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19章 魔法少女と創滅神

607話 合流

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「魔法少女がこちらの世界へ来たようですが、如何しましょう。」
「要監視だ。殺しはするな。いいように痛ぶって、ちょうどいい具合にここへ来させれば良い。自力で来たというふうに演じさせるのも忘れるな。」
「承知しております。『刈命神』を動かしましたが、よろしかったでしょうか。」
「最高だ。」
ニヤリと微笑む神は、創滅神である。『核盤』という神の世界の最上位の存在に腰をかけ下々の世界を見ゆる様は確かに神だと頷ける。

 この場から、飽きもせず世界の映像を見下している。特に面白いこともないが、どこかで何かは起こっている。
 魔物に襲われる人間をつまみに酒を食らうのも悪くない。奴らが、報復に一網打尽にされる様を見て肴を味わうのも一興だ。

 世界は死と生のバランスを保つように出来ている。それを崩すのが創滅神であり、保つのが『銘盤』の神達。後始末は勝手にしてくれるため、好きなように遊んでいる。

「映像、移し替えましょうか。」
「分かるか?」
「ええ。」
創滅神はいつもの笑みを湛えている。それに気づくのは、側近であるからか。

 戦闘力はトップレベルのリンズベルは、創滅神の側近として長く就いている。
 それなりのことは理解しているつもりだ。

 創滅神の目が、いつにも増して弧を描いている。待てをしている忠犬のような、楽しみを待ち望む顔。

「待ちきれないのですね。」
そう言いながら、リンズベルは映像を移し替えた。

—————————

「早く死体片付けろ。さっさと国民を移動させてえんだろ?」
神龍リュウムを顎で使うのは、鋭い眼光を持つ青年。蓮。貧乏ゆすりを続け、その様子を半目で見る。

「次の襲撃があるかもしれねえだろうが。」
何が何だか分からない状況だ。

 突然襲われ、苦戦し、加勢されたがそれでも苦戦。しかし、最後に現れたこの男が全て片付けた。

 まだうまく整理がつかない中、動いたのは双子だった。

「アナタ、誰。」
「教えなさい。」
心臓に毛でも生えているのか?そう思えるような言動を吐き散らした。

「あぁ?」
「わたしはアイリー。」
「わたしはアウィリー。」
「……式家蓮だ。」
不機嫌そうな態度のまま名乗る。

 そこは名乗るんだ。そう思いはしたが、先ほどの戦闘中の言葉を覚えていた2人に、そこまでキレるほどの短気さは持っていなかったらしい。

 一方でリュウムは、死体の処理を完了させた。

 空はもう夜の顔をのぞかせる。各街からも、龍の護衛をつけてこちらへ向かわせている。一度足を止めて、休憩するのもいいだろう。
 なにせ、大した乗り物もなしに歩き通しだ。

 持ってきている馬車はどうやら、ほとんどが荷物だ。馬車に乗れるのは、子供や年寄り。しかも、貴族優先。体力的にも潮時だ。
 あの蓮という青年の相手は、リュウムには無理そうだ。どうにも、他の世界の人物というのは関わりずらい。

「どうしたものか。」
視線は竜の壁に向く。

「もう退いても良い。」
そう一言言えば、竜は飛び立つ。龍は護衛に移行した。龍は昼寝感覚で何年も寝る代わり、起きている時は何年も寝ない。

 龍の鱗のさらに内側。そこには、大量の人々が震えて縮こまっていた。
 その先頭には、堂々と王が君臨している。

「王、怪我はないだろうか。」
「名で呼んではくれないか?神龍殿にそこまでされる地位を、今は持ち合わせていない。」
「そうか。貴方は良き王なのだな。」
リュウムはふと微笑んだ。その微笑みを一見した者達は、安全を悟り喜びの笑みを見せた。

「一度休憩にしようと考えているが、どうだ?他の街の者との合流もあろう。」
「賛成だ。……皆!聞こえているか!聞こえていない者には言伝しろ!等間隔に配置されたに馬車から、食材を取り出し確実で食事にするといい!」
国王は叫ぶ。聞こえなくとも、知能の高い龍が飛んで教えてやればいいかと思っていたが、その必要もなさそうだ。

「出発は龍を飛ばす。その時はワタシに任せてほしい。」
「頼りになる。」
「こちらこそだ。」
側仕えの女と、王と龍。そんな不思議な組み合わせの雑談に、闖入者が現れる。

「食事……姉さん、わたし、お腹が空いている。」
「そうね、わたしもよ。」
目を輝かせた銀髪の少女、双子の拾肆彗がこちら見ていた。

「……そうだ、礼を言い忘れていたな。」
リュウムは思い出したように呟いた。

「勝手にこっちで手を出しただけ。」
「気に病まなくてもいいわ。あれは仕方ないから。」
2人はそっけなくそんな言葉をかけた。それよりも、だ。食事という言葉に惹かれるように、フラフラどこかへ歩み出す。

「礼と言ってはアレだが、ご馳走しようか?」
「「ありがたく受け取るわ!」」
2人の声がハモリ、同時にギュルギュルと腹の虫を鳴かせた。


「姉さん、これ美味。」
「そうねアイリー。これも美味よ。」
野生動物のようにガツガツ頬張る様は、ハムスター(肉食バージョン)のような姿だった。

 調理器具や調味料に乏しい為、主に焼きメインになっているが、食材が食材だ。

「珍味か……初めて食べる味だな。」
「龍って食べられるのですか。」
国王とオリーヴも、それに乗じて試食している。

「仲間だろ。食べていいのか?」
少し離れた位置で、なぜかご相伴にあずかって龍肉を噛む蓮が言った。

「それを聞くなら、せめて肉を喰むのをやめたらどうだ?」
「美味いものを食わねえで、何を食えっつうんだよ。」
反抗するように食い出した。もう手がつけられそうにない。

 龍種の体内には多くの魔力が貯蔵されている。そんなものを放置していては、余計な魔物の発生や悪用しようとする人間に狙われる危険が高い。
 現に、誰がいるか分からぬこの人の列で、よからぬ人間が混じっている可能性というのは捨てきれない。

 だから、食葬という形で弔うことが自然界では稀にある。たまたま、今は処分に困って食しているだけだ。

 もう夜も深い。このまま、朝方まで休憩するのもいいかもしれない。
 龍神様への連絡も忘れてはならない。
 そう思いながら、パチパチと音を鳴らす焚き火を眺めていた。

 考え耽っていると、いつのまにか夜は過ぎていた。

「…………こうも人と触れていると、時間感覚がズレるな。」
夜は寝て朝は起きる。そんな生活をする龍はほとんどいない。夜にただぼーっとしている、ということは珍しかった。

 朝日が昇り始める頃には、皆の準備を済ませて出発した。どうやら深夜中に他の街からの避難民も合流したようで、人数は増えている。
 このまま何の襲撃もなく目的地まで着けるのが理想だが、やはりそうはいかないだろう。

 ちなみに、アイリー・アウィリーの姉妹はというと「帝国の応援を呼ぶわ」と言って合衆国へ向かっていった。
 蓮は「逃げ仰せた使徒がいるもしれねえな」と笑いながら、空を飛んでいた。奇襲でもされて欲しいように思えた。

 昨日と同じ轍を踏まぬよう、集中する。
 奴は02と言っていた。ならばその上があるのが常だ。

 うまくいけば今日、そうでなくとも明日には到着できよう。神龍の名を背負って、リュウムは目的地に歩を早めた。

———————————————————————

 夜だけ目が痒くなる謎の症状に悩まされるcoverさんでございます。
 めっちゃ困ってます。

 それはそうと、書く内容にも困ってます。
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