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19章 魔法少女と創滅神

615話 魔法少女は八つ当たり

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 物質変化で作った縄で簀巻きにしたラグダスをその辺に放り出し、ようやく仕事が片付いた。

「よし終わった。ユユ、行くよ。」
「う、うん……それはいいんだけど、ステッキはどうするんだい?」
「あ。」
仕事が片付いて気が抜けていた。重要なことを忘れていて、危うくそのまま逃げ出すところだった。

 というか、ここ抜け出して次どこ行けばいいんだって話だけどね。
 また、今回みたいに騙せればいいんだけど……今回はたまたまだし。

「ステッキねぇ……場所、分かる?」
情報屋でしょ?と謎の質問を投げかける。

「分かると思うのかい?」
「だよねぇ。」
チラッとイケおじさんの方を見る。

「そういえばあの神、誰?」
「『平等神』オーボルイニだよ。」
「やっぱり、平等な感じか。」
ここで能力が確定したところで、とある案を思いつく。

「私の国には知る権利っていうのがあってね、情報公開を求められるんだよ。」
にんまりと笑顔を作る。これは何でもかんでもというわけにはいかない法律だけど、目の前にいるのは法律そのもの。

「ここにいるすべての神の持つ情報を平等してくれない?」
「……よいだろう。所持品が元の持ち主に渡るだけなのだから。」
「ソラ……何しようとしてるの?」
「見てて。」
時間も惜しく、説明はしずに声を出す。

「アウラ!私のステッキ、どこにある!」
本来なら「教えるはずないでしょう」と箸にも棒にもかからないだろうけど、今は違う。

 さすが神。
 神とハサミは使いようってね。

 不快そうに眉を顰め、アウラは口を開いた。

「牢獄の管理棟。」
「ありがと。」
一応のお礼を残して、ユユと共にステッキを取り返しに行った。


「あったぁ!」
看守がぶっ倒れている中、私は昨日ぶりのステッキを掲げた。

 半年ずっと一緒だったから、なんか愛着湧いちゃった。

 戻ってきたステッキの重量を感じ、あることの安心感をしみじみと感じさせられた。

「よし、ここ壊そう。」
「なに言ってるんだい!?」
と、大声で停めてきたのは共犯者のユユ。仲良くしてやってほしい。

「ユユも仲間じゃん。共犯者じゃん。」
「あたしは情報を与えるだけ。正当な対価を支払ってもらってるから。」
ぷんぷんを不満げに漏らす。さっきまで泣いていたのに、すごい変わりよう。

「だってさぁ、ムカつくんだもん。『核盤』に行ける目処も立たないし。」
「そうだねぇ。でも、ひとつだけあるけど……聞くかい?」
「…………聞く。」
ちょっと前の私と同じ質問をするユユ。少し抵抗したのを見て及第点はくれてほしい。

「『天啓神』さ。唯一創滅神様の声を下ろしてもらえる絶対の神。死ぬことも争うこともなく、ただ永遠に天啓を下すのさ。」
「戦闘はしてこない……ってこと?」
「場合によるんじゃないかな?もし創滅神様が殺せというなら、容赦なく殺すだろうね。」
「…………多分、この世界に入れた時点で創滅神は歓迎ってことでいい気がするんだけど……」
あの神考えることは、やはり分からない。こうやって苦悩の中から、悩み悩んで取り出すしかない。

 これだから努力って面倒なんだよね。必ずしも報われるとは限らないし、苦しい。

 破壊と創造のみしか娯楽にならないといえど、その先まで分かるわけではない。苦しまなきゃいけないのは、私の性には合わない。

「言ってみれば分かるかぁ……殺されない程度に頑張ろう。」
鼓舞しようと頬を叩くが、なんで自分で自分を痛めつけてるんだろうと思ってきた。自分の細胞、大切にしよう。

「ということで、八つ当た……じゃなくて、報復……というより、撹乱のためにこの牢獄をぶっ飛ばそう!交渉はその後ね。」
「あたしの説得を返して!」
どっちにしろお尋ね者には変わりない。なら、ド派手にやっちゃったほうがいっそ清々しい。

 ステッキ戻ったことだし、とりあえずケアっとく?

