上 下
569 / 681
17章 魔法少女と四国大戦

542話 魔法少女と皇帝

しおりを挟む

 そこからの私達の仕事は、本部の村に全軍を引き戻す事だった。
 感覚的に悲しくも5分の1くらいの人達は死んでいる。さすがに、あの数と質の帝国相手に犠牲なしとはいかない。

 でも、さすがに展開が早すぎる。1日足らずで、これ。いくら現代の兵器VS兵器の戦争と違う白兵戦だからと言って、この戦果は異常だ。
 準備の方がうん100倍大変だったよ。

 帝国は前衛軍が後退して、精鋭グループが突撃してきているが、どうやら四神達が食い止めてくれているようだ。

「一応全員に持たせた通信装置もどきにも連絡入れたから……捜索漏れはそれ持ってたら帰って来れると思う。」
村に戻ってきた私は、頭を悩ませながら作戦を立てる。

 四神もまだ帰ってこないし……

「主戦力は残っているの。時間はもう少しあるから、ゆっくりすればいいの。」
「そうも言ってられまい。何しろ、敵は強大のようだ。」
視線をずらして、息を荒げて倒れているヒビアさんを一瞥した。

「私、治してくる。」
会話の席からはずれ、近寄る。雲が少し月を隠した夜。ここだけ見たら、異世界感は微塵もない。

「悪いけど、心の方まではどうにもできないからね。」
手をかざし、身体中ボロボロの彼女を介抱する。

「…………私は、どうするべきなんでしょうか………果たすべきことも、果たせずに……」
「大丈夫大丈夫。世の中そんなもん。正解なんてないし完璧もない。」
打撲や青あざだらけの体に、滲んだ血を再生創々で元に戻していきながら、小娘の私は言う。

 こういうのは、ぶっちゃけ適当のほうがいい。深刻になると、その分傷つける。

「人は完璧の基準を自分で定めて、納得する。私だってそんな感じで生きてるし。何でもかんでもやろうとしなくていいでしょ。」
「…………王国を、守れない私が生きている価値なんて、ない……!」
まだ治してない腕を自分の目にやって、静かに涙をこぼす。

 私より年上でも、やっぱり女の子なことには変わらないね。

 こういう風に慰められるのは、あの私があってこそだ。その点で言うと、あの世界線を生き抜いてくれた私には感謝しかない。
 今までなら、かける言葉なんて見当たらなかった。

 だからと言って、その補助をするとは言ってない。個人的な罪悪感を切り落とすためだ。

『少しくらい慰めてあげてもいいんじゃないかな?』
『目の前で号泣してる人を堂々と放っておけるその心、実にいい』
『いいの!』
『いいの~?』

 ちょい黙って。今左耳で会議の声、右耳でヒビアさんの声を聞くミニ聖徳太子してるから。

『ミニ聖徳太子ってなに?』
『いっちょんわからんな』

「生きる価値とか知らないよ、私が決めることじゃないし。私に大層な慰めは期待しないでね。彼氏にでもしてもらって。」
「かれ、………そ、そんな不埒な相手は……」
「えー、彼氏が不埒?なに、韻でも踏みたくなった?」
「そんなことは……」
「はい完治。私は医者じゃないからどうなってたとか分かんないけど、治ってはいるから。」
私は「うんしょ」と言って立ち上がり、肩を回す。疲れが溜まっている。

 私は主人公みたいに「生きていること自体が価値なんだよ!」とか「君の笑顔が生きている価値だ」なんて痛いセリフは吐けない。気持ち悪い。
 なにそれ、人生舐めてる?って思う。

 ヒビアさんは毎日泥を啜る思いでやって、私はそれを邪魔した。私が悪いのには変わりはないけど、それで死ぬのはなんというか……勿体無い。
 泥啜ってんなら、それに見合う報酬があっていいじゃん、って思う。

『つまりあれだ。価値とか知らんけど生きるだけ生きろってこと?』

 まぁ、うん。そうなるね。

『クソ野郎じゃん』

 し、知らない!私知らない!別に生きろなんて言ってないし?

 この話は一旦脳の隅に追いやって、蓋をしておく。見たくないものには蓋をしろ。

「で、作戦決まった感じ?というかネイファ、いたんだ。」
「貴方がド派手に動いてるから陰に隠れているだけですよ。わたしは、しっかり身のある行動を心がけていましたから。」
「はいはい。で、作戦は?」
ネイファは非常な残念そうな顔で、ため息のようにその言葉を発した。

「全員、心を強く持ってくださいとしか言いようないですね。」
「………………!」
私は咄嗟に身を翻した。身の毛もよだつ気配を感じたのだ。

「キミか。我が国を脅かす蛆虫は。」
かつ、かつ、と1歩ずつ詰め寄る人間がいた。そこにいるはずがない、いてはいけない人間。

 皇帝…………ディティー・ヘルベリスタ……!

 これが圧というやつか。四神も本気出せばこのくらいできるのかな、とどうでもいいことで気を紛らわせ、私が前に出る。
 みんなを、約3万ちょいの軍を後ろに引き下がらせる。

 時間あると思ってたけど……皇帝がいるってことは。

 万能感知を使う。綺麗な隊列を組んだ2万ほどの軍がこちらに迫っている。後ろにいるはずの軍が消されているのは、きっと四神の仕業か。

 こっちより雑魚を優先させた理由……?

 考えても仕方ない。それは何度も打ちのめされているから分かっている。理不尽に理屈は通らない。

「聞け、王国兵、及び合衆国兵士よ!」
その声は森を揺るがすほどの声量で、その声だけが全員の耳朶を打った。

「我々は非常に失望している。何故か分かるか?」
誰も答えはしない。皆、警戒心をあらわにしている。

「我々帝国は貴国に何をした?確かに、此度の戦争にて多少の被害を出したのは事実だが、それはこちらも同じだ。大切な部下が、2名も死んだ。軍は総勢3万2459人、死亡した。」
瞼を閉じ、ディ○ニープリンセスもかくやというほどの磨きのかかった演技力。

「先程の部下の声、聞こえていたか?皆、どこか思うところはあったのではないか?……しかし、彼女は殺されてしまった。これはどういうことだ?」
尋ねるような言葉だが、空けるのは一拍。

「口封じ、とは思えないか?確かに我々は、貴国らから見れば非道とも思える行為をしているかもしれない。しかし、こちらにも信念があり、夢がある!」
壮大に言って見せ、流れるように、押し出すように言葉を並べる。

「愛するものと肩を並べて街を歩きたい。美味しい食事で腹一杯に満たしたい。好きなものを好きなように買ってみたい。そんな、平和な願いが叶えられる世界を、望みを、朕は代表して叶えると言っているのだ。」
最後の一言一言までが魔力を持ったように耳に届き、耳心地の良いものとなって浸透する。私ですらこうなっているのだから、周りがどうなっているかなど想像に容易い。

 誰か、何か言ってよ……これじゃあ完全に皇帝に呑まれてる……

 寒気を耐えるのが限界で、言葉の恐ろしさを痛感する。

「我々は悪役になってでも、世界を統一しそんな夢物語を現実とする!それを知っているからこそ、我が帝国は強固な絆で結ばれている。貴国らは、どうだ?」
ん?と、村全体を見渡すように首を回した。少しだけ、気の緩む間が生まれる。いけないと分かっていても、生まれてしまう。

「この場にいる全員に聞く。この朕に、任せてはみないか?きっと、永劫の幸福をお送りしよう。」
言葉がまるで魔力を持つように、人々を魅了していった。緩んだ気に、滑り込んでいく。

 失敗した…………完全に、これは私の落ち度だ。どうやってもひっくり返しようがない……

 私は頭を抱えるそぶりすらできず、皇帝の言葉を耳に流していた。
 辺りからは武器手放す人間が大勢いた。これは、深く考えてしまう人ほど陥りやすい。本当の信仰心でもない限り。

「声に騙されるな!出鱈目な言葉で惑わそうとしているだけだ!耐えようとするな、信じるものを口に出し、不要なものを捨てろ!」
総騎士長さんはそう叫ぶが、耳には入ってこないようだ。

「クワッハッハッハッ!なかなかどうして、面白い。建前というやつか?信じるに足りんな。」
「建前でなく半分嘘だ。事実と織り合わさった嘘は、見分けずれぇんだよ。」
「恐ろしいの。」
合衆国の3人はあまり効果はないようで、横にいるネイファは「あらら」と残念そうに笑う。

「集めるべきじゃなかった……?」
「いや、そうでもないですよ。どっちみち、統率も取れてなかったらただの木偶の坊。畑に刺さる案山子ですし。」
ネイファは端的に、淡々と答えた。しかし。

「これをどうにかする方法、ひとつだけありますよ。どうしますぅ?」
そう言って、私を見た。

「……なに?」
「あの人、殺せばいいんですよ。分かりますよね?」
いきなり、大将戦が始まろうとしていた。

———————————————————————

 私、知っての通り誤字大量生産機です。
 もし、もし心優しき天使のような読者様がいらっしゃれば、「仕方ねえな」と言う気持ちがあったとしたら、誤字の指摘なんかをしてくださると当方たいへん嬉しく思いましてですね。
 是非ご検討を。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

夫から国外追放を言い渡されました

杉本凪咲
恋愛
夫は冷淡に私を国外追放に処した。 どうやら、私が使用人をいじめたことが原因らしい。 抵抗虚しく兵士によって連れていかれてしまう私。 そんな私に、被害者である使用人は笑いかけていた……

別に構いませんよ、離縁するので。

杉本凪咲
恋愛
父親から告げられたのは「出ていけ」という冷たい言葉。 他の家族もそれに賛同しているようで、どうやら私は捨てられてしまうらしい。 まあいいですけどね。私はこっそりと笑顔を浮かべた。

他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!

七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?

母を訪ねて十万里

サクラ近衛将監
ファンタジー
 エルフ族の母と人族の父の第二子であるハーフとして生まれたマルコは、三歳の折に誘拐され、数奇な運命を辿りつつ遠く離れた異大陸にまで流れてきたが、6歳の折に自分が転生者であることと六つもの前世を思い出し、同時にその経験・知識・技量を全て引き継ぐことになる。  この物語は、故郷を遠く離れた主人公が故郷に帰還するために辿った道のりの冒険譚です。  概ね週一(木曜日22時予定)で投稿予定です。

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

いつもの電車を降りたら異世界でした 身ぐるみはがされたので【異世界商店】で何とか生きていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
電車をおりたら普通はホームでしょ、だけど僕はいつもの電車を降りたら異世界に来ていました 第一村人は僕に不親切で持っているものを全部奪われちゃった 服も全部奪われて路地で暮らすしかなくなってしまったけど、親切な人もいて何とか生きていけるようです レベルのある世界で優遇されたスキルがあることに気づいた僕は何とか生きていきます

処理中です...