638 / 681
19章 魔法少女と創滅神
608話 処刑人、処刑してみた
しおりを挟むよろよろになって歩き続けていた。
長いこと歩いているが、まだ月は我が物顔で空に浮かんでいる。
「まだ着かないんですぅ……?」
悲しい悲鳴をあげながら、ひぃひぃ言って森の道を歩いていく。
もうすぐ森は抜ける。行った道を戻るのは、中々に大変だ。
行きに全力疾走し過ぎたか。百合乃は、無策特攻を捨てて自重を覚えた。
もし国民の列が見えたとしても、それは最後尾。とても追いつけるような距離ではない。しかし、歩かなければ着くものも着かない。
杖代わりにしていた帝剣すら滑らせ、盛大にずっこけた。
「……そろそろ休みますか。」
流石に酷使し過ぎたこの体。たまには労わってやらなければ。
匍匐前進の要領で木陰まで移動し、仮眠でも取ろうか。そう思っていた時。
「類は友を呼ぶって、こういうことなのかもね。」
声が聞こえた。しかし、聞き覚えのある声。
「迎えにきたけど、いる?」
魔神は少し怠そうな顔で手を差し出してきた。
百合乃はようやくこの地獄から抜け出せると、嬉々としてその手に飛びついていた。普段なら魔法少女の手しか取らない百合乃でも、この時ばかりは誘惑に勝てなかった。
—————————
少し時は遡り、まだ月が空に浮かぶ頃。
「リュウムから連絡が来た。」
ルーアがそう口にした。
「リューちゃんから?」
「勝手に我の配下を友達みたいに扱わないで欲しいのじゃ……」
魔法少女に言われ、なんか気にして言わないようにしていた「のじゃ」が炸裂してしまった。
これでは「のじゃろり」とか言われて笑われるに違いない。ルーアは話を戻しながら、顔を叩いた。
「どうやら、拾肆彗、レンの2名の尽力の末に打ち勝てたらしい。」
「良かったわぁ!」
「それでも一時凌ぎだ。また処刑人が来る前に、さっさと向こうとも合流しておくのが吉だ。ヴァル、早く門を。」
「神遣いが荒いなぁ……さっき、魔法少女を送ったばっかなんだけど?」
頭をガシガシとかいて、一応展開する。
人神の言う通り、まだ安心できるわけではない。
帝国民が反旗を翻さないとも限らないし、まだ使徒が殲滅されているわけでもない。創滅神の遣わした敵がこれだけということもあるまい。
帝国の心配はあまりないだろうが、合衆国にもし飛び火したとなれば向こうは名誉を傷つけられたと言って、将来王国の地位も揺らぐことになりかねない。
神として、人の世をどうこうというつもりもないが、無駄な争いは避けるに越したことはない。
「ラビア、キミから行け。キミは国王に顔が効くだろ。」
「え、私ですか?」
「キミ以外ラビアはいないと思うけど?」
「私、あの王嫌いといいますか……相手したくないといいますか……」
「ワタクシが手伝ってあげてもいいけれどぉ?」
「あ、やります。」
霊神の妖艶な笑みを見て、これは荒れそうだなと即座に引き受けた。
嫌なものは嫌だが、嫌には変えられぬダメが存在する。
ラビアが一歩進もうとした。その直後に、ルーアがその腕を掴んだ。
「空塞!」
それと同時に叫んだ。展開されている転移門を塞ぐように龍法陣が生まれ、そのままブーストを発動して自身ごとラビアを後ろへぶっ飛ばす。
次いで現れたのは、槍。空間を跨いで迫る槍の一撃を寸でのところで防ぎ切り、何とか一命を取り留めた。
「処刑人03……レイジン。」
怠そうな声が響いた。
「空間を貫くタイプの能力か。よく気づけたな。」
「エディレン殿も、気づいていると思ったがの。」
「無論、気づいていた。」
小さい体を、レイジンと呼ばれた男に向けた。レイジンはその殺意に気づいて、嫌そうに眉間に皺を寄せた。
「えぇ……子供いんじゃん。いくら初めての仕事だからって……めんどぉ。」
転移門から這い出て、槍をくるりと回して地面につけた。ゆらりゆらりと、芯のない男だ。
ルーアが横を見てみれば、青筋を立てた人が身の姿が。
「ひぇ……」
ラビアが声を上げたおかげで、なんとか声が漏れずに済んだ。
「まぁ、殺せって名なんだから……仕方ないなぁ。許してくれよぉ。」
タンっと地面を蹴った。
「悪食。」
