645 / 681
19章 魔法少女と創滅神
615話 魔法少女は八つ当たり
しおりを挟む物質変化で作った縄で簀巻きにしたラグダスをその辺に放り出し、ようやく仕事が片付いた。
「よし終わった。ユユ、行くよ。」
「う、うん……それはいいんだけど、ステッキはどうするんだい?」
「あ。」
仕事が片付いて気が抜けていた。重要なことを忘れていて、危うくそのまま逃げ出すところだった。
というか、ここ抜け出して次どこ行けばいいんだって話だけどね。
また、今回みたいに騙せればいいんだけど……今回はたまたまだし。
「ステッキねぇ……場所、分かる?」
情報屋でしょ?と謎の質問を投げかける。
「分かると思うのかい?」
「だよねぇ。」
チラッとイケおじさんの方を見る。
「そういえばあの神、誰?」
「『平等神』オーボルイニだよ。」
「やっぱり、平等な感じか。」
ここで能力が確定したところで、とある案を思いつく。
「私の国には知る権利っていうのがあってね、情報公開を求められるんだよ。」
にんまりと笑顔を作る。これは何でもかんでもというわけにはいかない法律だけど、目の前にいるのは法律そのもの。
「ここにいるすべての神の持つ情報を平等してくれない?」
「……よいだろう。所持品が元の持ち主に渡るだけなのだから。」
「ソラ……何しようとしてるの?」
「見てて。」
時間も惜しく、説明はしずに声を出す。
「アウラ!私のステッキ、どこにある!」
本来なら「教えるはずないでしょう」と箸にも棒にもかからないだろうけど、今は違う。
さすが神。
神とハサミは使いようってね。
不快そうに眉を顰め、アウラは口を開いた。
「牢獄の管理棟。」
「ありがと。」
一応のお礼を残して、ユユと共にステッキを取り返しに行った。
「あったぁ!」
看守がぶっ倒れている中、私は昨日ぶりのステッキを掲げた。
半年ずっと一緒だったから、なんか愛着湧いちゃった。
戻ってきたステッキの重量を感じ、あることの安心感をしみじみと感じさせられた。
「よし、ここ壊そう。」
「なに言ってるんだい!?」
と、大声で停めてきたのは共犯者のユユ。仲良くしてやってほしい。
「ユユも仲間じゃん。共犯者じゃん。」
「あたしは情報を与えるだけ。正当な対価を支払ってもらってるから。」
ぷんぷんを不満げに漏らす。さっきまで泣いていたのに、すごい変わりよう。
「だってさぁ、ムカつくんだもん。『核盤』に行ける目処も立たないし。」
「そうだねぇ。でも、ひとつだけあるけど……聞くかい?」
「…………聞く。」
ちょっと前の私と同じ質問をするユユ。少し抵抗したのを見て及第点はくれてほしい。
「『天啓神』さ。唯一創滅神様の声を下ろしてもらえる絶対の神。死ぬことも争うこともなく、ただ永遠に天啓を下すのさ。」
「戦闘はしてこない……ってこと?」
「場合によるんじゃないかな?もし創滅神様が殺せというなら、容赦なく殺すだろうね。」
「…………多分、この世界に入れた時点で創滅神は歓迎ってことでいい気がするんだけど……」
あの神考えることは、やはり分からない。こうやって苦悩の中から、悩み悩んで取り出すしかない。
これだから努力って面倒なんだよね。必ずしも報われるとは限らないし、苦しい。
破壊と創造のみしか娯楽にならないといえど、その先まで分かるわけではない。苦しまなきゃいけないのは、私の性には合わない。
「言ってみれば分かるかぁ……殺されない程度に頑張ろう。」
鼓舞しようと頬を叩くが、なんで自分で自分を痛めつけてるんだろうと思ってきた。自分の細胞、大切にしよう。
「ということで、八つ当た……じゃなくて、報復……というより、撹乱のためにこの牢獄をぶっ飛ばそう!交渉はその後ね。」
「あたしの説得を返して!」
どっちにしろお尋ね者には変わりない。なら、ド派手にやっちゃったほうがいっそ清々しい。
ステッキ戻ったことだし、とりあえずケアっとく?
半自由落下装置であるケアーを取り出す。脈を捻って空間を伸ばして重力で加速!空間魔法の会得によって、さらに高火力となった私の現在利用可能最大火力武器を存分に喰らうといい!
