上 下
608 / 681
18章 魔法少女と神の使徒

579話 魔法少女は引き取りに行く

しおりを挟む

 会議は自然解散で終わってしまった。蓮以外、ここに残ってる人はいない。

「私も帰るかぁ。」
まだ昼前だ。ご飯を食べるにも早いし、何かするにも時間がない。中途半端だ。

「そろそろ、ツララ迎えに行こうか。ついでに、ラビアに挨拶も。」
「王都、行くのか?」
頬杖をつく蓮が、目線を外して聞いてくる。

「話す時は目を合わせましょうって、知らない?」
「合わせなくても話せるだろうが。」
「ま、私は合わせたくないからいいけど。」
嫌味を言ってみると、眉間に皺がよる。これ以上はダメだと直感が言うため、引き際だ。

「行くけど、なに?」
「聞いただけだ。」
「あっそ。」
聞いて損した、と思いながら、座標転移を展開する。何度もやれば、なれるものだ。

「ただいまっと。」
転移したのは、パズールの自宅。

「百合乃ーいる?」
「いつでもどこでも呼ばれて飛び出て百合乃ちゃんです!」
「どっから来たの、ほんと。」
扉を開けようとした瞬間、その隙間から百合乃の軍服が見えた。もう、準備していたと言われた方がしっくりくる。

 それはそれで変態だけど。

「王都行くけど、着いてくる?」
「お供します!」
尻尾をブンブン振る忠犬みたいな勢いだ。ペットとか飼ったことないけど。

「座標転移するから、捕まって。」
「分かりました。」
「どこ捕まってんの。」
百合乃は、私の背後をとって抱きついた。

「私への当てつけ?」
「違います、愛情表現です。」
「じゃあそのむかつく愛情表現やめて。私は悪意しか感じ取れない。」
むぅ、と頬を膨らませる。現実にそんな風にする人、いたんだ。

「転移っと。」
一瞬、視界の消失の後。すぐに、視界が切り替わる。王都だ。

「詠唱とか必要ないんです?」
「あってもなくてもいいんじゃない?空間魔法は、特に詠唱とかはないけど。」
「そうなんです?」
魔法って分からないです。そう言って、門の列に並んだ。

 スキルに詠唱破棄があるから、どっちみちいらないけどね。

 再び王都に帰ってきた私達。謎の機械でギルドカードをかざすと、以前の来国記録も残るらしい。私達は、任務の後に帰ってきた冒険者と思われてるみたいだ。

「ま、その方が手っ取り早くて楽か。」
「ですね。」
そして、以前と同じく馬車に乗り込み王城を目指す。今回の御者さんは、特に理由を聞いてきたりはしなかった。

 今日の馬はゆっくりめかな。別に、今日は急ぐ理由もないしいいか。

 ゆっくり、王都の石畳を蹴り付ける音をBGMとして聞いている。百合乃は、横揺れしながら待っていた。
 着いた頃には、もうお昼ご飯を食べたい時間になっていた。でも、私達出かけてるし、多分トートルーナさんも分かってくれるよね!

 帰ったら、『昼食の用意、していたんですけど?』と青筋を浮かべながら鬼となるトートルーナさんを幻視した。

「王城、とうちゃーく。」
「ですー。」
と、テンションを上げようとしたけど、もう数日前に一回見た。別に、そんな見上げてすげぇって言うレベルは通り過ぎた。

 今回は、ストップかからず行けるかな。

 なんて思ってはいたけど、なんとなく無理なんだろうなと感じていた。

「ソラ殿とユリノ殿ですね。」
「あ、はい。」
「お通しするように仰せつかっております。どうぞ、こちらへ。」
「あ、はいです。」
ハキハキと、新人そうな門番が踵を返した。そう簡単に背は向けちゃいかんよ。若造よ。

 ま、私より年上そうだけど。

 じゃない!え、普通に通してくれるの?前回領主パワーで入れただけなのに?入れてくれちゃうの?

 特別処置に、呆気に取られる。

 王城内は慌ただしい感じはなかった。逆に、落ち着いていた。

「国王、いないのか。」
そういえばと、ふと思い出した。

 ミリエナ会議に出席するとかなんとか言ってたような気がする。

「現在、ヘルベリスタ帝国の処遇について検討を重ねているところでございます。」
「うおっ!?……オリーヴさん…………」
真横で、直立不動で話しかけてきていた。

「あとはこちらで引き継ぎますので、お戻りいただいいて結構ですよ。」
やることなすこと、スピード感がある。仕事できる女ってやつだ。

「要件は分かっています。ツララ様を引き取りにいらっしゃったのでしょう。」
「あっ、それと!ラビアにも会いたいんだけど……」
「えぇ。では、後ほど。」
言いながら、後をついてこいというように歩き出した。

