上 下
612 / 681
18章 魔法少女と神の使徒

582話 受け継ぐ力

しおりを挟む

 アズリア神国首都アイズレリール。ここは世界屈指の宗教国。宗教の力を主軸とした神主主義の政治を行なっている。
 全ての決定権は神にあり、神と対話が可能な教皇がこの国の元首代理として君臨していた。

 神こそが全て、神が絶対。そんな主義の下神国は長年国家を運営してきた。これもまた、信仰の力。
 かつて地球で、宗教の力によって危機を乗り越えようとした天皇がいたように、宗教の力とはそれほどに強大なものということを知っていたからこそ成り立っている国。

 そんなアズリアの元首代理。神創教教皇ゼビエン・ルーエンはある日、夢を見た。

 それは、神の夢。目が潰れそうなほどに眩く、神々しいお姿。そして、気高く美しき神のお声。それを見た瞬間に、これは神のお告げだと理解した。

『力をやろう。そして、我に成り変わり世界を正しき道へ歩ませよ』

 そんな、短い命令文。しかし、その時間が長く尊いものだった。

『我が焔にて悪を燃やせ』

 その日、神国は道を得た。


 神国国内には多くの教会が設立されており、国民にとっても身近な存在であり、尊い存在。9割以上の子どもは宗教学校へと入学し、教会従事者へと就職を願う。そんな、敷かれたレールを自ら歩む神の下僕国家。

 その中の本教会。選りすぐりの天才が務める、他国でいうところの王城や議事堂にあたる国家の中心部である。
 教皇は、そこで毎日祈りを捧げていた。

「なんだ、これは。」
今日も祈りを捧げるために、教会の本殿を訪れていた。礼拝の間。全面ステンドガラスで、細かく美しい細工の施された一級品。細長い部屋の最奥には、創滅神を模したただ一つの偶像。

 そんな偶像の左右に、見慣れぬ魔導具のようなものが知らぬ間に現れていた。
 昨日まではなかった。ここを最後に出たのも教皇で、入ったのも教皇。

「まさか、これが創滅神様が下ろしてくださった天啓の力……」
自分で言って、冗談のように感じた。しかし、まるで偶像を守るように位置しているその魔導具からは、美しい輝きを感じた。

 細く、人の腰ほどの高さの祭壇の真上を魔導書が浮いている。そのような姿をしている。

 教皇は吸い寄せられるようにそれに向かい、浮いている書物に触れた。
 触れると、脳内に何かが刷り込まれるような感覚に陥った。

「なんだ、これは…………」
また、同じ言葉が漏れた。感じ慣れぬ感覚の後に、不思議な高揚感のようなものが体を満たす。そして、どうしてか手を伸ばして手を握っていた。

 視界を覆うような文字の羅列が浮かび上がった。

「これは……ステータス?レベル?なんだ、これは。」
もはや定型と化した言葉を思わず口にし、疑うように文字を凝視する。何かの数値のようなものが、やはりそこにある。

 では、もうひとつの魔導書のはなんなのか。

 教皇の足は自然の隣へ向かった。偶像を過ぎ、そして祭壇を前にした。視界の端には未だ文字が。

 神々しきその書物に手を触れる。

「…………何も起こらない?いや、文字が増えている。」
しかし、まだ疑問が拭えない。その増えた文字を拡大してみる。

「創滅焔……これが、夢で神が仰っていたことなのか……これにて、罪人を燃やせと……」
教皇の目は爛々と光った。未だかつてないほど、創滅神と一体になった気がした。教皇になって、一番の喜びが舞い込んできたような思いで満たされた。

「世界は、我が神の下にのみ有り。」
神創教の教えを口にし、その手に焔を宿した。

—————————

 教会本堂、礼拝の間にて。多くの役職持ちが並んでいた。帝国と協力していたこともあり、卓越した魔導具技術を組み込んだライブ放送も行われている。

「ひとつ、世界は我が神の下にのみ有り。ひとつ、信徒こそがこの世の民である。ひとつ、神の勅命は絶対。」
教皇は、偶像を隠してしまわぬよう、跪きながら手を広げ、語る。教えをひとつずつ口にしていく。