もはや自由落下という単語が飾りになっている。自由ってなんだっけ、そう疑問符が打てるレベル。
私の魔法って、戦闘関連以外も地味にあるよね。尖ってるけどさ。
あと1回くらいは使えたらいいなぁでお馴染み建築魔法や、記憶念写。これはたまに役立つ。
それはそうと、もう準備は完了したようだった。
「じゃあ行くよ。さっさと離れないと死ぬかもね。」
「だったらどうしてここにいるのか聞いてもいいかい!?」
「さーん、にー……」
のあたりで神速で駆け出した。もちろん脇にユユを抱えて、だ。
いーち、…………ぜろ。
「あたしは荷物か何かかぁぁぁぁぁぁ!」
怒号をかき消すように、巨大な煙と爆音を響かせたのだった。
—————————
「はっはっはっ!随分と派手にやっているな。」
少しは消耗したか?と、片目に涙を浮かべて言う。
面白い。やることなすこと奇想天外。この世界外の人間のやることは、神の型に押し固められたこの世界の人々とは訳が違う。
いや、これは対象があの魔法少女だからだろうか。
「神を二柱も消滅させられてしまいましたが、よろしいのですか。」
やらせすぎではないか、もう少し痛めつけて……いや、このくらいがちょうどいいのか。そう結論を出し、リンズベルは一歩下がる。
差し出がましい事をしてしまわぬよう、だ。
「何かご用意いたしますか?」
「酒をひとつ頼もう。それを飲み終えた時が、我があの者と事を構える合図としよう。」
「お望みのまま。」
リンズベルは深々と頭を下げる。
ここは『核盤』。盤上の世界の頂上であり、使徒と創滅神、及びに招かれた者のみがたち入れる神聖な場。
周囲は光は届かぬ暗闇。そこに浮かぶは大量の映像。世界を管理する創滅神の棲家。
今日もまた、創滅神はサイコロを振る。
魔法少女を確実に屠るための、最悪で最善な方法を引き当てるために。
—————————
近くで轟音が響いた。
それは『平等神』のいるこの断罪場からもはっきり見えていた。
「何事でしょうか。」
アウラが立ち上がる。
煙が巻き起こるのは牢獄の方向。先程魔法少女が向かったであろう方角。
「もはやこの場に意味はありません。」
そのまま出口に向かう。オーボルイニを一瞥し、そのままこの空間から脱出した。
断罪する相手が逃げたこの場に残る意味はない。平等の力もここを出れば効力を成さない。
ぞろぞろと神々が退席する。
残ったのは簀巻きラグダスとシャープ。
「まったく、してやられた。」
シャープは徐に口にした。断罪の神がまともな断罪すらできず、あまつさえ生きるために不当な断罪をした。
「我々も所詮は生命体に過ぎないと言う訳だ。つまらんつまらん、神というのは名ばかりだ。」
その場から動くつもりはないらしいシャープ。席についたまま、頬杖を付く。
「もう君も帰れ、オーボルイニ。仕事は終わっただろう?」
「いいや。まだ、残っている。」
首を横に振って答える。
「罪もまた、平等なり。拙僧を断罪してはもらえぬだろうか。」
「……仕方のないやつだ。」
少し意外で、そして彼らしかった。
「判決を告げよう。———これからも、神として大義を果たせ。」
「承知した。」
最後に恭しく頭を下げると、また、闇の中に消えていった。迷える者を救うために。
———————————————————————
悲報なのか朗報なのかは分かりませんけど、今章は思ったより早く終われそうです。
個人的には今章のラストが異世界作品としての終了で、次章以降がもっとこう、なんていいますか……空さんとしての完結になります。
しかしもう少しお付き合いいただくことには変わりありません。
まだ空にはやることがありますからね。
0
お気に入りに追加
117
あなたにおすすめの小説
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた
杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。
なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。
婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。
勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。
「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」
その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺!
◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。
婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。
◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。
◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます!
10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】
小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。
他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。
それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。
友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。
レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。
そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。
レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
平凡令嬢は婚約者を完璧な妹に譲ることにした
カレイ
恋愛
「平凡なお前ではなくカレンが姉だったらどんなに良かったか」
それが両親の口癖でした。
ええ、ええ、確かに私は容姿も学力も裁縫もダンスも全て人並み程度のただの凡人です。体は弱いが何でも器用にこなす美しい妹と比べるとその差は歴然。
ただ少しばかり先に生まれただけなのに、王太子の婚約者にもなってしまうし。彼も妹の方が良かったといつも嘆いております。
ですから私決めました!
王太子の婚約者という席を妹に譲ることを。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる