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17章 魔法少女と四国大戦
559話 魔法少女は戦場へ
しおりを挟む時々、帝国兵と鉢合わせる。
何故姿が見えるようになったかは謎だけど、タイミング的にディティーの仕業だろうと予想づけをする。
「なんでこんなに、雑兵が強いんです……?」
サーベルの持ち手の底で殴り倒した百合乃が、涼しい顔で言った。
「百合乃の方が100倍強いでしょ、普通に。」
全く意に介さず敵を撃ち倒している姿を見て、なんとなく漏れた。
「これからディティーとも戦わなくちゃいけないんだから、温存しといてよ。」
「分かってますよ。だからこうして簡単に倒してるんじゃないですか。」
サーベルは鞘に収めず、百合乃は蹴りを放つ。仮定未来眼で、敵の位置を把握したのか。
未来眼とかチートすぎて怖いんだけど。
私にもそういうのほしいなー。
無いものねだりもそこそこに、吹き飛んだ帝国兵の屍(死んではないけど)を確認してから西へ駆ける。
「待ってくださいよ~!」
「待ってたんじゃ帝国兵わらわらやってくるでしょ?面倒なんだよ。」
「いいじゃないですかー!空がなんとかしてくださいよ。」
「え、普通にやだけど。」
ラビアの案を実行するためにも。まぁそれは抜きにしても雑魚と戦闘続きとかこりごり。
ディティーを帝国に戻したら終わる。帝国府で働いていた私が言うんだから相当だ。帝国府は帝国側に圧倒的有利になっている。
ネイファ曰く、帝国は生まれて直ぐに血を登録するらしい。その登録を受けた者は帝国に祝福されると言う名目で魔力強化を受けられるという。
先輩は使ってなかったみたいだけど、帝国府での効力はさらに増すんだってさ。
確かに先輩は完全に剣一筋な感じしたし。
「空が別の女のことを考えている気がします。」
「思考を読むに飽き足らず変態に覚醒してしまった。」
心地よい風を感じながら、心地悪い言葉を聞く。うん、後者の比率が高い。
「それに、動きから他の女の匂いが……」
「動きに匂いはない。というかどうしてそうも女に結びつけるの……?病気?」
「事実だからです!」
その自信はどこからやってくるんだろう。ほんとだから否定しづらい。
「これからやること、分かってる?」
「えっと、皇帝を追い詰めて戦闘に持ち込む……でしたっけ。」
「そう。百合乃にやって欲しいこと、話すからよく聞いてて。」
「耳が腐り落ちるまで聞きます!」
「そこまでしなくていい。」
要らぬ愛が降り注がれる。どこでそんな感情を拾ってきたんだろう、拾い食いかな?
「ディティーとの戦闘は主に私が引き受ける。防御というか、受け流しは任せたよ。」
「了解です!」
「で、本命だけど。」
こういうのは雰囲気が大事だ。少し、合間を開けて言う。
「百合乃には情報を斬ってもらいたい。」
—————————
戻らせたくないけどその方法が見つからない?
なら、自ら戻らないようにさせればいい。
つまり興味を引こう!ということ。
用意するものはこちら!
魔弾に改良したガンマ線バーストの素。
トロイのような勢いのある発射装置。
魔導法。
魔力。
やる気。
帝国領あとちょっと走れば帝国領。そんなところで、私はごっつい銃を抱えていた。
「まあ確かに、めちゃくちゃ簡単な方法ではあるね。」
「そのうちに一瞬で結界でも張ればいいんじゃないです?」
「私にそんな技能を求めないで欲しい。」
百合乃の無茶振りに対応しつつ、弾をこめる。
結構威力高めだから、気を付けて撃たないと味方巻き込むよね。
ディティーに出会えさえすればいい。その瞬間最大出力の空間魔法と重力世界を展開して、私がなんとかする。あとはタイミングを見計らって。
私達、空間と重力は1人でできそう?
『重力はなんとか』
じゃあ空間魔法にBとD頼める?
『分かったよ』
『らじゃ~』
そして残ったC。めちゃくちゃ、心の視線を感じる。
じゃあCは、空壊輪お願い。
『はっはっはっ!待ち侘びていたぞ!今こそ私の実力が火を吹く!』
いや、火とか吹いてもらっても困るけど。
比喩表現にマジレスで返す。こういうのが1番面倒なタイプだ。だからしたんだけど。
「ま、とりあえず撃っとこう。」
「軽いですね。」
どーん。帝国の方向に向かって、撃った。実際にはこんなもんじゃない威力だけど、まぁ大体こんなもの。見えないくらい高い位置まで飛んだのを確認すると、魔力を流した。
「たーまやー。」
「そんな花火みたいに生やさしいものじゃないです。」
「ここから見る分には光ってるだけだし。……とんでもない魔力を拡散してるわけだけど。」
「一体どれだけ用意してるんですか?」
「数える程度しかないよ、もう。」
百合乃と談笑をしながら、様子を伺う。
「仮定未来眼で未来見えない?」
「目で見える範囲しか影響はないので分かりませんね。」
「どうする?」
「探します?」
まるで行こうとしていたラーメン屋に列ができてたみたいなノリ。しかし、杞憂だったみたいだ。
「百合乃。」
「はいです。」
なんの気無しの会話。そう見えて、実は違う。
こっちだって、ディティー対策ぐらいしてるっての。
ガンッ、と鈍い音。明らかに殺意を持った一撃。正面を向きながら、百合乃はサーベルをノーモーションで後ろに向ける。
「残念。隙を突くつもりがまんまとハマったね。」
いらっしゃい、なんて言いながら発動する。もちろん、空間魔法と重力魔法のことだ。
「姿を現しなよディティー。最終決戦の場に姿を見せないなんて野暮だよ。」
にいっと笑いながら、振り返る。そこには、この前と同じく凛々しい顔の女性。
「昨日ぶりか、ソラ。まさか再開することになるとはな。」
「私だって会いたくなかったよ。」
空間魔法で姿を無理矢理現させ、重力世界を相殺されながらの戦闘。それを考えると、私は自然と苦い顔になる。
「そこの娘は、朕の知らぬ娘だ。名をなんという?」
「……なんか名乗りたくないです。」
「ふむ。やはり、この空間では他者へ干渉する朕の情報操作は効かぬようだ。」
「ご丁寧な解説どうも。」
ディティーの言葉は聞き流し、百合乃と共にジリジリと後ろに下がる。間合いを開けたい。
さっきの防御はたまたま上手くいったけど……これからは確定要素なんて何一つない。命のやり取りという土俵が広がっているだけ。
「あの爆発はソラの起こしたものか?」
「もちろん。」
「では、朕がここにいることは正しいな。罠に嵌められたなど、思わぬさ。」
この状況を全く危険だとは思っていないような、あっけらかんとした言葉を放った。
「朕は帝国を守らねばならない立場ゆえな。」
「そういうキャラ設定いいから。」
「ほう、これがキャラ設定か。なかなか面白い事を言う。」
言葉通り豪快に笑っている。
「朕という国のトップと、それの結果を望んでいる帝国民。この事実のみは揺るがないのだ。」
「ま、そう言うとは思ってたよ。」
だからこそのネイファの策だ。でも、その情報を深く知らない私からは何も得ることができない。
「この無駄話はいつまで続ける気?」
「ですです。わたしの空にちょっかいかけないでください!がるぅぅぅぅぅっ!」
「お友達は随分と気性が荒いようだ。手綱はしっかり握っておいて欲しいものだな、今すぐにでも朕に噛みついてきそうではないか。」
番犬のように唸っている百合乃を一瞥した後、トーンを低めて話を次に進める。
「朕の情報消去を、どうやって破った?」
「手の内を明かすと思う?」
「一縷の望みというものだ。よかろう。」
ディティーは流れるような所作で、注視しなければ気が付かぬほど自然に抜剣する。
種明かしすると、あの閃光と一緒に漏れ出た魔力で見つけた。
情報を消したと言っても、存在を消して仕舞えば死んでしまう。世界からも観測されなくなれば、それは事実的な死を表し、現実に干渉することができなくなることを指す。つまり、実体はあるわけだ。
なら簡単だ。
魔科学部の言っていた『万有魔力の法則』に従って、物体には魔力が宿る。見えなくても魔力はつき、その付着した魔力ごと見えなくなるから、何もないところを逆に防げばいい。
視点を変えるんだ。
見たいものを見るのではなく、見たいものの周りを見て位置を割り出す。逆算と言ってもいい。
「ならば、もう語ることはない。」
「無駄話もおしまいね。」
百合乃を少し後ろに下がらせる。
ここからは、世界の命運を賭けた一世一代の大勝負といったところだ。
「ここからは、私のターンだよ。」
「望むところさ。」
その場から、両者の姿は一瞬で消えた。
———————————————————————
ようやくディティー戦の始まりです。ようやくラストスパートに向けた戦闘ですね。見直しはできてないですけど、全く。
だからと言ってこの作品はまだ続きます。
9月というのに猛暑が続き、世間ではまだ某ウイルスが蔓延り、ジャ○ーズの問題で記者会見が行われ、処理水がなんだと騒がれている。そんな中私は、涼しい部屋で執筆です。
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