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17章 魔法少女と四国大戦
532話 賽の行方
しおりを挟むカツ、カツ、カツ。
ブーツの底が床を叩いて音を鳴らす。
ヘルベリスタ帝国首都、リリスミア。側に神創教の教会帝国本部があり、背後には重圧を放つ尖城の見える広間。
数万人が集まれるのではというほどの敷地。
そこに存在する、どこからも注目を集めるであろうその舞台。アイドルの舞台もかくやというほどのステージ。
そこにはマイクとスピーカー。そして、魔導投影により空間を超えて映像を届け、ライブ配信。核石を通じて観覧できる。
しかし、国中から人々はここに集まる。それほどの人望と、支配。
広い敷地の中に、びっしりと人の塊が収められていた。
ブーツの音は次第に収まり、数万の人々が今か今かと待ち侘びている存在にスポットライトが当てられる。
「諸君、よく集まってくれた。」
ピンと伸びた姿勢、滑らかで艶のある美しい臙脂色の髪。見つめれば吸い込まれそうな深い瞳。スラリとした体躯は出るところは出た美形。
「朕の名は、ディティー。皇帝、ディティー・ヘルベリスタだ!」
うおおおおおおお!と、歓声が沸く。髪の色に合わせた燃え上がるようなドレスと、帝剣、ティアラ。帝国に2つある秘宝の1つ。
「これは帝国全土に放送されている。朕の生の声が帝国中で響いていることだろう。」
嬉しそうに、なだらかな口調でマイクに向かう。
「こうして朕がこの場に立てているのは、全ての帝国民の弛まぬ努力と苦労のお陰だ。帝国を代表し、優秀な彼ら彼女らに礼を言おう!」
優しく、心から感謝するように声を出す。もう1度歓声が。今回は、皇帝に対する感謝の気持ちやその美貌を讃える声が増えた。
「さて、本題に入ろう。」
たっぷりと機を待ってから口にすると、すぐさま声はおさまる。
「知っての通り、我が帝国と隣国グランド・レイト王国の親交は芳しくはない。しかし、かの王国は今、軍を動かしている。」
ざわめきとどよめきが支配した。
「コチラを見てほしい。」
皇帝はタンと足を鳴らすと、ステージの後ろにスクリーんとして映し出される。
それは軍が動いている映像。数千の兵が森を抜けている映像。
「これは事実だ。王国は帝国へ戦争を仕掛けようとしている。それも、宣戦もなしに。」
憎悪を含んだ、怒りの声。その声に緊張の糸が張られた。
それは暗黙の了解。開戦時には宣戦をすること。それを破った王国は悪であり、帝国はそれを向かい討つと。
というのはただの上辺だ。取り繕って覆い隠して、虚飾と虚構と欺瞞に満ちた上辺だけの真実。
確かに軍は動いている。しかしこの映像はいつのものだ?これは、テロ組織による学園襲撃による混乱を鎮める軍と、犯人を追う軍だ。
これらは関係のない軍。しかし、軍が動いたのは事実。事実な以上、あとは民の思想次第になってしまう。
「横暴な王国をは敵だ!」「我々の帝国を守れ!」「王国には屈するな!」「侵攻に抗え!」「皇帝陛下の仰るままに!」「王国を排除しろ!」
この瞬間、帝国の総意は決定した。
「「「「「王国を許すな!!」」」」」
「そうだ。王国を許してはならない。帝国の領土を侵害する蛆虫を、我々帝国の力で叩き伏せよう。そのためには、諸君らの働きが、1人1人の強く固い意思が必要だ。」
皇帝は腰から剣を引き抜いた。紫色をした、細く硬い一振りの剣。それを太陽へ突きつけるように掲げ、一段と声を張る。
「帝国の進む道はひとつ、朕が歩む全てが道である!それを横から阻む不埒者を、全力で叩き潰せ!」
「「「「「うおおおおおおおおおお!」」」」」
大歓声。今日1番の声量と熱気。渦巻く意志は帝国民1人1人、強固に固められた。
「本当、恐ろしいな。」
ステージの脇、どの方向からも視認不可な暗闇で呟かれた。悪魔でも見るような目で。
「声に魔力を乗せて意識誘導か?いや、それは単に話術か。帝国最高峰からの感謝と期待。さらに声音に感情を乗せて、愛国心を奮い立たせる……」
まるで宗教だ、と呆れを通り越して笑えてくる。
この技術の発達していない世界に対し、人口約8000万人。この規模の帝国に対し、王国は5000万ほど。
帝国には村制度がない。
村や集落、民族は全て廃し、それぞれ管轄地とされた地に街を発展させ砦として栄えさせている。
王国はそうではない。自由に暮らす人々が多い反面、戦力や防御に使える人員が軍や騎士しかいない。
「味方で本当に良かった。」
《六将桜》第一将ルーンは、フードで顔を覆った。
巧みな話術もさることながら、本人の肩書きやカリスマ性もまたフル活用されている。
社長に褒められれば誰だって気分が良くなる。しかも、男から見ても女から見ても美人だ。
そんな皇帝が悲しげに、そして怒りを以って助けを乞うているというのなら、報いたくなるのが真理。
帝国民は皆、元から皇帝の操り人形なのだ。
皇帝は皆に笑顔を振り撒き、「ありがとう、優秀な諸君らが仲間になってくれると、心強い」と心地よい言葉を送り続ける。
浮ついた時が足元を掬いやすい。
上を見続ける民たちは、地面に散らばる多くの棘に気づかない。
「さて、締めといこう。———ヘルベリスタの名を以て、我が国はグランド・レイト王国に宣戦する!」
それからは皇帝の独壇場。
空気というのは伝播し、皇帝を支持しない少数派の人間をも巻き込み仲間にしていった。
暴力と民の力。これは皇帝に必須な能力だ。
「まるでヒトラーばりの演説だったな。」
「平凡な民は魅力的な甘言には抗えないものだ。燕は雨の日にこそ地に降りる。」
全てが終わり、舞台袖に退いた皇帝はそう言い捨てた。会場には人がまだ多くいる。酔いしれているのだ。
「ルーン。ヒトラーというのは誰だ?」
「元の世界で過去、その口一つで総統に上り詰めた天才だ。」
「ほぅ。朕より上というのか?」
「まさか。」
皇帝はルーンの横を通る。そばにいるだけでものすごい威圧感だ。
「皇帝。逆に聞くが、さっきのはなんだ?」
「燕の話か?」
「ああ。」
「アレは、雨の中でも餌の誘惑には勝てぬ燕をことわざにしたものだ。そこにどんな危険があっても、朕の魅力には敵わない。」
皇帝はそう言ってその場を後にした。どこか楽しげで、いつもとは違う雰囲気を感じた。
「プロヘイス。聞こえるか。」
皇帝がいなくなったことを確認し、ルーンは耳に手を当てる。
『聴こえてるわ。今日も美しかったわねぇ、皇帝陛下は。甘美で、優美で、嬌艶でぇ……あぁん…………思い出しただけでもイっちゃいそー……』
「黙れ下品女。」
『んぁ……貴方にイジメられても、気持ちよくありませんの。本題はなんなの?』
話を逸らした女がぬけぬけと。そんな同僚への怒りを宥めつつ、話をつなぐ。
「軍を進めろ。宣戦は行われた。いくつかの隊に分けつつ、本軍にはお前が付き、正面突破だ。」
『ばっかじゃないの?極端で、愚鈍で、阿呆ねぇ?そんなことしたら、迎え撃たれるに決まって…』
「そのための分隊だ。本隊を攻撃する隙を与えないためのだ。なんのために、村を制圧した?」
『……了解。……貴方ばかり、皇帝陛下の横なんて狡いわ。わたしがこの世で1番愛してるのに……』
「キモいから黙っていろ。」
連絡を切った。ルーンがこの世で1番嫌いな人物への連絡が、ようやく終わった。
《六将桜》第四将、プロヘイス=リスタ。それが彼女の名だ。
皇帝をこよなく愛し、忠実に従う。
ドMと変態と痴女というおまけ付きではあるが、優秀だ。
「始まるのか、とうとう。」
先程まで皇帝が当たっていたスポットライトに手を伸ばし、踵を返した。
自分が生きるのは、陰の中だけ。
—————————
「宣戦が告げられたか。」
「そのようです。」
刃物を研いで答えた、メイド。
王国王城、謁見の間。誰もいない、広く荘厳なこの部屋の最奥で座るのは、紛れもない国王。
「全軍を完全に出撃させるのだ。あやつの存在を隠しながら。」
「あの娘ですね。……彼女、また縁談を断ったようですが。いかがなさいますか。」
「好きなようにさせてやれ。アレがソラならば、どうなるか予想がつくだろう?」
「逃げますね。」
国王は立ち上がる。
「アレを使う。」
「……いいのですか?」
「今使わずして、いつ使う。」
「しかし、誰が……」
「お前だ。」
「わ、たし……が?」
メイド、オリーヴは国王を目で追う。その手には、白く輝く純白の腕輪が握られている。
「王国を救う3つの矛の中には、お前も含まれている。」
両国の準備は整った。
賽は投げられ、向かうは戦場。血と断末魔と悲しみが交差する物生まぬ戦争は、もう始まっているのだ。
———————————————————————
ほんと、ここ書くことないですね。
あれ、この話何回目です?
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