1本の槍がしなるように突き出され、それを連続でするという単純な行為によって無数の槍撃が生み出される。
それを防御用の龍法陣を連鎖させて防ぐ。空間中にノーモーションで発動できるのが、龍法陣の長所だ。
しかし全て食い破られ、足止めくらいにしかならない。
「本当、ついていないのぅ……」
ルーアは運の無さに嘆き、抱えたラビアの安否を確認する。
「私は大丈夫よ。」
横から声が聞こえ、攻撃を浴びてはないことに安堵する。そのまま後ろに下がらせ、先輩方の指示を仰ぐ。
「どうすれば良いかの。」
「処刑人はボクらには合わないから、レンでも呼ぶ?」
「余は来ないに一票。」
「同感じゃのぅ……」
反対2票に無回答1票。多数決で反対だ。
「なら、だれ連れてくるの。結局転移するのボクなんだから、早く決めて欲しいんだけど?」
「我もあの相手もうしたくない。早く決めてくれんかの。」
レイジンは槍を振って駆け出した。途中で軽く跳び、木の側面を蹴って加速した。
「話してる余裕あるならさぁ、早く死んでよ。」
悪魔の一撃が迫ってくる。
「あらあらぁ、短気な子は嫌われるわわぉ?」
それを、霊神が片手で防いだ。腕にまとわりつく防御の結界。空間を隔てるタイプではなく、単なる防御結界。
上位の防御は大体空間系なのだが、霊神は別だ。尖った防御性能をしているために、変な所で活躍する。
「やっぱりコイツは空間を貫くタイプで間違いなさそうだ。」
「我よりも、ミュール殿のほうが単純な防御は得意だろう?変わってもらえんかの?」
「いいわよぉ?その代わりぃ、ワタクシのことはちゃんとミューちゃんって呼んで?」
「我も加勢しよう。」
霊神が不満げに頬を膨らませた。ミューちゃんとだけは絶対呼びたくない。
「じゃ、ボクはユリノでも連れてくるよ。断頭台、用意しときなよ。」
転移門を高速で張ると、「逃さないよ、面倒だし」と口にするレイジンに目をつけられた。
「地獄門。」
魔神は振り返り、その魔法を残していった。
「…………っ!」
レイジンは急停止し、体を捻って逆へ飛んだ。さすがの処刑人だろうと、この魔法には敵わないと理解した。
中に入ったものを殺す。殺すだけに特化した、普段は使うことのない魔法。
「…………………ちっ。」
あまりにも怠過ぎて、苛立ちが勝ってくる。空間を貫くだけのレイジンには、それを対処する力がなかった。
「では、お望み通り断頭台でも組み立ててやるかのう!」
物理障壁を、レイジンの周囲に展開した。
—————————
そして冒頭に戻る。
「というわけで、キミにはトドメ刺してもらいたい。」
「どういうわけか理解できなかったです。」
「つまり、キミは転移して首を刎ねる。終了だ。簡単な話だ。」
「転移して首を刎ねるとか、一足飛びすぎて天空の城まで行っちゃいますよ。」
体をゆらゆら揺らして、むーむー唸っている。
「でも、処刑人ですから。処刑しなきゃいけないんですもんね。」
「そうだ。」
「わっかりました!仕方ないので、空の代わりにやってあげますよ……」
「言質はとった。」
「……え?」
そう言われた直後、百合乃の体は吹っ飛んだ。眼前には門が。ぶつかると思えば、バンっと開いて落下していた。
「ひゃぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
そんな間抜けすぎる声が素で出るくらいには驚いた。
そして目を開いた。なんか、神が3人と人が1人。全員知った顔。
その下には、もう1人男の顔があった。
いや、語弊である。首だ。なにか、固定されたように固まる男の首があった。
「おーらいおーらぁい!ユリノちゃぁーん、ちゃぁーんと、斬ってねぇ?」
「意味分かんないですぅぅぅぅぅぅ!」
その直後、百合乃は大量の血を浴びることになった。
———————————————————————
わあお急展開。
理由?間埋めですよ。ゼロスリーさんには、そのための尊い犠牲となってもらいました。
だって百合乃さん、動けそうにないですし。だって百合乃さん、合流できずに野垂れ死にそうでしたし。
これは全て百合乃さんのためです!
0
お気に入りに追加
115
あなたにおすすめの小説
こんなとき何て言う?