「今、神の勅命が与えられた。」
両脇の魔導具が光る。

「我ら信徒の一部も、かの戦争により戦果を受けてしまった。その怒り、その復讐、世の民が傷ついてしまうこの世界を変革するに相応しいのは、アズリア神国の民である!」
蛮人のように叫ぶなどしない。その言葉を噛み締めるようにして、彼ら彼女らは神を尊ぶ。

「この2冊の神の書に触れよ。さすれば、創滅神様の力の一端に御触れすることができる。じきに、民全員に神の子としての責務を与えよう。」
全ての信徒が、左胸に手を当てた。この身、全ては神のものであるという証だ。

 現在、帝国では連合軍が占拠し教会は次々と撤去され児童養護施設や学舎に姿を変えている。
 それを憎く思うのが、アズリアの民。

 信徒でないものはこの世の民ではない。
 信徒であり、神の子となる神国人は、裁きを下す。それが神の啓示であり、目指す道なのだから。

「燃やせ!神の名の下に。信仰を貫け!」
この日、アズリア神国に神の使徒が生まれた。

 この 賜神ししんの儀式は約5日ほどかけて行われ、ほぼ全国民が使徒となった。

 皮肉なことに、神を滅ぼさんとする者ども四神の名前と一致するその儀式は、逆に彼らを壊滅させる力を持つ使徒へと至らせた。

 この短い時間によって、使徒の軍団が生まれた。やることは、敵を全て燃やし尽くすのみ。

「我々は神の使徒となった。神の望む世界へと生まれ変わらせるため、邁進せよ。」

—————————

 その日、ネイファ・リンカも夢を見た。

 創滅神様の後ろ姿が夢に現れた。まるでネイファを避けるように歩き出し、遠くに離れてしまって……そこで、目が覚めた。

 帝国の処理を終え、一仕事を終えたネイファ。神国に戻り、副機卿としての任を全うしていた。
 しかし、ネイファの脳裏にはあの日の夢がこびりついたまま離れなかった。

 その直後のことだった。
 教皇ゼビエン・ルーエンが神の使徒となった。

 そして国民全員が使徒となった。

 そういうことか、とネイファは理解した。創滅神様はネイファを見捨てたのだ。
 ネイファももちろん使徒となったが、繋がりは感じられなかった。

 だからネイファは決めた。

 キャスケットのツバを握り締め、繋ぎ止めるように深く被った。

 創滅神様を振り返させる。

 ネイファは、創滅神の術中にハマった。

———————————————————————

 次回から文字数は戻します。

 今現在の神国の動きとネイファの居場所を知らせておくためにも、この回を入れ込みました。なので文字数が少ないのはお許しを……
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

夫から国外追放を言い渡されました

杉本凪咲
恋愛
夫は冷淡に私を国外追放に処した。 どうやら、私が使用人をいじめたことが原因らしい。 抵抗虚しく兵士によって連れていかれてしまう私。 そんな私に、被害者である使用人は笑いかけていた……

別に構いませんよ、離縁するので。

杉本凪咲
恋愛
父親から告げられたのは「出ていけ」という冷たい言葉。 他の家族もそれに賛同しているようで、どうやら私は捨てられてしまうらしい。 まあいいですけどね。私はこっそりと笑顔を浮かべた。

他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!

七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?

母を訪ねて十万里

サクラ近衛将監
ファンタジー
 エルフ族の母と人族の父の第二子であるハーフとして生まれたマルコは、三歳の折に誘拐され、数奇な運命を辿りつつ遠く離れた異大陸にまで流れてきたが、6歳の折に自分が転生者であることと六つもの前世を思い出し、同時にその経験・知識・技量を全て引き継ぐことになる。  この物語は、故郷を遠く離れた主人公が故郷に帰還するために辿った道のりの冒険譚です。  概ね週一(木曜日22時予定)で投稿予定です。

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

いつもの電車を降りたら異世界でした 身ぐるみはがされたので【異世界商店】で何とか生きていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
電車をおりたら普通はホームでしょ、だけど僕はいつもの電車を降りたら異世界に来ていました 第一村人は僕に不親切で持っているものを全部奪われちゃった 服も全部奪われて路地で暮らすしかなくなってしまったけど、親切な人もいて何とか生きていけるようです レベルのある世界で優遇されたスキルがあることに気づいた僕は何とか生きていきます

処理中です...