 半自由落下装置であるケアーを取り出す。脈を捻って空間を伸ばして重力で加速!空間魔法の会得によって、さらに高火力となった私の現在利用可能最大火力武器を存分に喰らうといい!

 もはや自由落下という単語が飾りになっている。自由ってなんだっけ、そう疑問符が打てるレベル。

 私の魔法って、戦闘関連以外も地味にあるよね。尖ってるけどさ。

 あと1回くらいは使えたらいいなぁでお馴染み建築魔法や、記憶念写。これはたまに役立つ。

 それはそうと、もう準備は完了したようだった。

「じゃあ行くよ。さっさと離れないと死ぬかもね。」
「だったらどうしてここにいるのか聞いてもいいかい!?」
「さーん、にー……」
のあたりで神速で駆け出した。もちろん脇にユユを抱えて、だ。

 いーち、…………ぜろ。

「あたしは荷物か何かかぁぁぁぁぁぁ!」
怒号をかき消すように、巨大な煙と爆音を響かせたのだった。

—————————

「はっはっはっ!随分と派手にやっているな。」
少しは消耗したか?と、片目に涙を浮かべて言う。

 面白い。やることなすこと奇想天外。この世界外の人間のやることは、神の型に押し固められたこの世界の人々とは訳が違う。
 いや、これは対象があの魔法少女だからだろうか。

「神を二柱も消滅させられてしまいましたが、よろしいのですか。」
やらせすぎではないか、もう少し痛めつけて……いや、このくらいがちょうどいいのか。そう結論を出し、リンズベルは一歩下がる。

 差し出がましい事をしてしまわぬよう、だ。

「何かご用意いたしますか?」
「酒をひとつ頼もう。それを飲み終えた時が、我があの者と事を構える合図としよう。」
「お望みのまま。」
リンズベルは深々と頭を下げる。

 ここは『核盤』。盤上の世界の頂上であり、使徒と創滅神、及びに招かれた者のみがたち入れる神聖な場。
 周囲は光は届かぬ暗闇。そこに浮かぶは大量の映像。世界を管理する創滅神の棲家。

 今日もまた、創滅神はサイコロを振る。

 魔法少女を確実に屠るための、最悪で最善な方法を引き当てるために。

—————————

 近くで轟音が響いた。
 それは『平等神』のいるこの断罪場からもはっきり見えていた。

「何事でしょうか。」
アウラが立ち上がる。

 煙が巻き起こるのは牢獄の方向。先程魔法少女が向かったであろう方角。

「もはやこの場に意味はありません。」
そのまま出口に向かう。オーボルイニを一瞥し、そのままこの空間から脱出した。

 断罪する相手が逃げたこの場に残る意味はない。平等の力もここを出れば効力を成さない。
 ぞろぞろと神々が退席する。

 残ったのは簀巻きラグダスとシャープ。

「まったく、してやられた。」
シャープは徐に口にした。断罪の神がまともな断罪すらできず、あまつさえ生きるために不当な断罪をした。

「我々も所詮は生命体に過ぎないと言う訳だ。つまらんつまらん、神というのは名ばかりだ。」
その場から動くつもりはないらしいシャープ。席についたまま、頬杖を付く。

「もう君も帰れ、オーボルイニ。仕事は終わっただろう?」
「いいや。まだ、残っている。」
首を横に振って答える。

「罪もまた、平等なり。拙僧を断罪してはもらえぬだろうか。」
「……仕方のないやつだ。」
少し意外で、そして彼らしかった。

「判決を告げよう。———これからも、神として大義を果たせ。」
「承知した。」
最後に恭しく頭を下げると、また、闇の中に消えていった。迷える者を救うために。

———————————————————————

 悲報なのか朗報なのかは分かりませんけど、今章は思ったより早く終われそうです。
 個人的には今章のラストが異世界作品としての終了で、次章以降がもっとこう、なんていいますか……空さんとしての完結になります。

 しかしもう少しお付き合いいただくことには変わりありません。
 まだ空にはやることがありますからね。
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