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18章 魔法少女と神の使徒
589話 魔法少女は急展開
しおりを挟む冬が近いせいもあって、昼でも肌寒い。そんな中、私は熱い熱いと言いながら消火活動に徹していた。
冬は物が乾燥するから、燃えやすい。
みんなも火の元注意だよ!
「なにやってんだろ、私。」
ネイファの襲撃後、燃やされてしまった王都からは無意識の絶望が漂っていた。
「いや、私いい子じゃないから。サンタさん絶望のプレゼントとかいらないから。」
軽く手首を振って、ないないと呟く。
さぁてご覧ください、この惨劇を!
右向けば燃えた家々!左向けば燃えた家々!正面は焦げた道路!後ろも道路!
「私の仕事増やすなっ!」
実際、もう消火からだいぶ経ってしまった。小規模で済んではいるものの、だいぶの損害だ。
またボランティアかぁ……
生きてればだけど。
学園を思い出す。ネルも思い出す。安否が危ぶまれる。
「なんか、手のひらで踊らされてる感あるなぁ。」
こうやって色々考えているのがバカらしくなるような、そんな言葉を吐いて、報告に向かうのだった。
「ネイファが侵入?」
魔神は状況監視をしながら、耳だけを傾けて言葉を返す。
「そう。それで、燃やされちゃった。」
「ちゃった、で済む話じゃないとボクは思うけどな?」
覇気がこもった、嫌な気配が充満しだす。
いや、これ私のせいじゃないでしょ。ね?ほら、ネイファがくるとか想定外だし、都合もいいし。万々歳だよね?
「復興は王都民でどうにかなるとしよう……防衛も順調。希望の演出と絶望の演出の下地もできているし、キミはじっとしていてほしい。」
「ほんとに、上手くいく?」
「創滅神はそうそう、チャンスを見逃すようなバカじゃない。最大の絶望の瞬間が来る機会を今も狙っているはずだ。」
そう語る魔神の顔には、あまり自信らしき表情は感じられない。
魔神もずっと働かせっぱなしだし……そろそろ、休んでもらいたいんだけどな。
私ばっか文句言って、四神はやってるのに。
「ねぇ、監視交代……」
魔神の姿が消えた。
え……なに、これ。
嫌な予感は的中した。
でも、これは前段階なのかもしれない。
僅かに残った理性が、冷静さを引っ張り出してきた。私の体は、ゆっくりと動いて様子を探り出す。
「魔神!?っ、魔神、ヴァルディート!ヴァル!」
どんな名称で言っても、返事はない。答えてはくれない。その瞬間、ポケットが揺れた。
『作戦は全て放棄だ!全員、死ぬ気で生き残れ!』
「魔神……?」
ポケットの通信機の、緊急連絡の機能だ。私が戦時中に使ったのと、同じ機能。
『災厄が始まる……ボクらは大きな勘違いをしていたんだよ!どうして、未来は変わらないと勘違いしていた?ボクらは未来を変える立場だったのに』
魔神の叫びの中には、轟音が時折混じる。
なんなの、この急展開……
何をすればいいのか分からない無力感に、歯痒い思いをする。
『いいか?ボクらの誰一人でも欠ければ、幸せな未来なんてやってこない!絶対生———』
機械音がツーとなって、言葉は途切れた。
「そうか……」
嫌な予感の正体に、嫌なタイミングで気づく。
あの未来では、私達の動きが遅かった。弱かった。悪かった。だから、最低限の最悪で絶望が訪れた。
今は違う。準備して、使徒は追い払える。
その前提があったから、『簡単だ』だなんて思えた。
簡単だったなら、もっと難しいものを用意すればいい。そんな準備、創滅神ならしているはずだ。
未来でも見たはずだった。底意地の悪いあの神を。
「なんでもっと早く気づかなかったんだ……私!」
自分の鈍感さに嫌気がさしてくる。太ももを殴った。
「王国が危ない……」
のろのろと、ふらつく足取りでイグルの家を飛び出した。
—————————
魔法少女側、圧倒的劣勢。
霊神、人神、『神の使徒』と交戦。
龍神、使徒との連戦。使徒は移動を開始した模様。
魔神、神の雫と交戦。
魔法少女、移動開始。
創滅神、手駒の移動を開始。絶望のカウントダウンを始める。
百合乃及びラビア、全力疾走中。
—————————
とりあえず、防壁の前にやってきた。一部が焦げつき、焼失して凹んでいる部分もある。さすが、神の炎。普通の壁なら、紙切れほどの障害にもならないだろう。
登るための跡も確認できており、だいぶ侵入されているなと我ながら驚くほど冷静に判断する。
ここで焦っても、一銭の得もないしね。
「神国の人達、いない……?」
感知は、炎の影響か使えない。半年間培った実践スキルをフルで使って、気配を探る。
「っ!」
私は、今まで出したことのない最大速度でステッキを振り抜いた。
「おぉ、これを防ぎますか。ミスソラ。」
嫌な声が鼓膜を震わす。中学生くらいの男が、私にマグロを斬る刀のようなものを壁の上で振り下ろしていた。
「お仕置き、されてるんじゃないの?」
「緊急時だったので、見逃してもらいましたよ。」
刃がついているというのに、手のひらでポンポンと弾いている。痛くないのかな。
「私、殴られたことまだ恨んでるからね。」
「そうですか。」
「ウィリー、だよね。確か。」
「あいつ、余計なことを吹き込みやがったんですか。」
はぁーあ、とため息ともあくびともつかない息を漏らす。
「創滅神様の命令により、ミスソラ。あなたを地獄へご招待いたします。」
「その招待届け、不参加で提出したいんだけど。」
そんな間抜けた会話が戦闘の合図となった。
今の私はあの頃の私とは違うから……いける?
