567 / 681
17章 魔法少女と四国大戦
540話 魔法少女は力業
しおりを挟む私はまず大きく後退する。
プロヘイスと名乗った相手は、小さな鉄球を指から飛ばした。
こうも考えることが多い中で戦闘させるとか、鬼畜以外の何者でもないよほんと。
「貴方が考えるべきは目の前の鉄球だけ?気の毒ね。視野が狭くなっているの?」
「何が?……いっ……!」
肩に強烈な痛みが。外傷はないが、魔法少女服があるからといってここまでの威力の痛みは無くならない。
何この出鱈目な威力……しかも、直前までほんとに何も見えない……
顔のスレスレを通った瞬間、なんとなくで体を捻る。身体激化で無理矢理避けないと、不可能なほどだ。
人は準備なしに突然動くとか無理だから、こういうふうにしないと動かないんだよ。
「私は戦闘は得意じゃないの。」
「そう、私も、好きじゃないよ。」
次々に闇から現れる黒い鉄球は、姿を見せずに私の体を叩く。
「嘘が下手ね。つまらないわ。」
「そう。」
無理矢理声を張って、耐える。地龍の土壁を手当たり次第に作って配置しても、まるで避けるように当ててくる。
向こうは全部見えてる……?空間を反射させて……跳弾……
「貴方の考えている通りよ。ふふふっ、痛ぶっているとココが疼いてきちゃうわ。」
下腹部に指を添える。
「うわぁ…………」
痛みより引きが勝った。しかしそれを気にも留めず、口を動かす。
「私は空間を扱うのが少し、得意なの。」
すると、空が突如として煌めいた。空を覆い尽くし、星のように輝く。
「私の声が聞こえるかしら?王国の衆愚の皆さーん。」
私が動けないのを嘲笑うように、行動を起こして呼びかけるように手を伸ばす。
「愚かで、貧しくて、幼稚な王国民は、本当に王国が正しいと思っているのかしら?」
「ちょ、何言ってんのあん……っ……痛……」
気を抜いた瞬間に痛みに襲われる。
「全王国軍に聞きます。貴方たちは満足しているの?いいえ。嘘か本当か分からない中、けれど、大多数の意見に引っ張られているだけ。」
「なに堂々と嘘言ってんの!」
「そんなに焦って否定するっていうことは、なにかやましいことでもあるのかしら?」
その言葉に思考が一瞬止まり、顔面に鉄球アタックを喰らったことでよろめきつつも思考を取り戻す。
こういうのは必死になって否定した方が何か裏があるように感じられて良くない。
でも、好きにさせていたらこっちの軍がやばい。一斉崩壊だって有り得る。
「貴方の信じているものをまだ、信じられるなら。戦いなさいな。」
その一言だけを残して、中途半端なまま光を消した。煌めく星はもうどこにもない。
「私はここまで。」
「え……?」
「私は、囮であって囮じゃない。せいぜい痛めつけて帰るわ。んぁ、人を痛めつけるのってとっても気持ちいいわ。」
疼いちゃう、と言って下腹部に指を添える。
やっぱりものすごい変態だ……!
この性格あってしてこの戦闘スタイルありといった感じだ。
時間かけらんないよね、これ。
さすがにここまでやりたいことやられて、黙ってるわけにもいかないし。
プロヘイスは最後に笑う。
「戦闘は得意じゃないの。」
「負けると分かって挑んだ戦いってこと?」
私はローブに魔力を流し、大人しく龍化を使う。目の前の、考えの読めないプロヘイスを見定めるようにフードの隙間から顔を覗く。
もしそうだとしたら、私はまんまと策にはまった敗者ってこと?なんかムカつく。
しかも放っておく選択肢がない囮。囮に使う人、間違ってない?人選、おかしくない?
手にはいつの間にか鉄球。いくつあるか、周囲を見渡して数える。
こういうのは、身体能力が一線越えれば嘘のように避けられるようになる。
「ちょっと怠いけど、本気出すか。」
そう呟き、球の軌道を予測する。手にある球が3個、周囲にあるのが7個。これを同時に扱うとか普通に感動。
迫り来る鉄球を気配察知を使って避ける。
万能感知とは違って範囲は狭いけど、なんとなくで空気の流れやら物の配置が感じ取れる。
「これ、ひとつひとつ狙って跳ね返してる?やばすぎでしょ。」
こんなんしてたら、キャパオーバーで私なら死ねる。
鉄球と空間の板がワンセットで、10個同時に操るってこと?
当のプロヘイスは無心で鉄球を振るう。戻ってきた鉄球をキャッチし、投げては跳ね返して私を穿とうとする。
それを私は、のらりくらりと回避する。
反射パターンとかあればいいんだけど……相手は空間だから思った方向には飛ばないんだよ。
そのため私は、鉄球が反射してから足を動かす。相手は私を見て、結果的に私に向かって投げるんだ。なら、縮光は使える。
「さっきから当たってないけど、大丈夫?」
「貴方こそ、あまり場所が変わっていないようだけど。大丈夫かしら?」
「もちろん。」
武器を切り替える。両手にラノスを持ち、ステッキは腰。私の肩甲骨を狙うのがひとつ、肩口にひとつ、脳天にひとつ。
頭は避ければいっか。
避けると同時に身を翻し、ラノスでその鉄球を狙う。照準を合わせる。
「高速に動く見えない小さな鉄球?望むところ!」
私は引き金を引く。確信を持って引く。
「今度は、私のターンだよ。」
迷いなく体勢を整えて、前屈みに踏み込む。そのまま全力疾走。本来なら2つの球が私を阻んだはずだが、何もない。
このまま…………集中。まだ鉄球はある。
ラノスに弾かれ失速し、地面に落ちる鉄球は拾われることなく転がった。プロヘイスの視線がそっちに動いたのを、見逃さない。
「弾かれた……?あの距離とはいえ、私の……?不可能で、不可解で、ありえないわ……」
その一瞬の攻防に、僅かに驚きを見せた。その僅かが命取り。
「陰縮地。」
私の姿はもう、彼女の目の前にある。
「………んぁ…くあっ!」
くとかの間の音を鳴らす。私が真正面から銃底を横にして殴った。
「色っぽく呻かないで!」
色っぽさを乾燥させて粉にして水に溶かしてできた、濃度1%の色っぽさ水溶液と同濃度の私と比較した結果、泣きそうになった。
……躊躇なく殺すのはまぁ、簡単だけど……
私は流れのままに首を鷲掴みにした。
今まで私が殺してきたのは完璧な悪。
帝国もどちらかというと悪サイド。けど、盗賊みたいな人間として終わってる人達と同じかといえば首をかしげざるを得ない。
「あなたを殺さないとまたなんかしてくるんでしょ?いやもうされてるけどさ。」
「早くしなければ……貴方のお仲間が、死んでしまいますけど、よろしいの?」
「そんな柔じゃないし。私の仲間はトンデモキャラばっかだから。」
残った片手でラノスを頭に擦り付け、最後に脅迫でもしておこうかと思い、やめた。
どうせ、結果は分かりきってるし。
「じゃあ、無事に地獄に行けるといいね。」
パァァンッ!と音だけが響き、腕力に任せてプロヘイスを投げ捨てる。
「まんまと時間稼がれちゃったね……」
龍化を解きながらラノスを収納する。早く、村に戻らないと。
また面倒なことになりそう……プロヘイスの言ってたもう1人も気になるし……
「ああもう!行ってみれば済む話!」
気持ちを切り替え、神速で帰ろうとしてまた戻ってくる。
これ、遺体は燃やした方がいいよね。なんか湧くと嫌だし。
こっそり大炎上という矛盾を発生させながら、今度こそ村への道を進むのだった。
———————————————————————
はい、今話が消された540話の後釜である540話改でございます。
マジであの時は本当にやばいくらい焦りました。私、こういう経験ないので自分の書いたものが目の前で消えていくというものに一抹の恐怖を抱いてしまいました。
10分くらいスマホの画面と睨めっこした挙句、「あ、また休稿しなきゃ……」「どうしよう、遅筆も進んでるのに」「まず皆様に知らせなきゃ……」と、雪崩れ込む思考の波に包まれて今執筆しております。
泣きたいです。
0
お気に入りに追加
119
あなたにおすすめの小説
異世界を服従して征く俺の物語!!
ネコのうた
ファンタジー
日本のとある高校生たちが異世界に召喚されました。
高1で15歳の主人公は弱キャラだったものの、ある存在と融合して力を得ます。
様々なスキルや魔法を用いて、人族や魔族を時に服従させ時に殲滅していく、といったストーリーです。
なかには一筋縄ではいかない強敵たちもいて・・・・?
異世界なんて救ってやらねぇ
千三屋きつね
ファンタジー
勇者として招喚されたおっさんが、折角強くなれたんだから思うまま自由に生きる第二の人生譚(第一部)
想定とは違う形だが、野望を実現しつつある元勇者イタミ・ヒデオ。
結構強くなったし、油断したつもりも無いのだが、ある日……。
色んな意味で変わって行く、元おっさんの異世界人生(第二部)
期せずして、世界を救った元勇者イタミ・ヒデオ。
平和な生活に戻ったものの、魔導士としての知的好奇心に終わりは無く、新たなる未踏の世界、高圧の海の底へと潜る事に。
果たして、そこには意外な存在が待ち受けていて……。
その後、運命の刻を迎えて本当に変わってしまう元おっさんの、ついに終わる異世界人生(第三部)
【小説家になろうへ投稿したものを、アルファポリスとカクヨムに転載。】
【第五巻第三章より、アルファポリスに投稿したものを、小説家になろうとカクヨムに転載。】
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
家ごと異世界ライフ
ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!
異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!
あるちゃいる
ファンタジー
山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。
気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。
不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。
どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。
その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。
『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。
が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。
そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。
そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。
⚠️超絶不定期更新⚠️
【幸せスキル】は蜜の味 ハイハイしてたらレベルアップ
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はアーリー
不慮な事故で死んでしまった僕は転生することになりました
今度は幸せになってほしいという事でチートな能力を神様から授った
まさかの転生という事でチートを駆使して暮らしていきたいと思います
ーーーー
間違い召喚3巻発売記念として投稿いたします
アーリーは間違い召喚と同じ時期に生まれた作品です
読んでいただけると嬉しいです
23話で一時終了となります
はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる