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17章 魔法少女と四国大戦
553話 鎮圧開始
しおりを挟む軍服を着た少女、百合乃はサーベルを構えた。
目の前には暴動を起こす、精神のイかれた騎士たち。後ろには、攻めあぐねる自軍の騎士が。
前者を、暴動軍と呼ぶ。
「もう……焦ったいですぅ……仲間だからって遠慮しすぎなんじゃないです?」
先ほど、何となく蹴り飛ばしてしまった男を見つめながら、小さなため息のようにその言葉を放った。
「じゃあ、殺さないようにやったりますよ!」
サーベルが動いた。
「木葉舞。」
風が流れるように、いつの間にか百合乃の姿は暴動軍の方へと向かっていた。
「残念ですね、わたしに勝てると思ったら大間違いです。」
彼女の通った後には、鎧を砕かれ膝をつく彼らの姿が。
「わたしが全員鎮圧してやります!」
仲間の敗北も認識できていないのか、狂ったように剣を握って走ってくる。その姿は、遮二無二突進する猪。
「動きが獣臭いです。」
百合乃は縮地で少し隣に移動すると、サーベルの腹で剣を流して足を踏んだ。男はコケる。
しかし、次から次へと。並のように押し込んでくる暴動軍。あの騎士たちは何をやってるんだ、と思いつつも百合乃のサーベルはまっすぐ暴動軍へ。
「少し手加減します。」
1度、向けたサーベルを鞘に収めた。そして、鞘ごと構えをとった。
「絶禍。」
黒々とした、禍々しい雰囲気が広がる。周囲が重くなり、一瞬だけ隙が生まれる。
その一瞬に百合乃の左足は後ろに引かれ、サーベルをグッと後方に寄せた。
何度も見て、覚えた。
鞘ごしにも伝わる、剣の光。
「穿殺しッ!」
辺りは一気に、閃光に包まれた。
「あれは……意志を貫き、相手を下す私の奥義。」
「《醒華閃》を完璧に使いこなしていますね……」
レイアードと、それらを観覧するしかない部下たちの感想が一致する。
穿殺し。実直であり、最強の一撃。その渾身の力を持ってすれば、竜の鱗だろうと貫ける。
「我々も、加勢するぞ。」
レイアードは確かに言った。
「王国の心を忘れてしまったと言うのなら!我らが剣で、それを思い出させようぞ!それこそが、我らの騎士道だ!」
たった1人向かって行った勇気ある少女に感化され、騎士たちは次々と声を上げていく。
《低位騎士》も、《中位騎士》も、《高位騎士》も、皆一様に剣を取る。柄を握る。
「鎮圧を開始する!」
「「「征けええええええええええええ!」」」
そんな頃、光の中では蹂躙が始まっていた。
百合乃の背後に迫る剣。それは強い踏み込みからの急激な反転によって相手のバランスを崩させ、浮いた足を払っていなした。
その横から流れる拳は、首を少し捻ることでギリギリの回避となる。あとは、烈波を叩き込んで吹き飛ばす。
バーゲンセールのおばちゃんのような集り具合に眉を顰めながら、百合乃は跳んだ。
ステータスを向上させる。愛念は理性がぶっ飛ぶため、狂天下で我慢だ。
「風が舞う、風雅振天。」
百合乃を見上げる暴動軍の波に向け、百合乃はその鞘から抜かれたサーベルの切先を確定させる。
この世界において、魔法は最弱だ。
代わりに、生き残るための剣の術が残された。それは日に日に強力になってゆく。
魔力には言霊がある。
「穿ちますっ!」
突風に吹かれたように、突如として下方へ急加速。轟音と土埃を上げて、地面にサーベルを突き刺していた。
そこを中心として、台風のように風を引き起こす。
特級剣技、風雅振天。
天から降り注がれる、剣の一撃。その後舞う、豪風。その威力に、身を動かすことはおろか、立つことすら難しい。
怒涛の一撃。
「わたしを怒らせるから悪いです。空に詫びて死んでください!あ、殺しちゃダメなんですよね。知ってます知ってます。」
絶対忘れてただろ、と天からツッコミを賜る。百合乃はそれを魔断で切って捨てる。
風が止んだ頃には、気絶した暴動軍の山が出来上がっていた。文字通り、山だ。
後ろを振り返れば、今更出撃してきた騎士が未だ倒れぬ敵をバッタバッタと薙ぎ倒していた。
「もうわたしの出番は終わりです?」
サーベルを鞘に戻す。
こうして鎮圧は完了した。
—————————
別村では、拾肆彗の助力もあってか鎮圧が進んでいる。補助役の霊神も駆り出され、まだ乗っ取られきっていない村の防御が完了していた。
「氷結波!」
しかしまだ、鎮圧の終わっていない村もある。
ツララは、まるで津波のような勢いで押し寄せる暴動軍の動きを止めようと、魔法を行使する。
立体機動を駆使し、空中を駆け回りながら氷を降らせる。殺すわけにはいかないため、手加減をする必要があった。
「氷槍、氷爪!」
迫り来る剣に対しては、やはり高火力の魔法でしか対応はできない。
ツララも、強いとはいえチートレベルではない。
手加減をして、余裕を持って倒すことは難しかった。
「ツララ様は援護へ。私が前へ出ます。」
そこで躍り出るのがオリーヴ。
武器は魔法少女特注の魔力型ナイフ。マチェットのようなものに近い形状のそれを、両手に握ってツララへ伸びる剣を弾く。
戦場のど真ん中。四方八方から迫り来る魔の手を、全身の神経を集中させていなしていく。
「氷結!氷結!氷華っ!」
ツララは援護に回った。立体機動で空を踏みしめながら、暴動軍を凍らせていく。殺さない程度に、氷像が完成される。
無論このままにしていると凍死するため、吹き飛ばして氷を割ってやる。その拍子にほとんどの人間は気絶しているが。
「……お前、強い。」
「ありがとうございます。そういうツララ様も、お強いですね。」
使い物にならない騎士たちを置いてけぼりにし、彼女らは2人、暴れる。
もはやどちらが暴動軍か分からない。
しかし、それでも限度がある。
ナイフと氷だけでは、この数の反乱は止められない。
どこかの軍服の悪魔でもない限り。
「ツララ様、これでは多勢に無勢です。いくら私たちが強かろうと、この数には苦戦を強いられます。」
「……分かってる。」
「一瞬でいいので、隙を作れませんか?私は、魔法は使えませんので。」
「了解。」
ツララは、簡易獣化を発動し、四足歩行になって、空中を駆け回る。
この世界は魔法が最弱と呼ばれる世界、魔法の教育などされないし、人間の魔力量では日常生活に少し便利な魔法や核石に流す分の魔力程度しかない。
この世界で最も魔力を通しやすい物質が核石だ。微量の魔力でも、十分に効果を発揮する。
魔法を覚えようという酔狂な人間はいない。
「雪原展開。」
突如、大吹雪が起こる。見渡す限り、真っ白に染まる。
「氷瀑!」
空から、滝のように氷が伸びる。それらで、逃げられないよう囲っていく。
魔力識別眼で、殺さぬよう確認している。
「離れて、隠れていてください!」
オリーヴは、それを確認してから叫んだ。
ツララはそれに反応し、素早く去る。氷結界で、騎士たちを守る形をとって。
「信じていますよ、ソラ様。」
魔法少女から渡されたその球体を、魔力を通して全力で投げる。もちろん、オリーヴも全速力でその場から身を引いた。
その、数瞬後。世界を覆う空をかき消すかのような閃光と力の塊が放出された。
極小版ガンマ線バースト。
本気で改良した、より本物に近いもの。
魔力を限界まで詰め込んだ空間魔法の隔離空間を、重力魔法で空間ごと押し潰したときに発生するエネルギーの大爆発。
下方部へ向いたその一撃は、無音の閃光によって届けられるが……これは、小型でさらに威力を抑えたもの。抑えていないものは、魔法少女が所持している。
この数秒の煌めきと、強烈な爆風によって辺り一体は無に包まれた。
その影響を受け、オリーヴも吹き飛んだ。なんとか受け身を取り、腕輪の効果も相まって無傷で済む。
「結界が…………?主の、魔力……?」
ツララは壊れた結界を見て、へたり込んだ。
爆発の直接的被害はなく、爆風によって全ての暴動軍は地に伏すこととなっていた。
「ミッション、コンプリート。ですね。」
這々の体ながら、そう口にするのだった。
———————————————————————
本来なら、ガンマ線バーストはもっとえげつない威力をしています。
ブラックホールとか重力崩壊とかとんでもワードが満載な説明があるんですもん。
実際には、そういった星が何億何十億何百億年と貯めていった力が崩壊する時のエネルギーなのですが、空さんは魔力で代用しています。
星の核を核石、魔力で覆って擬似の星を作って崩壊させているので、威力を抑えればミョルスカイの倍くらいの威力には収まります。
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