不安は膨らむが、やらないわけにもいかない。
創滅神を相手取るなら、こんな雑魚に負けるわけにはいかない。
「以前より早いですね。」
「そりゃどうも。」
重力世界をノータイムで展開する。
「体が重い……?」
「確か、こうだっけ!」
ウィリーの隙を見逃さない。左手にステッキ、右手にラノス。ラノスの銃口でウィリーの腹を殴りつける。
「……がっ!」
異常に痛がり、そのまま発砲。壁の上に乗っていたウィリーは、転げ落ちる。
「体内の魔力を暴走させて痛みを誘発する。へぇ、やればできるものだね。」
追加で、使う機会を失っていたアレをマガジンにセットし直した。
「ファイアブースト。」
壁の外、その下に落ちたウィリーに立て続けに撃ち放つ炎弾。通常弾の方が使い勝手もいいし、大量生産もできる。
コピーをコピーって、なんか変な感じ。
かろうじて避けられるが、避けきれずに右肩にヒット。
「僕に傷を僕に傷を僕に傷を僕に傷を!」
「うわ、やべこいつ。」
神速と同じような速度で迫り、私に斬りかかる。でも、直線攻撃に反応できないほど、今の私は雑魚じゃない。
あの頃より、私は技量の方を上げたからね。先輩のおかげで、体術もあるし。
ラノスの背で左側に受け流し、ついでに足を払う。それでも踏ん張ってくるので、一旦離れて炎弾をかます。
「死ね、僕の体を傷つけた愚者が!」
「責任転嫁すんな!」
それを追うスピードは尋常じゃない。さすが、神が遣わした本物。でも、こいつはやっぱり雑魚らしい。
それに苦戦してる私が言ってもなんだけどね!
ここまで上手く戦えているのは、向こうに意思があるから。私を舐めてるから。だから、攻撃を与えられた。
もう、次からガチでやらないと無理だ。
「バレットブースト!」
パァァンッ!という音を4度響かせ、しかしそれは切り捨てられる。トライアングルを描くようにして。
「ま、もう一弾は別方向だけど。」
ウィリーの背後に、空壊輪。
「効くかっ!」
その気配をいち早く察知し、回転の勢いと共に銃弾を弾き返した。ブーストしてるのに、よく弾けるものだと感心しながらウィリーの体にステッキを当てる。
「トール。」
ばちばちと魔力を迸らせ、強烈な電撃が流れる。それを、間近で確認した。
「ちょっと向こういって……て?」
「まだ、終わらない……」
手首を掴まれた。
え、は?……まじ、まだ動けるの……
「終わらせない!」
腕を強引に引かれ、頭突きを喰らう。ディディーにやった技を、今度は私が受ける。そのまま、蹴りが腹に入る。
「ぐふっ……っ!」
更に、自分で作った壁に背中を打ちつけた。魔法少女服の防御がなきゃ即死の一撃。
「仕切り直しだ、ミスソラ。」
刀を私に向けて宣言した。
———————————————————————
ウィリーとか、覚えている人います?私はもちろん忘れていました。
なんか、キャラ名をメモしたアプリにウィリーの姿がいたもので。そしてこんな急展開になりました。つまり、思いつきです。
やったれいったれcoverさん!
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