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17章 魔法少女と四国大戦

560話 毒を食らわば皿まで

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 帝国府の裏に存在する、周囲が砦に囲まれた厳重な施設の中に2つの人影が。
 そのうちのひとつは、ネイファ・リンカのものだ。

「ここが収容所兼実験施設になりますねぇ。帝国の非道を明らかにするには十二分の証拠ですが、目に見えるものを与えてやらねば衆愚どもは信じません。」
馬鹿にしているのかただ事実を述べているのか、ネイファは侵入しながらそんなことを言った。

「目に見える証拠と……そんなもの、其方が手にすることができるのか?」
「わたしを舐めてもらっては困りますね。」
「できるなら、それでいい。」
研究所や実験所というより、もはや監獄でしかないこの牢獄の列の中を2人は堂々と歩く。

 ネイファは初めから自由奔放でまともに指揮をすることはない。そのため、長い期間離れていようと特段怪しまれることはない。
 悲しい性である。

「空気の流れがおかしい。どこか破壊されているのか?」
「ご名答です。先日、あの転生者にやられましてね。参ってしまいますよ。」
被り直したキャスケットの隙間から見える目は、弧を描いていた。

「リンカ卿!」
しかしそれでも、声がかけられた。

「今までどちらにいらしたのですか?神国軍の指揮をしてもらわねばこちらも困るのですが。」
黒髪を短く纏めた、いかにも真面目そうな女騎士。くっ殺を地でやるタイプだ。

「もう戦争は始まっていますし、わたしが出る幕はないでしょう。お役御免です。」
「参加はされないのですか!」
「貴方と同じ指揮の立場なので。では、貴方が出れば良いのでは?」
いつものように、相手の機嫌を損ねるためだけの話術のようなものを発揮している。

 騎士は拳を振るわせる。

「喧嘩っ早いのはこれだから。」
二つ結びの水色の髪が左右に振られる。

「そもそもそこの男の子はなんなのですか!ほっつき歩いて帰ってきたら、男の子を同伴して帰還など言語道断!」
「そんなことを言っている暇があれば、貴方も指揮でもしてきたらどうですか?」
「現在の私の役目は牢獄の管理です。ここにいる兵も徴兵されてしまい、現在は私が管理しているのです!」
ネイファの顔には、厄介なやつに出会ってしまった、みたいな感情がひしひしと感じる。ついでにため息が1つ。煙たがっている。

 エディレンはさっさとやるべきことをやりたかったが、主軸はやはりネイファだ。機嫌を損ねられても困るし、ここは我慢しよう。
 そう決めた。

「質問です。貴方は何故、帝国の騎士に?」
「何を突然……」
「はぁ……面倒ですねぇ。そのくらいパッと答えてくださいよ、お姉さん。」
渋々、騎士は口を開いた。

「憧れだったんですよ。国を守る剣の美しさが。」
「なんとまぁ夢見る少女でいらっしゃることですねぇ。可愛いですよ、おねーさん。」
「リンカ卿。馬鹿にされていますね?」
ゆっくりと腰の剣に手が伸びていた。その通りだから何も言えない。

「では、最後に。」
「なんでしょう?」
「帝国は、美しいですか?」
意図が分からない質問。エディレンも、この騎士も、困惑の意を含む視線をネイファに放った。

「私の目から見れば、美しいです。誰にも染まらぬ自由な帝国は。だから、それを侵す王国や不安を煽る犯罪者は嫌いなんですよ。」
「そうですか。」
ネイファはあっさり頷いた。

 あの言葉は完全に本心だ。別に、ネイファはそれをどうこう言うつもりはない。
 人によっては床に落ちたメガネや便器ですらアートに見える。それと一緒で、あの女から見た帝国はさぞ綺麗に映っていることだろう。

「帝国の幻像ばかりに気を取られて、沼にハマらなければいいですね。」
「ご忠告感謝しますリンカ卿。ですが、卿のように自己を表に出すような方に国など見えはしないでしょう。」
「恋でなくとも盲目にはなるようですね。」
「言うに事欠いて盲目と?随分とまた、偉くなられたようで。副、機卿様?」
なんという皮肉合戦。はたから観戦しているエディレンも呆れを見せている。

「では、私は失礼します。」
「貴方の言葉が帝国と神国に溝を作らなければいいですね。」
騎士はそのまま、エディレンを一瞥だけくれると去っていった。本当に、ここは監獄としか思っていないようだ。

 エディレンはこれでも人神だ。人の感情を知り尽くしている。あれは、正義を信じて疑わぬ強い柱のような意志だ。

「……何故あんなことを言ったのか、聞かせてもらってもいいか?」
気配が消えたのを確認してから、ネイファに真意を問いただす。

「別に、特にありませんが。」
「特に意味もなくあんなことを言う必要が、其方にあるとは到底思えないが。」
ネイファは恥ずかしそう……というより、薄く笑って何かを隠す。キャスケットを少し下げて。

「ただ、単純に今から壊される国について、少しだけ知っておこうと思っただけですよ。」
「そうか。」
そういうことにしておこう、そう小さく漏らしてネイファの行く道をついていく。


 視線を感じる。歩くたびにそれが増えて、小さく鎖のような金属の音が時々耳に届く。

「ここから先は、すべて人体実験用ですね。ここで、数多くの失敗の末に生まれたのがアーレないし転生者の力の複製ですね。なかなか、悪どいことやってますよ。」
ネイファは、道半ばで立ち止まった。

「どうした?」
「いえ、少し、暴動でも起こしてみようかと。」
「帝国でか?」
「ええもちろん。身で持って、帝国の恐ろしさを知らしめなければならない。それはお分かりですよね?」
ネイファは悪巧みをする気満々な顔つきで、キャスケットを外した。

「はじまる、あくのだいこうしん。」
ネイファ中心に、影が唸る。

 それは放射状に、半無差別的に放たれる。鉄や岩など素材関係なく貫き切り落とし、鉄檻にぶち込まれていたはずのナニかがのそりのそりと這い出てくる。

「みろ、これがていこくのやみだ。」
ゆっくりと、恐ろしく。大魔王よろしく、空中に躍り出た。

 手をかざす。正面に向けて、波動でも撃ち放つように。

「まさか、おい……さすがにやめ……」
エディレンが止めようとした。その前に、ネイファはやらかした。

 手に集めた影の塊を一斉に放射し、全てを喰らう闇のビームになって空の彼方まで飛んでいく。
 もちろん、その障害となる壁は吹き飛んだ。

 それすなわち。

「化け物の大名行列でも起こす気か、其方は。」
軽く青筋を立てたエディレンは、ネイファの肩を叩いて言った。当のネイファは、キャスケットを被り直していた。

「いやはや、そうはいってもまずは恐怖を刷り込むことが必要不可欠。それをお分かりで?皇帝の言葉を聞いても、この件をフラッシュバックさせることで言葉の意味をなくす。」
「それは意味があるのか?これはテロだと言われたらどうする。」
「逆に聞きますけど、帝国中枢の超機密区域にテロを起こす人物が入っていたなんで知れたら、それこそとんでもないスクープじゃないですか。それも狙ってるんですよ。」
ネイファはニヤニヤと、己の策を語る。

「ま、結局は文書の方でも証拠は押さえないといけませんがね。」
「やることなすこと其方は極端がすぎる……」
「今は何があっても、貴方が守ってくれると分かってますし、使わない手はないです。逆に、使えるものを使わないとかおかしくないですか?」
当然の如く語る。

「同じ罪なら、小さいより大きい方がいいですね、やっばり。」

 これから帝国の汚点が晒される。

 国民をも巻き込むはめになる最悪の戦争を、終わらせるための戦争を始める。

 ネイファは半回転して足を上げた。

「この程度、撒いたとて。ですよ。」
振り抜かれた足から吹き飛んだ、人間の溶けたような外見の化け物を見て冷たく言い放った。

———————————————————————

 そろそろ遅筆を直したい頃です。

 急いで執筆していると感想も見逃してしまって……非常に申し訳ないです。
 返信したコメントを読み返したのですが、「異世界、つまり」という7文字は要りません。
 単に消し忘れただけなんです……
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