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18章 魔法少女と神の使徒

597話 命大事に

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 啖呵を切って始まって勝負。
 目の前には、悪魔みたいな表情をしたネイファ。これ、やばいかも。

 直感でそう思ったが、もう遅かった。
 百合乃は、内心ガクブルでサーベルと帝剣を構えた。

「……見誤ってたなどとは宣いませんよ。貴方をさっさと始末して、わたしはわたしのやるべきことをやるのみです。」
「そういうの、負け惜しみって言うんです!」
強く踏み出した1歩は、縮地によってさらに縮められて瞬間の攻撃に変わる。

「もういいです。貴方は、神の炎で消し炭にしますから。」
百合乃の目の前で巨炎が舞った。姿を丸々隠して、飲み込むように広がった。

 やった。そう思っていた。

「魔断魔断魔断っ!」
ネイファは目を疑った。全てを消し去るその炎を、あちこちを燃やしながらも強行突破を図ってきていた。

「死ぬ気ですか?」
「そんなわけないじゃないですか。わたしは、生きる気です!」
言葉とは裏腹に、自らの命を捨てるような動き。現に、頬は少し焦げていた。

 これは神炎。消えることのない傷が刻まれる。それでも、躊躇うでもなく突き進む。その姿に一抹の揺らぎがあった。

 自分は、ここまで真っ直ぐになれないなと。

「もちろんわたしは生きて帰りたいんです!命大事に慎重にですっ!」
「矛盾してますね。」
無駄な体力を消耗しないよう、軽いステップで受け流す。最低限の接地面積でサーベルの軌道を逸らし、致命傷だけ避けて残りは影で対処する。

「攻撃は最大の防御だって言いますよ?」
「攻撃はあくまでも攻撃。」
「本当にそうです?」
剣戟が一瞬止んだ。そう思った直後、横腹めがけたキックが飛んできた。

「愚直ですよ。」
「それでいいんです。」
意図が分からず、とりあえず影を展開し飲み込んだ。

「無きを斬れ、寂幕横發。」
「ぁっ…………ッ!」
強烈な鋭い痛みを感じ、真横に吹き飛んだ。影をクッションにして勢いを殺し、体を起こした瞬間に光が見えた。

「穿殺し!」
「———!!」
一撃。そのたった一撃が命を散らさせるに足るものだと理解させられた。神の炎が盾を作り、力をそのまま焼き尽くしたことで、事なきを得た。

「やりますね。」
こともなげに呟いた。まだまだやれる、そんな顔だ。

「本当に、厄介ですねぇ。」
盾は分解され、そのまま炎弾となって射出した。それを律儀に回避する百合乃。

 じんじんと横腹が痛む。骨がやられたか。影で応急処置をして、体の動きに呼応してふらふらとツインテールが揺れる。

「貴方も、神敵と判断しました。」
影の剣に炎が宿った。

「滅殺を開始します。」
余っている左腕は、頭に伸びた。深手にかぶるキャスケット。名残惜しさに逡巡したい気持ちもあったが、そんな余裕があったら迷うこともない。

「…‥何をする気です?」
言葉は耳に入らない。これは、ネイファの本気。全ての力を解放して、奴を討ち取れ。討ち果たせ!

 神は救ってくれた。心を、体を、全てを。だから救われたもの全てを使って、ネイファはかの創滅神に全てを捧げる。
 そんなものを崇拝するのかと笑われても、そいつを殺す。何者にも侵せない絶対の神。神のため。その免罪符は、ネイファを動かす。

 あれほど頭に乗っかっていたキャスケットも、人の力で案外簡単に外れてしまう。
 水色の髪が露わになる。

「…………うわぁ、本気で逃げたくなってきましたね。これが空との約束がなかったら、相打ち覚悟でしたよ。」
心底嫌そうに、顔を歪めて呟いた。

 いかにもボス戦ですというような風貌だ。見た目が少女という点を置いておけば、炎と黒い影を纏った空中に浮かぶ人間だ。とても現実のものとは思えない。
 というか、夢であってほしい。

「しね、かみにはんするもの。」
百合乃は今できる最大限の防御行為に出た。

 攻撃が最大の防御?そんなもの、知ったことか。自分のセリフと矛盾していようが、プライドなんてかなぐり捨ててしまえ。
 今重要なのは、生きて空の元へ帰ること。

「わたしは死にませぇぇぇぇぇんっ!」
トラックにでも轢かれにいくような叫びをあげて、百合乃は腕を盾に体を守った。

 周囲を舞う影や炎。それらはまるで銃弾のように百合乃を襲い、体を蝕んでいく。なるべく炎には当たらないように体をずらしてはいるが、流石に全てを避けるなんていう芸当は魔法少女でもない限り無理だ。
 歯を食いしばる、という言葉がこれほど似合うシーンもないだろう。

 なぜ影が飛ぶのか。そんな疑問を叩き出すよりも早く、射出される攻撃。腕を少し前に出し、上手くサーベルと剣で反射できるようにしても力不足で押されていく。
 数歩、また数歩と後ろに下がっていく。下がってしまう。

「どんな乱射力なんです……………!」
体はボロボロになるのに、全く破けない軍服にジロリと妬みの視線を向けた。お門違いだと言われているような気もする。

 この状況を打破する方法を知りたい。相手は一切手を緩めようとしない。追劇の追撃の追撃etcを繰り返す置き物になっている。

「風が、舞う…………風雅、振、天……っ!」
傷だらけの体から、威圧を含んだ声が発せられた。特級剣技、風雅振天。

 魔法少女のために、役立ちそうな剣術を幾らか練習した。その成果が少しでもここで活きたなら、万々歳だ。

 少しだけ重心を移動した。
 その際に現れる一瞬の隙に強烈な一撃を喰らうが、歯茎から血が出るくらいの力で歯を噛み締めた。痛みで痛みを拭い去るのだ。

 周囲の魔力が集っていく。風を纏うように、ぐるぐると百合乃を囲う。

「穿ます。あなたを!」
この瞬間、スキルが昇華した。

 狂愛。心の底から愛す人への想いを力に換える。

「とまれ。」
「断ります。」
集った力が全て、百合乃の背中を押した。物理的に押した。それによって生まれた超加速。サーベルの切先は完全にネイファを捉えた。

「ぐっ……ぅ!」
「とまれ。」
手のひらで剣を受け止められた。それでも風雅振天は終わらない。残った魔力は、残さず台風のような強風となって吹き付ける。アドレナリンも脳を潤す。

 耳鳴りがする。強風と熱と……いろいろなものが巡って頭がガンガンする。
 でも、両手に力を込める。二振りの技物はネイファを執拗に狙い、力の限りを尽くしている。

「………かげよ、もどれ。」
ぴたりと、攻撃が止んだ。でも、別のものが来る。一安心はしない。

 サーベルは下ろさず、風の勢いのまま前に歩み出す。勢い余ってつんのめったって構わない。

「修羅双樹。」
倒れ込むように両手を振るった。不可視の剣がネイファを襲う。

 目に見えるのは左と右の2本。しかし魔力の塊が迫ってきているのを肌で感じた。
 よく見ればサーベルも帝剣も光っている。《醒華閃》という特殊技術だ。

 バカにならない威力を悟る。
 炎を纏う影の剣を掲げる。

「えんじょう。」
炎の柱が生まれた。

「うぇ……っ!」
炎に威力を喰われ、半分ほど炎に食い込んだところで武器を抜いた。

「うおっ、やめ……!引っ張らないでくだ、さっ……!」
言葉が途切れた。武器を炎から遠ざければ、必然的に腕は大きく開く。その隙に空いた胴体を掴まれ引き寄せられてしまう。

 百合乃の体は、思ってもない方向に進んでいき、思うように体が動かない。

「しかえし。」
「趣味悪いです……」
「おまえのけんはとどかない。」
そう言われて、足を止める。首筋に剣を向けられている。

「しね。かげにつらぬかれて。」
戻った影が収縮していく。まるでオーラのように付き纏う影すらその剣に凝縮され、全てを飲み込まんとする影が生まれた。

 少し気流が変わった。剣が上へ移動した。
 首筋を撫でる冷や汗に、一か八かの賭けに対する不安が滲む。

 死んではならない。

 たったそれだけだ。短い時間の中、百合乃は心で叱咤激励する。

 ひゅいんっ!剣圧だけで、風が起こった。

 どうやら魔法少女は、こんな時まで命を救ってくれたようだ。

「あなたの剣も、届きません。」
今度は、ネイファの喉仏に百合乃のサーベルが突き立っていた。

———————————————————————

 拝啓読者の皆様。

 秋風が涼しくなってまいりましたが、日中はまだまだ暑いです。朝なんて、布団を出ていの一番に布団を欲してしまうほどです。
 アニメ見ながら、「さみぃ」と口ずさむほどでございます。
 しかしながら、日中はまだまだ暑い。今話執筆中、リアルが少し忙しくなってまいりました私coverさん、外に出ました。快晴です。暑いです。

 朝は冬、昼は夏。

 秋を返してください。

 以上、頭痛が痛いcoverさんでした。

 敬具。
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