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19章 魔法少女と創滅神

608話 処刑人、処刑してみた

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 よろよろになって歩き続けていた。
 長いこと歩いているが、まだ月は我が物顔で空に浮かんでいる。

「まだ着かないんですぅ……?」
悲しい悲鳴をあげながら、ひぃひぃ言って森の道を歩いていく。

 もうすぐ森は抜ける。行った道を戻るのは、中々に大変だ。
 行きに全力疾走し過ぎたか。百合乃は、無策特攻を捨てて自重を覚えた。

 もし国民の列が見えたとしても、それは最後尾。とても追いつけるような距離ではない。しかし、歩かなければ着くものも着かない。

 杖代わりにしていた帝剣すら滑らせ、盛大にずっこけた。

「……そろそろ休みますか。」
流石に酷使し過ぎたこの体。たまには労わってやらなければ。

 匍匐前進の要領で木陰まで移動し、仮眠でも取ろうか。そう思っていた時。

「類は友を呼ぶって、こういうことなのかもね。」
声が聞こえた。しかし、聞き覚えのある声。

「迎えにきたけど、いる?」
魔神は少し怠そうな顔で手を差し出してきた。

 百合乃はようやくこの地獄から抜け出せると、嬉々としてその手に飛びついていた。普段なら魔法少女の手しか取らない百合乃でも、この時ばかりは誘惑に勝てなかった。

—————————

 少し時は遡り、まだ月が空に浮かぶ頃。

「リュウムから連絡が来た。」
ルーアがそう口にした。

「リューちゃんから?」
「勝手に我の配下を友達みたいに扱わないで欲しいのじゃ……」
魔法少女に言われ、なんか気にして言わないようにしていた「のじゃ」が炸裂してしまった。

 これでは「のじゃろり」とか言われて笑われるに違いない。ルーアは話を戻しながら、顔を叩いた。

「どうやら、拾肆彗、レンの2名の尽力の末に打ち勝てたらしい。」
「良かったわぁ!」
「それでも一時凌ぎだ。また処刑人が来る前に、さっさと向こうとも合流しておくのが吉だ。ヴァル、早く門を。」
「神遣いが荒いなぁ……さっき、魔法少女を送ったばっかなんだけど?」
頭をガシガシとかいて、一応展開する。

 人神の言う通り、まだ安心できるわけではない。
 帝国民が反旗を翻さないとも限らないし、まだ使徒が殲滅されているわけでもない。創滅神の遣わした敵がこれだけということもあるまい。

 帝国の心配はあまりないだろうが、合衆国にもし飛び火したとなれば向こうは名誉を傷つけられたと言って、将来王国の地位も揺らぐことになりかねない。
 神として、人の世をどうこうというつもりもないが、無駄な争いは避けるに越したことはない。

「ラビア、キミから行け。キミは国王に顔が効くだろ。」
「え、私ですか?」
「キミ以外ラビアはいないと思うけど?」
「私、あの王嫌いといいますか……相手したくないといいますか……」
「ワタクシが手伝ってあげてもいいけれどぉ?」
「あ、やります。」
霊神の妖艶な笑みを見て、これは荒れそうだなと即座に引き受けた。

 嫌なものは嫌だが、嫌には変えられぬダメが存在する。

 ラビアが一歩進もうとした。その直後に、ルーアがその腕を掴んだ。

「空塞!」
それと同時に叫んだ。展開されている転移門を塞ぐように龍法陣が生まれ、そのままブーストを発動して自身ごとラビアを後ろへぶっ飛ばす。

 次いで現れたのは、槍。空間を跨いで迫る槍の一撃を寸でのところで防ぎ切り、何とか一命を取り留めた。

「処刑人03ゼロスリー……レイジン。」
怠そうな声が響いた。

「空間を貫くタイプの能力か。よく気づけたな。」
「エディレン殿も、気づいていると思ったがの。」
「無論、気づいていた。」
小さい体を、レイジンと呼ばれた男に向けた。レイジンはその殺意に気づいて、嫌そうに眉間に皺を寄せた。

「えぇ……子供いんじゃん。いくら初めての仕事だからって……めんどぉ。」
転移門から這い出て、槍をくるりと回して地面につけた。ゆらりゆらりと、芯のない男だ。

 ルーアが横を見てみれば、青筋を立てた人が身の姿が。

「ひぇ……」
ラビアが声を上げたおかげで、なんとか声が漏れずに済んだ。

「まぁ、殺せって名なんだから……仕方ないなぁ。許してくれよぉ。」
タンっと地面を蹴った。

「悪食。」
1本の槍がしなるように突き出され、それを連続でするという単純な行為によって無数の槍撃が生み出される。

 それを防御用の龍法陣を連鎖させて防ぐ。空間中にノーモーションで発動できるのが、龍法陣の長所だ。

 しかし全て食い破られ、足止めくらいにしかならない。

「本当、ついていないのぅ……」
ルーアは運の無さに嘆き、抱えたラビアの安否を確認する。

「私は大丈夫よ。」
横から声が聞こえ、攻撃を浴びてはないことに安堵する。そのまま後ろに下がらせ、先輩方の指示を仰ぐ。

「どうすれば良いかの。」
「処刑人はボクらには合わないから、レンでも呼ぶ?」
「余は来ないに一票。」
「同感じゃのぅ……」
反対2票に無回答1票。多数決で反対だ。

「なら、だれ連れてくるの。結局転移するのボクなんだから、早く決めて欲しいんだけど?」
「我もあの相手もうしたくない。早く決めてくれんかの。」
レイジンは槍を振って駆け出した。途中で軽く跳び、木の側面を蹴って加速した。

「話してる余裕あるならさぁ、早く死んでよ。」
悪魔の一撃が迫ってくる。

「あらあらぁ、短気な子は嫌われるわわぉ?」
それを、霊神が片手で防いだ。腕にまとわりつく防御の結界。空間を隔てるタイプではなく、単なる防御結界。

 上位の防御は大体空間系なのだが、霊神は別だ。尖った防御性能をしているために、変な所で活躍する。

「やっぱりコイツは空間を貫くタイプで間違いなさそうだ。」
「我よりも、ミュール殿のほうが単純な防御は得意だろう?変わってもらえんかの?」
「いいわよぉ?その代わりぃ、ワタクシのことはちゃんとミューちゃんって呼んで?」
「我も加勢しよう。」
霊神が不満げに頬を膨らませた。ミューちゃんとだけは絶対呼びたくない。

「じゃ、ボクはユリノでも連れてくるよ。断頭台、用意しときなよ。」
転移門を高速で張ると、「逃さないよ、面倒だし」と口にするレイジンに目をつけられた。

「地獄門。」
魔神は振り返り、その魔法を残していった。

「…………っ!」
レイジンは急停止し、体を捻って逆へ飛んだ。さすがの処刑人だろうと、この魔法には敵わないと理解した。

 中に入ったものを殺す。殺すだけに特化した、普段は使うことのない魔法。

「…………………ちっ。」
あまりにも怠過ぎて、苛立ちが勝ってくる。空間を貫くだけのレイジンには、それを対処する力がなかった。

「では、お望み通り断頭台でも組み立ててやるかのう!」
物理障壁を、レイジンの周囲に展開した。

—————————

 そして冒頭に戻る。

「というわけで、キミにはトドメ刺してもらいたい。」
「どういうわけか理解できなかったです。」
「つまり、キミは転移して首を刎ねる。終了だ。簡単な話だ。」
「転移して首を刎ねるとか、一足飛びすぎて天空の城まで行っちゃいますよ。」
体をゆらゆら揺らして、むーむー唸っている。

「でも、処刑人ですから。処刑しなきゃいけないんですもんね。」
「そうだ。」
「わっかりました!仕方ないので、空の代わりにやってあげますよ……」
「言質はとった。」
「……え?」
そう言われた直後、百合乃の体は吹っ飛んだ。眼前には門が。ぶつかると思えば、バンっと開いて落下していた。

「ひゃぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
そんな間抜けすぎる声が素で出るくらいには驚いた。

 そして目を開いた。なんか、神が3人と人が1人。全員知った顔。
 その下には、もう1人男の顔があった。

 いや、語弊である。首だ。なにか、固定されたように固まる男の首があった。

「おーらいおーらぁい!ユリノちゃぁーん、ちゃぁーんと、斬ってねぇ?」
「意味分かんないですぅぅぅぅぅぅ!」
その直後、百合乃は大量の血を浴びることになった。

———————————————————————

 わあお急展開。
 理由?間埋めですよ。ゼロスリーさんには、そのための尊い犠牲となってもらいました。

 だって百合乃さん、動けそうにないですし。だって百合乃さん、合流できずに野垂れ死にそうでしたし。

 これは全て百合乃さんのためです!
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