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18章 魔法少女と神の使徒
579話 魔法少女は引き取りに行く
しおりを挟む会議は自然解散で終わってしまった。蓮以外、ここに残ってる人はいない。
「私も帰るかぁ。」
まだ昼前だ。ご飯を食べるにも早いし、何かするにも時間がない。中途半端だ。
「そろそろ、ツララ迎えに行こうか。ついでに、ラビアに挨拶も。」
「王都、行くのか?」
頬杖をつく蓮が、目線を外して聞いてくる。
「話す時は目を合わせましょうって、知らない?」
「合わせなくても話せるだろうが。」
「ま、私は合わせたくないからいいけど。」
嫌味を言ってみると、眉間に皺がよる。これ以上はダメだと直感が言うため、引き際だ。
「行くけど、なに?」
「聞いただけだ。」
「あっそ。」
聞いて損した、と思いながら、座標転移を展開する。何度もやれば、なれるものだ。
「ただいまっと。」
転移したのは、パズールの自宅。
「百合乃ーいる?」
「いつでもどこでも呼ばれて飛び出て百合乃ちゃんです!」
「どっから来たの、ほんと。」
扉を開けようとした瞬間、その隙間から百合乃の軍服が見えた。もう、準備していたと言われた方がしっくりくる。
それはそれで変態だけど。
「王都行くけど、着いてくる?」
「お供します!」
尻尾をブンブン振る忠犬みたいな勢いだ。ペットとか飼ったことないけど。
「座標転移するから、捕まって。」
「分かりました。」
「どこ捕まってんの。」
百合乃は、私の背後をとって抱きついた。
「私への当てつけ?」
「違います、愛情表現です。」
「じゃあそのむかつく愛情表現やめて。私は悪意しか感じ取れない。」
むぅ、と頬を膨らませる。現実にそんな風にする人、いたんだ。
「転移っと。」
一瞬、視界の消失の後。すぐに、視界が切り替わる。王都だ。
「詠唱とか必要ないんです?」
「あってもなくてもいいんじゃない?空間魔法は、特に詠唱とかはないけど。」
「そうなんです?」
魔法って分からないです。そう言って、門の列に並んだ。
スキルに詠唱破棄があるから、どっちみちいらないけどね。
再び王都に帰ってきた私達。謎の機械でギルドカードをかざすと、以前の来国記録も残るらしい。私達は、任務の後に帰ってきた冒険者と思われてるみたいだ。
「ま、その方が手っ取り早くて楽か。」
「ですね。」
そして、以前と同じく馬車に乗り込み王城を目指す。今回の御者さんは、特に理由を聞いてきたりはしなかった。
今日の馬はゆっくりめかな。別に、今日は急ぐ理由もないしいいか。
ゆっくり、王都の石畳を蹴り付ける音をBGMとして聞いている。百合乃は、横揺れしながら待っていた。
着いた頃には、もうお昼ご飯を食べたい時間になっていた。でも、私達出かけてるし、多分トートルーナさんも分かってくれるよね!
帰ったら、『昼食の用意、していたんですけど?』と青筋を浮かべながら鬼となるトートルーナさんを幻視した。
「王城、とうちゃーく。」
「ですー。」
と、テンションを上げようとしたけど、もう数日前に一回見た。別に、そんな見上げてすげぇって言うレベルは通り過ぎた。
今回は、ストップかからず行けるかな。
なんて思ってはいたけど、なんとなく無理なんだろうなと感じていた。
「ソラ殿とユリノ殿ですね。」
「あ、はい。」
「お通しするように仰せつかっております。どうぞ、こちらへ。」
「あ、はいです。」
ハキハキと、新人そうな門番が踵を返した。そう簡単に背は向けちゃいかんよ。若造よ。
ま、私より年上そうだけど。
じゃない!え、普通に通してくれるの?前回領主パワーで入れただけなのに?入れてくれちゃうの?