 前に1回探検したけど、知らない部屋も多いね。まだ。いつか王城大捜索とかしてみたいな。こう、不用品とか見つけて売ればとんでもない金額になりそう。

 というか、王の息子か娘か知らないけど、いればその子のいらなくなった持ち物とかだけでもだいぶ金が入りそうだ。

 そんな下衆な話をなぜか思いついてしまったあたりで、オリーヴさんの足がとある部屋で止まる。

「よろしいですか。」
そして確認はなく開錠。ガチャっと音が鳴る。

「返事を待たずに開けないでもらえませんか?施錠の意味がないのだけど。」
紅銀髪が揺れた。その横には、耳の生えた少女もいる。

「少しの間、彼女にツララ様を預かってもらいました。」
奥に見える、これまたメイドさんが頭を下げる。

「主っ!」
少し困惑している間に、ツララは跳ね上がって私に飛びついた。

「おー、よしよし。頑張ったね。」
別にツララは泣いているわけではない。喜びを、形で表現している。

「ラビアも、なんかごめん。」
「いえ、妹ができたようで楽しかったですよ。」
「ツララは、どうだった?」
「……ラビアは、いい人だった。多分。」
「そこは言い切って欲しかったのだけど……」
と、苦笑するラビア。

「多分は、多分。」
と、別の意味で言い切るツララ。

 仲はずいぶん良くなったみたいだね。

 目的は少し達成、ということだ。満足満足。初期のツララは、口すらきいてくれなかったし。

 そう考えれば大きな進歩だ。

「ちなみにだけど、ラビアはどうするの?」
「どうする、とは。今後のことでしょうか。」
「うん、そうだよ。」
百合乃も黙って入室し、気を利かせたのかオリーヴさんは奥のメイドさんと目配せして退出した。

「未来を見たなら分かるかもしれないけど……」
「あの日、未来を消去した時点で、ある一定以上先の未来を観測することが不可能になりました。」
私の言葉を遮って、その言葉が伝えられる。

「私が最後に観測した未来。それは、神の使徒の襲来。……いえ、神国の———」
「おっけー。それ以上、言わなくていい。」
今度は、私が遮る。その先は分かってる。ということは、本当に未来にすぐ、それが起こる。

「また今度。またね。」
「……そうね、また会いましょう。」
ラビアは目を伏せ、何かをグッと堪えたように笑みを作る。

 いい未来は見えなかったのかな。いや、多分これは見えなかったのかもしれない。見えないから、絶望の先が分からない。

 やるしかないんだ、本当に。決まってない未来を、私が掴み取る。そこに未来があるんだから、望む未来を観測してやろう。
 私そのものが『ノストラダムスの大予言』になればいい。

「主、なんの話?」
「なんでもないよ。」
「なんでもなくない。主の顔、強張っている。」
未だ私に抱きつくツララは、ラビアとの別れの中私の顔を揉みしだいた。

「今日のところは、このくらいで。」
「えぇ。また、会えることを願っているわ。」
行きと同じように、座標転移でその場から去った。もう、王都に行くことはもうそうないだろう。

 次は、私が神になったときにでも。

 そのかっこつけがふりになりそうな予感を感じながら、視界が染まるのを感じていた。

———————————————————————

 最近体調崩しまくっているcoverさん、頑張って執筆します。
 今回は急いでいたため、誤字多めでお送りしているかもしれません。

 ……というか、全然手直し進んでないですね……
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

異世界なんて救ってやらねぇ

千三屋きつね
ファンタジー
勇者として招喚されたおっさんが、折角強くなれたんだから思うまま自由に生きる第二の人生譚(第一部) 想定とは違う形だが、野望を実現しつつある元勇者イタミ・ヒデオ。 結構強くなったし、油断したつもりも無いのだが、ある日……。 色んな意味で変わって行く、元おっさんの異世界人生(第二部) 期せずして、世界を救った元勇者イタミ・ヒデオ。 平和な生活に戻ったものの、魔導士としての知的好奇心に終わりは無く、新たなる未踏の世界、高圧の海の底へと潜る事に。 果たして、そこには意外な存在が待ち受けていて……。 その後、運命の刻を迎えて本当に変わってしまう元おっさんの、ついに終わる異世界人生(第三部) 【小説家になろうへ投稿したものを、アルファポリスとカクヨムに転載。】 【第五巻第三章より、アルファポリスに投稿したものを、小説家になろうとカクヨムに転載。】

まじぼらっ! ~魔法奉仕同好会騒動記

ちありや
ファンタジー
芹沢(せりざわ)つばめは恋に恋する普通の女子高生。入学初日に出会った不思議な魔法熟… 少女に脅され… 強く勧誘されて「魔法奉仕(マジックボランティア)同好会」に入る事になる。 これはそんな彼女の恋と青春と冒険とサバイバルのタペストリーである。 1話あたり平均2000〜2500文字なので、サクサク読めますよ! いわゆるラブコメではなく「ラブ&コメディ」です。いえむしろ「ラブギャグ」です! たまにシリアス展開もあります! 【注意】作中、『部』では無く『同好会』が登場しますが、分かりやすさ重視のために敢えて『部員』『部室』等と表記しています。

巡(めぐり)型落ち魔法少女の通学日記

武者走走九郎or大橋むつお
ファンタジー
時司巡(ときつかさめぐり)は制服にほれ込んで宮之森高校を受験して合格するが、その年度から制服が改定されてしまう。 すっかり入学する意欲を失った巡は、定年退職後の再任用も終わった元魔法少女の祖母に相談。 「それなら、古い制服だったころの宮の森に通ってみればぁ?」「え、そんなことできるの!?」 お祖母ちゃんは言う「わたしの通っていた学校だし、魔法少女でもあったし、なんとかなるよ」 「だいじょうぶ?」 「任しとき……あ、ちょっと古い時代になってしまった」 「ええ!?」  巡は、なんと50年以上も昔の宮之森高校に通うことになった!

