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18章 魔法少女と神の使徒
582話 受け継ぐ力
しおりを挟むアズリア神国首都アイズレリール。ここは世界屈指の宗教国。宗教の力を主軸とした神主主義の政治を行なっている。
全ての決定権は神にあり、神と対話が可能な教皇がこの国の元首代理として君臨していた。
神こそが全て、神が絶対。そんな主義の下神国は長年国家を運営してきた。これもまた、信仰の力。
かつて地球で、宗教の力によって危機を乗り越えようとした天皇がいたように、宗教の力とはそれほどに強大なものということを知っていたからこそ成り立っている国。
そんなアズリアの元首代理。神創教教皇ゼビエン・ルーエンはある日、夢を見た。
それは、神の夢。目が潰れそうなほどに眩く、神々しいお姿。そして、気高く美しき神のお声。それを見た瞬間に、これは神のお告げだと理解した。
『力をやろう。そして、我に成り変わり世界を正しき道へ歩ませよ』
そんな、短い命令文。しかし、その時間が長く尊いものだった。
『我が焔にて悪を燃やせ』
その日、神国は道を得た。
神国国内には多くの教会が設立されており、国民にとっても身近な存在であり、尊い存在。9割以上の子どもは宗教学校へと入学し、教会従事者へと就職を願う。そんな、敷かれたレールを自ら歩む神の下僕国家。
その中の本教会。選りすぐりの天才が務める、他国でいうところの王城や議事堂にあたる国家の中心部である。
教皇は、そこで毎日祈りを捧げていた。
「なんだ、これは。」
今日も祈りを捧げるために、教会の本殿を訪れていた。礼拝の間。全面ステンドガラスで、細かく美しい細工の施された一級品。細長い部屋の最奥には、創滅神を模したただ一つの偶像。
そんな偶像の左右に、見慣れぬ魔導具のようなものが知らぬ間に現れていた。
昨日まではなかった。ここを最後に出たのも教皇で、入ったのも教皇。
「まさか、これが創滅神様が下ろしてくださった天啓の力……」
自分で言って、冗談のように感じた。しかし、まるで偶像を守るように位置しているその魔導具からは、美しい輝きを感じた。
細く、人の腰ほどの高さの祭壇の真上を魔導書が浮いている。そのような姿をしている。
教皇は吸い寄せられるようにそれに向かい、浮いている書物に触れた。
触れると、脳内に何かが刷り込まれるような感覚に陥った。
「なんだ、これは…………」
また、同じ言葉が漏れた。感じ慣れぬ感覚の後に、不思議な高揚感のようなものが体を満たす。そして、どうしてか手を伸ばして手を握っていた。
視界を覆うような文字の羅列が浮かび上がった。
「これは……ステータス?レベル?なんだ、これは。」
もはや定型と化した言葉を思わず口にし、疑うように文字を凝視する。何かの数値のようなものが、やはりそこにある。
では、もうひとつの魔導書のはなんなのか。
教皇の足は自然の隣へ向かった。偶像を過ぎ、そして祭壇を前にした。視界の端には未だ文字が。
神々しきその書物に手を触れる。
「…………何も起こらない?いや、文字が増えている。」
しかし、まだ疑問が拭えない。その増えた文字を拡大してみる。
「創滅焔……これが、夢で神が仰っていたことなのか……これにて、罪人を燃やせと……」
教皇の目は爛々と光った。未だかつてないほど、創滅神と一体になった気がした。教皇になって、一番の喜びが舞い込んできたような思いで満たされた。
「世界は、我が神の下にのみ有り。」
神創教の教えを口にし、その手に焔を宿した。
—————————
教会本堂、礼拝の間にて。多くの役職持ちが並んでいた。帝国と協力していたこともあり、卓越した魔導具技術を組み込んだライブ放送も行われている。
「ひとつ、世界は我が神の下にのみ有り。ひとつ、信徒こそがこの世の民である。ひとつ、神の勅命は絶対。」
教皇は、偶像を隠してしまわぬよう、跪きながら手を広げ、語る。教えをひとつずつ口にしていく。
「今、神の勅命が与えられた。」
両脇の魔導具が光る。
「我ら信徒の一部も、かの戦争により戦果を受けてしまった。その怒り、その復讐、世の民が傷ついてしまうこの世界を変革するに相応しいのは、アズリア神国の民である!」
蛮人のように叫ぶなどしない。その言葉を噛み締めるようにして、彼ら彼女らは神を尊ぶ。
「この2冊の神の書に触れよ。さすれば、創滅神様の力の一端に御触れすることができる。じきに、民全員に神の子としての責務を与えよう。」
全ての信徒が、左胸に手を当てた。この身、全ては神のものであるという証だ。
現在、帝国では連合軍が占拠し教会は次々と撤去され児童養護施設や学舎に姿を変えている。
それを憎く思うのが、アズリアの民。
信徒でないものはこの世の民ではない。
信徒であり、神の子となる神国人は、裁きを下す。それが神の啓示であり、目指す道なのだから。
「燃やせ!神の名の下に。信仰を貫け!」
この日、アズリア神国に神の使徒が生まれた。
この 賜神の儀式は約5日ほどかけて行われ、ほぼ全国民が使徒となった。
皮肉なことに、神を滅ぼさんとする者どもの名前と一致するその儀式は、逆に彼らを壊滅させる力を持つ使徒へと至らせた。
この短い時間によって、使徒の軍団が生まれた。やることは、敵を全て燃やし尽くすのみ。
「我々は神の使徒となった。神の望む世界へと生まれ変わらせるため、邁進せよ。」
—————————
その日、ネイファ・リンカも夢を見た。
創滅神様の後ろ姿が夢に現れた。まるでネイファを避けるように歩き出し、遠くに離れてしまって……そこで、目が覚めた。
帝国の処理を終え、一仕事を終えたネイファ。神国に戻り、副機卿としての任を全うしていた。
しかし、ネイファの脳裏にはあの日の夢がこびりついたまま離れなかった。
その直後のことだった。
教皇ゼビエン・ルーエンが神の使徒となった。
そして国民全員が使徒となった。
そういうことか、とネイファは理解した。創滅神様はネイファを見捨てたのだ。
ネイファももちろん使徒となったが、繋がりは感じられなかった。
だからネイファは決めた。
キャスケットのツバを握り締め、繋ぎ止めるように深く被った。
創滅神様を振り返させる。
ネイファは、創滅神の術中にハマった。
———————————————————————
次回から文字数は戻します。
今現在の神国の動きとネイファの居場所を知らせておくためにも、この回を入れ込みました。なので文字数が少ないのはお許しを……
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