特別処置に、呆気に取られる。
王城内は慌ただしい感じはなかった。逆に、落ち着いていた。
「国王、いないのか。」
そういえばと、ふと思い出した。
ミリエナ会議に出席するとかなんとか言ってたような気がする。
「現在、ヘルベリスタ帝国の処遇について検討を重ねているところでございます。」
「うおっ!?……オリーヴさん…………」
真横で、直立不動で話しかけてきていた。
「あとはこちらで引き継ぎますので、お戻りいただいいて結構ですよ。」
やることなすこと、スピード感がある。仕事できる女ってやつだ。
「要件は分かっています。ツララ様を引き取りにいらっしゃったのでしょう。」
「あっ、それと!ラビアにも会いたいんだけど……」
「えぇ。では、後ほど。」
言いながら、後をついてこいというように歩き出した。
前に1回探検したけど、知らない部屋も多いね。まだ。いつか王城大捜索とかしてみたいな。こう、不用品とか見つけて売ればとんでもない金額になりそう。
というか、王の息子か娘か知らないけど、いればその子のいらなくなった持ち物とかだけでもだいぶ金が入りそうだ。
そんな下衆な話をなぜか思いついてしまったあたりで、オリーヴさんの足がとある部屋で止まる。
「よろしいですか。」
そして確認はなく開錠。ガチャっと音が鳴る。
「返事を待たずに開けないでもらえませんか?施錠の意味がないのだけど。」
紅銀髪が揺れた。その横には、耳の生えた少女もいる。
「少しの間、彼女にツララ様を預かってもらいました。」
奥に見える、これまたメイドさんが頭を下げる。
「主っ!」
少し困惑している間に、ツララは跳ね上がって私に飛びついた。
「おー、よしよし。頑張ったね。」
別にツララは泣いているわけではない。喜びを、形で表現している。
「ラビアも、なんかごめん。」
「いえ、妹ができたようで楽しかったですよ。」
「ツララは、どうだった?」
「……ラビアは、いい人だった。多分。」
「そこは言い切って欲しかったのだけど……」
と、苦笑するラビア。
「多分は、多分。」
と、別の意味で言い切るツララ。
仲はずいぶん良くなったみたいだね。
目的は少し達成、ということだ。満足満足。初期のツララは、口すらきいてくれなかったし。
そう考えれば大きな進歩だ。
「ちなみにだけど、ラビアはどうするの?」
「どうする、とは。今後のことでしょうか。」
「うん、そうだよ。」
百合乃も黙って入室し、気を利かせたのかオリーヴさんは奥のメイドさんと目配せして退出した。
「未来を見たなら分かるかもしれないけど……」
「あの日、未来を消去した時点で、ある一定以上先の未来を観測することが不可能になりました。」
私の言葉を遮って、その言葉が伝えられる。
「私が最後に観測した未来。それは、神の使徒の襲来。……いえ、神国の———」
「おっけー。それ以上、言わなくていい。」
今度は、私が遮る。その先は分かってる。ということは、本当に未来にすぐ、それが起こる。
「また今度。またね。」
「……そうね、また会いましょう。」
ラビアは目を伏せ、何かをグッと堪えたように笑みを作る。
いい未来は見えなかったのかな。いや、多分これは見えなかったのかもしれない。見えないから、絶望の先が分からない。
やるしかないんだ、本当に。決まってない未来を、私が掴み取る。そこに未来があるんだから、望む未来を観測してやろう。
私そのものが『ノストラダムスの大予言』になればいい。
「主、なんの話?」
「なんでもないよ。」
「なんでもなくない。主の顔、強張っている。」
未だ私に抱きつくツララは、ラビアとの別れの中私の顔を揉みしだいた。
「今日のところは、このくらいで。」
「えぇ。また、会えることを願っているわ。」
行きと同じように、座標転移でその場から去った。もう、王都に行くことはもうそうないだろう。
次は、私が神になったときにでも。
そのかっこつけがふりになりそうな予感を感じながら、視界が染まるのを感じていた。
———————————————————————
最近体調崩しまくっているcoverさん、頑張って執筆します。
今回は急いでいたため、誤字多めでお送りしているかもしれません。
……というか、全然手直し進んでないですね……
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