ピンクの髪のオバサン異世界に行く

拓海のり
ファンタジー
私こと小柳江麻は美容院で間違えて染まったピンクの髪のまま死んで異世界に行ってしまった。異世界ではオバサンは要らないようで放流される。だが何と神様のロンダリングにより美少女に変身してしまったのだ。 このお話は若返って美少女になったオバサンが沢山のイケメンに囲まれる逆ハーレム物語……、でもなくて、冒険したり、学校で悪役令嬢を相手にお約束のヒロインになったりな、お話です。多分ハッピーエンドになる筈。すみません、十万字位になりそうなので長編にしました。カテゴリ変更しました。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

ひねくれぼっちが異世界転生したら雑兵でした。~時には独りで瞑想したい俺が美少女とイケメンと魔物を滅すらしい壮大冒険譚~

アオイソラ
ファンタジー
 おっす! 俺エルドフィン!(声は野沢雅子じゃねぇぞ!)  ぼっち現代が虚無虚無ぷりんでサヨナラしたらファンタジーぽい世界の18歳に転生してた!  転生後の世界って飯は不味いわ、すぐ死ぬわ、娯楽も少ないわ、恋愛要素ないわ、風呂は入れないわで、全っ然つまんないし、別にチートキャラでもなく雑魚だし、いっそまた次に逝ってもいいかな、なんて思ってたんだけど、そんなモブ人生がどうも様子がおかしくなってきたゾっ!  プラチナブロンドの睫毛をキラキラさせて、可愛い瞳のワルキューレたんが俺に迫るのだ。 「やらぬのか? 契約は成された。我のすべては汝の思うがままだ」  えぇーっいいの?! やりますっ! やらせてくださいっ! やらいでかっ! 「人間と魔物の戦いが始まったくらいの昔の話、大戦争にうちの祖先が関わってたって言い伝えがある。魔剣も、その時の祖先が持ってたもので、神から貰った神器だって話なんだ」  顔に恐怖を貼り付けたイケメンも俺に迫るのだ。 「助けてくれ…」   おうっ! 任しとけっ相棒!! だがあえて言おうっBLはねぇっっ!  一度死んだくらいで人はそんなに変わりませんっ…デフォは愚痴愚痴、不平不満ディスり節を炸裂し続ける、成長曲線晩成型?のひねくれぼっちが異世界転生したらの物語。  イケメンホイホイ、ヒロイン体質?の主人公がスーパーハニーなワルキューレ達と大活躍?!  北欧神話と古代ノルウェーをモチーフにした、第四の壁ぶっ壊しまくりの壮大な冒険譚! ※ カクヨム、なろうにも掲載しています。カクヨムにはおまけストーリー・作成資料なども紹介してます☺️❤️   「カクヨム」「アオイソラ」でどぞ☆彡

~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる

静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】 【複数サイトでランキング入り】 追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語 主人公フライ。 仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。 フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。 外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。 しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。 そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。 「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」 最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。 仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。 そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。 そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。 一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。 イラスト 卯月凪沙様より

俺だけ展開できる聖域《ワークショップ》~ガチャで手に入れたスキルで美少女達を救う配信がバズってしまい、追放した奴らへざまあして人生大逆転~

椿紅颯
ファンタジー
鍛誠 一心(たんせい いっしん)は、生ける伝説に憧憬の念を抱く駆け出しの鍛冶師である。 探索者となり、同時期に新米探索者になったメンバーとパーティを組んで2カ月が経過したそんなある日、追放宣言を言い放たれてしまった。 このことからショックを受けてしまうも、生活するために受付嬢の幼馴染に相談すると「自らの価値を高めるためにはスキルガチャを回してみるのはどうか」、という提案を受け、更にはそのスキルが希少性のあるものであれば"配信者"として活動するのもいいのではと助言をされた。 自身の戦闘力が低いことからパーティを追放されてしまったことから、一か八かで全て実行に移す。 ガチャを回した結果、【聖域】という性能はそこそこであったが見た目は派手な方のスキルを手に入れる。 しかし、スキルの使い方は自分で模索するしかなかった。 その後、試行錯誤している時にダンジョンで少女達を助けることになるのだが……その少女達は、まさかの配信者であり芸能人であることを後々から知ることに。 まだまだ驚愕的な事実があり、なんとその少女達は自身の配信チャンネルで配信をしていた! そして、その美少女達とパーティを組むことにも! パーティを追放され、戦闘力もほとんどない鍛冶師がひょんなことから有名になり、間接的に元パーティメンバーをざまあしつつ躍進を繰り広げていく! 泥臭く努力もしつつ、実はチート級なスキルを是非ご覧ください!

処理中です...