遠野エン
エッセイ・ノンフィクション
ユーモアは人間関係の潤滑油。会話を盛り上げるための「面白い答え方」を紹介。友人との会話や職場でのやり取りを一層楽しくするヒントをお届けします。
茶番には付き合っていられません
わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。
婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。
これではまるで私の方が邪魔者だ。
苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。
どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。
彼が何をしたいのかさっぱり分からない。
もうこんな茶番に付き合っていられない。
そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。
王妃となったアンゼリカ
わらびもち
恋愛
婚約者を責め立て鬱状態へと追い込んだ王太子。
そんな彼の新たな婚約者へと選ばれたグリフォン公爵家の息女アンゼリカ。
彼女は国王と王太子を相手にこう告げる。
「ひとつ条件を呑んで頂けるのでしたら、婚約をお受けしましょう」
※以前の作品『フランチェスカ王女の婿取り』『貴方といると、お茶が不味い』が先の恋愛小説大賞で奨励賞に選ばれました。
これもご投票頂いた皆様のおかげです! 本当にありがとうございました!
異世界でイケメンを引き上げた!〜突然現れた扉の先には異世界(船)が! 船には私一人だけ、そして海のど真ん中! 果たして生き延びられるのか!
楠ノ木雫
恋愛
突然異世界の船を手に入れてしまった平凡な会社員奈央。私に残されているのは自分の家とこの規格外な船のみ。
ガス水道電気完備、大きな大浴場に色々と便利な魔道具、甲板にあったよく分からない畑、そして何より優秀過ぎる船のスキル!
これなら何とかなるんじゃないか、と思っていた矢先に吊り上げてしまった……私の好みドンピシャなイケメン!!
何とも恐ろしい異世界ライフ(船)が今始まる!
【猫画像あり】島猫たちのエピソード
BIRD
エッセイ・ノンフィクション
【保護猫リンネの物語】連載中! 2024.4.15~
シャーパン猫の子育てと御世話の日々を、画像を添えて綴っています。
2024年4月15日午前4時。
1匹の老猫が、その命を終えました。
5匹の仔猫が、新たに生を受けました。
同じ時刻に死を迎えた老猫と、生を受けた仔猫。
島猫たちのエピソード、保護猫リンネと子供たちのお話をどうぞ。
石垣島は野良猫がとても多い島。
2021年2月22日に設立した保護団体【Cat nursery Larimar(通称ラリマー)】は、自宅では出来ない保護活動を、施設にスペースを借りて頑張るボランティアの集まりです。
「保護して下さい」と言うだけなら、誰にでも出来ます。
でもそれは丸投げで、猫のために何かした内には入りません。
もっと踏み込んで、その猫の医療費やゴハン代などを負担出来る人、譲渡会を手伝える人からの依頼のみ受け付けています。
本作は、ラリマーの保護活動や、石垣島の猫ボランティアについて書いた作品です。
スコア収益は、保護猫たちのゴハンやオヤツの購入に使っています。
悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません
れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。
「…私、間違ってませんわね」
曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話
…だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている…
5/13
ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます
5/22
修正完了しました。明日から通常更新に戻ります
9/21
完結しました
また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います
異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~
水無月 静琉
ファンタジー
神様のミスによって命を落とし、転生した茅野巧。様々なスキルを授かり異世界に送られると、そこは魔物が蠢く危険な森の中だった。タクミはその森で双子と思しき幼い男女の子供を発見し、アレン、エレナと名づけて保護する。格闘術で魔物を楽々倒す二人に驚きながらも、街に辿り着いたタクミは生計を立てるために冒険者ギルドに登録。アレンとエレナの成長を見守りながらの、のんびり冒険者生活がスタート!
***この度アルファポリス様から書籍化しました! 詳しくは近況ボードにて!
泥酔魔王の過失転生~酔った勢いで転生魔法を使ったなんて絶対にバレたくない!~
近度 有無
ファンタジー
魔界を統べる魔王とその配下たちは新たな幹部の誕生に宴を開いていた。
それはただの祝いの場で、よくあるような光景。
しかし誰も知らない──魔王にとって唯一の弱点が酒であるということを。
酔いつぶれた魔王は柱を敵と見間違え、攻撃。効くはずもなく、嘔吐を敵の精神攻撃と勘違い。
そのまま逃げるように転生魔法を行使してしまう。
そして、次に目覚めた時には、
「あれ? なんか幼児の身体になってない?」
あの最強と謳われた魔王が酔って間違って転生? それも人間に?
そんなことがバレたら恥ずかしくて死ぬどころじゃない……!
魔王は身元がバレないようにごく普通の人間として生きていくことを誓う。
しかし、勇者ですら敵わない魔王が普通の、それも人間の生活を真似できるわけもなく……
これは自分が元魔王だと、誰にもバレずに生きていきたい魔王が無自覚に無双してしまうような物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる