586 / 681
17章 魔法少女と四国大戦
558話 泥沼に向かって
しおりを挟む6つの村の、6つの戦い。
それぞれが死力を尽くした防衛戦が始まっていた。
アイディンにて、2人の戦闘がよく目立った。
現場指揮は騎士長エルゼナが務め、主に《低位騎士》と《中位騎士》を中心としたメンバーとなっている。
数は3000強とやや少なめ。戦争にしては少なすぎる量ではあるが、善戦をしている。
レイアードも、ヒビアも、エルゼナも、カオスエリーヴも、エインミールも、ニカも。全員が、この戦はあと耐えるだけということを知っている。
一瞬の泥沼を耐えさえすれば、この戦には勝利が待っている。
「雪原展開!」
アイディンを少し出れば、この辺りには似つかわしくない一面の銀世界が広がる。触っても、冷たい。ヒリヒリと肌を焼くような雪。そして戦場。
戦場はもはや雪上戦となる。
ここで主に特攻するのは、雪の中でも動きの鈍くなりずらい騎士たち。
冷所での戦闘が苦手な者もいる。それらは、魔法少女から支給されたレールガン式魔弾発射器を使って援護射撃をすることとなった。
レリアリーレ主導で、現在散らばった魔科学部総動員でその魔導具の大量改良を行なっている。
そのままでは誤射で味方に当たる可能性もあるため、魔法少女の残していった魔力球によって空間伸縮を施していっている。
「交代しましょうツララ様、そろそろ後方へ。だいぶ、雪も広まっていきました。」
「……了解。気をつけて。」
「ご心配痛み入ります。ツララ様こそ、お気をつけて。」
オリーヴは木々を伝って敵陣へ進む。ヒットアンドアウェイ。攻撃からの即座の撤退を繰り返し、確実に着実に数を減らす。
「ソラ様は、本当に面白い方ですね。」
オリーヴは微笑する。ツララもそうだが、このナイフも。
魔力を流して振るう。風のような何かが飛び、雪に刃痕が残る。
適当に作った魔道具がこの威力だ。とんでもないセンスを感じている。
突然の積雪に困惑の色を見せる帝国兵。
魔神からの報告で言えば3万程度の軍らしいが、6分の1というわけではないだろう。
本村、イグルへの侵攻が主となっている可能性が高い。
ディティーを追うにも最短の位置にあり、防御は手厚だ。
「何人であろうが、王国は負けません。」
信ずるものを信じ抜くため、オリーヴは再度そのナイフを振るう。
「敵襲!」
「落ち着いて対処しろ、我々には皇帝陛下のご加護がついているのだ!」
「我々の信念を貫け!」
しかし、訓練されていればこの程度の対応を自然と取ってしまう。雪が突然積もり出すなんて予想はしていなかったろうが、緊急時の対処という意味では同じこと。
「帝国は帝国の正義が、ということですか。ベタですね。陳腐ですが、得てして国とはそういうものです。王国だって、そのうちのひとつ……そういう心は、世界でいちばん美しい陳腐なのでしょうね。」
独り言をぼやきながら、陰る月光と白銀の世界へ身を置いた。
「どのような手合いであろうと、ここを通すわけには参りません。」
メイド服が風に揺られた。それは合図として、オリーヴへ敵を引き寄せる爆弾となる。
「5、いえ10ですか。随分と大所帯な。」
遠足ですか?と団体で行動する彼らに問いかける。
流石に多すぎやしないか。この広大な森で、奇襲するではなく数でゴリ押す。
しかし、絶妙に悪い組み合わせ。
それぞれが、人間離れした強さがあるのは分かる。それでも互いを低め合ってしまっている。
何故こんな組み合わせに。まさか、この本軍ですら捨て駒だというのか。
考えていても仕方がない。
迫る敵は強いのだ。
2人の剣が左右から斜めに落とされようとする。当然のように魔力が宿っており、オリーヴは右手側の剣の軌道をナイフで弾いて横にずらす。
空いた横側に体を滑り込ませ、剣の持ち主に掌底打ちで吹き飛ばす。
その拍子に手放した剣を掴み、逆にそれを左にいる帝国兵に向けて投げ飛ばし、正面に駆け出す。
空に浮かぶ光を受ける。戦いは始まった。
—————————
一方、ルルサールでは。
「何故俺がこんな雑用をやらなきゃならない。」
そう文句を垂れるのは、蓮。
「うるさいの。面倒ならやらなきゃいいの。邪魔だけはやめて。」
「うるせえなやるよ。」
現場指揮を任された拾肆彗伍彗エインミールは、そんな蓮に辟易していた。
ルルサールには合衆国の兵たちを導入している。カオスエリーヴの元には脳筋集団、ニカの元には理解のある兵たちを配置。
できるならニカのところに行きたかった。
「……ニカのところもそれはそれで嫌。」
結局、どこも合う場所はないらしい。それがエインミールの定めらしい。
「ボーッとしてないで防衛するの。」
「お前もちったあ働け。」
「こうしてここにいること自体が仕事。お前とは違うの。」
事実、今こうしているうちも通信用の魔導具で連絡をとっている。
『きひひひひひっ!まっ、待て……もう直ぐ、届ける……』
「気味悪いの。耳元でそんな声出すんじゃないの。」
武器の補充の件。他にも、命令を出すために切り替えをして指示をしなくてはならない。
「戦闘の方が楽……」
と、死んだ目で漏らした。その姿を見て、蓮はそっとその場から逃げた。
敵方の人数はざっと1000あればいいところ。
これは、イグルへ一極集中させるためか。
向こうは、数も質も上回っている。この程度でも苦戦に値する。圧倒的ジリ貧。もしイグルを落されれば、と思うとゾッとする。
蓮はそんなことは微塵も考えていないが。
それより気になることを最近考えている。
「……あの女、どこかで会った気がするんだけどな。」
あの女とはエインミールのことではない。魔法少女のことだ。
いつの日か、あの青髪をどこかで見た記憶がある。
そんな思考を邪魔する者が現れる。
帝国兵だ。
明らかに王国兵とは質が違う。そのくせ甲冑に身を包み、目のひとつも合わせられない。
対面殺しも使えない。
「大雷槌。」
名の通り雷で形成された槌。プレス機で粉砕するが如く数人の敵兵にそれを片手間で落とす。
「な———ッ!」
言葉を発する暇もない。
その場には、焦げた肉の匂いが広がった。
「それでも原型は留めんのか。」
帝国は人体実験大国だな、と嫌味のように言う。
「本当、この既視感なんなんだ……」
しれっと話を戻しつつ、空を見上げた。閃光が瞬いていた。
—————————
アーレは、情報操作で身をさまざまな位置に移しながら戦況を見守っていた。
アルタインで、ヒビアは愛国心の強い騎士たちを集わせ手腕を振るっていた。
カヌルではニカが、的確な防御スタイルで防衛戦を守っていた。支給された銃を適切に扱い、壁の中から穴を開けて遠距離射撃できる改造を安全地帯にいる魔科学部の皆に頼んでいた。
コールではカオスエリーヴが、攻撃は最大の防御だと言わんばかりの突撃をしていた。その分死者は多いが、討ち取った首の数は測り知れない。
「うまくやれてるのかな……」
確信はできないが、今のところはいい調子だ。
あとは、ネイファと魔法少女次第。
ネイファに頼るのは少々複雑な気分でもあるが、頼れるものはなんでも頼る。今だけは目を瞑ろう。
討って討たれて。まだ本軍の動きはないため、少々こちらが有利という程度。
ただ勝てることだけを信じて、魔法少女がディティー・ヘルベリスタを討ち取ることだけを信じて、ゆったりと下り坂な防衛戦にしがみつく。
空が光る。
「勝たなきゃ。」
そう思う心が芽生えた。
———————————————————————
本来ならアーレは小学校にでも通っててもおかしくない年齢なんですけどね。
世の中は非情ですね。それを決めてるのは私ですけど。
0
お気に入りに追加
117
あなたにおすすめの小説
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
平凡令嬢は婚約者を完璧な妹に譲ることにした
カレイ
恋愛
「平凡なお前ではなくカレンが姉だったらどんなに良かったか」
それが両親の口癖でした。
ええ、ええ、確かに私は容姿も学力も裁縫もダンスも全て人並み程度のただの凡人です。体は弱いが何でも器用にこなす美しい妹と比べるとその差は歴然。
ただ少しばかり先に生まれただけなのに、王太子の婚約者にもなってしまうし。彼も妹の方が良かったといつも嘆いております。
ですから私決めました!
王太子の婚約者という席を妹に譲ることを。
私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】
小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。
他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。
それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。
友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。
レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。
そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。
レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
【完結】実家に捨てられた私は侯爵邸に拾われ、使用人としてのんびりとスローライフを満喫しています〜なお、実家はどんどん崩壊しているようです〜
よどら文鳥
恋愛
フィアラの父は、再婚してから新たな妻と子供だけの生活を望んでいたため、フィアラは邪魔者だった。
フィアラは毎日毎日、家事だけではなく父の仕事までも強制的にやらされる毎日である。
だがフィアラが十四歳になったとある日、長く奴隷生活を続けていたデジョレーン子爵邸から抹消される運命になる。
侯爵がフィアラを除名したうえで専属使用人として雇いたいという申し出があったからだ。
金銭面で余裕のないデジョレーン子爵にとってはこのうえない案件であったため、フィアラはゴミのように捨てられた。
父の発言では『侯爵一家は非常に悪名高く、さらに過酷な日々になるだろう』と宣言していたため、フィアラは不安なまま侯爵邸へ向かう。
だが侯爵邸で待っていたのは過酷な毎日ではなくむしろ……。
いっぽう、フィアラのいなくなった子爵邸では大金が入ってきて全員が大喜び。
さっそくこの大金を手にして新たな使用人を雇う。
お金にも困らずのびのびとした生活ができるかと思っていたのだが、現実は……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる