」
「貴方がミスをしたおかげで私はこうなっているのですよ?どうにかしろ。」
爽やかさはどこにもない。口上だけの丁寧語すらハゲ、もはや毛虫というより芋虫だ。

 見ようによっては芋虫から毛虫、とも言えるが。

「プフッ。」
なんて思っていると、やはりまた笑いが込み上げてくる。いつも冷静で他人を馬鹿にすることを得意とした見た目だけの男が、今は地に這いつくばっている。おもしろくないわけがない。

「殺す。今決めましたよ。絶対殺す。」
ギギギと本当に神を殺すような視線を向けてくる。殺せるもんなら殺してみてほしい、という言葉はなんとか飲み込んで我慢した。

 が、どうやらその言葉は吐き出すべきものらしく、身体が誤嚥として処理してしまった。
 ゲホゲホッと咳き込んだ。

「ははっ、殺せるものならぜひやってほしい……」
腕で咳を押さえながら、微笑する。

 その言葉から、ラグダスは堰を切ったように殺意と殺気をたぎらせた。魔法少女の理を振り切らんばかりの生命力をその身に宿したところで……

「殺神はれっきとした犯罪、ということは理解しているな?」
木槌の音が響いた。

「ラグダス、君の罪状を告げよう。一生そのまま這いずり回っておくといい。」
「………………ッ!」
「これ以上断罪されたくなければ、そのまま寝ていろ。」
不遜な態度で机に肘をついた。そこで顔がニヤついているのに気づくと、やれやれと嘆息をつく。

 やはり神は神だ。そう気付く。
 断罪に喜びを感じてしまった。いや、それが普通なのだ。『断罪神』なのだから、断罪を悦ぶ。

「いや、これが私だ。何も変わる必要はない。」
神であることを受け入れ、頷く。

 以上が魔法少女の訪れる前の出来事だった。

———————————————————————

 前回と同じか、それ以上にワクチンにやられました。これから某ウイルスワクチンにヤられることを、コロると呼びましょう。

 私、無事コロりました。薬がお供です!ヤクを片手に死にながら執筆した今話。2日間で2000字しか書けないとか終わってますね。
 めっちゃ休んでしまい申し訳ないです……次回からはいつも通りに戻します。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

平凡令嬢は婚約者を完璧な妹に譲ることにした

カレイ
恋愛
 「平凡なお前ではなくカレンが姉だったらどんなに良かったか」  それが両親の口癖でした。  ええ、ええ、確かに私は容姿も学力も裁縫もダンスも全て人並み程度のただの凡人です。体は弱いが何でも器用にこなす美しい妹と比べるとその差は歴然。  ただ少しばかり先に生まれただけなのに、王太子の婚約者にもなってしまうし。彼も妹の方が良かったといつも嘆いております。  ですから私決めました!  王太子の婚約者という席を妹に譲ることを。  

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【完結】実家に捨てられた私は侯爵邸に拾われ、使用人としてのんびりとスローライフを満喫しています〜なお、実家はどんどん崩壊しているようです〜

よどら文鳥
恋愛
 フィアラの父は、再婚してから新たな妻と子供だけの生活を望んでいたため、フィアラは邪魔者だった。  フィアラは毎日毎日、家事だけではなく父の仕事までも強制的にやらされる毎日である。  だがフィアラが十四歳になったとある日、長く奴隷生活を続けていたデジョレーン子爵邸から抹消される運命になる。  侯爵がフィアラを除名したうえで専属使用人として雇いたいという申し出があったからだ。  金銭面で余裕のないデジョレーン子爵にとってはこのうえない案件であったため、フィアラはゴミのように捨てられた。  父の発言では『侯爵一家は非常に悪名高く、さらに過酷な日々になるだろう』と宣言していたため、フィアラは不安なまま侯爵邸へ向かう。  だが侯爵邸で待っていたのは過酷な毎日ではなくむしろ……。  いっぽう、フィアラのいなくなった子爵邸では大金が入ってきて全員が大喜び。  さっそくこの大金を手にして新たな使用人を雇う。  お金にも困らずのびのびとした生活ができるかと思っていたのだが、現実は……。

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

処理中です...